「仕事命」の親の子が学級崩壊させる理由
プレジデントオンライン / 2018年12月8日 11時15分
■「学級崩壊を主導する子の親は学校に一切顔を見せない」
中学受験指導を始めて20数年がたつ。わたしは主として都心部の教壇に立っているが、数年前から「うちの小学校で学級崩壊が起きている」という報告をよく耳にするようになった。ひとつの小学校を例に挙げてみよう。
その小学校は東京湾岸エリアにある。周囲にタワーマンションが続々と建ち、そこに「子育て世帯」が転居してくるため、生徒数が急速に増えている。
その小学校では、高学年の約半数のクラスで「学級崩壊」の現象が見られるという。
教員の言うことを全く聞かず、立ち歩きながら友人たちとおしゃべりに興じている子。授業の途中でやおら立ち上がり、外に出ていこうとする子もいる。学校側は解決策として生徒の親に名目上「自主的な見守り役」ということにして、多くの親を動員、その鎮静化を図ったという。「見守り役」を務めた母親のひとりは、ため息交じりにこう語った。
「わたしが行っても無意味なんです。もうどうにかできるレベルではない。一番問題なのは学級崩壊を主導している子たちの親に限って小学校に一切顔を見せないことなんです」
■過干渉の親は「無関心」な親よりマシである
こうした話は、この小学校に限らない。「学級崩壊の中心人物である子の親が小学校に来ない」という話は、中学受験指導をしていれば別の小学校に子を通わせる幾人もの母親からよく聞かされるエピソードである。
わたしは10年前に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)という書籍を上梓した。そこでは、「子どものパンツに名前を書く親」「いつまでも一緒にお風呂に入る母と息子」「Excelで子どもの成績を徹底管理する父」など、中学受験期の子どもに対して「過干渉」の親たちの事例を紹介し、「子どもたちの自立を阻むな」と警鐘を鳴らした。
しかし、わたしはいまこう考えている。
子どもに対して「過干渉」の親よりも、「無関心」の親のほうがよっぽど問題ではないか、と。そして、そういう親が近年とみに増えてきているように思う。
■親と子が「バトる」のは健全な家庭の証拠
親の「過干渉」が原因で、親子の間でしばしば「バトル」が勃発することがある。ときには怒鳴り合いにまで発展し、壮絶な戦闘状態を繰り広げるのは、たいてい「母」と「娘」という「女同士」。父親は別室で寝たフリをしていることが多い。
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わたしは最近、気づいたことがある。
母親と連日のように「バトる子」であればあるほど、学力、とりわけ文章読解能力がかなり高いのだ。たとえば、そういう子は語彙力が高く、「大人向け」に書かれた論理的文章などの理解能力に優れている。また、文中から解答の根拠に当たる部分をすばやく見つけることができる。論理的な思考能力が高いから、難解な算数の問題も粘り強く解くことができる。
「バトる」ということは、換言すれば、親と子がその場では「対等な関係性」を構築しているということなのだ。自身を論破しようとする親に対抗するためには、たとえ屁理屈になろうと、そこには理屈をつくる力が必要だ。
「お母さん、用意してって言ったノートが用意されていないじゃない!」
「そんなもの、自分で用意しなさいよ! 何を甘えたこといっているの? この子は」
「この前、お母さん何て言った? 親が準備しておくから、あなたはとにかく勉強しなさいよって……もう忘れたの? そうでなければ、何でそんな矛盾したこと言うの!?」
「うるさい! こっちが親切心を見せたと思ったら、何なのその生意気な態度は!?」
「だから、親切心どころか約束を守れないことに怒ってんじゃない!」
「何なの!? その上から目線は!」
「上から目線じゃないよ! そっちから約束破っておいて、何を逆切れしてんの!?」
「うるさい! うるさい! うるさい!!」
「あーもういいよ!」
たとえば、こんな具合。
果たして、能力が高いから親との「バトル」ができるのか、もしくは、親に対抗する中でそうした能力が培われるのか。わたしは指導経験から、後者のケースが多いと考えている。
親との「バトル」は一種のコミュニケーションだ。日頃から、親子で会話する機会がたくさんあることの証しでもある。だから、子は大人顔負けの語彙力や論理性を親との関わりの中で育んでいけるのだ。
■子供のことが面倒くさい「ネオ・ネグレクト」な親の増加
その一方、子に対して徹底的に「無関心」な親がいる。
とある私立女子中高一貫校の教員と食事をしていたときに、彼は酔いにまかせてこんなことをつぶやいた。
「子どもを私立中学に入れたら、あとは学校に任せっぱなしという親が多いんだよね。高い学費を払っているんだから、ちゃんと見てくださいねと『ひとごと』のように考えているのかもしれない。ウチは託児所ではないんだけどな」
この点、思い当たる節はわたしにもある。
「高校受験、大学受験って『面倒くさい』じゃないですか。だったら、中学受験が『ラク』かなあって」
塾に問い合わせに来た際にそんなことを切り出す親がいる。「面倒くさい」と思うのは誰なのか? 「ラク」を求めるのは一体誰なのだろうか?
