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橋下徹"東京と大阪に共通する失敗の法則"

プレジデントオンライン / 2018年12月19日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/aduchinootonosama)

2008年、「湾岸再生」を掲げた橋下徹大阪府知事は、財政再建下の新庁舎建設を断念し、大阪市が開発に失敗した湾岸のWTCビルを府庁舎として購入する、という仰天プランを打ち出した。しかし府議会からの際限のない問題点指摘を受けて、当初案はいったん否決となる。東京都の築地市場豊洲移転問題とも共通する「失敗の法則」を、いま、橋下氏が振り返る。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(12月18日配信)から抜粋記事をお届けします――。

(略)

■新庁舎建設はありえない! そこで浮上した「WTCビル買収案」

大阪城のすぐ横にある現大阪府庁舎は大正15年に建てられたもので、よく言えば重厚な歴史的建造物。しかし実態はボロボロで行政事務をやるには非常に非効率。ゆえに大阪府庁職員はもちろんのこと、大阪府議会議員も新庁舎の建設を心待ちにしていた。土地も大阪城周辺に十分に確保していて、あの東京都庁舎に対抗しようとしたのか、黒川紀章さんに、新・大阪府庁舎を中心とする街づくりデザインを依頼していて、既にそれはできあがっていたようだ。

(略)

ところがそれに強烈に待ったをかけていたのが、当時、自民党の若手府議会議員、今は大阪府知事、日本維新の会代表の松井一郎さん一派だった。大阪府の財政状況からして、そんな立派な庁舎を建てるのは許さない! とやっていたんだよね。自民党重鎮たちからは疎まれていた。

そんな状況の中、僕が知事に就任し、財政改革、行政改革の旗を振った。府民への補助金まで切り倒したんだから、当然、大阪府庁舎の新建設なんてあり得ない。当時、職員から色々数字を聞いたけど、当初の計画通り作ったら1000億円以上の建設費になるって言われた。

僕は「新庁舎の建設は凍結」と号令をかけた。落胆した職員や府議会議員は多かったと思う。

(略)

そこで僕は、大阪湾岸部に大阪市が建てたWTCビルに目を付けたんだ。このWTCビルは、地上55階建てで高さ256メートル。あべのハルカスができるまでは西日本で一番高いビルだった。建設費は約1200億円と、ほんとバブリーなビルだよ。1階から3階くらいまでは巨大な吹き抜けに商業施設が併設。最上階には展望台もあるし、報道では大阪市職員用の豪華なラウンジまで備えられていたというニュースも流れていた。

大阪市の大阪湾岸未来都市構想(テクノポート構想)の一環として、貿易センタービルにするつもりだったんだけど、みごと破綻。テナントも付かず、破たん処理が行われていた。

このときに、僕はこのWTCビルを大阪府が買うことを考えた。このバブリーなビルの価格の見立ては100億円を切るというものだったからね。

1000億円以上はかかるだろうと言われていた大阪府庁舎の建て替え問題と大阪湾岸部の埋立地の再生問題を解決し、そして大阪府が大阪市の巨額破たん処理をサポートするという意義のある大阪府によるWTCビルの購入。こういう発想は役人からは絶対に出てこない。まさに政治にしかできない発想だ。

(略)

2009年が明け、WTCビルを購入し、そこを大阪府庁舎にするという議案を大阪府議会に提出した。当然議会の反対派からは猛批判を食らった。WTCビル購入議案について山ほどの問題点の指摘を受けた。それらについては、府庁内においてほぼ検討済みで、対応策まで考えていたけど、議会は納得しない。

確かに、議会が指摘するいくつかの点については対応策を講じていなかった。それは検討をしていなかったからではなく、検討をした上で対応策は不要と考えたからだ。もちろん、そのような対策は不要という僕の説明の仕方に粗さがあったのかもしれないが、しかし政策を実行する責任を負わない側は、新しい案の問題点を指摘するだけで仕事が務まる。楽なもんだよ。

(略)

