日曜の夜が憂鬱なら靴と財布を買うべきだ
プレジデントオンライン / 2018年12月17日 9時15分
※本稿は、小林弘幸『自律神経を整える「わがまま」健康法』(角川新書)の一部を再編集したものです。
■みんなもっと「わがまま」に生きていい
「もっとわがままに生きていい」
そんなことを言われると、なんだかとても気分が楽になって、心がふと軽くなるような気がしますよね。少しでもそのように感じた人は、ふだんなにかしら自分の気持ちを抑えて、毎日を我慢して生きているのかもしれません。
もちろん、責任ある大人として社会で生きていくためには、多かれ少なかれ我慢すべきことはあるかと思います。ただ問題は、そうした場面が「ちょっと多過ぎるんじゃないか?」ということ。それこそが、みなさんが日々感じている実感に近いのではないでしょうか。
「絶え間ないプレッシャーにさらされて、日曜の夜になると憂鬱な気分になる」
「毎日必死でがんばっているのに、気づいたら1年があっという間に過ぎ去って、どんどん年を重ねる自分に焦ってしまう……」
もし、あなたがそんなことを感じていたら、それは重要視すべき体からのSOS。これを機に、いまこそあなたの大切な体をいたわるべきときです。しかし、体が悲鳴をあげているにもかかわらず、なかなか「わがまま」になれない人が大半かもしれません。いったいなぜでしょうか?
■固定観念に縛られすぎている
わたしが思うには、それはおそらく「固定観念」にとらわれているから。「~しなきゃいけない」「~でないといけない」「~であるべきだ」などと、長年所属している社会や組織におけるルールや暗黙の了解、また、常識といったものにとらわれ過ぎてしまっているせいなのです。
もちろん、人はひとりで生きられない以上、社会や所属する組織の決まりごとを守ることは大切なこと。さもなければ、人とのつながりが希薄になって、結果的にむき出しの個人としてますます激しいストレスにさらされることになりかねません。
ただ、問題は、先に書いた固定観念に「縛られ過ぎている」ことなのでしょう。
■なぜ「わがまま」に生きられないのか
多くの人は、「わがまま」に生きてみたいと思っているし、そんな「自由」が大切なこともよくわかっているはずです。でも、なかなかそれを実行に移すことは難しい。そこにはふたつの理由があります。
ひとつは、それまでの自分が育ってきた環境や、生きてきた経験によるもの。ここには日本人特有の考え方や、いわゆるタテ社会の圧力のようなものも含まれるでしょう。要は、まわりが「わがまま」に生きていない環境においては、幼いころから自然とまわりに合わせて我慢する生き方が刷り込まれてしまっていることです。
そして、ふたつめの理由は、「わがまま」に生きることが未知の世界に見えてしまうこと。つまり、これまでとちがう道を選ぶことを怖く感じてしまうわけですね。これまで決められたことを決められたようにやる社会や組織のなかで生きてきたなら、嫌なことがあってもその道でがんばることがあたりまえになっていて、ちがう行動をすることに二の足を踏んでしまうのだと思います。
つまり、みんな「わがまま」に生きてみたいけれど、それはなかなか難しい。そんな袋小路を前にして、日々のプレッシャーと戦いながら、強いストレスにさらされている人が、いまの時代にはとても増えているのではないでしょうか。
■「わがまま」になればストレスから解放される
「わがまま」に生きられないからストレスがたまるのなら、ストレスフリーの状態であるのは、「わがまま」が上手に出せているときということになります。
ストレスは万病の元――。つまり、「わがまま」に生きることができれば、気が楽になって心が救われるのはもちろんのこと、あなたの大切な体も健康な状態になっていきます。
ただ、ちょっと注意したいのは、人には「わがまま」にできる部分と、「わがまま」に振る舞ってはいけない部分があるということ。当然のことですが、公共の場でマナーを無視して好き放題に振る舞ったり、相手の意見も聞かずに自分の考えを部下に押しつけたりするのはただの無神経な行動で、ここでいう「わがまま」ではありません。
「わがまま」と聞くと悪いイメージがあるかもしれませんが、それこそ「我が道を行く」という意味での「わがまま=我がまま」と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
言い換えれば、「わがまま」というのは、自分なりに1本の軸が通っているかどうか。その「わがまま」を通す理由が自分でわかっていなければ、「あいつはとんでもない奴だ」とも言われかねません。
「わがまま」であることは、それこそ「あなた自身」であるということなのです。話すことや考えていること、行動すること、それらすべてに自分なりの一貫性や信念があることが、ただの「わがまま」な人との大きなちがいになるのだと思います。
■組織のなかでも「わがまま」になれる
典型的な組織人間の自分は強い制約がある組織のなかで、他人に迷惑をかけることなくどのように振る舞えばいいのか? どうすれば、束縛があるなかでも幸せを感じて生きていくことができるのか?
