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京セラ会長"仕事に悩んだときの道しるべ"

プレジデントオンライン / 2019年1月8日 9時15分

雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第3位の『生き方』。解説者は京セラの山口悟郎会長――。

■迷ったときに見上げる「北極星」

稲盛和夫は私にとって、例えるならば北極星のような人です。

社会に出るまでは誰しも身近な人間を行動の規範としていますが、京セラに入社して以降は、稲盛が私の師となり規範となったのだと思います。

稲盛のスタンスは、いかなるときでも変わりません。北極星は動かないからこそ旅人の道しるべとなります。それと同様、迷ったときには稲盛ならどうするか、と考えることが私の人生の指針になっていると感じています。

稲盛の語ることは1度聞いて理解するというものではなく、人生の折々で「こういうことだったのか」と腑に落ちるようなものだと感じています。

若いころよりも、結婚して子どもができたり、親が老いたり、孫ができたり、あるいは社長となったり、年を取った今だからこそ、理解できたなと感じる瞬間があるのです。

私が稲盛とはじめて顔を合わせたのは、就職活動の際の面接でした。当時はそこまでの有名人ではなく、知る人ぞ知る業界の雄、といった存在でしたが、「この人があの稲盛さんか」と思いました。

若い時分には直接の関わりはほとんどありませんでしたが、現場によく来る人だなと思っていました。

当時私が在籍していた東京営業所には社員が30~40人しかいませんでした。しかし、稲盛はひと月かふた月に1度は顔を出して、オフィスの中央に5、6人の幹部を集めて話していました。

忙しい人で、自身は出前の丼をかきこみながら、細かい指示を飛ばしていたのを覚えています。寝食を惜しんで働いていたのでしょう。厳しい人だな、という印象でした。

仕事での関係ができたのは随分と後、私が幹部会議に出るようになってからです。すでに京セラ自体は安定していて、本社の主力事業にはあまり口を出す必要がないと考えていたようです。新規事業や業績のよくない部署を気にかけているようすでした。

私は40代後半で、執行役員になりましたが、半導体関連の安定した部署にいたので、直接指示を受けたり叱られたりした記憶はあまりありません。ただ、大きな理念を語るだけではなく、部分にまで目を向けた細かい指摘をしている姿が印象に残っています。

■よくある実用書と『生き方』の違い

『生き方 人間として一番大切なこと』に書かれているのは、どれも稲盛と共に働いた社員なら皆何度も聞かされていたことです。しかし、だからこそ、読めば読むほどその大切さに気付かされるような思いがします。

稲盛和夫氏(AFLO=写真)

どれも重要なことばかりだと感じていますが、特に印象に残っている部分が何点かあります。

まず、「人格」とは持って生まれた先天性の「性格」に人生の過程で学び身につけた後天性の「哲学」を加えることによって陶冶してゆくものだということ。つまり、どのような哲学に基づいて人生を歩むかによって、人格は決定づけられるのだ、ということです。

それから、「継続が平凡を非凡に変える」。やるべきことを一心に黙々と努めていれば、思いが成就するということです。「悟りは日々の労働の中にある」とも書かれています。

かつてわれわれ日本人は、働くことに深い価値と意味を見出していました。人は仕事を通じて成長し、心が磨かれるのです。今、働き方改革が盛んに叫ばれていますが、やはり労働は尊いことだという発想は必要だと思います。ボロボロになるまで働くのがいいというわけではありませんが、人間が手と頭を使い、時間をかけてやらねばならないことは必ずあると考えています。

効率だけを追い求めて余った時間はリフレッシュに使いましょう、ということだけでは、日本人は駄目になってしまうと思います。

また、人生は2つの「見えざる手」に統御されている、その宇宙の意志と調和する必要があるのだとも、何度も聞かされました。

見えざる手のうちの1つは、生まれながらにして決定づけられた「運命」です。しかし、われわれは全くもって無力だというわけではありません。もう1つの見えざる手、それが「因果応報の法則」です。善きことを思い、行うことによって、運命の流れを善き方向へ変えることができる。

