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親の介護を「いくらかかるか」で考えるな

プレジデントオンライン / 2018年12月17日 9時15分

写真=iStock.com/shapecharge

病気、介護、お金、片付け、空き家、お墓……。「実家」のさまざまな問題を解決するにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年9月4日号)の特集から処方箋を紹介する。第2回は「寝たきり・介護リスク」について――。

■親が入院したら、まずやるべきこと

「40代で、親が寝たきりになり、介護をすることになるのは『入院』がきっかけとなることが多いです」

こう指摘するのは、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏だ。親が突然の病気や骨折で入院。その後、これまで通りの暮らしが難しそうという場合、何からどのように段取りをすればいいのか。

「入院したら、病院から渡された『入院時診療計画書』あるいは『クリニカルパス』に目を通しましょう。これは入院から退院までのスケジュールが記されたもので、今後の予定を立てるための必須アイテム。病院で渡してくれない場合は、もらうことができないか聞いてみましょう」

というのも、倒れて最初に入院することが多い「急性期病院」に入院できる期間は、家族が想像するよりもずっと短いからだ。

「退院後、親の日常生活に何らかのサポートが必要になりそうであれば、まずは入院中に介護保険の申請手続きをしましょう。多くの方が『介護保険が必要なら医師が勧めてくれるはず』と思っていますが、医療と介護は別ものです。介護の基本は自己申告ですから、自ら申請しないと事態は進みません。親の暮らす住所地を管轄する地域包括支援センターに行けば、申請をサポートしてくれます。申請しないまま介護サービスを利用してしまうと、自腹になってしまいます」

介護保険を利用するには介護認定が必要だ。申請は親が住んでいる市区町村の窓口や、地域包括支援センターにて行う。原則として30日以内に結果が通知されるが、それ以上時間がかかることもある。要支援1・2、要介護1~5の7段階あり、結果に応じて決められた限度額の範囲で介護サービスを利用できる。

また、介護保険を利用して、手すりの取り付けや段差解消などのリフォームもお得にできる可能性もある。

「介護認定を申請すると、認定調査員による面談が行われます。その面談には、家族の誰かが立ち会うことをお勧めします。というのも、高齢の方の中には、本当は困っているのに『大丈夫です』『なんの問題もありません』と強がってしまう方が大勢いますから。家族からも現状を訴えることが大切です」

病院退院後の選択肢は「在宅」「転院」「介護施設」の3つに大別される。

その選択では、こんなトラブルもある。入院していた父親は退院する気満々だけれど、母親が「帰ってきてもらっても困る……」と渋る。そこで息子が考えなしに「母さん、冷たいことを言うなよ」などと押し切る。このパターンは要注意。老老介護により母親まで共倒れしかねないからだ。

「同居の家族が無理だと感じているのであれば尊重し、転院や介護施設を検討しましょう。医師に退院を勧められたからといって、ノープランのまま自宅介護を始めるのは避けたほうが無難」

■いくらかかるかより、いくらかけるか

また、介護保険施設のひとつである「老人保健施設(老健)」に入所するという選択肢もある。施設というと“終の棲み処”というイメージがあるが、老健は本来、在宅復帰を目的としたリハビリ施設である。入所条件は原則65歳以上、介護認定が「要介護1」以上。介護度が上がり、「要介護3以上」になると「特別養護老人ホーム(特養)」も視野に入ってくる。いずれも公的施設のため、費用はリーズナブル。親の年金の範囲内でまかなえる。さらに、経済力があれば、有料老人ホームをはじめとする民間施設も選択肢に入る。

だが、民間施設となると介護費用の負担も重くなるのではないだろうか?

「有料老人ホームでも、地域によっては月々の負担が10万円台という施設もあります。親の年金で払える価格帯の施設を探し、退院と同時に体験入居をスタートさせる。親が納得してくれれば、そのまま入所というケースも少なくありません」

施設を探す場合と在宅で介護する場合、親の自宅と子どもの自宅、どちらがいいのか? 「老健や特養といった介護保険施設への入所を希望するなら、親の住民票がある場所のほうが入りやすいケースが多い。民間施設であればどちらでも構わないが、まずは親御さんへの意思確認が先決。子どもの自宅近くへ移動する場合、高齢の親にとって住み慣れた場所を離れ、知り合いがいない土地に引っ越すことで想像以上にストレスがかかるものです。地域によって、食事の味付けも言葉も違う。地元の人間関係からも離れることを念頭に置きながら、家族でよく話し合い、慎重に検討しましょう」。