そんなことをずっと自分なりに考えてきて、「わがまま」に生きるということに行き着いたのですが、その手段のひとつが、より多くの読者に向けて本を書くことでもあったのです。
本を書くことで、自分の経験と知識を患者さんだけでなく、より多くの人に届けることができる。それによってたくさんの人を健康にしたり、助けたりすることができるかもしれない。そんな行動をあえて大学病院という組織に所属しながらやり続けることで、組織と「わがまま」の両立を目指しました。
でも、はっきりと断言することができます。組織や社会のなかで、さまざまな制約に囲まれていても、もっと「わがまま」に生きることは誰にでもできます。毎日を楽な気持ちでより充実感を得て生きることは、やり方さえわかれば誰にでも可能です。
そして、つねに強い制約やプレッシャーにさらされて長年働いてきたからこそ、わたしが見出したさまざまな方法が、少しはみなさんの役に立つと信じているのです。
■結婚しないことで自由に生きているのかもしれない
いま男女ともに、結婚しない人が増えています。婚姻件数は右肩下がりで推移しており、内閣府の15年の調査によると、「30~34歳」では男性はおよそふたりにひとり(47.1%)、女性はおよそ3人にひとり(34.6%)が未婚で、「35~39歳」では男性はおよそ3人にひとり(35.0%)、女性はおよそ4人にひとり(23.9%)が未婚となっています。
わたしはこのデータを見たときにこんなことを感じました。
「結婚しないことで自由に生きる手段を得ているのかもしれない」
結婚生活は「束縛」だと言っているのではありません。ここでいう自由は、もちろん「わがまま」とも言い換えられるでしょう。みんなやはり本心では、「わがまま」に生きたいと思っていて、別に結婚に限らずとも、ほかにも似たような現象は世の中にたくさんありそうです。
■自分の「わがまま」を見失っていないか
たとえば、スマートフォンやSNSに依存してしまう問題。これも人によってたくさんの理由がありますが、なにかと束縛や制約がある人生のなかで、その空間だけでは「わがまま」に生きられるという感覚がどこかにあるのではないでしょうか?
でも、一方でこうも考えられます。
「自由に生きられるのかもしれないけど、それって本当の自由なの?」
たしかに、自由や「わがまま」は人それぞれ。スマートフォンやSNSに夢中になっているのが自由かと問われれば、やはり首をひねってしまう側面もあります。
つまり、なにが正しくてなにがまちがっているのか、自分にとってなにが本当の自由であり、「わがまま」なのかというのは、みんな案外見失っている部分があるのではないでしょうか。そうしたことは自分で意識して探していかないと、なかなか見つからないのでは? という気がしています。
■縛られた環境でも「わがまま」は貫ける
ほとんどの人は会社や組織を通して仕事をするため、みんなが自由な世界に生きられているかといえば、表面的に見ればそんなことはないはず。最近は、比較的自由な勤務体系や雰囲気のなかで働ける会社も増えていますが、誰もがそうした環境で働いているわけでもないですからね。
では、自分はなにをもってして「わがまま」に生きるのか? そこを自分なりにつかまえた人とそうでない人とでは、これからの時代、わたしは人生の充実度がかなり変わるのではないかと見ています。そのためにもいま大切になる考え方が、いかに縛られた環境でも自分なりの「わがまま」を貫いて生きるかということ。
そして、それは誰にでも可能だとわたしは考えています。
■まずは「財布」と「靴」にこだわる
では、いろいろな制約がある日常のなかで、どのようにして自分なりの「わがまま」を出していけばいいのでしょう。ここで、本書で提案するもっとも大切な考え方、アプローチ方法をお伝えします。
![](https://president.jp/mwimgs/8/e/-/img_8ee50db8a5d71015ec53a373749893f1128198.jpg)
それは、「身のまわりの小さいことからはじめる」ということ。自分が所属する組織や社会に対して、いきなり「わがまま」を出して生きていこうと思っても、社会というものは人間関係で成り立っているため、「わがまま」を出された相手のほうが戸惑うこともあるでしょう。そこで、まずは社会や組織、他者ではなく、自分に対して「わがまま」になればいいのです。
たとえば、「朝は4時に起きる」と決めてみる。家族が寝ていようとも、なにをしていようとも、自分は必ず4時に起きる。これって立派な「わがまま」です。要は、誰にも迷惑をかけないところから、自分なりに「わがまま」になっていけばいいのです。まずは身のまわりの小さなこだわりや決めごとをつくって、自分の型をつくっていくことからはじめてみましょう。
人間が感じるストレスは、そのほとんどが人間関係におけるストレスです。そこで、まずはそれ以外のわずかなストレスをなくしていくのが取っ掛かりになります。
それこそ、自分の持ち物に対して「わがまま」になっていくのもいいかもしれませんよ。いつも使う財布にこだわったり、仕事で履く靴にこだわったり。たとえ小さな「わがまま」でも、それをこだわって貫いていけば、思いのほか気分が軽くなっていくのを感じることができるはずです。
そして、身のまわりの小さな「わがまま」を出していくことに慣れたときにはじめて、「つきあいの飲み会にはいかない」「無駄な会議には出ない」というように、他者や組織に「わがまま」を広げていくイメージを持つといいと思います。とにかく少しずつ、ゆっくりやっていくことがポイントです。
■小さなこだわりで自分を振り返る
身のまわりに、小さなこだわりや決めごとをつくっていくと、やがて大切な気づきも増えていきます。
「これって本当に必要なのだろうか?」
「ずっと習慣でやっていたけど、やらなくてもよかったのかな?」
このように、こだわりや決めごとをつくっていくと、あらためて自分を振り返ることになります。その結果、自然と無駄を省いていく方向へ進んでいければしめたもの。一つひとつは小さなことでも、人生のなかで我慢してやっていたことがどんどん減っていき、ストレスがなくなることで自律神経が整っていきます。そして、あなたの心身の健康が変わり、思考が変わり、やがて人生が変わっていくことにつながっていくのです。
変えられないことで悩むのではなく、簡単に変えられることからすぐに変えていけばいい。そんな小さな「わがまま」にこだわり続けることで、あなたの新しい人生が動いていくのです。
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順天堂大学医学部教授
日本スポーツ協会公認スポーツドクター。順天堂大学大学院医学研究科(小児外科)博士課程修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科学講師・助教授を歴任。現職に至る。日本初の「便秘外来」を開設。自律神経研究の第一人者として、数多くのトップアスリートやアーティストも指導する。著書に『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク文庫)、『自律神経を整える「あきらめる」健康法』(角川新書)など多数。
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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸 写真=iStock.com)
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