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やる気を引き出す"声がけフレーズ"35例

プレジデントオンライン / 2019年1月7日 9時15分

写真=iStock.com/Klubovy

些細なことで炎上しがちな昨今、ちょっとした悪気のない一言でもピンチを招いてしまう。逆に、周りを上手に動かすことも、言い方次第で可能。その模範的な解答を見てみよう。

■人を傷つけがちな2つのタイプ

「ものすごく傷つくことを言われるんです。僕はどうすればいいのでしょうか」

近年、精神科医の片田珠美さんは、そのような相談を受ける機会が増えたという。

職場や家庭で「おまえは価値のない人間だ」「そんなことも知らないなんてバカじゃないか」と面罵され、それにショックを受けて日常生活にも支障をきたしてしまうのだ。

相手の嫌がる言葉を平気で投げつける人は、主に2つのタイプがあると片田さんは分析する。

「1つは想像力が欠如している人。過去の成功体験や社会的な実績があって、絶対に自分は正しいと信じて疑わない。だから、自分が発した言葉を相手がどう受け止めるのか、どんな感情を抱くのか、想像できないのです。

もう1つのタイプは逆で、自分に自信がない人。たとえば学歴にコンプレックスを抱えていたら、さらに下の学歴の人をバカにして、自分が上だと認識する。自分の価値を相対的に上げるために、相手を貶めようとするんですね」

本当に人が傷つく発言であれば、責められるべきは当然ながら発言する側であるが、受け止める側が問題を抱えていることもあるという。不愉快な言葉を受け流す余裕がないのだ。

「嫌な言い方をされると、自尊心の源である自己愛が傷つき、生きる気力を失ってしまいます。ただ、不快な物言いに対して免疫をつけるためにも、傷つく経験はある程度必要。それが今は自己愛が肥大化している風潮もあって、うまく対処できない人が多いのです」

少子化の影響で親から投影された自己愛を引きずったまま成長する人が年々増えているうえ、SNSで自己愛的イメージを発信できることもあって、根拠のない万能感を抱きやすい。しかも、格差が広がる社会で不公平感や被害者意識が強まっているためか、ちょっとした言い方に過剰反応して、激怒してしまうのだという。

「自分では何気ないつもりで口にした発言でも、部下から『傷ついた。パワハラだ』と非難されようものなら、今はすかさず管理責任を問われます。自分の身を守るためにも、より想像力を働かせて、言い方に気をつけなければいけません」

■鍵を握る神経物質セロトニン

相手を不快な気持ちにさせる言い方は、当然避けるべきだろう。しかし、ただやみくもに相手を褒めちぎればいいわけでもないらしい。

脳科学の研究では、褒められると気分が高揚し、神経伝達物質のセロトニンが増える説が唱えられている。興奮状態に導くノルアドレナリンやドーパミンとは異なり、セロトニンには、心を整える作用があり、不足すると鬱状態になるという。ただし、セロトニンが過剰に分泌されると、人は軽躁状態に。本人はハイな気分で心地よくても、過活動の状態が続いたり、場合によっては浪費したりして、周囲にとっては迷惑なことが多い。

「過剰に褒めちぎれば、人は暴走します。また厳しいことを伝える際、肝心な点に言及せず優しいことだけ言っていても効果はありませんよね。だから目的をはっきりさせたうえでバランスを考えながら、どんな言い方が適切か、常に判断する必要があります」

それでは、どうすれば適切な言い方ができるのか。フレーズの具体例は下の例の通りだが、共通するポイントをおさえていこう。

まずは「具体的な説明を入れること」だ。ただ相手に思いの丈だけをぶつけると、「怒っていた」「嫌そうだった」という感情しか残らず、内容が伝わらないことがある。叱るならどこを直してほしいのか、断るならどの部分ができないのか、具体的に伝える。褒めるときも具体的な指摘が入っていないと「気持ちがこもっていない」「おざなりだ」と、逆に不快な気持ちを与えてしまうことになる。

特に上司が部下に問題点を指摘する際は、感情をぶつけてしまいがちなので、具体的に指摘できるように問題を整理して一呼吸置いたほうがいいだろう。そして、そこに「なぜそうするべきなのか」という理由も添えられれば、納得感はより高まる。

また「時間を置く表現」も意識したい。自分にとって大切なものが否定されたり、要求が断られたりすることは、どうしても自己愛が傷つく。ただしそこで「検討してみます」「今回は難しいですが、次回はぜひお願いします」など、完全に否定するのではなく未来への可能性を残すことで、相手の傷を浅くとどめることができる。

