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アパホテルが西から東に攻めていった理由

プレジデントオンライン / 2018年12月22日 11時15分

『ランチェスター販売戦略(全5巻)』●田岡信夫/サンマーク文庫 ランチェスター戦略研究の第一人者による解説書。1970年代のベストセラーを文庫化。現在は絶版。

駅前立地に特化したビジネスホテル、会員制によるキャッシュバックといった独自の手法で、快進撃を続けるアパグループ。元谷外志雄代表は創業の頃から「ランチェスターの法則」を信奉し、経営戦略にも生かしているという――。

これからの日本を背負い、指導的立場に立つ人材を育てるため、「勝兵塾」を主催しています。名前の由来は孫子の「勝兵は先ず勝ちて、而る後に戦いを求む」(勝利を収める者は十分な勝算を得てから戦いを挑む)から。もともと活字好きの小学生でしたが、ビジネスの世界に入ってからは、『孫子』や『君主論』を愛読してきました。その後出合ったのが、田岡信夫氏が書いたランチェスターの解説書です。

ランチェスターはイギリスのエンジニアで、軍事戦略における損害量計算から、「ランチェスターの法則」という数理モデルを導き出します。この法則は第2次大戦中、米軍の上陸作戦や基地確保の戦略として、重宝されました。それを企業の経営管理やマーケティング戦略に応用し、独自のハウツーとしてまとめたのが田岡氏です。

当時の私は会社を立ち上げてしばらく経ったころ。事業計画をあれこれ考えていた時期で、視点の斬新さに惹かれて、貪るように読みました。『孫子』や『君主論』は、戦略書としてとても優れていますが、理論が中心。経営戦略として実践するなら、ランチェスター本のほうが即戦力になるでしょう。

■西側から攻めて金沢市を制覇!

ランチェスター本は、実際にアパグループの経営戦略にも役立っています。その1つが「西側拠点説」です。

石川県の小松市で注文住宅販売会社を創業した後、私は金沢市の攻略に打って出ました。最初の支店を開設したのは、金沢市の西部。日本の天気は西から東へ変わっていき、物流のベクトルも西から東へ動いていった。だから西側へ西側へと点を打って包囲陣形をつくるのが日本では成功しやすい、と田岡氏の本に書かれていたのです。

さらに参考にしたのが、「3点攻略法」です。あるエリアを攻略したい場合、そのエリアの周辺3カ所にまず布石を打ち、そのうえで3カ所を結んだ三角形の真ん中、すなわち、最終目標のエリアを狙うのが3点攻略法の考え方。そこで第2号店を金沢市の東部、第3号店を北部に開設し、金沢市内でのアパのプレゼンスを高めてから、中心部に本社を移しました。結果、アパの金沢進出は成功を収めたのです。

アパグループ代表 元谷外志雄氏

アパグループは、2010年4月から「頂上作戦」を展開しています。東京の千代田区・中央区・港区の都心3区は、地価が高かったため、意外にもホテルが少ないんです。そこで、現金での土地購入、目抜き通り以外でもホテル運営ができるアパのノウハウを駆使して、都心3区を中心にホテルを集中出店しました。東京での市場占有率を一挙に高めようという作戦です。

これも「ランチェスターの法則」に基づいた「一点集中主義」、市場占有率の「数値目標」の考え方を取り入れたものです。市場占有率が上がれば上がるほど、市場争奪戦で優位に立てるようになり、企業の経営が安定していきます。市場占有率を高めるには、攻略目標のエリアを絞り込んで、そこに戦力を集中投下したほうが競争に勝ち残りやすい。アパが攻略目標にしたのが、都心3区だったわけです。

市場占有率の数値目標はいろいろあります。私が目安にしたのは、市場に足がかりを得たと認められる「拠点目標値」の2.8%、市場で一定の地位を確保したと見なされる「存在目標値」の6.8%です。アパは現在、宿泊業全体では拠点目標値、ホテル業界では存在目標値と同じくらいのシェアを占めていますが、これを上位グループに入ったと見なされる「上位目標値」である19.3%まで引き上げるつもりです。15年4月からは「第2次頂上作戦」をスタートさせ、地方中核都市の攻略にも本格的に乗り出しました。

オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞したとき、パフォーマンスとして広島を訪問すると予想した私は、中四国最大級になる727室のホテルを建てました。記者会見では「こんなに泊まる人がいるんですか」と笑われたけれど、予想は的中。現在、広島のホテルの月間稼働率は94%です。

■物議をかもした書籍も勝利の自信

戦略書から学んだことは、「ビジネスパーソンは常に勝たなければいけない」ということです。だから、勝ち目のある戦いしかしてはいけない。私が書いた『理論近現代史学II』も中国から非難され、ずいぶん物議をかもしました。しかし、私には負けない自信があった。本の内容は、決して思い込みではなく、史実をくわしく調べ、理論武装していました。攻撃されても反論できるように備えていたんです。

「負けるなといわれても、弱い人間はどうしたらいいんだ?」と思う人がいるかもしれません。心配はご無用。ランチェスターは、「弱者の戦略」も教えてくれます。相手よりも数が多いときは集団で戦い、数が少ないときは一対一の戦いに持ち込むべきであると。

どんな人でも1つや2つは取り柄があるはずで、それを武器にすればいい。お金も経験もない若者は、ベテランに太刀打ちできないと思うかもしれません。しかし、若者にはあり余る時間や体力があります。そうした強みを生かせるフィールドで全力投球すれば、道は必ず開ける。ぜひみなさんも戦略書から、自分なりの「人生の勝ちパターン」を見つけてください。

▼Recommended Books

元谷外志雄が薦める 勝ち方を教えてくれる+1冊
『君主論』●マキアヴェッリ/岩波文庫
中世イタリアの外交官、マキアヴェッリが著した戦略書の決定版。背徳や力による支配を肯定し、「悪魔の書」とも呼ばれるが、政財界のトップには愛読者も多いという説も。

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元谷外志雄
アパグループ代表
1943年、石川県生まれ。71年、信金開発(アパグループの前身)を設立。現在、マンション、ホテル、リゾート事業など、19の企業からなるアパグループの代表。

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(アパグループ代表 元谷 外志雄 構成=野澤正毅 撮影=岡田晃奈)

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