1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

日本の生産性が米国より3割低い根本原因

プレジデントオンライン / 2018年12月8日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/bee32)

日本企業の「一人当たり生産性」は米国平均より3割以上低い。このため給与水準も低迷している。原因はどこにあるのか。経営コンサルタントの入江仁之氏は「組織の風土や従業員の意識の低さが原因。つまり仕事に夢と誇りを持っていない」と指摘する。改善する方法はあるのか――。

■日本企業は生産性も給与水準もエンゲージメントも低い

私は世界最大のネットワークシステム会社、シスコ米国シリコンバレー本社の戦略担当部門マネージングディレクターとしてグローバルで活動してきました。また外資系戦略コンサルティングファームの日本・アジア代表などを歴任してきました。主なクライアントは、トヨタ自動車、日立製作所、GE、NTTをはじめIT、ハイテク、消費財などの日米の各業界を代表する企業です。

多くの日本の企業は、「給与水準」が大きく低迷し、海外の先進企業の後塵を拝しています。「一人当たり生産性」は、OECD統計で、日本が米国より32%も低いのです。これでは給与水準は上がりません。

なぜ日本は生産性が低いのでしょうか。その原因が、組織の風土、従業員の意識の低さと考えられます。ここでの意識とは「エンゲージメント」とも言われています。一人ひとりが仕事に自ら考え決めた夢と誇りを持ち、夢の実現に夢中になって諦めずに結果を出していく気持ちです。

従業員意識調査をすると、日本企業のエンゲージメントの度合いは、海外企業より大きく劣っており、大半の日本企業がグローバル平均の半分に低迷していることが明らかになっています。このため、仕事のスピードが遅くなり、環境の変化や想定外の事態への対応が後手後手に回ってしまっています。

生産性と給与水準の低迷、そして従業員の意識の低さが、失われた20年で顕在化した日本企業の“失敗”です。

■日本企業“失敗”の3大症状

これまで私は日本の経営を、特に失敗を重ねている日本の企業の荒廃した現場を、何百と観察してきました。そこから日本の企業の失敗の本質が見えてきました。

日本企業の“失敗”の3大症状をまとめてみます。

症状1:競合他社のまねや前例の踏襲ばかりをしてしまう。
症状2:時間よりも完璧な仕事をすることを優先してしまう。
症状3:社内は保身に走る「指示待ち族」ばかりになっている。

症状1は「競合他社のまねや前例の踏襲ばかりをしてしまう」というもので、本来見るべき現実世界の環境の変化を見ずに、競合他社のまねや自社のかつての栄光(前例)に縛られてしまっている状態です。

症状2は「時間よりも完璧な仕事をすることを優先してしまう」というもので、顧客への対応などをさて置いて社内の満足感を優先し、タイミングを逸してしまう状態です。

症状3は「社内は保身に走る『指示待ち族』ばかりになっている」状況で、人事の多くが「減点評価」や上司との「属人的なつながり」(親しさ)の度合いで決まってしまい、部下は上司の顔色をうかがってばかりになっている状態です。

■日本企業には「夢のビジョン」が欠落している

この3大症状が、同じような失敗を繰り返す日本企業の現場の実態です。この根本原因は、米国の先進企業が持っている共通の判断基準である「Vision」つまり「夢のビジョン」がないということにつきあたります。

注意していただきたいのは、「夢のビジョン」は日本の企業が掲げているビジョンやミッション、経営理念ではないということ。日本の企業が掲げているビジョンは経営陣の自己満足にすぎません。

本来の「Vision」は「具体的な夢」をさす言葉なのです。たとえば、5年後に実現したい企業の夢は何か、顧客に感動をもたらし従業員が夢中になれる夢や実現させたい理想の状態を、それぞれの企業の事業環境のトレンドや潮目の変化を観察して設定することです。

■失敗の解決には組織改革が必要

この「夢のビジョン」を中心に組織を改革することで、日本企業の“失敗”を解決し日本企業を立て直すことができるのです。

まず「夢のビジョン」を策定して、経営陣と従業員が共有します。「夢のビジョン」を起点として、仕事へ愛着心を持ち結果が出るまでやり抜く気持ち、つまりエンゲージメントを持った組織に改革するのです。

次にメンバー一人ひとりが行動する際、その行動が「夢のビジョン」とひも付いているかを判断の基準にします。こうして「夢のビジョン」の実現に向けて判断し行動していけば、「競合他社のまねや前例の踏襲」もしません(症状1の解決策)。

そして「夢のビジョン」の実現に向けて仕事をすることで、顧客が価値を感じてくれることに集中することになります。社内向けに完璧な仕事をすることよりも、顧客の立場に立った仕事を重視するようになります(症状2の解決策)。

