好感度4年連続1位"三太郎"愛されるワケ
プレジデントオンライン / 2018年12月11日 9時15分
※本稿は、浜崎慎治『共感スイッチ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
■「三太郎」は社名の認知度よりも「好き」を目指した
「au三太郎」シリーズや「トライさん」シリーズなど、僕が手がけたシリーズもののCMは、内容の一つひとつが違うとしても設定の部分がおおむね一緒です。
そして「同じ」というのは「飽きる」とか「既視感」を見た人に与えかねない、というリスクと隣り合わせです。クリエイティブの観点からすれば、これは本当に大きなリスクであると言えるでしょう。
「au三太郎」シリーズに込められた究極的な目標とは何か? それは「auを好きになってもらう」ということです。
「社名の認知度を上げる」とか「サービスを知ってもらう」といった目標だと、みなさんもイメージが湧きやすいかもしれません。しかし「好きになってもらう」とは、大変に抽象的なニーズのようにも感じます。
ではなぜ、そんな目標が出されたのか?
その理由としてauはもちろん、NTTドコモやソフトバンクなど、携帯電話を取り扱う通信事業者が常にしのぎを削りながら切磋琢磨し、通信環境や端末のクオリティを上げている、という事情があります。
ではもし携帯電話会社の商品やサービスが横並びになったら、どこで勝負が決まるのか? それを考えたときに重要になるのが「好き」という感情であり、だからこそ僕らCM製作者たちは愛されるCMを作らなければならなかったのです。
■「好きだから使う」の理由にCMを加える
そのことを考えるなら、ブランド物をイメージしていただくと良いかもしれません。
なぜ特定のブランドにこだわり、収集をする人たちがいるのかと言えば、商品のクオリティやデザイン、サービスが良いからといった事情もあると思いますが、それに加えて「そもそもそのブランドが好き」という方も多いと思います。
これが、先述した目標を掲げる理由です。
ショップが好き、店員さんが好き、雰囲気が好き。「好きだからauを使っている」と思ってもらえる「何か」。その「何か」のひとつにCMを加える、ということが重要だったのです。
「au三太郎」シリーズは昔話をモチーフに制作をしてきましたが、感想を聞くと「金ちゃんの性格が好き」とか「この先の展開が気になる」などと言ってもらえるようになりました。
何年もCMを作り、それを見続けていただいたこともあり、少なからず「愛着」のようなものがみなさんの間にも生まれているのかもしれません。
■毎日触れ合うからこそ親しみが生まれる
財布やカバンを新調すると、最初は何だか収まりが悪い。でも使いこんでいくうちに、自分だけのものになって馴染んでいく。これと同じで毎日流れるCMで同じキャラクターを見ていると、次第に馴染み、親近感が湧き、親しみが生まれていく。
それは、毎日触れ合っているからに相違ありません。多くコミュニケーションの機会を得られれば、次第にその先に感情移入をするようになり、「好き」になってもらえるのです。
ただし、正直「好かれる」のは簡単でなく、一筋縄ではいきません。なぜなら、好かれようとしても、それだけで好かれるものではないからです。
しかも「好かれよう」という気持ちが出すぎてしまうと「いやらしい」面が同時に出てしまいかねません。「この人、私に好かれたいんだな」などと思われてしまうと、逆に相手の気持ちが冷めてしまうことも多い。その立ち居振る舞いやたたずまいのチューニングは、容易ではありません。
でも、そこのニュアンスを間違えさえしなければ、多く触れ合うことで必ず「愛着」は生まれてきます。それこそが僕が著書で紹介した「共感スイッチ」の核心、その一つです。
■三太郎たちが生まれるまで
「au三太郎」シリーズでは、「桃ちゃん」こと桃太郎、「浦ちゃん」こと浦島太郎、「金ちゃん」こと金太郎をはじめとして、とても個性の強いキャラクターが登場します。
そういったキャラクターの設定や個性を検討する際、とにかく関係者でアイデアを出し合い、時間をかけてじっくりディスカッションします。
CMで訴求する内容は毎回変わるので、むしろ、キャラクターにどんな個性を持たせて、以後どんなことをさせようか、ということを考えるほうに時間を掛けることがよくあります。
たとえば昔話での金太郎は、正義感と力が強く、クマと相撲を取って身体を鍛えるほどの、正にバリバリの英雄です。そこでCMではまったく逆に、腕っ節も正義感もさほど強くなく泣き虫、という設定にしました。
そのうえ、名前に「金」が付くこともあって「お金にうるさい」といった人間臭さを加えることで、親しみやすさや愛らしさが生まれています。
さらに浦島太郎は漁師さんで海好き。現在の海好きと言えばサーファーだ、などと設定を作っていきました。そして知性より体力、とにかく元気と勢いはある、といった設定を作り上げていきました。
■“ちょっとの裏切り”が強い印象を残す
一方、昔話では悪役にされることが多い鬼はシリーズ途中から登場します。
そのためキャラクター設定を考える際、「あとから登場する」「下級生として入って来る」という状況でも、すんなりはまるキャラクターがいい、ということになりました。
そこで生まれたのが悪役、つまり不良やヤンキーという基本設定で、先輩方の懐にすっと入り込む、後輩気質の「鬼ちゃん」です。
CMでの設定は、桃太郎からすでに成敗されたあとから始まっており、「ケンカのあとはもう友だちっスよね」と言ったかと思うと、初対面の金太郎の斧を見て「これカッコイイっスね」「オシャレー」とおだて、その懐へ入り込んでしまいます。
これはつまり、「鬼」という典型的な悪役なのに愛される理想的な後輩像、というギャップを重ねることでお茶の間に強く印象が残るキャラクターを作り上げた、というわけです。
これは私たちの毎日でも一緒。日ごろから、自分の見た目や服装、肩書きなど、外部から想起されるイメージと近いキャラクター設定を理解しておく、というのは重要だと思います。
それでコミュニケーションを重ねる中で、相手のイメージや期待をどこかでちょっと裏切る、というのは相手に強い印象を残す演出法であり、毎日のコミュニケーションでも使える効果的な方法のように感じています。
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CMディレクター
1976年鳥取県生まれ、2002年TYO入社、13年よりフリーランス。手がけたCMにau/KDDI「au三太郎」、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「教えてトライさん」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、トクホン「ハリコレ」など。ACCグランプリ、ACCベストディレクター賞、広告電通賞優秀賞、ギャラクシー賞CM部門大賞など受賞多数。これまでに100作以上手がけた「au三太郎シリーズ」はCM好感度で4年連続1位(CM総合研究所調べ。2015年度-2018年度)。
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(CMディレクター 浜崎 慎治)
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