■一番注意すべきは、頭ごなしに言うこと

そして何より重要なのは、「頭ごなしの発言を控える」ことだと、片田さんは指摘する。

「相手が自分の話を聞いてくれていれば、最後に厳しいことを言われても、受け入れることができます。でも、話に耳を傾けてもらえず、いきなり『そんな言い訳は聞くに堪えない』『根本的に意味ないんじゃないですか』と頭ごなしに突き放されると、人格さえも否定された感じを受けてしまう。これが一番いけません」

それを回避する手段として、「質問形式にして尋ねる」のがお勧めである。仕事を催促する際、「まだ終わらないのか!」と声を荒らげれば、その後、一方的に説教が続く展開になるのは想像に難くない。

しかし「例の仕事、いつ終わりそうだ?」「進展はどうなっている?」など、まず返答を求める形ならば、自然な会話が始まる。これならば自分の声を聞き入れてもらえないという強いストレスを与えずに済み、最後に苦言を呈したとしても受け入れられやすくなる。

頭ごなしに発言しないためには、相手のことを慮るのが最善だが、利他的になれないこともあるだろう。特に家族、妻に対してなどは、親しい間柄であるがゆえに感情のままに言いたいこともあるに違いない。

そういう場合は、まず深呼吸して一拍置き「ここで発言したら自分にとって損か得か」を考える。つまり現実原則に沿って考えるわけだ。すると、感情を吐き出して一瞬スッとしても、相手の恨みを買って結果的にマイナスになることに気づくので、踏みとどまって言い方を検討する余地が生まれる。

「そのために使える定番のフレーズを蓄えるのは有効ですが、一番重要なのは想像力を働かせること。視野を広げて、世の中にはいろんな考えがあり、いろんな人がいる、という多様性を受け入れるべきです。そうすれば自分の正しいと思うことを押しつけたり、すぐに相手を否定したりすることがなくなり、相手を不快にさせる発言も減るはずだと思います」

