日産に来る「次のゴーン」はもっと厄介だ
プレジデントオンライン / 2018年12月11日 15時15分
■衝撃的なクーデターを2つに分けて考える
ルノーや日産、三菱自動車のトップだったカルロス・ゴーン氏の逮捕に衝撃を受けた方は少なくないと思います。私もその一人です。危機にあった日産を立て直し、名経営者の名をほしいままにした人物ですから、そのインパクトは特別でした。
私は、この事件を大きく2つに分けて考えなければならないと思っています。
ひとつは、カルロス・ゴーン氏自身の犯罪の問題。もうひとつは、日産や三菱自動車とルノーの今後の関係です。前者は世界的な経営者に関わることですので、マスコミの注目度が高いですが、私は後者のほうが重要だと思っています。
報道をみる限り、日産のルノー支配に対する反発が、ゴーン氏への「クーデター」を起こしたことは間違いないようです。しかし、だからと言って、ルノーの日産への支配が緩むかというと私は決してそうはならないだろうと思っています。クーデターを起こしたものの、結果的に日産で働く人や、日産の株主のためにならないのではないかと懸念しているのです。
■ゴーン氏の犯罪の立証は困難が予想される
まず、ゴーン氏の犯罪について見てみましょう。ポイントは3つあります。
ひとつは、自身の給与を少なく有価証券報告書に記載していたという容疑です。退職後にもらう予定だった分を有価総研報告書に記載していなかったのです。一義的には有価証券報告書の虚偽記載の責任は法人である日産やそれを実際に行った人にありますが、ゴーン氏や側近が指示していたということのようです。
退職後にもらう予定の金額を記載しないことが虚偽記載になるかどうか、そして、それをゴーン氏が指示していたかどうかということが争点になります。報道によれば、有価証券報告書についての主務官庁である金融庁にゴーン氏側は記載の必要性について確認していたということですが、そのあたりのことも含めて、立件できるかどうかが争点です。
ゴーン氏側は、元東京地検特捜部長を弁護人としました。地検特捜部の手の内を知り尽くした弁護人と地検特捜部との対決となるわけですが、今後の成り行きが注目点です。
2つ目は、ゴーン氏の出身地のブラジルや国籍を持つレバノンなどに豪華マンションを買わせていたということです。オランダに設立した法人に対して60億円出資させていたというものです。これが背任行為にあたるかどうかは微妙だと私は思っています。日産はそのオランダ法人に直接あるいは子会社を通じて出資したわけです。それ自体、違法性はないでしょう。そして、そのオランダ法人が、レバノンやブラジルに高級マンションを買ったわけです。出資金という資産が、マンションという資産に変わっただけの話です。
もちろん、そのマンションをゴーン氏が私的に使用していたことは、経営者として倫理的には当然非難されるべきことですが、背任行為を立件できるかどうかは微妙なところです。また、オランダ法人の行為に対して、特捜部の捜査がどこまでできるのか、さらには裁判管轄の問題もあると思います。このことは、ゴーン氏の姉へのアドバイザリー契約についても同様の懸念があります。
■欧米では、仕事に夫人を帯同するのは普通
そして、3つ目は、家族旅行などに会社の経費を使っていたということです。これも、仕事に関係することなら、使い過ぎは問題となりますが、犯罪とまで言えるかどうかは不明です。欧米では、仕事に夫人を帯同するのは普通です。子供が小さい場合などには子供も連れていくこともあります。家族旅行で1000万円の費用と報道されていましたが、JALなどで欧州をファーストクラスで往復すれば、ひとり150万円程度はかかりますから、法外な金額ではないと考えられます。プライベートジェットを使えばさらに費用はかかります。
また、ゴーン氏は役員就任時に、基本的な契約を日産と結んでいると思いますが、もしその中に家族帯同などのことが契約条件に入っていれば、犯罪として立証するのは難しいと思われます。
いずれにしても、これらに対しては、ゴーン氏側は今のところ罪状を否認しており、法廷で真実が明かされることになると思います。
■「クーデター」を起こした日産の行く末が心配
