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MSがアップルから世界首位を奪えたワケ

プレジデントオンライン / 2018年12月9日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/wundervisuals)

衝撃的なニュースが世界に流れた。時価総額世界一を続けてきたアップルが、一時、約8年ぶりに首位の座を明け渡したのだ。驚きは、その相手だった。「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社)ではなく、マイクロソフトだったのである。『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)の著者・上阪徹氏は「驚きはまったくない」という――。

■100兆円企業三つどもえの戦い

世界を代表する、3つの巨大企業の「時価総額」争いが激しさを増している。

11月27日に、時価総額世界1位の座をアップルからマイクロソフトが奪還。さらに、12月3日にはアマゾン・ドット・コムが2社を一時的に抜いた。12月3日終値ベースの時価総額首位にはアップルが返り咲き、8770億ドル。2位はアマゾンで8666億ドル。3位にはマイクロソフトで8604億ドルとなった。日本円にして100兆円近い時価総額というとんでもない次元での、抜きつ抜かれつが起こっている。

中でも注目すべきはマイクロソフトの「再躍進」だろう。2013年にエクソンモービルを抜いて以来、時価総額首位を走ってきたアップルを、一時的とはいえ、マイクロソフトが抜いたのは約8年ぶりだった。アップルを抜いた相手が成長著しいGAFAでなくマイクロソフトだったことに、驚いた人も少なくなかったようだ。

■マイクロソフトを株式市場が評価する理由

とりわけ日本では、マイクロソフトに今、何が起きているか、気づいている人は極めて少ない。スマートフォン時代に乗り遅れた、一昔前のオールドカンパニーというイメージを今なお持っている人がほとんどである。だが、株式市場ではそうではない。

実は2015年秋、マイクロソフトは創業から40年目にして、株価が最高値をつけていた。あのビル・ゲイツの時代よりも高くなったのだ。それだけではない。マイクロソフトの株価はその後もどんどん上昇。2018年の夏には100ドルを超え、最高値をつけた2015年秋の2倍に達した。世界中の投資家たちが、マイクロソフトにかつてないほどの期待をしているということである。

全盛期は過ぎ去ったと思われていたマイクロソフトに何が起きたのか。その象徴こそが、2014年、3代目のCEOに就任したサティア・ナデラ氏だった。私はこの翌年、日本法人の平野拓也社長に取材をしたとき、驚くべき話を聞くことになった。新しいCEOは、マイクロソフトという会社を作り替えようとしている、と語っていたのだ。売上高10兆円、12万人を擁する会社を、である。

だが、それは本当だった。だからこそ、これほどまでに株価は上昇し、アップルを抜き去るところまで評価されたのだ。CEO就任時、サティア・ナデラ氏は47歳。インドに生まれ、21歳の誕生日に渡米。1992年にマイクロソフトに入社している。会社を大きく変えたのは、20年以上この会社にいた人物だった。逆にいえば、そういうことができる人物をCEOに抜擢(ばってき)した、と見ることもできる。これこそ、マイクロソフトの慧眼(けいがん)だろう。

マイクロソフトのこうした大きな変革に興味を持ち、私は『マイクロソフト 再始動する最強企業』を書くためにアメリカ本社の幹部にも取材することになるのだが、そこで聞いたのは、驚くべき話だった。当時、マイクロソフトは右肩上がりの業績好調な最中にあったが、CEOが代わって最初にしたのは、「自分たちは何のために存在しているのか」を改めて問うことだったというのである。世界最大のソフトウエア会社が、自分たちの存在意義を見直すところから始めたのだ。

■ミッションとカルチャーを作り直した

そしてまず会社の「ミッション」を変えた。マイクロソフトといえば、ビル・ゲイツ氏が作った「すべてのデスクと、すべての家庭に1台のコンピュータを」というミッションが有名だが、当時はとんでもないことだと思われたこのミッションは後に実現されてしまった。2代目CEOのスティーブ・バルマーの時代にもミッションはあったが、それほどインパクトのあるものではなかった。そこでナデラCEOは、改めて自分たちの存在意義を見直し、ミッションを作り直したのだ。それが、これである。

