日本の超富裕層が次々に米国移住するワケ

プレジデントオンライン / 2019年1月12日 11時15分

写真=iStock.com/tawatchaiprakobkit

富裕層の一番の頭痛の種は何かというと税金だ。所得税、相続税ともに日本はかなりの高水準で、それを敬遠した移住が増えている。

■強化される税務当局の資産フライト防止策

日本を離れ、海外に移り住む富裕層が後を絶たないという。外務省によれば、2016年の海外在留邦人のうち、長期滞在者は約87万人、永住者は約46万8000人で、06年に比べて長期滞在者は18.3%、永住者はなんと42.6%も増加している。もちろん、全員が富裕層というわけではない。しかし、富裕層を長年取材してきたジャーナリストの山田順さんは、「富裕層の人がかなり含まれていると見ていいでしょう。日本は、今や中国と並ぶ富裕層の輸出大国になっています」と指摘する。

背景には、日本の税制に対する富裕層の不満がある。とりわけ不満が大きいのが、資産に対する課税強化だ。15年には、相続税の最高税率が55%に引き上げられた。この税率で3代目が相続すると、単純計算では1代目の遺産は20.25%に目減りする。海外の税制に詳しく、資産家の顧客が多い税理士法人奥村会計事務所の代表社員で税理士の奥村眞吾さんは、「相続税は、いわば税を納めた後の資産に再度課税しているわけで、二重課税ではないかという反発が強いのです」と説明する。

世界では、相続税がない国も珍しくない。オーストラリアやスウェーデンなど相続税を廃止する国も続出している。日本と外国の税負担の差は開く一方で、富裕層は、相続税などがかからないオフショア(国外)への資産フライト(資産逃避)を、自衛策として進めてきた。その一方で税務当局は、次々と封じ手を打っている。

14年からは、5000万円超の国外資産を保有している人に、「国外財産調書」の提出が義務付けられた。15年には、国外転出の際に有価証券などを1億円以上保有している場合、その含み益に所得税(いわゆる「出国税」)が課されるようになった。

極めつきは、富裕層などの課税逃れを防ぐための多国間協定だ。17年6月7日に、G20やOECD(経済協力開発機構)加盟の約60カ国が署名した。協定した国の間では、18年から金融口座情報の自動交換がスタートする。山田さんは、「各国が足並みを揃えてオフショアの金融機関を締め付け、口座情報を開示させる効果は大きい」と見る。

追い詰められた富裕層が考えるようになったのが、資産もろともオフショアにフライトすること。17年の税制改正では、国外資産への相続税の免除条件が、相続人・被相続人とも「相続開始前に海外に5年超在住」から「10年超在住」と厳しくなった。そこで「もともと富裕層は、増税しか頭にない日本政府や、資産運用能力のない日本の金融機関を信用していない」(奥村さん)こともあり、彼ら富裕層は本気で海外移住を決断し始めた。

海外に移住した人が税制上、気をつけたいのは、日本に生活根拠がないと証明できるようにすること。「扶養家族も一緒に移住し、自分名義の国内不動産は手放します。日本での仕事は1年以内の短期のものにとどめます」(奥村さん)。ただし、日本滞在を半年未満とする「183日ルール」は気にしなくていいという。基本的に企業の従業員の給与所得に対する課税判定基準で、企業のオーナーのような富裕層は対象ではないからだ。

■実は米国こそがタックスヘイブン大国

オフショアと呼ばれる国や地域は多いが、「その中でも最高の移住先」と、識者たちが太鼓判を押すのは、意外にも米国。税の負担率、安全性や生活水準などを総合評価した結果だという。

米国には現在、相続税があるが、その最高税率は40%。基礎控除も543万米ドル(約6億円)あって、実際の税負担は日本よりもはるかに軽い。米国は富裕層を優遇する国で、「チャリタブル信託を設定し、公益事業に一定期間寄付した後なら、信託財産を破格値で相続できるといった抜け道が、いくつもあるのです」(奥村さん)。

あまり知られていないが、実は米国こそ「元祖タックスヘイブン」なのだ。米国は州によっても税制が異なり、国内タックスヘイブンとして有名な東部のデラウェア州は、企業を誘致するため、法人を簡単に設立できるようにし、税も格安にしている。そのため、アップル、スターバックスといった名だたるグローバル企業が、同州に本社登記している。同州政府は「口が堅い」ことでも知られ、「IRS(米国国税庁)から照会があっても、州法による守秘義務を盾に、口座情報の提供を拒むそうです。今やスイスよりも情報の秘匿性が高いでしょう」(同)。

そもそも、米国は前述の多国間協定にも参加していない。それゆえ日本の税務当局は米国に口座などの照会をかけようがない。「たとえば、デラウェア州にSPC(特定目的会社)を設立して資産を移し、投資による富裕層向けの『EB-5ビザ』で永住権を取得して、フロリダやハワイに家族とともに移住すると、日米の国税当局は相続税の徴税が難しくなります」と奥村さんはいう。

移住先として、米国に次いでおすすめなのがニュージーランド(NZ)。「相続税がないので、世界各国から富裕層が集まっていて、09年にはベネッセ2代目の福武總一郎さんも移住しています」(山田さん)。そのほか、映画監督のジェームズ・キャメロン氏、投資家のジュリアン・ロバートソン氏、最近では米国ペイパル創業者のピーター・ティール氏などもNZの住民となっている。日本と時差が少なく、気候も似ている。不動産価格や物価も香港やシンガポールより安いのが魅力だ。

第3位はシンガポール。「やはり相続税がなく、富裕層に以前から根強い人気があります」(奥村さん)。多民族国家で、多くの日本人が住んでいる。日本と近く、行き来しやすいのも利点。経済成長が著しく、将来性も高い。

以上の移住先ベスト3は、外国人富裕層を積極的に受け入れており、一定金額以上の投資をすれば、永住権の獲得も可能だ。ただし、移転できる資産が10億円以上は必要だが、「自分には無理」と諦めることなかれ。一般のビジネスパーソンでも移住できる国がある。その代表がマレーシアだ。

物価が安いので、大企業を定年退職した人なら、年金収入でも悠々自適の生活を送れるだろう。「NZは最近の移住人気で不動産価格が上昇傾向で、マレーシアに人気の一部が移っています」(山田さん)。10年間のセカンドライフ向けのビザがあるが、更新もできる。しかも、所得税が低く、相続税もかからない。子どもも海外で長期間働いているようであるのなら、国外資産への相続税の免除条件を満たすことも可能になってくるだろう。

■▼【図版】富裕層が税制などで有利になる移住先ベスト

PIXTA=写真

(ジャーナリスト 野澤 正毅 写真=PIXTA、iStock.com)

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