宇宙はあらゆるものを成長発展させようとしています。その意志と調和していかなるときも一心に努めれば因果が巡って報われる、という話でした。

こうした内容がすべて積み重なって、今の私を形づくっているように思います。何か1つの要素が1つの出来事を招いたということではなく、いつの間にか思考のベースとなっていたものが何か困難に際したときにブレークスルーの一端を担うような感覚です。

この本がこれだけ多くの人の心に響いているのは、稲盛が何十年にもわたってずっと同じことを言い続け、また実際にその内容を継続することで成功してきた人だからではないでしょうか。

実用書では、「こうしたら成功しますよ」と書かれているものの書き手がそれを実践できているのか疑わしい、ということがよくあると思います。稲盛の場合は、若い時分に京セラを立ち上げて、KDDIをつくり、日本航空を再生しています。

京セラ会長 山口悟郎氏

しかも、書かれていることは非常に単純明快。コツコツ努力すれば報われるんだ、ということ。それを今の人は求めているのではないでしょうか。

世間ではやり方が間違っているだとか、効率のいい方法を採るべきだとか、そうした傾向が多々見受けられます。一方、稲盛が書いているのは、真面目に打ち込むことが一番大切だ、ということです。それを読むことによって、「自分は間違っていなかったんだ」と考えて原点に立ち返ることができるのです。

■人間として、何が正しいか

稲盛の言説は、当社では「京セラフィロソフィ」という1つの哲学として受け継がれています。海外に展開する際に実感するのは、それがどこの国でも通用する内容なのだということです。「人間として何が正しいか」というシンプルな思想なのだと思います。

ただし、それを実践できるか、というのが難しいところだと思います。

当社で社員に求めるのは、「頭で理解すること」ではなく「できるかどうか」ということです。例えば人の物を盗ってはいけないだとか、嘘をついてはいけないなどということは誰もが知っているはずですが、できる人もいればできない人もいます。どうしたら実践できるか、ということが問題です。

京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」です。社員の幸福を考えるだけでは、エゴに留まってしまいます。そこで社員のボーナスから寄付を募り、会社から同額を出してそれを貧しい人へ提供しよう、という稲盛の提案が、今日の京セラの社会貢献事業の元となっています。そのため、CSR(企業の社会的責任)という観点が流通する以前から当社では社会貢献の発想が定着していました。

例えば会社が大きくなる前には本社のある京都の方々のお世話になったので、京都に少しでも恩返しをしようと、動物園にシベリア虎を寄贈しました。また、京都サンガFCというサッカーチームをサポートし、あるいは稲盛財団が運営する、科学の発展と人類の精神的深化に貢献した人を顕彰する「京都賞」の趣旨に賛同し、創設以来、支援をしています。

当社が大きくなるにつれて関係のある地域も広がり、その活動は世界に広まっています。

米国では工場のあるカリフォルニア州サンディエゴに稲盛個人と会社からの寄附によって「ジャパニーズ・フレンドシップ・ガーデン」という日本庭園の開設に協力しています。ほかにも、セラミックやガラス素材の研究で最先端をゆくニューヨーク州のアルフレッド大学には、ファインセラミックスの技術進歩の歴史や最新製品を展示する「稲盛・京セラファインセラミック館」を開館しました。

■なぜ、従業員の墓を京セラは設けるのか

社員に対しては、稲盛が仏門に入った際に修行をした京都の圓福寺に「京セラ従業員の墓」があります。これは稲盛の「従業員は家族」という思想によるものです。

今までわれわれが幸せになってくるまでの間に亡くなった方々のためだけではなく、都市化が進み、核家族が増え続ける中、墓を持っていない従業員のためにもなり、苦楽をともにした仲間が一緒に入れる場としてつくられました。

