結局「制限ダイエット」で、人は痩せない
プレジデントオンライン / 2018年12月2日 11時15分
■既存のダイエット法は「根性論」になっている
――ダイエット法は数限りなく提唱されています。決定打がないということは、既存のダイエット法に問題点があるのだと思います。なにが間違っているのでしょうか?
【久賀谷】食べ方でなく食べ物ばかりに特化している。精神論、根性論に依拠している。脳を無視している。その3点です。
我慢や己を律することで何かが達成できると思っている人は多いですが、2分間、目をつぶってみてください。次々と考えが生まれてきます。それは、本人の意思に反して脳がしていることです。それを止めようと思っても、人はその術を持ち合わせていません。
既存のダイエット法は食の制限の仕方は説きますが、「食べたい」という欲求をどうするかには触れません。そうなると根性で乗り越えるということになります。止められない脳を止めよというのが根性論だとしたら、それはうまくいきませんよね。
もう一つ、食行動の問題は内面が満たされないことと深く関係しています。ところがそこに「根性」が入ってくると、自分を責めてしまう。ダイエットがうまくいかないのは己を律することができないダメ人間だからという罪悪感が生まれ、さらに悪い食生活になる。自尊心を下げるような考え方は、ダイエットにとって逆効果です。
■「注意を向けて食べる」のほうが長続きする
――既存のダイエット法でも「糖質制限」や「食べる順番ダイエット」などは、「食べ方」に特化したものではないですか?
【久賀谷】ここで言う「食べ方」のエッセンスは、「注意を向けて食べる」ということです。そのメソッドが「マインドフルネス=今ここに注意を向ける」です。脳科学の世界では、「熱心に好奇心を持って」と表現しますけど、ただ見るという意味の注意ではありません。注意の向け方をしっかりさせる方法を身につけ、実践します。
糖質制限は私も実践したことがありますが、体重減少という意味では大変効果的です。甘いものへの「依存」はダイエットを阻みますので、それを制限し、依存を脱すれば痩せます。ですから既存のダイエットを否定するものではありません。
ただ、それだけでは問題は解決しません。内面に満たされていないものがあるので、例えば甘いもので埋めている。そこを見つめることなしに制限をしても、すぐ脱線します。
脳にとって食は「快楽」です。本当に必要な時だけお腹が空き、食べる分だけ食べるのが正常運転だとすれば、食べ物があふれる現代において人はある意味、快楽中枢が脱線している状態です。
注意を向けた食べ方と、枯渇していた内面を満たすこと。その両方を組み合わせれば、ダイエットは成功する。本質的な変化だから長続きするのです。
■食べる作業は自動運転に任せてはいけない
――注意を向けるだけで、そんなにうまくいきますか?
【久賀谷】箸を持って、ケータイを見ながら食べる。それが注意を向けない食べ方です。食べることを、自動操縦にしてしまっているのです。「今ここにある」食べ物に注意を向けず、食べる作業は自動運転に任せ、他のことに注意を向けている。
だからストレスがかかって食べるのか、退屈だから食べるのか、自分に自信がないから食べるのか。それがわからず食べてしまう。
今日のランチから、『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』で第一ステップとした「食前セレモニー」を30秒でいいからしてください。方法は簡単です。
■「物」をかきこむ食事を変える必要がある
【久賀谷】まず食べ物を初めて見たかのように見る。それから匂いを嗅ぐ。口の中に唾液は出てきているか、腹の減り具合はどうか。この食材はどこでどのように作られたか、どういう経路で届いたのか。そんなことを考えながら見る。それから食べる。それだけでもマインドフルネスです。
これをやることによって自動操縦、つまり「物」をかきこむ食事を変えられます。そうすると食べたい衝動に突き動かされても、ああこういう理由で自分は欲しているんだ、とわかります。
人間は感情というすごくパワフルなものを持っているので、突き動かされる力っていうのは計り知れないんですよ。ましてやこの忙しいストレスフルな現代では、食べることに注意を払っている暇などないですから、突き動かされたらころっと行ってしまう。
注意を払うことができるようになれば、食べても脱線することがなくなります。無造作に食べなくなることで、常にある枠の中で食生活が送れるようになるのです。
――仮にストレス要因が上司にある場合、その人が変わってくれなければ、結局食べたい衝動に突き動かされるのではないですか?
【久賀谷】「人はなぜ痩せたいのか」と考える時、私は100%の答えは持ち合わせませんが、人からよく見られたいという思いがどこかにありますよね。他者から認められたい、他者から言われたことに従わねば。その思いが強すぎるということはないでしょうか。
ご指摘の通り、上司は変わりません。いろいろ要求してきます。でもそういう人がいても満たされる自分に変わればいいんです。現実は変わらない。それなら自分を変えましょう、それは可能ですよということを申し上げたいのです。
■「恐れ主導」から「情熱主導」に生き方を変える
アメリカで精神科医として診療していて、現代人は恐れ主導で生きているということを日々感じています。もしものために保険に入り、スケジュールを守らなくてはと確認し、いろいろな形で鎧を着ている。このように恐れを起点に生きていると、上司に振り回され続けることになります。
対極にあるのが、情熱主導の生き方です。極端な話、その会社をやめて自分のやりたいことに近づいてみる。ここまで行くと生き方ですよね。人ではなく自分の物差しで評価するとか、自分と他人を比較しないとか、そのあたりから変わっていく。だから私の答えとしては、そういう上司がいる世界でも変われます。
この本は、変わっていくためのメソッドをより理解していただけるよう、小説仕立てにしました。登場人物たちは、ステップ1~5を約1カ月かけて取り組みます。
■多幸感が増せば、ものを詰め込む必要がなくなる
全員の体重が減るという結末にはしています。ですが注目していただきたいのは、登場人物が最後に変わっている、幸せに傾いているというところです。
多幸感が増せば、空洞にものを詰め込む必要がなくなります。
痩せるのは、物理的には簡単です。それで一時の安心感を得たとしても、それは結局、上っ面に過ぎません。食という鏡は、何かを映し出しているんですよ。何かを変えるほうが先だと思いませんか。
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医師/医学博士
イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わる。2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。著書に『世界のエリートがやっている最高の休息法』 (ダイヤモンド社)などがある。
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(医師/医学博士 久賀谷 亮 聞き手・構成=矢部万紀子 写真=iStock.com)
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