外科と内科で"名医の多い大学"が違うワケ
プレジデントオンライン / 2018年12月11日 11時15分
■大学・大病院で出世できるのは「格」の高い大学
医者にかかるときに、その先生がどの大学を出ているかをチェックする人は多いだろう。しかし、それでわかるのはせいぜい偏差値くらいだ。それでなんとなく「どうせ診てもらうなら東大卒の先生に」と考えてしまう。その判断は正しいのだろうか。
そもそも国家資格の医師免許は一種類。どの大学を出ても国家試験さえパスすれば医師にはなれる。だが、それぞれの医学部には歴史に基づく「格」というものがある。出身大学の格によって、勤務医として出世するのか開業するのかといった医師の生き方が左右され、結果的には「名医」となるかどうかも決まるのだ。そこでまず、医学部の格について説明したい。
簡単にいうと、日本では歴史が長い医学部ほど格が上、ということになっている。ヒエラルキーの最上位にくるのは、東京大学、京都大学などの旧帝国大学7校だ。これに続くのが「旧6医科大学+1」グループ。こちらには千葉大学、新潟大学などの前身である旧制官立(国立)医大のうち老舗格の6校と、京都府立医科大学が含まれる。以下、図のとおり戦前からの私立医科大学3校のグループ(私立医大御三家)、旧制医学専門学校(医専)出身の国公私立大学グループ、1970年代の「一県一医大」政策で誕生した新設医大グループが続いている。
古くは明治時代から、新設の医学部は既存大学から教員(医師)を受け入れ、次世代の教育に当たってきた。そのため、教員の送り手側と受け手側との間に系列という関係性が出来上がる。歴史のある医大ほど、より多くの医学部に出身者を送り込み、その影響は教授人事などにまで及ぶのだ。
また、医師の世界には医学部教授が系列病院の医師人事を左右する「医局」という仕組みがある。病院の頂点は大病院の理事長や院長だが、格の高い大学でたとえば教授だった人が定年を迎えたら系列の大病院のトップへ天下りし、数年ごとに別の病院へ移るという慣習がある。だから、同じ医師でも格の高い大学を出ていれば、大学や大病院で出世する可能性が高いのである。
系列病院の数も格によって決まり、たとえば東京都内なら大病院の7割近くは東大系列だ。慶應義塾大学の系列も頑張ってはいるが、東大優位は動かない。国立の東京医科歯科大学は偏差値のきわめて高い難関だが、旧制医専がルーツなので医学部の格としては図に示した「Rank4」であり、系列病院も少ない。これが東北地方なら東北大学、九州なら九州大学の系列が強いという具合に、それぞれの地域で格に基づいた序列が出来上がっている。
では、大学の格や偏差値と、医師の実力とはどのような関係があるか。
当たり前だが、出身大学の格や教授・院長・外科部長などの肩書と、医者としての能力は別物である。「東大や慶大の高名な教授に診てもらえば安心」といえる根拠はどこにもない。
■外科の開業医は「一子相伝」の技術を持っている
特に顕著なのは「治療学」である外科系であろう。外科で大事なのは手術手技の巧みさだからである。名医と呼ばれる外科医のプロフィールを見て、意外にも東大ではなく、日本大学や奈良県立医科大学、愛媛大学といったRank4や5の出身者が多いということに気づいた方もいるだろう。これは意外ではなく、当然なのだ。
総じて出世には不利な格の低い大学の出身者は、出世よりも手術手技を磨くことや開業を考えるので、結果として名医が育つのだろう。開業医に関しては次のような事情もある。
そもそも外科医の技量は経験によるところが大きい。教科書には手術の際にここからメスを入れろと書いてあっても、実際は反対側からのほうがいいというようなことがある。外科医にはそうした実践的な知識の蓄積がある。代々の開業医は、部下である勤務医にはそれを伝えないかもしれないが、跡継ぎの息子には必ず伝えるだろう。伝統芸能ではないが「一子相伝」のところが多分にある。だから外科の開業医は名医である確率が高いといえる。
私が卒業した東京慈恵会医科大学などの「御三家」を含め、私大医学部はそもそも臨床医、なかでも開業医を養成するために設立された。いまでも開業医には私大出身者、それも代々の開業医が多い。したがって慈恵医大や日本医大、順天堂大学、地方では岩手医科大学、久留米大学を出た外科医は信頼に値する場合が多いのである。
それに対して、内科系は「診断学」といっていいほど最新の医学知識が重要になる。また、内科医には日常的にものごとを論理的に考えたり、情報を整理したりする能力が求められる。
すると、たとえば神経内科のような高度の知識を必要とする分野では、東大など旧帝大系や慶大、東京医科歯科大といった、偏差値の高い大学の出身者に信頼できる医師が多いと考えるのが妥当だろう。この場合は、大学の格よりも偏差値である。
ところで、これまで述べてきた「出身大学」とは、あくまでも学部であって大学院ではない。だからその医師の格も学部に紐づいていることを指摘しておきたい。大学院を出て医学博士になる医師も多いが、これはもちろん医師としての技量とは関係ない。
あまり知られていないことだが、日本では医師資格を持っていなくても医学博士にはなれる。堀場製作所創業者の故・堀場雅夫氏は京大理学部卒のインテリ起業家として著名だったが、医学博士でもあった。でも医師ではない。学位を取るときに医学分野の研究をされたというだけである。私の知人には栄養学の研究で医学博士になった人もいて、この人ももちろん医師ではない。
だからというわけではないが、医学博士と名刺に刷り込んである医師を名医だと勘違いしてはいけないということも申し上げておきたい。
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医師・ジャーナリスト
1947年生まれ。大教大附属天王寺小・中・高、東京慈恵会医科大学卒。新日本プロレス・リングドクターを務める一方、『不要なクスリ 無用な手術』など著書65冊以上。
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(医師、ジャーナリスト 富家 孝 構成=山口雅之 撮影=大杉和広 写真=amanaimages)
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