問題は日産の行く末です。日産としては、内部告発をきっかけに、ゴーン氏側には全く内緒で、東京地検に捜査協力をし、ゴーン氏を羽田空港でいきなり逮捕という「クーデター」を起こしたわけです。ゴーン氏は東京地検からの説明を受けるために1時間ほど飛行機の中で話を聞いたとされますが、そこからしても、事前に一連の動きについては一切知らなかったと言えるでしょう。まさにクーデターです。
この手の事件の場合、通常は、まず当事者に社内で話を聞くということをするでしょうが、いきなり地検に逮捕させるというのは、よほど腹に据えかねていたことがあるとともに、ゴーン氏をとても恐れていたとも言えるのではないでしょうか。
私は、上場企業を含めて6社の社外取締役や社外監査役をしていますが、通常であれば、内部告発があった時点で、その話が社長に報告され、さらには、当事者は別として、社外役員などに報告がなされ、場合によっては対応策についての相談や協議があることも少なくないと思います。ただ、今回の場合は、おそらく社長と一部の役員のみの判断で、情報を東京地検に流し、逮捕に踏み切らせたのではないかと考えられます。
■ルノーの「日産支配」が緩むことはない
しかし、いずれにしても、このことにより、ルノーは日産への支配を緩めることはないでしょう。ルノーは現状、日産の43.7%の株式を所有し、そのルノーの15%の株式をフランス政府が保有しています。日産からの配当がルノーの利益の半分程度を占める中で、ルノーが虎の子の日産やその傘下にある三菱自動車を手放す、あるいはコントロールを緩めるとはとても考えられません。
むしろ、フランス政府やルノーとしては3社の「扇のかなめ」のゴーン氏を失ったわけですから、他の手段、例えば日産株の買い増しなどに出る可能性があります。場合によっては、「ゴーン氏よりもっとすごい経営者が来る」ということにもなりかねません。
もちろん、日産側としては、「不正」を起こしたゴーン氏がルノーから派遣された人であることと、先ほども触れたように、日産の利益的な貢献の大きさを強調することで、ルノーと日産の関係を、より日産に有利なように持ってこようという思惑はあります。
しかし、一時的にそれが認められたとしても、長期的にそれが認められるということは考えにくいと思います。
フランス政府やルノーとしては、日産の技術が欲しいということもありますが、欧州、とくにフランスに日産の生産拠点を持ってきてほしいのです。EV化を進めたいフランス政府としては技術移転とともに、雇用まで創出することができるからです。
■日産にはルノーを含む株主や顧客視点が全くない
日産としては、3社やフランス政府との関係でキーパソンだったゴーン氏の「不正」の尻尾をつかんだわけですから、不明瞭な金額は会社に戻させることで内部的に解決し、その代わりにルノーやフランス政府との関係を自社に有利なようにもってこさせるという作戦もあったはずです。
しかし、ゴーン憎し、ゴーン怖しという感情が先に立ってしまったのでしょうか。下手をすれば、日産のために起こしたクーデターが、結局は自分たちのためにならなかったということにもなりかねないでしょう。
今回の日産のクーデターで、経営コンサルタントとしてもうひとつ問題だと思っているのは、顧客視点が全くないことです。ルノーの支配から逃れたい一心で起こしたことでしょうが、日産側の自分たちの都合しか感じられません。
日産の株主、といっても半数近くがルノーですが、その視点も感じられません。従来ながらの日産の内部指向、つまり、自分たちの言い分を優先しているような気がします。逮捕直後の社長の会見を見ていても、被害者意識が前面に強く出たもので、顧客や株主の中には違和感を抱いた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
さらには、日産側の現経営陣の法的責任や管理責任を問われる可能性もあり、今後の展開は予断を許さないところです。
(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=Abaca/アフロ、iStock.com)
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