また、稲盛は本の中で、感謝の心を忘れてはいけないということも説いています。人生には悪いことも良いこともありますが、困難に直面した際にも生かされていることに感謝し、良いことがあった際にはそれを当たり前だと思うのではなく素直に喜んで感謝する。成長できる機会にも、幸運に恵まれたときにも、常に感謝の気持ちを忘れないということです。それが、謙虚にコツコツ努めることとも繋がってくるのではないでしょうか。

稲盛は批判を恐れず、自分が正しいと思ったことを行う人です。常に人間として正しいことを行い、ごまかしや責任逃れは絶対にしてはならない。

昨今、不祥事があった際に代表して会見を行う者が過ちを認めないということが見受けられます。

本の中で稲盛も書いていますが、何か悪いことをしたのであれば責任者としてきちんと説明責任を果たし、謝らなければいけません。

このように、『生き方』には、幅広い年代、万人に通じる思想がわかりやすく書かれています。特に、これから社会へ出てゆく若い人たちにこの本を読んでほしいと思います。1度読んで手元に置いておけば、後々立ち返ることができます。この本が、人生の節々で、どう生きるかという「哲学」になるのではないでしょうか。

▼名経営者・稲盛和夫の「生き方」
●1932年:鹿児島市に生まれる
●1945年:13歳、肺浸潤で病床にふせっているときに、『生命の実相』を枕元で読む
●1951年:鹿児島大学工学部応用化学科に入学する
●1955年:教授の紹介で松風工業に入社
●1956年:日本で初めてフォルステライトの合成に成功
●1958年:上司と衝突し、松風工業を退社
●1959年:27歳で京都セラミックを創業
●1966年:IBMよりIC用サブストレート基板を大量に受注した。34歳で社長に就任(現在は名誉会長)
●1969年:米国に現地法人京セラインターナショナル(KII)を設立
●1975年:松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、モービル・オイル、タイコ・ラボラトリーズと合弁でジャパン・ソーラー・エナジーを設立し、太陽電池の開発を開始
●1982年:前年に買収したサイバネット工業など4社を合併し、社名を京セラとする。
●1984年:翌年の通信事業の自由化に向け、電気通信事業に参入。第二電電企画を設立。翌年に商号を第二電電(DDI)に変更
●1985年:科学や文明の発展、また人類の精神的深化・高揚に著しく貢献した方々の功績を讃える京都賞を設立し、第1回授賞式を挙行
●2000年:DDI、国際電信電話(KDD)、日本移動通信(IDO)が合併し、KDDI発足KDDIの名誉会長に就任(現在は最高顧問)
●2010年:倒産した日本航空立て直しのため会長に就任(現在は名誉会長)
●2012年:日本航空が再上場を果たす

調査概要●2009年から2018年までのプレジデント誌で実施した読者調査(計5000人)に、今回新たに弊誌定期購読者、「プレジデントオンライン」メルマガ会員を対象にした調査(計5000人)を合算し、「読者1万人調査」とした。ランキングのポイント加算にあたっては、読者の1票を1ポイント、経営者・識者の1票は30ポイントとした。経営者・識者ポイントは、弊誌で過去に取材した経営者、識者の「座右の書・おすすめ本」と、今回取材先に実施したアンケートによるもの。続編やシリーズに分散した票は合算(例えば、『ビジョナリー カンパニー』に10票、『ビジョナリー カンパニー2』に20票入った場合は、『ビジョナリー カンパニー』に30票とした)。また、同一著者(例えば、稲盛和夫氏、司馬遼太郎氏、百田尚樹氏)による本は票数の多い書籍を「ランキング入り」としている。結果として、時代の流行などに左右されない良書が多数ランクインできたもようだ。

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山口悟郎(やまぐち・ごろう)
京セラ会長
京都府出身。1978年同志社大学工学部卒業後、京都セラミック(現京セラ)入社。京セラの主力事業の半導体部品の営業に長く関わってきた。2009年執行役員常務、取締役、13年代表取締役社長を経て17年から現職。趣味はスキーと読書。

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(京セラ会長 山口 悟郎 構成=梁 観児 撮影=的野弘路、市来朋久 写真=AFLO)

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