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就活ルール廃止で"通年採用"に移行するか

プレジデントオンライン / 2019年2月15日 9時15分

■もはや形骸化した「紳士協定」

2018年9月3日、経団連の中西宏明会長が、就活ルールの廃止に言及した。現在の大学3年生が対象となる20年4月入社までは現行のルールを継続するが、21年4月入社以降はルール策定に関わらない、という意向である。さまざまな意見が出るなか、経団連によるルールは廃止し、政府と大学がルールをつくり、企業に要請する形で調整がなされる。選考解禁をこれまで通り6月1日とするスケジュールを維持する方針が固まっているが、広報解禁日、ルールの拘束力、破った企業への罰則などがどうなるか、注目されている。

まずは就活ルールの現状を把握しておこう。経団連が加盟企業に対して採用活動の日程などを定めた就活ルールは、さまざまな解禁日が設けられている。募集要項の開示、会社説明会などの広報活動は3月1日から、面接などの選考活動は6月1日から、内定は10月1日から。あくまでも紳士協定であり、加盟企業が守らなかったとしても罰則はなく、経団連に非加盟の中小企業、外資系企業、IT関連を含むベンチャー企業にとっては無関係だ。

策定されたのは、1997年。放っておくと早期化する就活スケジュールを遅らせるべく、これまで内容が何度か変更されてきた(表参照)。16年春入社には、学生の学業集中と留学生の就活という目的で、広報および選考解禁期間を遅らせたところ、採用活動が長期化。混乱を招いて1年で終了した。現行のルールは17年春入社から適用されている。

なぜ、経団連は就活ルールの廃止を望んだのだろうか。そこには「超優秀層の学生を獲得したい」という、大企業の本音がある。

優秀な学生を確保したいと考える企業は、他社に先を越されまいと選考の時期を早める。現在は多くの企業が、3月に入ると学生にエントリーシートの提出を求め、筆記テストを実施するなど、実質的な選考を開始。このため19年春入社の学生では、6月1日時点で全体の7割弱に内定が出ているという結果になった。内定を出す中には経団連に加盟している企業もある。

就活ルールの形骸化にさらなる拍車をかけるのが、学年の制限なく就業体験ができるインターンシップだ。文部科学省は「インターンと採用活動の直結は避けるべき」という見解を示しているものの、企業にしてみれば自社について知ってもらう絶好の機会であり、優秀な学生が来れば当然目をつける。つまり実質的な選考は、インターンシップの段階から始まっているのだ。

一方、就活ルールに縛られない経団連非加盟の大手企業などは12月頃から堂々と選考を開始する。優秀な学生は早々に就職先を決め、3年生のうちに就職活動を終える者も少なくない。

写真=iStock.com/Milatas

このような現況であるため、経団連は「就活ルールを廃止して自由化したほうが、優秀な学生を獲得しやすいのではないか?」という結論に至ったのだろう。また「ルールをつくったのに守らないのはおかしい」など、批判されることにも不満があったに違いない。

就活ルール廃止に関しては、団体によって、賛成、静観、反対という立場に分かれる。廃止に賛成するのは、経団連加盟企業。すでに就活ルールとは関係なく、採用活動を展開している非加盟の大手企業は静観。そして廃止に反対するのが、大学と中小企業である。

大学は、就活ルールが廃止されれば就職活動が早期化・長期化し、学生の本分である学業に影響を与えると懸念する。中小企業が廃止に反対するのは、人材獲得が一層困難になる可能性があるためだ。多くの学生は「できることなら大手、だめなら中小」と考える。ルールが形骸化しているとはいえ、大企業の採用スケジュールの足並みがある程度揃っている現在のような状況なら、中小企業は採用スケジュールを立てやすい。大企業の採用活動が一段落した頃に選考を開始すれば、内定辞退者を最低限に抑えることができ、コストも抑えられる。

