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「睡眠薬」と「睡眠改善薬」は全く別物だ

プレジデントオンライン / 2019年1月18日 9時15分

PIXTA=写真

寝酒は“百害あって一利なし”。眠れないときに頼りになるのが睡眠薬。使い方を間違えれば効果が薄れるばかりか体調を崩しかねないが、正しい知識をもち、必要なときに適切に使うことで、不眠は解消できる。

■不眠のタイプで、効果に個人差あり

なかなか寝つけない、眠りが浅く次の日にまだ疲れが残っているなど、不眠に悩む人は少なくない。そんな「眠れない人」にとって医師が処方する睡眠薬の服用もひとつの方法だ。

睡眠薬というと「ずっとやめられなくなるのでは?」といった依存性に対する心配を抱く人も多いが、「医療機関で処方される睡眠薬は、睡眠薬代わりに飲む人の多いアルコールに比べると慣れや依存はずっと少ない。医師の指示に従って服用すれば睡眠薬は安全で効果的です。どれが一番効くかは、使用する人の不眠のタイプによって変わってきます」とスリープ&ストレスクリニックの林田健一院長は話す。

以前は睡眠薬の主流だった「バルビツール酸系」と呼ばれる睡眠薬は、「脳全体を麻痺させて眠らせる」という薬だったので、効果が強力な半面、服用量を間違えれば命を落とす危険もあった。自殺の手段として大量に摂取するなど社会問題にもなったが、世代交代が進み、ほとんどの製品が生産中止となり、睡眠薬の安全性は上がっている。

現在、不眠症の治療に使われる睡眠薬は、主な作用からベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬の3つのタイプに分けられる。

バルビツール酸系の後にもっとも多く使用されているのが、ベンゾジアゼピン受容体に作用し、抗不安薬として開発された「ベンゾジアゼピン系」の睡眠薬だ。

「不安やイライラを取り除き、眠りに導く働きのある脳内物質のGABA(ギャバ)受容体を介して不安や緊張をもたらす神経系の機能を抑え、眠りを促すものです。化学構造の違いから『ベンゾジアゼピン系』と『非ベンゾジアゼピン系』に分類されます」(林田院長)

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は鎮静作用に加えて、不安を軽減する抗不安作用や、緊張している筋肉を緩める弛緩作用を併せ持つ。不安や緊張が強い不眠症には特に有効だが、「薬の作用が強すぎたり、作用時間が長すぎると、翌日、眠気が残ったり、ふらついたりする持ち越し効果や、薬の効果が表れてからの行動を覚えていないといった記憶障害などの副作用が起こることもあります」と南青山アンティーク通りクリニックの福西勇夫院長は指摘する。

▼ベンゾジアゼピン受容体作動薬の主な副作用
●持ち越し効果
睡眠薬の作用が翌朝以降も持続してしまう現象。頭がぼんやりしたり眠気が続く。
●記憶障害
主に鎮静作用によって、軽い記憶障害が見られる。睡眠薬が体から排泄された後は記憶は正常に戻る。
●筋肉の脱力
筋弛緩作用により力が入らずにふらついたり、つまずいたりして転びやすくなる。高齢者ほどこの作用が出る。
●奇異反応
ごく稀に夜間に上機嫌で抑制を欠いた活発な行動をとったり、寝ぼけたようになったりする。

■体内時計に働きかけ、夜の休息状態にする

そこで開発されたのが、抗不安作用や筋弛緩作用に関わる受容体への作用が弱く、鎮静作用に関わる受容体へ主に作用する非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬だ。

「最近の不眠症治療では、まずこの種類の睡眠薬を使うことが多くなっています。いずれも作用時間が短めで、主に入眠困難や睡眠維持困難に向きます」(福西院長)

ベンゾジアゼピン受容体作動薬の次に登場した睡眠薬は、2010年から使われるようになったメラトニンという眠りに関わるホルモンの受容体に作用する「ロゼレム」だ。

「メラトニン受容体作動薬は、体内時計に働きかけ、体を夜の休息状態にするような薬です。不眠のタイプでは入眠困難な人に使われることが多く、特に昼夜逆転気味の人に向いています。鎮静的な効果は強くないが、体内時計のずれを修正する作用もあるので睡眠習慣の改善にもなります」(林田院長)

睡眠薬で最も新しいものが、14年から使われるようになったオレキシン受容体拮抗薬の「ベルソムラ」だ。

「脳内で覚醒状態を維持するホルモンであるオレキシンの指令を遮断する薬です。緊張が高まって覚醒調節系の働きが強いと入眠時だけでなく、睡眠中も神経が過敏になって夜中に中途覚醒を起こしやすいので、そうしたタイプの不眠に有効で、より自然な睡眠に近い作用をする薬です」(林田院長)

■抗ヒスタミン作用を利用した睡眠改善薬

睡眠薬の強さでもある作用時間は血液中の薬の半減期により4段階に分かれている。「マイスリー」や「ハルシオン」などは超短時間型で、服用から1時間未満で効果が表れる代わりに、持続時間が2~4時間と短い。寝つきが悪い人には睡眠導入剤として効果的だが睡眠の途中で起きてしまう人には不向きだ。

服用から1~3時間で効き始め、6~12時間持続する「短時間型」は朝まで効き目が続くため、夜中に何度も起きてしまう人に向いている。「中時間型」「長時間型」はそれ以上の時間も効き目が続くため、朝までぐっすり寝たい人には効果的だが、寝すぎるリスクもある。

ところでテレビのコマーシャルで見て、「ドラッグストアで睡眠薬が買える」と思っている人もいるだろうが、処方箋なしで買える睡眠薬はない。薬局で買える医薬品はパッケージに「睡眠薬」ではなく、「睡眠改善薬」と書かれているはずだ。

「薬局で買える睡眠改善薬は相当な安全性を要するため、処方される睡眠薬に比べ睡眠を促す作用はマイルドです。睡眠改善薬は、かぜ薬や花粉症などアレルギー治療薬として使われている抗ヒスタミン薬の一種で、かぜ薬をのむと眠くなることがありますが、それと同様の作用を利用しているものです」(福西院長)

睡眠改善薬は抗ヒスタミン作用のあるジフェンヒドラミンが配合され、商品名には、「ドリエル」「ネオデイ」「アンミナイト」「マイレストS」などがあるが、「睡眠薬とは似て非なるもの」といっていい。

「睡眠改善薬は、一時的に寝つきをよくする効果はありますが、数回使うと体内に耐性ができて効き目が落ちてしまいます。一時的な不眠の場合ならいいですが、一箱分を服用しても改善されなければ不眠症である場合が多いので、医師の診断を受けるといいでしょう」(林田院長)

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林田健一(はやしだ・けんいち)
スリープ&ストレス クリニック院長
日本睡眠学会評議員・認定医。1996年東京慈恵会医科大学卒業後、同大附属病院などで睡眠障害の臨床研究と専門治療に取り組む。2007年同クリニックを開設。
 

福西勇夫(ふくにし・いさお)
南青山アンティーク通りクリニック院長
1984年徳島大学医学部卒業。米国での臨床および研究経験も豊富で薬物療法、精神療法、家族指導にも精通している。2003年に同クリニックを開設。
 

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■▼【図表】不眠症治療に使われる主な睡眠薬

(ジャーナリスト 吉田 茂人 写真=PIXTA)

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