上司、部下、妻……あなたの声掛け、そこが危ない
【褒める】とにかく「具体的」に。なんとなくは逆効果
●上司→●部下
×:いいんじゃない
○:図解がわかりやすいな、次回も楽しみだ
具体的に褒めないと、おざなりな印象に。どこがいいのかを指摘すると「あなたを見ているし、認めている」という情報も発信できる。
●上司→●部下
×:まあ、よかったんじゃないの?
○:あれだけの資料を作れたら、どの部署に行っても通用するよ
相手に完璧を求めすぎると、評価は辛口になりやすい。そこで「60点以上ならOK」の意識を持って、時には大げさに褒めたい。
●同僚→●同僚
×:おまえ、手堅く仕事するよな
○:おまえの仕事が堅実だって、うちのミーティングで話題になったよ
主観的な意見のみだと、おべっかに聞こえることも。他人、それも大勢の評価を伝えて、感想が客観的な評価に近いことをほのめかそう。
●夫→●妻
×:へー。すごいね
○:いいね、色合いがきれいだよね
妻を褒めるとき、つきまとうのが「的外れなのでは?」の不安。たとえ的外れでも、きちんと観察して感想を伝えようとする姿勢は好印象だ。
●部下→●上司
×:やっぱり僕みたいな平社員じゃなくて、課長が行くと話が通りますね
○:課長の話はロジカルだから、すぐ話が通りましたね
役職や属性を褒めるのではなく、行動やセンスに言及を。代わりがいないからこそ「自分が必要なんだ」と自尊心がくすぐられる。
【叱る】まずは相手に喋らせてからが鉄則
●上司→●部下
×:先方からもクレームがきているんだぞ!
○:先方から、連絡があったが、心当たりはあるか?
叱るときは一方的にぶちまけるのではなく、まず現状を把握するための質問を投げたい。話に耳を貸そうとする姿勢に部下は信頼を覚える。
●同僚→●同僚
×:あの日に休み入れたの? それはまずい。終わったな
○:おまえならわかると思うけど、あの日に休み入れるのはまずいと思う
同僚に対しては、尊重する態度を失いがち。批判するときも「~と思う」と、あくまでも個人的な見解であることを示したほうがよい。
●妻→●夫
×:なんでお願いしたこと、すぐ忘れるのよ!
○:この間お願いしたこと、覚えている?
誰しも失敗した事実は受け入れがたい。そこで導入部を質問にすることで、まず事実を認識する気持ちへと誘導できる。
●上司→●部下
×:その言い方してる限り、いつまでたっても契約は取れないぞ
○:その言い方のクセさえ直せば、売り上げはもっと上がるはずだぞ
注意しながらも「さえ」を入れることで、「ほかはいい」という認識が伝わる。改善点を直せば伸びるという期待を感じさせる言い方で。
●夫→●妻
×:うちの女子社員ならそんな間違いしないぞ
○:昔の君だったら、もっと集中して間違えてなかったんじゃない?
他人と比較すると、かなりやる気を失わせるもの。比較対象を相手の“昔”や“未来”にすれば、本人の成長を促すことができる。
●上司→●部下
×:なんで相談しなかったんだよ!
○:一言相談してたら、何かあったときフォローできるんだぞ
失敗をただ責めるのではなく、○は「何かあったら君を守る」という気持ちも伝えている。叱る中にも相手への思いやりを。
【頼む】自分が正しいと思っても、押しつけるのは厳禁
●上司→●部下
×:この案件の課題、まとめておいて
○:この案件の課題まとめておいてもらえると、助かるんだよね
誰かから必要とされているとか、役に立っているという感覚があると、人は動く。「助かる」などのありがたがる表現は、シンプルゆえに強い。
●上司→●部下
×:先方がうるさい人なんだけど、次の担当引き受けてもらえない?
○:先方が君を気に入ってるようなので、次の担当引き受けてもらえない?
×は面倒事を押しつけている感が強い。そこで頼みたい内容から肯定的な要素を抽出し、別の言葉で表現してみる。ものは言いようだ。
●同僚→●同僚
×:この間、俺が残業したんだからおまえが今度やれよ
○:先週残業して、ちょっと遅くなりづらいんだけれど……
「今回は遅くなりづらい」という理由を述べること。同僚に命令するのは角が立つので、困ったから助けを乞うスタンスで。いずれ借りは返すという気持ちが出ればなおよい。
●部下→●上司
×:企画書の書き方、教えてください
○:企画書の書き方、教えてください。聞けるの、先輩しかいないんですよ
上司は部下、先輩は後輩から慕われたら嬉しいもの。さらにほかに代わる存在がいないことを強調されたら、無下には扱えない。
●夫→●妻
×:今日子どもを保育園に送ってもらえないか?
○:時間使わせて申し訳ないんだけど、今日、子どもを保育園に送ってくれない?
「申し訳ないんだけど」という前置きを入れることで、頼みづらいことでも少し言いやすくなる。家庭内では省略しがちなので注意。
●夫→●妻
×:面白いかわからないんだけど、家族旅行あそこに行こうよ
○:相当面白いって話聞いたんだ。家族旅行あそこにしない?
誘う際、下手に出すぎると卑屈に聞こえるので、なるべく前向きな表現で。「もはや決定事項」の独善的なニュアンスを出さないように。
【急かす】イライラする気持ちを抑えて、さりげなく
●上司→●部下
×:今日が納期の仕事、まだなのか?
○:忙しいか? 今日、あの仕事納期だよな
急ぐ気持ちを抑えて、まずは相手の状況を理解する気遣いを見せよう。答え次第で強く急かすか、優しく促すか、調整も可能だ。
●上司→●部下
×:ちゃっちゃと書類出しちゃってよ
○:今書類出しておいたほうが、年度末、絶対楽だから
