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家を売るなら“2022年がリミット”な理由

プレジデントオンライン / 2018年12月7日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/inomasa)

2022年以降に都内の不動産市況が「暴落」する恐れがある。「生産緑地法」が期限を迎えるからだ。東京23区内では練馬区と世田谷区で深刻な影響が見込まれる。住宅購入を検討している人は待ったほうが賢明、一方で売却を予定している人は急ぐ必要がある。詳しい事情を解説しよう――。

※本稿は、森田聡子『取られっぱなしでいいの? 節税のツボとドツボ』(日経BP社)の一部を再編集したものです。

■2022年に「住宅街の農地」が一斉売却の恐れ

2022年は、「生産緑地法」による指定が解除される年だ(同法は1992年に施行され、期限は30年)。「生産緑地」とは、三大都市圏の市街化区域(都市計画法に基づく概念で、既に市街地を形成している区域や、10年以内に計画的に市街化を進める地域を指す)内にある面積500平方メートル以上の農地を対象とした優遇制度で、「農業の継続」を前提にこの指定が受けられる。

生産緑地に指定されると、固定資産税が大きく軽減され、相続が発生した場合も相続税の納税猶予が使えるメリットがある。例えば、都内に評価額1億円の土地(1000平方メートル)を所有するケースの場合、通常の固定資産税は年間で140万円(1億円×税率1.4%)に上るが、生産緑地に指定されれば年間7000円(農地評価で50万円×税率1.4%)で済む。

市街化区域内の農家にとっては存続の“生命線”ともいえる制度でもあり、政府は2017年に農業の継続を条件に10年ごとの延長を認める法改正を行った。とはいえ、農家はこの指定延長を希望せず、市区町村に土地の買い取りを要請することもできる。

ただ、予算の関係もあり、実際に買い取りが行われる土地は限定されそうだ。市区町村は近隣の他の農家へのあっせんなども行うが、買い手がない場合は指定が解除される。このような場合、農家は不動産業者に土地を売却するか、アパートや駐車場経営といった賃貸による土地の有効活用も考えることになる。

■東京都だけで20万戸以上が建設可能

農業従事者は年々高齢化しており、2022年を機に農業に見切りを付ける人が増加する可能性がある。このため、「生産緑地の宅地化が一気に進むのではないか」と危惧されている。国土交通省「平成28年都市計画現況調査」によると、生産緑地は全国で1万3187.6へクタール(ha=10000平方メートル)に及び、東京都だけでも3223.7haの広さがある。極論ではあるが、この3223.7haがすべて宅地化されたと仮定すると、なんと20万戸以上の一戸建て住宅が建設できるという。

日本の人口は2015年から減少に転じており、近い将来、団塊世代の相続で都内に空き家が急増することが予想されている。そこに大量の宅地が供給されたら、不動産市場の暴落は免れまい。

これが昨今騒がれている「2022年問題」だ。東京五輪を控えて都心の不動産市場が活況を呈する中で“暴落”と言われても、あまりピンとこないかもしれない。地価への影響が大きいのは、あくまで生産緑地の宅地化が加速しそうな地域だ。

■23区の生産緑地は練馬区と世田谷区が多い

東京都内の生産緑地(画像=『取られっぱなしでいいの? 節税のツボとドツボ』(日経BP社)より)

ここで、東京都の生産緑地の面積の内訳を見てみよう(図表)。都区部と都下で比べると、都区部の428haに対して、都下が2795.7haと圧倒している。都下の生産緑地だけで千葉県(1147.3ha)、埼玉県(1764.8ha)、神奈川県(1360.7ha)をゆうに上回っているのだ。

都下の中でも多いトップ3は、「八王子市」(242.5ha)、「町田市」(232.1ha)、「立川市」(206.7ha)。23区内で生産緑地が目立つのはベッドタウンの「練馬区」(187.1ha)や「世田谷区」(91.1ha)で、この2区で23区の生産緑地のおよそ3分の2を占めている。

■住宅を買うなら2022年まで待ったほうがいい

世田谷区や練馬区には三軒茶屋や二子玉川、光が丘など人気エリアも多く、今のところ地価は高止まりしている。住環境の良さには定評があり、マイホーム購入を考えている人も多いことだろう。

そうした人にとっては2022年以降が安く買えるチャンスといえる。2019年10月の消費税増税前の”駆け込み購入”は控えた方がいいかもしれない。しかし、中には出産や親との同居などで近々に家を購入したいと考えている人もいるだろう。その場合は、最寄り駅から離れていて交通の便の悪いエリアや、近くに農地の多いエリアなどは避けておきたいところだ。

