真面目な勉強家が投資に手を出さないワケ
プレジデントオンライン / 2018年12月9日 11時15分
※本稿は、「プレジデント」(2017年3月20日号)の掲載記事を再編集したものです。
■【QUESTION】運用で大損失、家族に言えない
本田の答え:損したお金で「家族の絆」を買ったと思いましょう
■お金ですんでよかった、死ななくてよかった
夫婦の間には、本当にびっくりするようなことが起きます。私のセミナーで一番よく相談されるのは、やっぱりお金の話です。
たとえば奥さんは「高いバッグを衝動買いしてしまった」と。「気がついたら手元にバッグがあった」と言うのですが、夫からしたら「そんなわけないだろう」と思う(笑)。夫は夫で「株で一発当てようとしたら大損してしまった、どうしよう」。これはよくあることです。
こういうときは、「損したお金で厄払いできた」と、気持ちを切り替えて、こう考えてみましょう。病気をして仕事ができなくなって、多額の入院費がかかってしまった。そんな状況と比較したらもう、「お金ですんでよかったな、死ななくてよかったな、いい厄払いになったな」と。株で数十万、数百万、損したところで、長い人生を考えたら、大したことはありません。2カ月後には、トランプさんの影響で株価が戻っている可能性もあります。
■家族というものを考えるチャンス
こんなときは、家族というものを考えてみるチャンスでもあります。本来、家族は許し合う、支え合う存在です。常にいいことばかりとはいきませんし、ときには伴侶がお金を生み出さない「負債」になるかもしれない。だからといって切り捨てるかといったら、そうではないと思います。株で失敗したときばかりでなく、病気をする、仕事がうまくいかない、そういうネガティブなことが起きたら、家族の絆を深めるチャンスだと思ってください。
■しっかり謝ることで、感情は癒やされる
そのためには、ちゃんと奥さんに「株で損をしてしまったんだ」と素直に謝れるかどうかが重要です。ここぞとばかりに奥さんの不満が噴出するかもしれませんが、奥さんにも怒る権利、落ち込む権利をあげる必要があります。相手に叱られたり、しっかり謝ることで、夫婦間に積もりに積もった感情を癒やすことができます。それは、家族の絆を深めるまたとないチャンスになり得るのです。そうすることで最後には、「許す権利」も奥さんに与えることができます。奥さんにしてみたら、これは「相手を許す」という自分の器の大きいところを見せるチャンスでもあるわけです。
こういう経験を経て、夫婦の絆は深まっていきます。これで夫婦の関係がよくなると思えば、叱られるのは気が重いかもしれませんが、さほど苦しくないと思います。いろんなことがあって、それでも奥さんが「仕方ないわね」と許してくれたら、損したお金は家族の絆を深めるための支出だったとなる。そうやっていろんな角度から見ていくうちに、損した金額なんて、大したことないと思えてくるでしょう。
「たまった不満を洗い流すチャンスです」
深野の答え:「運用で取り戻す」だけは、やってはいけない
■まずは、損失を冷静に見極める
問題は「大損失」がどれぐらいのレベルなのか、ということです。
まずは、損失を「現実的にリカバリーできる範囲かどうか」を冷静に判断する必要があります。もし、リカバリーできる範囲内であれば、いいづらいという気持ちを押して、まずは謝る。多少、奥さんから怒られたり、家族の中で立場をなくすかもしれませんが、その程度ですむのなら、ぐだぐだ考える気持ちと時間がもったいないだけなので、一刻も早く報告すべきです。
リカバリーの範囲を超えた場合であっても、基本的には素直に謝ったほうがいい。では、ここで一番やってはいけないことは何でしょう。それは「運用で取り戻す」ことです。想像を超える損失を挽回するためには、どうしてもハイリスク・ハイリターンを狙うことになります。リスキーな運用に手を出すしか取り戻す術がないとなると、勝ちの目は限りなく小さくなる。勝率はせいぜい数%程度といったところでしょう。
運用や投資とは、日々勉強することが一番大事です。別の言い方をするならば「勉強する覚悟」がない人は、資産の運用や投資をするべきではありません。それは、退職金の運用でも同じです。
退職金としてまとまった金額を手にした人の多くは、「運用を考えるべきだろうか」と考えます。さまざまな機関が「老後の生活資金はこのくらい欲しい」といったアンケートをとった結果、「最低でも3000万円いる」という話が蔓延しています。しかし、本当にそうでしょうか。鵜呑みにするのは早計です。
リタイアした人に資産運用のアドバイスを求められた際、私が真っ先に告げるのは「運用しようなんて安易に考えてはダメ。まずアタマを冷やせ」ということなのです。
定年退職した直後と、その10年後、20年後では、お金の使い方が大きく変わってきます。病気になるリスクなど予測不可能な部分も確かにあるため、一概にはいえませんが、年々、生活費は少なくなると考えてもいいと思います。リタイアして地方に住むようになったら、なおさらです。こうした点も考慮して、「定年後の生活費はいくらかかるか」を自分で計算しプランニングすることは、運用で増やすことよりもずっと大切なことなのです。
真面目で勉強家の人ほど、投資に手を出していないというのが、ファイナンシャルプランナーの経験を通じて得た結論です。真面目な人は運用のリスクを含めて十分に勉強し、しない場合との比較を検討し踏み止まる場合が少なくありません。これに対して勢いで運用をはじめる人、一攫千金を夢見る人の大多数は、勉強をしません。勉強してリスクを理解することがないからこそ、大勝負に出る。そして失敗するのです。
やってしまった失敗は素直に反省するとして、くれぐれも一発逆転などを狙わないことですね。
「完璧を求める人ほど、投資をしない」
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『ユダヤ人大富豪の教え』(だいわ文庫)など著作は700万部を突破。近著に『運命をひらく 生き方上手 松下幸之助の教え』(PHP研究所)。
ファイナンシャルプランナー
1962年生まれ。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。以後、金融資産運用設計を中心としたFP業務に研鑚。96年に独立。『これから生きていくために必要なお金の話を一緒にしよう!』(ダイヤモンド社)など編著、著書多数。
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(作家 本田 健、ファイナンシャルプランナー 深野 康彦 構成=田中 裕、東 雄介 写真=iStock.com)
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