人に動いてもらいたいとき、「あなたの得になる」と行動の動機づけを与えるのは有効。「ちゃっちゃ」のように雑な印象を与える言葉は避ける。
●上司→●部下
×:早く店に行こうぜ
○:あの周辺よく知らないから、君、案内してくれないか
自分の思惑ばかり誇示していると、相手の自発性は引き出せない。任せる姿勢を見せれば信頼感が伝わり、成果も期待できる。
●部下→●上司
×:打ち上げの場所、まだ決めていないんですか?
○:打ち上げの場所、中華とイタリアン、どちらがいいですか?
決断の遅い上司に、結論を促してもあたふたするだけ。候補を絞ってそこから選んでもらうほうが、スピーディーに事は運ぶ。
●自分→●取引先
×:まだお返事をいただいていなくて、当方困っております
○:この間ご連絡した件、いつ頃お返事をいただけそうですか?
自分が悪いとわかっていても、責められると謝りにくいもの。しかし質問の形で現状を尋ねられれば、返答する際に謝罪や今後の見通しを伝えやすい。
●親→●子
×:さっさとやりなさい!
○:終わったら、一緒にテレビ見ないか?
叱ってもなかなか動かない相手には、ご褒美を与える取引も効果的だ。ただし、もので釣るのが当然の習慣にならないよう気をつけたい。
【断る】なぜ断るのか、理由をできるだけきちんと伝える
●上司→●部下
×:その提案はムリだな。たぶん通らない
○:専務が話を聞く時間がないって言ってるから、今その提案を出しても難しいと思う
否定されると人は不安になる。そして否定された理由がわからないとさらに不安に。ダメ出しをするときは、必ず理由を詳しく伝えよう。
●同僚→●同僚
×:俺の案件じゃないから、やらないんだよ
○:俺では力不足だよ。おまえの知識には敵わない
男が苦手とするのが、同僚の下に自分を置く行為。しかし手に負えない案件の場合、「損して得をとる」と考え、同僚を称えて任せるのも手。
●部下→●上司
×:ちょっと、無理だと思います
○:少し、検討してみてからでいいですか?
「少し考える」「上と相談してみる」など、時間を置くのは断るときの基本。「今これ以上粘ると損するのでは?」という印象も与えられる。
●部下→●上司
×:こんなタイミングで言われても調整利きませんよ~!
○:僕のスケジュール管理が行き届いてなくてすみませんが、今からは引き受けられそうにないです
頼みを断り、さらに「悪いのはそっちだ」と言いたげな口ぶりはトラブルの源。断るときは、建前でもいいからいったん自分の非を認めたい。
●部下→●上司
×:ムリですできません
○:厳しいかもしれないですけど、その案件やりたいスタッフがいないか、聞いてみます
一刀両断で依頼を断ると、関係が壊れる可能性も。そこで代案を出して尽力する姿勢を示すことで、極力ダメージを抑える。
●夫→●妻
×:今日は早く帰るのは無理
○:ごめん、後輩がどうしても相談したいと言っているから、今日は早く帰れない
関係が密接になるほど、理由の説明がないがしろにされがち。優先すべき理由をはっきり話して、必ず謝罪の一言も添えること。
【反論する】相手を負かすのではなく気持ち良くさせる
●同僚→●同僚
×:それだと課長の指示と違うんじゃないか?
○:それも面白いな。でも、こうするともっとコンセプトと合わないか?
いきなり否定から入らず、まず相手を認めるワンクッションを。そのうえでさらに上を目指すことを提案すれば、ダメ出しした印象は軽減する。
●部下→●上司
×:最初に言われたことと違いますが……
○:すみません、何度も申し訳ないのですが、一番のポイントはどこかもう1度教えてください
言うことがすぐ変わる上司は、何が大事か自分でわかっていない場合が多い。そこで確認するように話しかけ、要点を改めて整理させよう。
●自分→●取引先
×:その件は伺っていませんが
○:恐れ入りますが、その件はいつの打ち合わせで出ていたか、確認させていただけますか?
相手に非があったとしても、高圧的に責めれば反発を招く。困っている現状を伝えながら、質問形式で事実を認識してもらうのが賢明だ。
●上司→●部下
×:○○さんって、非常識だよね~
○:それをするのって前の部署では禁止されてなかったか?
「自分は正しい。あなたは間違っている」という態度は、対立を生む。間違いを指摘する際は、組織の規約やルールを根拠にするべし。
●同僚→●同僚
×:そのやり方、根本的に意味ないと思うんだけど
○:そのやり方だとムダになる可能性があるから、もう少し考えてみようよ
きつい否定は自己愛を傷つけるので、「無駄になるかもしれない」といった柔らかい表現に変換。さらに手を差し伸べる意思を示せば万全だ。
●妻→●夫
×:そんな言い訳、話にならないわよ
○:もう少し、詳しく説明してもらえるかしら
相手の意見に耳を閉ざしては、事態は進展しない。腹が立っている相手でも説明を促そう。こちらに有利な情報が手に入る可能性もある。

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片田珠美
精神科医
京都大学非常勤講師。1961年、広島県生まれ。大阪大学医学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学で精神分析を学ぶ。『上手に「自分を守る」技術』など著書多数。

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(プレジデント編集部 鈴木 工 写真=iStock.com)

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