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「イオンを創った女」が残した6つの名言

プレジデントオンライン / 2018年12月11日 9時15分

「弟を日本一にする」。イオングループ創業者・岡田卓也の実姉・小嶋千鶴子は、その言葉通り、家業の岡田屋呉服店を日本最大の流通企業に育てた。人事や組織経営の専門家だった小嶋は、数多くの名言を残している。『イオンを創った女』(プレジデント社)の著者・東海友和氏が6つの名言とその背景を解説する――。

■「見えざる資産の蓄積をせよ」

小嶋千鶴子はジャスコ発足後の十数年間で最も腐心したのは、「見えざる資産の蓄積」だとのべている。目に見える資産の典型的なものとしては「お金」があげられる。お金や建物などは目に見えて計算可能であり、こうした資産は常にコスト削減や売り上げ増を追求し増やしていかねばならない。

その一方で、資産には見えざる資産がある。「知識」「技術」「人脈」といったものだ。こうした資産はBS(貸借対照表)には表れてこない。

経営者が会社を成長させていこうとするとき、何よりも早く手をつけなければならないのが、この3つの見えざる資産の蓄積である。なぜならこうした見えざる資産の蓄積にはより多くの時間と労力を要するからだ。これらの蓄積がないかぎり、立派な建物ができたとしても、企業の成長は止まる。

■「店舗は人材育成のための錬成の場」

特に小売業の場合、「店舗」は人材育成・錬成の場として大きな意味を持つ、と小嶋千鶴子はいう。

「店の仕事は単調で日々同じことの繰り返しである」という声を耳にすることがある。確かにそうした一面もあるが、仕事は単純化するだけではだめだ。店で働く人は、お客さまの変化を察知し、それに対して素早い対応をするといった人間らしい、人間なればこその仕事をしなくてはならない。

そのため店長はパートタイマ―をはじめとして、従業員に、お客さまの変化、市場の変化について常に質問する習慣を身につけ、疑問に対しては的確な「答え」を用意しなければならないという。

オカダヤ時代、小嶋はある店長に対してこう言い放った。

「店長としての君の役割は業績を挙げることはもちろんであるが、若いうちに能力のある者を発見して適切な指導や教育をすることも大きな店長としての役割や」
「自分のことばかり考えて部下のことを考えないのは店長失格、そんなことでは大事な従業員を預けられへんな」

■「個人の意思をベースにした仕事には感激がある」

個人や集団において、自発的に仕事をするのと、強制的に嫌な仕事をさせられるのとでは、その出来栄えや達成度に大きな差が生じる。

教育や訓練にも同じことがいえる。「本当に自分にとって必要な知識や経験はなにか」と、真に問えるようになったとき、技能の吸収効果は全く異なってくる。しかしながら自発的に仕事をするといっても、自分自身では何が必要なのかつかみにくい場合がある。

その場合、他者からの働きかけが必要だ。それが「上司」の役目である。

上司には仕事の目標と個人や集団の現状との差異を発見して、部下に気付かせ、話し合いのうえ、目標設定をおこなうことが求められる。単なる押し付けではなく、上司と部下が共同して目標を設定して目標の共有化をはからねばならない。

いわば上司は単なる命令指示者ではなく、非常に手間はかかるが、個人や集団のニーズを発見して、それらを仕事に教育に組み立てていく教育者・コーディネーターでもある。小嶋千鶴子の仕事や教育のベースには「話し合いによる目標決定」があり、人間の行動科学に沿ったマネジメントを推奨している。

■「『仕事』が人を創る」

小嶋はこんな話をしたことがある。

「昔、国鉄の時代のこと、上野駅で30年間改札口の切符切りをやっていた駅員さんがいた。単なる切符を切るだけであったら、3カ月もあったら習熟するのに何と気の毒なことか」

私たちの売り場はそうなっていないだろうか? 一日中客待ちをして、何の工夫もなくただ時間が過ぎるのを待っているような仕事をしてはいないだろうか? 職業の貴賤ではない。本来人間しかできないことをやるべきだということである。

創意工夫、改善、提案、協力、上位レベルへの挑戦、教育訓練を受ける機会、仕事の掘り下げ、仕事の拡充、それによる達成感や効力感、仕事の社会的意義・意味、などを教える上司の指導は、大きな意味をもつ。

オカダヤ時代に退社する女子に対して贈る言葉として「詩」の朗読をするという儀式があった。

「オカダヤは職場の学校、1年より2年は勝り、2年より3年は優れ、花のかんばせ……」

というものであった。入社が1年違うと能力、責任感、仕事の遂行能力に歴然とした差が生まれたのである。

■「情報の共有、目的の共有、結果の共有」

小嶋は日常的に、情報のあり方、コミュニケーションのあり方、会議の仕方、傾聴方法、事務の流れなどについて、口酸っぱく言ってきた。

上司が部下に腹を割って情報を開示し、現状を訴え、協力を求めたとしたら、部下は「これほど信頼してくれている」と感激をするものである。反対に情報を自分だけに取り込み、開示しない上司がいたら、どう動いていいかわからなくなり、その果ては「勝手にどうぞ」ということになる。

「人本主義」を唱える一橋大学名誉教授の伊丹弘之教授は、経営には人・モノ・金に加えて「感情」があると喝破している。部下の意見、やる気を出させるための縦横上下の豊富なコミュニケーションほど効果的なものはなく、置かれている共通の目標に向かってのPDCA活動は良い結果を生む。万が一、不満足な結果であっても、その結果について共有することにより、より強い団結力や組織としての捲土重来の意識がうまれるのである。

小嶋は全国の人事担当者会議を月に一度開催し、本社の人事スタッフも参加させた。そこでは小嶋からの指示や訓戒訓示はなく、各員からの発表に対して短いコメントをするにとどめた。その場ではできるだけ自分の情報を開示し、同時に地域からの人事情報をつぶさに得、さらに全員に共有させたのである。

■「不満の本質を見極めよ」

不満は時としてさまざまなカタチで表面化するものである。すねる・反発・拒否・怠惰・反抗・抗議・非協力・無関心等として噴出するが、カタチは問題ではなく、その原因がなにかである。

東海友和『イオンを創った女 評伝小嶋千鶴子』(プレジデント社)

上司の一見ささいと思われることがらで、部下が大変傷つくことがある。たとえば、朝のあいさつの返事がなかった、名前を呼び捨てにされた、反対に呼び捨てにしてほしいといった不満だ。会議に呼び出しがなかった、OJTや教育の機会がない、改善提案をしても返事や取り上げがない、もっと重要な仕事、責任ある仕事を任されたいなど、比較的高次の不満もある。後者は良き不満であり、成長のあかしでもある。

また、別の角度からみると、根っからの不満分子もいる。いわゆる自己愛人間で、今自分の不幸は他者のせいであるとする人物である。

カタチとしては同様であるが、もうひとつ皮をかぶって現れるものがある。「正義」という皮である。至極もっともな意見をつけ、他人をおとしめる場合がある。固有の不満を公の不満としてすり替えてくる。なんとも厄介な人間ではあるが現実には存在する。

ここまで極端なことはまれではあるが、上司は部下の心の動き行動を早く察知、識別して適切な処置を施す必要がある。放置すると慢性不満者になりうる。

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東海友和(とうかい・ともかず)
東和コンサルティング 代表
三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。

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(東和コンサルティング会長 東海 友和)

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