「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」

ミッションに加えて、ナデラCEOが変えようとしたものがある。会社のカルチャーだ。大企業になり、保守的な動きが目立つようになっていた中、CEOになった日の朝、経営幹部たちへのミーティングで「グロースマインドセット」という言葉を使い始める。これが、カルチャー変革のキーワードになった。成長しよう、リスクを取ろうというメッセージだ。

■ソフトウエアからクラウドへ

そしてCEO自らが、就任から間もないタイミングでこれを実践する。なんと、ビジネスモデルを大転換させることを発表するのだ。ソフトウエアからクラウドへのシフトであり、Windowsの無償化という驚くべき決断だった。

マイクロソフトは創業以来、ソフトウエアのライセンスビジネスによって売り上げを立ててきた。1台のパソコンにOSであるWindowsが入り、Officeをはじめとしたアプリケーションが入り、それらはライセンスの形で販売された。アップデートが行われれば、有償でライセンスが与えられた。アップデートの度に、課金ができるというビジネスモデル。これが巨額の売り上げ、利益を生み出した。

ところが、ナデラCEOはこのビジネスのスタイルを変えていくと宣言するのである。ライセンスから、クラウドを使った消費量へ。存在意義を見直したからこその大胆な見直しだった。となれば、ビジネスのスタイルも変えざるを得ない。1回だけ売り込んで買ってもらえばいい、という商売ではなく、長くたくさん使ってもらう商売をしないといけない。発想の大転換が必要だった。そのキーワードに据えられたのが「オープン」だ。

■かつてのライバルと手を組む

そしてここでも、ナデラCEOはその先頭に立って仕事を変えていく。驚くべきことに、なんとかつてのライバルと次々に手を組み始めたのだ。CEO就任から1カ月ほどで、自らシリコンバレーを訪れ、競合他社に相対。オープンソフトウエアの世界のエンジニアたちとも提携を結んでいる。

これはITの世界の人には驚天動地の出来事だった。ソフトウエアで圧倒的な力を誇ってきたマイクロソフトは、競合他社ではなく、自社製品ですべてをまかなう「クローズ」な道を選んでいたからだ。しかし、これが結果としてマイクロソフトの取り組みを後手後手に回させた。だから、停滞が起きたのだ。

ところが、これを「オープン」にシフトする。オラクルとも、セールスフォース・ドットコムとも、Linuxとも、さらには驚くべきことに、長年のライバル、アップルとも手を組んだのだ。iPhoneは敵ではなく、マイクロソフトのアプリやサービスをたくさん使ってくれる素晴らしいデバイスだ、と。実際、アップル向けのソフトウエア部隊もできた。

■十数億ユーザーという強み

端的に、マイクロソフトはクラウドを使ってもらえばいいのである。そのトラフィックそのものをマネタイズするのだ。ここでたくさん使ってもらうには、自社製品のみならず他社製品でもまったく構わない。競合も含めたいろんな会社で素晴らしいIT環境を作れば、それだけクラウドを使ってもらえることになる。

一方で、競合から見ると、マイクロソフトのソフトウエアを使っているユーザーは世界で十数億人いる。アップルにしても、iPhone上でOfficeが動くことは、ユーザーの大きな利点になる。双方が、ウインウインになるのだ。さらに、Windowsはゲーム機のOSにもなり、IoT機器のOSにもなった。こうして、あのアップルまで、マイクロソフトは今や自分たちのビジネスに取り込んでしまったのである。

これは、マイクロソフトの強みを最も出せるビジネスにフォーカスできたことを意味していた。世界最強のソフトウエア開発力を持ち、アップルにもグーグルにもフェイスブックにもないビジネス領域での圧倒的な強さを武器に、競合と次々と提携して他にない消費量が稼げる、クラウドビジネスで圧倒的な存在感を持つ会社になったのだ。レガシーの部類から、クラウド領域で世界で戦える数社の一角を担う存在へと、大きく転換させることに成功したのである。

■「ポスト・スマホ」時代での覇権奪取へ

マイクロソフトはたしかにスマートフォン時代に乗り遅れた。しかし、スマートフォンが十分に行きわたった今、次の「ポスト・スマホ」時代の覇権争いに大きな存在感を示すことになった。これこそ、株価が急上昇した理由だろう。

