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いきなりBMWをマネた超攻撃型の町工場

プレジデントオンライン / 2018年12月21日 9時15分

日本の中小企業が生き残る鍵は「オープンイノベーション」と、元橋一之東京大学教授は提言する。オープンイノベーションとは、企業が自社の技術をオープンにし、他社や、大学、国、自治体などと連携してイノベーションを起こそうというものだ。技術や開発テーマを秘密にし、クローズドの環境からイノベーションを生み出そうとしてきた以前のメーカーのあり方とは逆の発想である。そこに活路を見出す神奈川県小田原市の鋳造メーカーを取材した。

▼KEYWORD オープンイノベーション

今回紹介するコイワイは、まさにオープンイノベーションによって成長を続ける中小企業です。技術を公開し、認知度を高めることで、大手メーカーの試作開発から、JAXAや、北海道大学との医療器具の開発など新しい分野に領域を広げています。多くの町工場が苦境に立たされているなか、右肩上がりに売り上げを伸ばしています。

コイワイは1973年の創業から40年以上、高温で溶融した金属を型に流し込み、冷やして成型する鋳造(ちゅうぞう)という金属加工を行ってきました。エンジンのような立体的で複雑な形状を造るのに適しており、モノづくりには欠かせない技術です。

鋳造を行う町工場は日本中に多数ありますが、そのなかでコイワイが“突出”したのは、2007年に他社に先駆けてドイツ製の高額な3Dプリンターを導入し、国内発の積層砂型工法を確立したことによります。小岩井豊己社長は背景に漠然とした危機感があったといいます。

「今後の日本国内の産業を考えたときに、『当社の事業規模では事業継続が難しくなる。他社とは違う、日本の鋳造業界でナンバーワンの強みが欲しい』という思いがずっとありました。当社の仕事の6割はクライアントの研究開発での試作。特に自動車業界の商品開発のスピードが速まっており、部品メーカー同士の競争も激化するなかで、鋳造の試作には、短納期と高精度が求められていました。そこで当社が選んだのが、砂型積層装置の導入でした」

コイワイは03年にBMWが積層砂型工法を行っているという文献を見つけ、ドイツのメーカーを訪問して性能を確かめ、導入を決めました。砂型積層造形が可能な3Dプリンターはドイツ製とスウェーデン製があり、価格はおよそ1億5000万円。当時の売り上げ十数億円の企業としては莫大な投資です。当時、国内でこの装置を持っている大手企業や研究機関はあったそうですが、鋳造業で外部にサービスを提供したのは国内初でした。

■1カ月の納期を3日に短縮した大投資

鋳物の型には金属で造られた「金型」と、砂を固めた「砂型」があります。何度も使える金型は量産に向いており、1回ごとに壊す砂型は少量生産に向いています。試作に使われるのは砂型です。

「3Dプリンター+職人技」でオンリーワンを造る●3Dプリンターで造られる砂型(写真上)と金型(同下)。最後は職人の手で仕上げていく。継ぎ目なく複雑な加工ができるのが特徴。

従来の砂型の製造方法はまず、職人が図面通りに木を削り出し、造りたい鋳物の模型である「木型」を造ります。次に木型を砂に埋めて、型を取る。砂を固めたら2つに割って中の木型を取り出し、再び接合させて砂型の完成です。複雑な形状のエンジンであれば20ほどの木型が必要になるそうです。発注から納品まではおよそ4週間かかります。

それに対して積層砂型工法では、特殊な砂にレーザーを照射して固化させ、3D CADデータから直接造形していきます。それにより、木型の製造工程を省いたのです。3Dプリンターによるデータ作成に1日、砂型造形に1日、鋳造に1日。なんと1カ月の納期を3日に短縮したのです。

コイワイはその技術をクライアントに営業をするだけでなく、国内外の展示会に積極的に出展しました。この革新的な技術は、さまざまな分野の研究者、技術者たちの目に触れ、その出会いから、航空宇宙や医療業界への進出が始まりました。

海外企業も注目します。11年にインドの展示会に出展すると、タタ自動車の技術者が多数訪れ、コイワイの技術に感嘆し、取引に発展しました。現在はタタ自動車のエンジン部品の試作に携わっています。

さらに12年、次なる3Dプリンターである金属粉末積層装置を導入。これは電子ビームまたはレーザービームによってコバルトクロム材やチタンの金属粉を溶かして固めながら、金属の立体を直接造形する工法です。「型に溶融金属を流し込んで鋳物を造る」という工程を省くことにより、さらに納期を短くしたうえ、より精密な加工を実現したのです。

長年培った職人の技術と先端技術を融合させている。つねに自己研鑽を続け、リーディングカンパニーとして一歩先を行くコイワイに、競合は追いつけないのです。

現在、同社の砂型積層装置は5台、金属粉末積層装置は4台。どれも1台1億5000万円程度と、売上高20億円の企業としてはかなりの投資額です。攻めの経営といえます。

■情報オープン化で、先端技術の中心に

現在、コイワイは3Dプリンターに関連する2つの国家プロジェクトに参加しています。1つは13年にスタートした砂型積層装置、もう1つは14年にスタートした金属粉末積層装置の国産化プロジェクトです。

それぞれに、装置・砂・ソフトウエアのメーカー、そして装置を使用する加工企業など民間企業数十社と、産業技術総合研究所、大学を含む多数の研究機関で構成されています。コイワイ以外の民間企業のほとんどは大企業です。

目的は、先行するドイツ製をはるかに凌駕する世界最高峰の装置を開発し、低価格で販売すること。日本のモノづくりの国際競争力を復活させるというものです。

気になるのは、コイワイが保有するドイツ製の装置よりも、大きさ、スピード、精度ともにはるかに高性能な装置を、5000万円以下で製造することを目標にしたプロジェクトだということです。もしそれが実現すれば、コイワイの先行投資が無駄になってしまいます。そのプロジェクトにコイワイが参加し、先行企業として培った技術や知見を提供している意味は何でしょうか。

ここにまさにオープンイノベーションの思考があります。本音でいえば、このような開発が進んでほしくないかもしれません。しかし、そうした技術が完成したとき、自分たちがそのプロジェクトにいなければ、次の時代には取り残されてしまう。そうならないためには、先端技術の中心にいるべきなのです。

「この技術が広まり、日本の技術者の方々の発想が3D化されてくると、既存の加工技術ではできない機能や形状が生まれてくる。そのとき、爆発的にこの技術が広まると思っています」。そのとき、コイワイはどのような企業に成長しているのか、今から楽しみです。

紀元前4000年からの「鋳造」技術を最新技術へ応用
●本社所在地:神奈川県小田原市
●代表者:小岩井豊己(1953年、長野県生まれ。75年小岩井鋳造所(現コイワイ)へ入社。85年代表取締役就任後、3D積層砂型工法、金属粉末積層工法に取り組む)
●従業員数:95名(2016年5月現在)
●沿革:1973年創業。現在は本社工場のほか、宮城県とインドを拠点に生産。16年11月期の売上高は20.9億円(前年比110%)

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元橋一之
東京大学大学院工学研究科教授
1961年、大阪府生まれ。86年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、通商産業省(現経済産業省)へ入省。93年コーネル大学経営大学院修了(MBA)。OECD、中小企業庁、一橋大学などを経て、2006年より現職。専門は計量経済学とイノベーションシステム論。

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(東京大学大学院工学研究科教授 元橋 一之 構成=嶺 竜一 撮影=松本昇大)

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