紀元前624年オリーブで大儲けした哲学者

プレジデントオンライン / 2018年12月24日 11時15分

写真=iStock.com/selimaksan

不確実な時代に必要なのは、問いを解く力ではなく、問いを立てる力だ。その力を得るには「哲学」が大きな助けになる。いまこそ偉大な哲学者たちの知恵を借りよう。今回、哲学史を4つのカテゴリにわけて解説する。第1回は「西洋哲学 古代編」だ――。

※本稿は、「プレジデント」(2016年12月5日号)の掲載記事を再編集したものです。

高校の授業で耳にしたことがある哲学者の名前。試験対策で代表的な著書名くらいは覚えたけれど、その内容や歴史的意味となるとチンプンカンプン。小難しいし、役に立ちそうもないし、とっつきにくい。そんな西洋哲学の流れを古書店主の日比野敦さんに聞いた。

――欧米のビジネスシーンでは、哲学は教養として求められているそうです。

例えば、ピケティが『21世紀の資本』でも扱った格差問題。これは紀元前からの問題で、プラトンも「諸悪の根源は不平等にあり」と言っていますし、アリストテレスも格差が原因で反乱が起きることをすごく警戒している。今も昔も同じ問題を抱えているのです。

古代ギリシャの時代の哲学者は、「世界」についてひたすら考えました。〈万物の根源は水である〉〈万物の根源は数である〉とかは聞いたことがあるでしょう?〈万物は流転する〉と言ったのがヘラクレイトス。自然界は絶えず変化するということですね。赤ん坊が生まれ、成長して大人になり、老人になり、死ぬ。でも、同時代のパルメニデスは、そんなことはない。リンゴはどんなに細かく切ってもミカンではなくリンゴ。〈万物は不変である〉と言っています。どちらが正しいと思いますか?

――どちらも正しいような。

では、モノは何からできていますか?

――原子ですよね?

最新の科学理論では、正確には原子ではないのですが、でも、紀元前460年頃に生まれたデモクリトスは、どこまでも細かくしていくと、分割不可能な単位になるのではないかと考え〈万物の根源は原子である〉と言っています。

――顕微鏡もない時代に、思考だけで到達するってすごいですね。

ビジネスの話題だと、信用取引を発明したのは、紀元前624年頃に生まれたタレスだと言われています。哲学者は科学者でもあったので、オリーブの豊作を予想して、収穫前に搾油機を全部仮押さえして、大儲けしたそうです。

――哲学者は金に縁がないとばかり思っていました。

先ほどのヘラクレイトスが〈戦いは万物の父である〉と言っているように、西洋哲学の歴史は知の格闘史でもあります。ソフィストは知恵のあるものという意味ですが、古代ギリシャでは、政治家に選挙用の弁論術を教えるのが生業でした。ソクラテスは口先だけのソフィストを論破したと習ったと思いますが、プロタゴラスが〈人間は万物の尺度である〉と言ったように、当時は、絶対的な真理などない。価値観は人それぞれであるという相対主義が主流でした。

――価値観の多様性って、ずいぶん現代的ですね。

今日の気温を暑いと思う人もいれば、寒いと感じる人もいるように、価値の尺度がバラバラだから相反する議論も成立するわけです。いかに黒を白と言いくるめ、相手を言い負かすかが勝負。大衆の好みそうな「国益のため、幸福のために大改革を!」とアジテーションがうまく、演出が上手な政治家が勝つわけです。衆愚政治ですね。

――これも現代的だ。

そこへソクラテスが登場し「何も知らないから教えて」と質問し、相手に生じた矛盾をついて、ソフィストを次々に言い負かしたのです。自然って何? 人間って何? 魂って何? 真理は相対的なものではなく、絶対的真理と言える理想があるはずだと信じ、知の限界を見極めたかったのでしょう。

その真摯な姿勢は多くの若者の支持を得ますが、公衆の面前で恥をかかされた者たちの恨みをかって、死刑。真理への熱い思いは弟子たちに受け継がれます。

一番弟子はレスリングのチャンピオンでもあったプラトン。彼は「イデア(1)」という真理の世界があると考えました。例えば三角形。現実には、幾何学的に正確な三角形は存在しないのに、人間が考えることができるのはなぜか。純粋な三角形はイデア界に存在していて、我々はそのイデア界を見ているからだというわけです。同じようにイデア界には厳密で純粋な美、正義、国家など究極の理想も存在する。

このイデアを学びとった者が王となり、国を統治すべきだというのがプラトンの唱えた「哲人政治」です。ソクラテスという師匠を死刑に追いやった民主政治への不信、反動かもしれません。

そのための教育機関としてアカデメイア(2)をつくり、そこで学んだのがアリストテレス(3)です。ですが、彼はプラトンのややこしいイデア論を批判しました。むしろ、現実にあるものをよく観察し、その特徴を整理することで真理が見えてくるはずだ、と考えたのです。

――恩師に逆らうとは。

真理探究のためです。実際、弟子たちを引き連れて、年寄りはさっさと引退しろとプラトンの家に押しかけたそうです。で、彼もリュケイオン(2)という学校をつくり、天文学、動物学、植物学、地学などの学問をスタートさせています。

▼用語解説
(1)実在するとプラトンは考えていた。イデアが存在する永遠不滅の世界をイデア界、私たちが住む絶えず変化する世界を現象界とした。
(2)アカデメイアもリュケイオンもユスティニアヌス帝により、異教であるとされ、529年に閉鎖された。
(3)アリストテレスはマケドニアの生まれ。アレキサンドロス大王の家庭教師も務めた。大王の没後、ギリシャでは反マケドニアの機運が高まり、アリストテレスは裁判に召還される。しかし、師匠筋にあたるソクラテスとは違い逃亡をする。そして逃亡先で病に倒れた(諸説あり)。

(フリー編集者 遠藤 成 構成=遠藤 成 写真=iStock.com)

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