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スタンフォード式「心の免疫力」の鍛え方

プレジデントオンライン / 2018年12月20日 9時15分

佛母寺住職の松原正樹氏。スタンフォード大学やグーグル本社で心の鍛え方を教える。

心配事ばかりで疲れる、些細なことに振り回される、他人の視線ばかり気になる……。そんな人は禅の習慣を取り入れてみてはどうだろうか。スタンフォード大学やグーグル本社で禅を教える住職の松原正樹氏は、「『心配事が多い』と自分の感情に執着しないほうがいい。思考のクセや生活習慣をちょっと変えるだけで、『心の免疫力』は鍛えられる」と語る――。

※本稿は、松原正樹『心配事がスッと消える禅の習慣』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■感情に執着することが苦を生む

「Let it go(レット・イット・ゴー)」。直訳すると、「もう気にしない」とか、「手放そう」というような意味ですが、映画『アナと雪の女王』の歌の歌詞で有名になったように、「ありのままで」と考えてもらっても問題はありません。

感情に執着することが苦を生むので、日々、湧き上がる感情に対しては「レット・イット・ゴー」の姿勢がいちばんです。

禅の修行では「無になる」ことを教えていますが、修行道場に入った22歳の頃から今日まで、私は無になれたことはありません。今だからいえますが、修行中に坐禅(ざぜん)を組んでいたときは、もうすぐフラれそうな彼女とのやり取りをイメージトレーニングして、近く訪れるであろうその日に備えていました(失笑)。

後日、本当にフラれたのですが、イメトレの効果は絶大で、彼女に「なんでそんなに落ち着いているの?」と聞かれるほど、平穏な気持ちですごせました。

一緒に修行している仲間には、頭の中で碁(ご)の対局をしているという人もいましたし、とにかく人は、何も考えないでいることが無理なのだ、というのが私の気づきであり結論です。

人間が生きている以上、目に映るものを見て反応し、ふと心配が胸をよぎり、寝ているときでさえ脳は働き、夢も見ます。無の状態は、命尽きたとき。感情や思考が湧き上がってくるのを止めることはできません。

■心の安定を保つ「レット・イット・ゴー」

しかし、その感情や思考にとらわれないことが、心を安定に近い状態に保つためには必要です。そのための「レット・イット・ゴー」なのです。

感情や思考は、水を注いだときにできるあぶくのようなもの。姿を見せるのは一瞬で、本来であればすぐに消えてなくなります。それなのに、私たちはわざわざあぶくをすくい上げ、消えないようにあれやこれやと手を尽くしてしまうからややこしくなる。わざわざ、自分でややこしくしているのです。

「メールの返信がこないな。何か気に障(さわ)ることしたかな」。ここで、「でも、すぐに返信できないこともあるか」と考え、レット・イット・ゴーできれば心配事の種は芽生えません。もし続けて、「あの表現が悪かったのかな。ちょっと責めるような感じが出ちゃっていたかな」と考えても、「返信を待って、それで判断しよう」とレット・イット・ゴーできればいいのです。

最初は無理やりでも、習慣にしていくうちに、これが自分の思考のクセとして定着してきます。体の筋トレと一緒で、習慣化させるのが大事です。

筋トレを続けて少しずつ筋肉がついていくと同時に、それによって基礎代謝が上がれば免疫力が高まっていき、風邪をひきにくくなるなど、病気を遠ざけることができます。

これと同じで、レット・イット・ゴーを習慣化させることで「心の免疫力」も上げていくことができると私は考えます。

■他人に振り回されない人の特徴とは

何が起きても動じず、他人に振り回されない生き方をしている人は、「心の免疫力」が高い人、ともいえるでしょう。

松原 正樹(著)『心配事がスッと消える禅の習慣』(アスコム)

心配や不安といったネガティブな感情にとらわれそうになっても、「心の免疫力」がついていれば、手放すことが容易になります。以前なら心配しすぎて何日も寝込んでいたけれど、心の免疫が上がっていくことで、一日寝れば回復し、それが瞬間的な発熱で済むようになり、そのうち自然と「レット・イット・ゴー」できるようになっている。そんなイメージです。