パソコンからスマートフォンへの移行が一気に進んだような大きな再編がこれから起きないとは限らない。スマートフォンの歴史は、まだ10年ほどしかない。この先10年、本当にこのままスマートフォンが世界を席巻し続けるのか。それとも新しい再編が起きるのか。そのとき、誰が王者になるのか。株式市場は、それを見越しているのではないか。

実際、アップルから未来の可能性を感じさせるような技術がなかなか聞こえてこない、と感じている人は少なくないだろう。だが、マイクロソフトには、コンピューティングの世界を一変させてしまうのではないか、とささやかれ、大きな注目を浴びている技術がある。そのひとつが、MR(Mixed Reality/複合現実)だ。

■マイクロソフトが持つ最新の「MR」技術とは

VR(仮想現実)だけでもなく、AR(拡張現実)だけでもない。物理的現実と仮想現実の2つの現実が融合したまったく新しい世界。このMRを実現しているのが、マイクロソフトが開発したデバイス「HoloLens( ホロレンズ)」。これを頭に装着し、ホロレンズを通して現実世界を見ることで、MRは可能になる。

マウスもキーボードもいらない。ジェスチャーで操作する。ホロレンズを介して見えるのは、バーチャルとリアルが一体化した世界だ。空間に3D画像が浮かび、Excelデータが浮かぶ。店舗づくりは、現地でバーチャルを組み合わせたイメージづくりが施工前に可能だ。すでに、さまざまな用途での活用が始まっているが、開発やプレゼンテーションの世界を一変させる可能性を秘めている。自動車開発、建設、パイロットや整備士のトレーニング……。書籍では、このMRを生み出した天才科学者、アレックス・キップマン氏にもインタビューしている。

■落合陽一「今22歳ならマイクロソフトに行く」

折しも書籍の執筆中、「今22歳ならマイクロソフトに行く」とウェブメディアのインタビューに答えていた落合陽一氏に取材の機会を得た。まさにテクノロジーの最先端を走っている科学者だが、例えば彼が研究している網膜投影とマイクロソフトのMRが合体したどうなるか。ヘッドセットなしに、リアルとバーチャルが、いつでもどこでもミックスさせられるようになるかもしれない。

バーチャル上で、議題となる新製品の3D映像を見ながら、収支計画などのデータも宙に浮かせて、さまざまなプレゼンテーションを行っていく、などということが当たり前になっていく。商談光景も変わるだろう。モノを買うとき、家で大きさをバーチャル上で確かめてから買う、などということが当たり前にできるようになる。バーチャルショッピングやバーチャルトラベルなんてものが現実化するかもしれない。

マイクロソフトは大きく変わっている。リスクを取り、アグレッシブにチャレンジしようというカルチャーを持つ会社になっている。クローズからオープンへ、というマインドの中で、次々とコラボレーションが生まれている。

■マイクロソフトこそが次代の技術を生み出す

マイクロソフト・リサーチに象徴される研究開発体制があり、パソコンのOSで9割以上のシェアを持つソフトウエア開発力がある。アメリカの政府機関についでトップ3に入るマルウェア攻撃を受けながら、一度もデータを持ち出されていないセキュリティーの力もある。そして何より、ビジネス領域での圧倒的な信頼感と膨大な量のビッグデータを手にしている。

上阪徹『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)

マイクロソフトが今、押さえている領域は、次の王者になる条件を十分過ぎるほどそろえているのではないか。これほどの領域を総合的にカバーしている会社は、他にあるだろうか。

難しいことはさておくとして、電車の中で懸命に小さなスマートフォンの画面に目を凝らしている人々を見ていると、私はこれが未来も残る技術になるとはとても思えない。ビジネスインフラとしても、果たして優れた「最終兵器」なのか。

それこそ、あっと驚く技術は数年以内に出てきて、世界を席巻するかもしれない。かつてのスマートフォンがそうだったように。そしてその技術を生み出すのは、マイクロソフトの可能性は高いと考える。もっともっと注視しておいたほうがいい。

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上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。

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(ブックライター 上阪 徹 写真=iStock.com)

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