遠距離介護はどうか? 交通費もかかり、負担が大きいイメージがある。だが、遠距離介護にもメリットがあると太田氏は指摘する。

「距離がある分、気持ちを切り替えやすく、お互いにやさしくなれます。また、介護保険などのサービスも、高齢者のみの世帯のほうが利用できる選択肢が増えて有利。特養などの公的施設では『介護者が他府県にいる』と優先順位が高くなる傾向もあります」

気になるのが介護費用だ。そもそも、いったいいくらかかるのだろうか。

「まず、介護費用は親本人のお金をあてるのが原則。介護の目的は、あくまでも親の自立した生活を応援することにあるからです。そして、『いくらかかるか』ではなく、『いくらかけるか』を考える。親世代の主な収入源は公的年金です。その中から介護にいくらかけられるかを検討し、その範囲で“できる介護”を行う。預貯金を取り崩す場合は、最低でも100歳まで生きると想定し、月々いくらまでならかけられるのかを試算してみましょう」

それでは不十分だと思う場合は、子どもが援助するしかない。だが、自身の老後資金を算段したうえで援助しないと、自滅しかねない。また、兄弟姉妹で価値観が異なり、軋轢を生むケースもある。

「親が高齢になるにつれ、親に代わって子が支払いを行う機会も増えていきます。お勧めなのは『介護家計簿』を作ること。介護にまつわる支出はすべて日付や明細を記入し、レシートや領収書を添付。親本人や兄弟姉妹が見られる場所に置いておくといいでしょう」

よかれと思ったことで骨肉の争いが勃発。そんな悲劇を避けるためにもひと手間を惜しまないことが大切だ。

▼民間介護施設の種類と費用
施設名/主な特徴/初期費用(入居一時金や敷金)/月額利用料の目安/メリット/デメリット
介護型
●介護付き有料老人ホーム(特定施設)
24時間体制で介護を受けることができる。部屋は個室が一般的。/0~1億円/10万~40万円/追加料金が掛かることが少ない。/比較的高コストの施設が多い。
●介護型サービス付き高齢者向け住宅(特定施設)
24時間体制で介護を受けることができる。部屋は個室。/0~数十万円/12万~25万円/介護費用が一定なので増える心配がない。/外出制限があるなど自由度が低いと感じることも。
●グループホーム
認知症の高齢者がグループをつくり、少人数で共同生活を送る。/0~100万円/12万~18万円/顔なじみの職員が家族のように寄り添ってケアが行われる。/住民票のある住民だけが入居することができる。看取り対応をしていない施設が多い。
●ケアハウス(特定施設)
24時間体制で介護を受けることができる。/0~数百万円/10万~30万円/介護度が高くなっても住み続けることができる。/原則として自治体住民が優先入所。
●小規模多機能型居宅介護施設
自宅に住みながら「日帰り」「宿泊」「訪問」の3つのサービスを受けることができる。/居宅サービスのため不要/介護度に応じて(例:要介護3で約2.5万円、食事代宿泊費別)/どのサービスも顔なじみの職員がケアを行ってくれる。/住民票のある住民だけが利用できる。介護度が高くなると対応が難しくなることも。
住宅型
●住宅型有料老人ホーム
個室で、原則食事などの生活支援サービスのみを提供。有料老人ホーム全体の6割を占める。/0~1億円/10万~40万円+介護費/施設数が多いため、選択肢が多い。/介護サービスは個別に契約が必要。介護度が高くなると対応が難しくなることも。
●サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
日常生活や介護に不安のある高齢者が住む賃貸住宅。部屋は個室。安否確認と生活相談サービスを提供する。/0~数十万円/8万~20万円+介護費/入居一時金が不要の場合が多い。/食事、家事支援、介護サービスは個別に契約が必要。夜間はケアの専門家がいないことがある。看取り対応をしていない施設が多い。
●ケアハウス
在宅生活が困難になった高齢者向けの施設。/0~数百万円/8万~20万円+介護費/入所者の所得に応じて補助があるので、低所得者も入居しやすい。/原則として自治体住民が優先される。介護度が高くなると退去が必要となることが多い。
●シルバーハウジング
バリアフリー対応の公的賃貸住宅。既存の公営住宅などを改修しているところも。/0~数十万円/1万~10万円+介護費/生活援助員(ライフサポートアドバイザー)を配置している。/介護サービスは個別に契約が必要。
※『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』(太田差惠子著)より作成

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太田差惠子
介護・暮らしジャーナリスト
著書に『親の介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版社)、『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』(翔泳社)など。
 

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(ライター 島影 真奈美 撮影=澁谷高晴 写真=iStock.com)

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