「ネグレクト」ということばがある。子を養育すべき者が衣服や食事などの世話を怠るような「育児放棄(養育放棄)」を意味する。
子に無関心な親でも、衣食住という面では子の世話をしている。しかし、子どもと関わるのが億劫で仕方がない。わたしはこういう親の姿勢を「ネオ・ネグレクト」と名付けている。
■「子供は仕事の邪魔」ネオ・ネグレクトな親の特徴3
この「ネオ・ネグレクト」の姿勢を有しているのは、両親とも多忙でなかなか子どもと触れ合う時間が確保できない「共働き世帯」が多いと思うかもしれない。しかし、そうとは限らない。わたしの指導経験では、母親が専業主婦の家庭でも「ネオ・ネグレクト」状態のところがある。
「ネオ・ネグレクト」の親については、わたしは同業他社や中高教員などにたびたびヒアリングを重ねてきた。その結果、次のような特徴を持つと考えるようになった。
1.子とコミュニケーションをはかる時間を設けるのを厭う(避ける)。
2.第三者機関(塾や習い事など)に子を託すことで、自らの時間を確保しようと考える。
3.子どもよりも仕事が好きである(子どもは仕事の邪魔をする煩わしい存在と考える)。
問題なのは、親との関わりを断ち切られた子の多くは学力的に低迷しやすいということだ。平易な文章であっても、音読できない子。あいさつなどちょっとした受け答えすらできない子。手持ちの語彙が驚くほど貧困な子……。本来であれば最も影響を受けるべき親と接する時間が極めて限られているのだから、親子間の会話の少なさや、コミュニケーションの欠如を考えると、こうなってしまうのも無理はない。親から絵本を読み聞かせしてもらった経験などない。お風呂の中で親といっしょに数を唱えたこともない……。そのような生活習慣の蓄積が悪影響をもたらしているのだ。
■親の前では「良い子」に変身する「問題児」
冒頭の「学級崩壊」の例に立ち戻ろう。
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ある母親の証言によると、学級崩壊の中心にいる「問題児」たちは、両親の前では「良い子」に変身するという。子どもたちは「無関心」な親の気を引こうと必死なのである。
では、彼ら彼女たちはなぜ学校で暴発するのか。「学級崩壊」が起きている別の小学校に通う子の母親がこんなことを言っていた。
「クラスを荒らしている子たちは、ある意味『一生懸命』に反抗しているんです。教員の言うことを徹底的に無視したり、授業中は周囲の友人たちと『全力』で会話していたりするんです。そんな様子を見ていると不思議に心が痛くなるんですよね」
この母親が心を痛める理由はわたしにはよく分かる。
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そうなのだ。彼ら彼女たちは、親の「ネオ・ネグレクト」をそっくりそのまま真似ているのである。教員を自身の「親」に見立て、全身を使って懸命に反抗しているのである。親に対する「復讐心」「ルサンチマン」がそこに渦巻いているのだろう。あるいは、人をわざと困らせることで、自身が放置され、壊れかけている精神バランスを維持したいという「無意識的」な欲求がそこに潜んでいるのかもしれない。
そんな子どもたちは心の中できっとこう叫んでいるにちがいない。
「お父さん、お母さん、もっといっぱい話そうよ。もっといっぱい遊ぼうよ。もっともっとわたしのことを見てよ」
子どもたちのそんな声なき声が親の元に届くことを、わたしは切に願っている。
(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=iStock.com)
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