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安倍首相のように批判を無視する特捜検察

プレジデントオンライン / 2018年12月17日 15時15分

カルロス・ゴーン氏が勾留されている東京拘置所。拘置所は全館空調だが、部屋ごとの暖房はないという。(写真=AFP/時事通信フォト)

■特捜部の精神はどこに消えてしまったのか

もはや特捜部は衰退してしまったのか――。これが「ゴーン再逮捕」後の率直な感想である。

再逮捕の容疑は最初の逮捕と同じ。しかも容疑事実の期間を単に延ばしただけだ。これでは国内外のメディアから批判を受けるのも当然だろう。

「カルロス・ゴーン」という世界的なカリスマ経営者を刑事立件しようとする意気込みは認める。だが、いくら刑罰が倍に引き上げられたからと言って、再逮捕でまたもや報酬が記載されていないというだけの「形式犯」では実に情けない。追起訴で済むはずだ。

本来は、脱税(所得税法違反)や特別背任、業務上横領といった「実質犯」で迫るべきである。相手は超大物だ。その相手にも申し訳ない。

かつて東京地検特捜部は、ロッキード事件で今太閤とまで呼ばれた田中角栄元首相を逮捕し、リクルート事件では政・官・財界に切り込み、世論の追い風を受けてときの竹下内閣を総辞職にまで追い込んだ。政治家絡みの数々の事件を贈収賄などの実質犯で立件したのだ。「巨悪は眠らせない」という検察精神はどこに消えてしまったのだろうか。

■「8年で計90億円の過少記載」という容疑で勾留

12月10日、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(64)とグレゴリー・ケリー前代表取締役(62)の2人が東京地検特捜部に再逮捕された。再逮捕の容疑は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)。直近3年分の報酬を約40億円過少に記載したというものだった。

最初の逮捕容疑となった過去5年分約50億円の過少記載については、この日にゴーン前会長を起訴するとともに、法人としての日産も起訴した。これで過少記載の刑事立件総額は8年分で計約90億円となった。

起訴・再逮捕されたゴーン前会長ら2人は「退任後の報酬受領額は確定していない。だから記載の義務はない」と容疑を否認している。

■日本の刑事司法制度に対する欧米メディアの批判

再逮捕前、日経新聞がこんな社説(12月7日付)を書いていた。

冒頭で「海外から日本の捜査手法や刑事手続きに対する批判が相次いでいる」と指摘し、「こうした指摘に真摯に耳を傾け、見直すべき点があれば検討課題としていくことは当然だ」と主張する。見出しも「海外からの捜査批判に説明を」だ。

沙鴎一歩はこの主張に賛成する。

そもそも欧米と日本では制度が違う。東京地検特捜部は、日本の刑事司法制度に対する欧米メディアの批判に耳を傾け、きちんと説明すべきだ。

東京地検の久木元伸・次席検事は10日夕、東京・霞が関の検察合同庁舎で再逮捕と起訴を記者会見で発表した。この会見には欧米などの海外メディアも参加した。検察当局が逮捕などを公表する記者会見に海外メディアを参加させるのは珍しい。その姿勢自体は評価できる。

■次席検事は「適正な司法審査を経ている」と繰り返すだけ

問題は会見内容だ。国内外のメディアから「同じ容疑なら最初からいっしょに起訴すべきではないか」「これ以上、拘留を続ける必要があるのか」といった質問が相次いだ。しかし久木元次席検事は「適正な司法審査を経ている」と繰り返すだけだった。

なぜ質問に答えないのか。「適正な司法審査を経ている」とは「裁判所から了承を得ている」という意味だろう。海外メディアなどから批判の声が吹き出しているときに、木で鼻をくくったようなで対応とは理解しがたい。

これは安倍晋三首相の国会答弁や態度に似ている。検察にも驕りがあるのではないか。もしそうであるなら、かつての検察を思い出し、日本最高の捜査機関としての自覚を取り戻してほしい。