また、「1on1ミーティング」を持ち、上司は部下の話を聞くことで「夢のビジョン」の実現を支援します。人事評価はエンゲージメントの度合いで評価し、利己主義に陥りやすい「能力やスキル」は評価対象としません。すると、従業員は会社の「夢のビジョン」にひも付けて自ら考え行動するようになります。従業員同士が、「夢のビジョン」の実現に向けて協調しはじめます。そして夢に向かって諦めずに結果を出す組織になるのです。(症状3の解決策)。

このように組織文化を作り直すことが、日本企業の“失敗”を解決し持続的な成長をもたらす近道なのです。

■次世代型の自律分散組織をつくる「OODAループ」

このように「夢のビジョン」を共有し個々人はその実現のために何をすべきなのかを主体的に考え行動する組織が、次世代の「自律分散組織」です。失敗を回避し、環境の変化や想定外の事態へ臨機応変に対応し勝ち残ることができるのです。

昨今、「ネットワーク組織」や「ホラクラシー」、「ティール組織」などさまざまな組織形態が提言されています。これらも自律分散組織です。“すぐ決まる組織”でもあります。

「夢のビジョン」の設定と実現を組織行動に落とし込んだものが「OODA(ウーダ)ループ」です。OODAループとは、アメリカ空軍大佐のジョン・ボイド氏が開発した戦略理論です。朝鮮戦争(1950‐1953)の空中戦でボイド大佐率いる味方1機が敵機10機を撃墜したとされる戦果の研究が原点となっており、シリコンバレーでも一般的に使われています。

OODAループは、

みる(見る、観る、視る、診る):Observe
わかる(分かる、判る、解る):Orient
きめる(決める、極める):Decide
うごく(動く):Act
みなおす(見直す)/みこす(見越す):Loop

の5つの思考プロセスからなります。

「夢のビジョン」を決め、その実現のために常に中身を更新していく戦略の理論です。現実の世界を観察して(「みる」)、「夢のビジョン」を決め、それにヒモづけた自分の世界観を持ち、その世界観を状況や相手に合わせて更新しながら、軍事でいえば「敵の戦闘意志」、ビジネスでいえば「相手(顧客やライバル企業)の思い」を探り(「わかる」)、相手の心をどのような状態にするかを決めて(「きめる」)、行動する(「うごく」)ことです。

■OODAループが与えてくれるインパクト

このようなOODAループの戦略理論は、最低限の製品・サービスの試作品を作って顧客の反応を見る起業のプロセス「リーンスタートアップ」や、顧客の世界観を中心にデザインを再考する「デザイン思考」に発展しています。また、目標管理の手法としてVSA(Vision・Strategy・Activities Directions)やOKR(Objective and Key Result)などさまざまな名称で呼ばれています。

日本企業にOODAループの考え方が浸透していけばどう変わるでしょうか。

OODAループの考え方が浸透した企業であれば、「みる」のは競合他社のまねや自社のかつての栄光(前例)ではなく、現実世界の環境の変化です。そして、顧客が何を望んでいるのか「わかり」、顧客のほしい商品をほしいタイミングで提供することを「きめて」、「うごき」出すのです。また、潮目が変わり状況が大きく変化しつつあると判断すれば(「きめる」)、行動を「みなおす」こともためらいません。

■PDCAはシリコンバレーでは使われない

クライアント先でOODAループの話をすると、優秀な従業員からは「はじめて戦略理論がしっくりしました」「これまで自分なりにやっていたのは、OODAループだったんですね」という声がでてきます。どうも今の日本企業は工場の管理ツールであるPDCAサイクルが創造的な経営の分野にも広がり、現場の従業員のレベルでは首をひねるケースに直面しはじめたようです。

PDCAとは、プラン、ドゥ、チェック、アクション(Plan-Do-Check-Action)の頭文字をとった、計画をもとに、行動し、チェックして、改善するという継続的改善手法です。PDCAは品質を高めることを要求される生産現場において重要とされ、統計的品質管理やISOのツールとして支持されてきたことは事実です。

しかしPDCAは心や感情などの人間的要素を排除して、計画が完璧であることを前提に従うことを求める一方で、環境の変化や想定外の事態、人間の仕事に対する愛着心などの「心理的な要素」への対応が後手に回ってしまうのです。このためPDCAはシリコンバレーをはじめとした海外企業では経営に使われていないのです。

PDCAの欠点を補完するにはOODAループの導入が最適です。経営のOODAループと工場のPDCAサイクルを連携させることで、環境に適した行動がとれることに加え、想定外の事態にも対処でき、失敗も回避できます。

----------

入江仁之(いりえ・ひろゆき)
経営コンサルタント
米国シスコ本社の戦略担当部門マネージングディレクターとしてエコシステムの構築をグローバルで指揮。外資系戦略コンサルティングファームの日本・アジア代表を歴任。現在はアイ&カンパニー・ジャパン代表として、OODAループをはじめとする全体最適・自律分散の先進的な経営モデルの提言と導入を主導している。

----------

(経営コンサルタント 入江 仁之 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください