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偽薬メーカー代表「信じれば同等の効能」

プレジデントオンライン / 2018年12月23日 11時15分

課題は周知が進んでいないこと。

■薬品メーカーでは、強い反発

見た目は薬そっくりの直径8ミリメートルの丸い錠剤だが、中身はなんの薬理作用もない還元麦芽糖(甘味料)。偽物の薬、いわゆるプラセボと言われる偽薬だ。

このプラセボを作り、販売しているのが滋賀県に会社を構えるプラセボ製薬の水口直樹代表(32歳)だ。

「偽薬よりも“プラセボ効果”という名前のほうが有名ですね。実際には効果のない偽薬でも、本物だと信じ込んで飲むことで本物の薬と同じ効能が出るというものです」

例えば「これは眠くなる薬です」と渡されて偽薬を飲めば、実際には眠くなる成分が入っていなくても眠気を感じる人が出てくるのだという。

臨床の現場では、プラセボ効果を狙うというよりも、通常の薬剤を飲むグループとプラセボを飲むグループに分け、薬剤自体の効果がどの程度あるのか測るために使われるのが一般的だ。しかし水口代表は、薬を飲んで安心した気分にさせる商品としてプラセボを製造・販売しているという。

「介護の現場では、認知症の高齢者が薬を飲んだことを忘れ、一日に何度も薬を飲もうとするといった問題が起こっています。職員が投薬を断るとそこで軋轢が生まれ、双方が疲弊してしまう。そこで何かできないかと思いついたのが、プラセボだったのです。プラセボならリスクなくそういった関係を解決できると思いました」

メトグリーン社の“サティスフェイク”など、臨床の現場向けに業務用のプラセボが製造・販売されることはあるが、誰でも手に取れる形でプラセボを販売するという試みはプラセボ製薬が国内初だという。しかしプラセボも万能ではない。外傷などには効果が薄く、効果的にプラセボが利用できるのは眠気や痛みという脳内の現象がメインだ。

プラセボ効果は長年、患者側が「薬を本物だと思い込んでいること」が条件だと思われてきたが、近年の研究では偽薬だと明示してからプラセボを飲んでも一定の効果があることがわかってきたという。

「がんに伴う倦怠感に悩む人が、プラセボであることを明示されながらプラセボを服用したところ、倦怠感が軽減したという報告があります。副作用の心配が少なく、安価なプラセボは医療の選択肢となりうる」

水口代表は「売り上げは年々上がっている」と語るが、まだまだ周知が足りず厳しい戦いを強いられている。

プラセボ製薬の主な顧客は老人ホームやデイサービス、自宅で介護を行う一般家庭など。しかし介護の現場では「患者をだましていいのだろうか」という倫理的な懸念があり導入に至らないケースや、店頭での販売もプラセボの特性上、扱いが難しく、思うようには進んでいないという。

しかし水口代表の元には心因性のあがり症や頻尿などの問題を抱えた子供の親からも注文があり、少しずつ活動の成果は見えてきている。

「現在、高齢者が多数の薬剤を同時に摂取するポリファーマシーを厚生労働省が問題視しており、多剤服用を抑えるアナウンスが出ています。そういった問題にも、一部を置換するような形でプラセボの活用が考えられます」

また、プラセボ効果によって起こるのはメリットだけではない。ノセボ効果という、本物の薬と同様に副作用も起こりうることも研究により判明している。扱い方によって、ただの錠剤が毒にもなりうる。

もともとは大手薬品メーカーに勤務していた水口代表。会社の製品会議でプラセボを提案したが、反応は芳しくなかった。「同年代の社員からは支持を得ていたのですが、上層部の支持が得られず社内では製品化ができず、独立に至りました」。偽物であるプラセボを、薬品メーカーが販売することに強い反発があったのだという。

「プラセボが医療の一環になりうる、ということはまだまだ周知が進んでおらず、厳しい状況です。業界全体のことを考えれば、医療メーカーが薬品名を印刷した、本物の薬のレプリカのようなプラセボを売り出すことも必要になるのでは、と思っています」

(橘 厚樹 撮影=橘 厚樹)

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