■就活が早期化・長期化する可能性は

もし就活ルールが守られないなかで採用活動が行われたら、新卒の就活はどう変わっていくのだろうか。恩恵をもっとも受けるのは、超優秀層の学生と大手企業だろう。学生は就活が自由にできる分、早期から準備し、情報源や人脈をつくって選択肢が広がり、より良い企業を選ぶ機会が増える。彼らを欲しい大手企業にとっても、自由化はいち早く接触するチャンスを増やすことになる。一方、4年生になって動きだし、情報源も人脈もつくれず、内定を取れない学生も現れ、就活は二極化していくだろう。

企業の動向も予測してみよう。就活ルール廃止とあわせて耳にするのが、新卒の一括採用を取りやめ、通年採用に移行していくという説だ。はたして本当なのだろうか。

企業が在学中の学生を一定期間にまとめて採用する一括採用に対し、企業が一年を通して、必要とする時期に採用するのが通年採用である。無駄のない採用計画が立てられ、ミスマッチを妨げるメリットがあり、最近はファーストリテイリング、楽天、ソフトバンク、リクルートなど、日本でも通年採用の企業が増えた。

それに対し、一括採用は日本と韓国で行われている世界的には珍しい手法で、景気の影響を受けやすく、ミスマッチも起こりやすいなどのデメリットがある。しかし、一年中、採用にコストを費やすのは難しく、平均的な人材を1度に何百人、何千人と採用したい企業にとって、一括採用は効率がいい。就活ルール廃止以降も、新卒の一括採用がなくなることはないだろう。

また、ルールが守られないことによる就活の早期化・長期化も懸念されているが、その可能性は低いと私は見ている。なぜなら、あまりに早く内定を出したとしても、学生の入社意志を長期にわたってつなぎ止めるのは難しいからだ。1年生の段階で内定をもらった学生が、もし本命企業の選考が4年生時にあれば必ず受けるし、採用された暁には内定を辞退するだろう。その間、学生の教育に力を入れていれば、その労力も水泡に帰す。早く動きすぎるのも、コストがかかり、リスクを伴うのである。

これらの要素を考えると、大企業は優秀な学生を確保するため、通年採用という窓口を限定的に設け、今は経団連非加盟企業などが中心に動いている12月から翌年の2月あたりにかけて採用。そして一般的な学生を採用・育成する一括採用も残し、4月前後で選考活動を実施するのではないだろうか。

そして経団連がルールの廃止を決め、その代わりに、学生が困らないよう政府と大学がルールを決めることになった。ある一定の枠組みはつくられそうなので、採用スケジュールが企業によってまちまちになり、超長期化するような混乱は起きないものと思われる。

■学生の人気企業も二極化していく

このように選考活動が早期化するのは考えにくいが、企業の広報活動は大学1年生や2年生を対象に、超早期化するはずだ。企業が優秀な学生を獲得するための第一歩は、自社を学生に認知してもらうことだからである。

最近では、採用過程の透明性をアピールする企業もある。グーグルは18年、「グーグル・リワーク」というサイトを立ち上げ、そこに自社の採用方針や基準を掲載した。不透明で、本音と建前のある選考過程に不満を抱いている学生は多く、このようなオープンさは誠実な印象を与え、企業のプラスイメージにつながる。

採用活動における広報、魅力付け、差別化ができる企業に学生はどんどん惹かれていき、それができない企業はそっぽを向かれる。前述したように、ルールが守られない自由化した環境では、学生が二極化していくだろう。そして同様に企業もふるいにかけられ、二極化するのではないだろうか。

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谷出正直(たにで・まさなお)
採用アナリスト
1979年、奈良県生まれ。エン・ジャパンで、新卒採用支援事業に約11年間携わる。2016年に独立し、新卒採用のコンサルティング、アナリストとして活動。大学や学生向けのセミナーも行う。

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(採用アナリスト 谷出 正直 構成=山田由佳 写真=iStock.com)

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