日経社説に戻ろう。

「日本と欧米とでは刑事司法全体の仕組みが大きく異なる。一連の批判の中には、司法制度や司法文化の違いを無視した単純な比較や、誤解、思い込みによる主張も目立つ」

こう指摘した後に日本とフランスの拘留仕方の違いを具体的に説明する。

■容疑を認めなければ保釈されない「人質司法」

「海外からの代表的な批判に、容疑者の勾留期間の長さがある。東京地検特捜部による捜査では、地検が48時間、その後は裁判所の判断で通常20日間、身柄が拘束される。一方、フランスでは警察による勾留は原則24時間にとどまる。だがその後、日本にはない制度である『予審』の段階で最長4年に及ぶ勾留が認められている」

実に分かりやすい解説だ。検察は記者会見でこのように説明すべきだった。いまからでも遅くない。検察庁のホームページなどで情報発信すればいい。もちろん、日本語だけではなく、英語、フランス語、中国語などの解説も必要だ。

日経社説は最後にいわゆる「人質司法」の問題に触れる。

「欧米では捜査側に幅広い通信傍受や司法取引、おとり捜査といった強い権限が与えられている。これに対抗する形で取り調べの際、容疑者に認めているのが弁護士の立ち会いだ。日本では捜査手法は限定して取り調べに比重を置き、弁護士立ち会いを認めずに供述を引き出すやり方を採用してきた」
「そうした手法が、容疑を認めなければ保釈されない『人質司法』へつながるなど負の側面も持っていることは否定できない。ゴーン事件で相次いだ批判を、日本に適したよりよい刑事司法制度を考えるためのきっかけにしたい」

「容疑を認めなければ保釈されない」。なるほどその通りである。ただ日本でもおとり捜査は以前から薬物犯罪捜査で限定的に認められ、司法取引は今回の「ゴーン逮捕」で2回目だ。刑事司法制度自体が、次第に欧米型に近づいてきている。要はその過程でどう被疑者の権利を認めていくかだ。

■「刑事司法手続きの見直しが必要だ」と毎日

日経社説を皮切りに新聞各社に検察の対応を求める社説が目立っている。

たとえば毎日新聞の12月11日付の社説は「裏の役員報酬を将来的に支払うことが確定していたのかどうか。そこが最大の焦点になる」と虚偽記載を巡る検察とゴーン前会長の主張の違いを解説した後、最後に刑事司法制度の見直しの必要性を訴えている。

「事件を巡っては、長期にわたる勾留など日本の刑事手続きへの批判がフランスなど海外で起きた」
「勾留期間の長さは、司法制度の違いに起因し、一概に日本が長いとは言えない。ただし、取り調べへの弁護人の立ち会いなど、欧米の先進国で認められていながら、日本では原則的に採用されていない取り組みもある。国際化が進む中で、刑事司法手続きも不断の見直しが必要だ」

■読売社説までもが長期拘留をやや遠回しに批判している

12月11日付の読売新聞の社説は「報酬不記載の是非が裁かれる」という見出しを掲げつつ、海外メディアの批判も取り上げている。

「カリスマ経営者だったゴーン容疑者の逮捕は、世界的に注目を集める。海外メディアでは、勾留期間の長さや弁護士不在での取り調べに批判的な論調が目立つ」
「日本と欧米の司法制度の違いを度外視した主張は別として、『長期にわたって身柄を拘束する必要はあるのか』といった指摘には、うなずける面もある」

検察に批判的な社説をあまり見かけない読売社説までもが、長期拘留をやや遠回しに批判している。

最後に読売社説は「ゴーン容疑者には、日産の資金を私的流用したとの疑惑もある。特捜部には、批判に耐え得る適切な捜査が求められる」とダメ押しをする。

検察はこうした指摘を謙虚に受け止めるべきである。仮に今後も検察がかたくなに態度を変えず、「適正な司法審査を経ている」などと繰り返すならば、今度は世論が黙っていないだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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