一方で、都下の戸建て住宅に住む人の中には、「子供が成長するまでは庭付きの家でファミリーライフを楽しみ、子供が独立して夫婦2人きりになったら自宅を売ってそのお金で利便性の高い都心のマンションを購入する」といった生活設計を立てている人も少なくないのではないか。

しかし、2022年問題で地価が下がってしまったら、自宅の売却資金だけで都心のマンションを購入するのは難しく、老後の資金計画が大きく狂うことになる。生産緑地の多いエリアに戸建て住宅を購入している人は、プランを練り直すか、手放すつもりならばなるべく早く売ってしまうのが賢明かもしれない。

■埼玉県羽生市は「農地の宅地化」で大混乱

生産緑地の多いエリアで不動産投資をしている人はどうだろう。実は、農地の宅地化には悪しき先例がある。埼玉県羽生市の施策だ。

森田聡子『取られっぱなしでいいの? 節税のツボとドツボ』(日経BP社)

同市は2003年、市街化調整区域内の農地に住宅建設ができるという条例を策定した。市の狙いは戸建て住宅を増やして定住者を確保することだったが、建設業者などの介入もあり、実際には新築のアパートが150棟も乱立。同市の規模からすると150棟は明らかな供給過剰で、空室率は35%を超えた。結果として12年後の2015年、同市はやむなく住宅建設可能なエリアを元に戻したのだ。

土地の大量供給によって周辺に新築で安い物件が多数出てくれば、店子がそちらに流れてしまうのは防ぎようがない。ローンを利用していたら、返済計画にも支障を来す。いよいよ追い詰められて売却を決意した時は、売り物件があふれていて身動きが取れなくなっている危険性もある。影響を受けそうな物件は売れるうちに売っておき、2022年以降の様子を見るべきだろう。

■“100%ローン”の利用者は早めの対策を

2022年問題の影響を受けそうなエリアに自宅を購入し、ローンの返済を多く残している人も安閑としていられない。バブル経済が崩壊した後の1990年代には地価の急落により、不動産価格が負債を下回る“担保割れ”が続出した。

21世紀以降の住宅ローン金利は当時と比べて破格に低い水準にあり、担保割れですぐに返済が逼迫するような事態は考えづらいが、だとしても、“100%ローン”の利用者などは今から何かしらの手を打っておきたいところだ。特に変動金利のローンを利用している人は、金利上昇による返済額のアップとのダブルパンチを食らうリスクもある。今のうちに繰り上げ返済や借り換えなどを検討したい。

■「リバースモーゲージ」利用者も注意が必要

さて、2022年問題は別のところにも影響を及ぼす可能性がある。最近は自宅を担保に老後の生活費を借り、当事者が亡くなった時点で抵当に入った自宅を売却し、債務に回すという「リバースモーゲージ」を取り扱う金融機関が増えている。

例えば世田谷区や練馬区在住の親がこの制度を利用している場合、2022年問題で資産価値が契約時に比べて大幅にダウンすると厄介なことになりかねない。先の住宅ローン同様に担保割れが起こり、融資額が減らされたり、場合によっては契約終了前に融資自体を打ち切られたりする可能性があるからだ。

メガバンク3行を含めた60行前後が参入、米国並みの普及を目指すリバースモーゲージだが、2022年問題やその後の不動産価格の下落が思わぬネックとなるかもしれない。

<おさらい>
◆2022年以降には、生産緑地法の指定解除を機に大量の農地が宅地化され、都内の地価が暴落するリスクがある。
◆都下の八王子市、町田市、立川市、23区の練馬区と世田谷区は、「2022年問題」による地価変動リスクが高い。
◆地価変動リスクが高いエリアの物件を所有している人が売却を考えているのであれば、早めに売却を検討する方がいい。

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森田聡子(もりた・さとこ)
日経BP社 経営メディア企画編集センタープロデューサー
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。地方新聞社などで勤務した後に日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社。金融やライフスタイルを中心に、取材・執筆・編集活動を行う。『日経おとなのOFF』編集長、『日経ビジネス』副編集長、『日経マナー』編集委員などを経て現職。ファイナンシャル・プランナー。

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(日経BP社 経営メディア企画編集センタープロデューサー 森田 聡子 写真=iStock.com)

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