■新しい案の問題点をどこまでクリアすべきかの相互理解が進まなかった

新しい案を議論する際には、「どこまで新しい案の問題点をクリアしなければならないか」、そして「クリアすべき問題点をクリアしたのなら、次は新しい案と現状の比較、または新しい案と他案との比較によって、新しい案の問題点をどこまで許容すべきなのか」について議論当事者が相互に理解しなければならない。

この議論当事者の相互理解が欠如したことによる失敗の典型例は、東京都の築地市場の豊洲移転問題である。

築地市場は老朽化して、何らかの対応が必要であったことは間違いがない。ここは大阪府庁舎問題と同じだ。そこで東京都庁は築地市場の移転先を色々と検討したが、結局まとまった土地は、東京ガスの火力発電所があった豊洲にしかなかった。しかし豊洲は土壌汚染のリスクがある。他方、築地における現地建て替え案は、専門家によって時間をかけて色々な案を検討したが、結局現地建て替えは不可という結論になった。

ここで東京都議会において、豊洲の土壌汚染を完全になくす方策が議論された。都議会は、築地市場をなんとかする責任を負わないので、豊洲の土壌汚染を指摘すればいいだけの立場。都民に受けのいい、汚染の完全除去だけを叫び続ければよく、楽で無責任な立場だ。そしてお金を用意する責任もないがゆえに、どんどん過剰要求になっていく。

「都民の安全・安心」というフレーズは、絶対的な力を持つが、重要なのはどこまでの安全・安心を確保するかである。このラインを決めるのが政治の役割だ。法律上の安全ラインでいいのか、それに上乗せをするのか、上乗せをするのならどこまでか。

豊洲は法律上の安全ラインは満たしていたのに、議会はそれでは納得しない。完全なる安全・安心というものを求めて、土壌汚染対策が底なしの青天井になっていく。費用も莫大にかかるが、議会はお金を用意する責任を負わないので、そこまでの対策をやる意味や、本当にその対策を実行できるのかについての吟味が疎かになっていく。

挙句のはてが、豊洲の地下水など飲みもしないのに、地下水にも飲料水と同じ基準を求め、市場建物内で生活することもないのに、365日市場建物内で生活することを前提とした大気基準を満たすことを要求する。法律上は、土壌表面をコンクリートで覆えば安全基準を満たすのに、莫大な費用をかけて豊洲の土を全て洗浄ないしは入れ替えをする。そこまでやっても有害物質を完全に除去することなど困難なことであるにもかかわらず、それを絶対的な目標としてしまう。完全無欠な安全・安心を求めてしまったのだ。そしてその完全無欠な安全・安心を満たしていないとして大騒ぎする。

他方、築地の方は、耐震基準も満たさず、雨水漏れや大量のねずみ棲息などの衛生問題が存在し、地下水については豊洲同様、飲料水の基準を満たしていなかった。市場建物内の大気については、豊洲のそれよりも有害物質が入っている。しかしそちらは全く問題視しない。

特に日本人は、新しいものへの不安にはヒステリックになるにもかかわらず、既存のものへの不安には著しく寛容になる傾向がある。既存のものと新しいものを比較するという比較優位の思考が弱い。

クリアしなければならない問題点をクリアすれば、次は比較優位の議論に徹すべきだ。築地市場の豊洲移転問題においては、豊洲が法律上の安全基準をクリアすれば、次は豊洲と築地を比較するという議論が必要だった。豊洲の方がましなのであれば、その限りにおいて豊洲の問題点は許容しなければならない。すなわち、目をつぶらなければならないんだ。それができなかったがゆえに、豊洲移転問題は混迷に混迷を重ねてしまった。

(略)

大阪府議会においても同様で、反対派からはWTCビルの購入案についての問題点ばかりを指摘され、では今の大阪府庁舎はどうするのか、大阪湾岸部の活性化はどうするのか、についての議論は全くなされなかった。WTCビルの購入案と、今の大阪府庁舎と今の大阪湾岸部のままの状況を比較し、WTCビルの問題点をどこまで許容すべきか、どこまで目をつぶるのかの議論がまったくなかった。

(略)

(ここまでリード文を除き約3000字、メールマガジン全文は約1万1000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.132(12月18日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【決定!大阪万博(2)】これが知られざる「万博誘致」前史! 「WTCビル買収」の波乱万丈》特集です。

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)

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