60歳、70歳になっても筋トレの効果はあるように、「心の免疫力」も年齢に関係なく、誰でも鍛えることができます。

湧き上がってくる感情はコントロールできなくとも、それをあっさり手放すという形でコントロールしていくことができるようになります。

レット・イット・ゴーの利点は一つの感情に執着しないことに加え、今ある感情を手放すことで、次の気づきや感情を受け入れる余白が生じることです。

一つの感情にとらわれて長く持ち続けることは、新しい自分と出会う機会を奪ってしまいます。

常に新鮮な自分であるために、あるがままに感情を受け止めて、どんどん手放していきましょう。

■人を見た目で判断することの怖さ

私は修行道場にいるときに、ひと月に二回ほど托鉢(たくはつ)という修行を行っていました。今はあまり街角で編笠(あみがさ)をかぶって立つお坊さんを見かけることは少なくなりましたが、一般的なイメージでいうと、片手にお椀のような鉢(はち)を持ち、鈴を鳴らし、金銭や食べ物などの施(ほどこし)を受けるという修行です。

私が最初に托鉢を行ったのは、埼玉県の志木(しき)駅前にあるマクドナルドの前でした。大学を卒業してすぐに修行道場に入っていますから、マクドナルドに出入りする若者と年齢は変わりません。

私が私服でそこに立っていれば、誰かと待ち合わせをしているのかなと誰もが思うところですが、編笠をかぶった私は、なんだかお金を欲しがっている汚い格好の人、という白い目でジロジロと見られます。あからさまに軽蔑の目を向ける人もいます。

人生で初めて人間として扱われないという体験をして、自然と涙もこぼれましたが、あの経験を経て、人を見た目で判断することの怖さを身をもって知ることができました。

■「何をしたいか?」に答えられない日本人

やはり私たちは、見た目で人をラベリングして、自分に都合がいいように分類しながら生きています。自分と似通った雰囲気の人には心をオープンにして接するけれど、畑違いな人に対しては「無関係」というラベルを貼って除外します。

あるいはもっとわかりやすく、その人の地位や肩書によってラベルをペタッと貼っているケースも多いでしょう。アメリカで教鞭をとっていると、日本人の“肩書好き”を実感します。

自己紹介のとき、日本人の多くが所属する企業名や大学名を名乗るのに対し、他の国の生徒は自分がどんなことに興味を持ち、どんな仕事に就き、何を学んでいるかを話し、自分という人間を知ってもらおうとします。

「◯×会社の△□です」と名乗って自己紹介を終わろうとする人に、「それで、あなたはこの集まりでどんなことをしたいですか? 何ができますか?」と問うと、答えに詰まってしまう方がほとんどです。

会社名や学校名はあなたという人間を語ってはくれません。

もしかすると、過度に肩書やブランドに頼る人やこだわる人は、心配性の人なのかもしれません。生身の自分に自信が持てず、肩書という仮面で必死に自分の本質を隠しているのでしょう。

深く追求されれば自分の底の浅さが露呈してしまう。そんな恐怖心と日々戦っているのだとしたら、心休まるときがないことでしょう。

しかし、少し酷な言い方になるかもしれませんが、肩書なんてものは、人生の後半になればゴミも同然です。決して人の心を救ってくれるものではないのですから、本当の自分はどこにあるのか、知ろうとすることも大切です。

■肩書を捨てなければ、人間同士の付き合いはできない

世の中は、肩書を外した人間同士で付き合ったほうが、断然楽しくなります。私の主催するリトリートでは名札さえつけません。そこで意気投合した者同士が仲よくなり、後日、仲よくなった相手が大企業の重役と知ることもあります。

けれど、肩書を超えたところで互いをよく知ったあとであれば、その肩書によって目が曇ることも余計なフィルターがかかることもありません。人間同士の付き合いができます。

ラベリングをすることは、せっかく出会った縁を自ら捨ててしまうことにもなりかねないのです。

また、何者かわからないと不安だからラベリングをして安心感を得ているところがあると思うのですが、裏を返せば、ラベリングしてしまったことでその人の本質が見えなくなり、かえって不安を煽(あお)るようなことにもなりかねません。

大らかな人というラベルをペタリと貼った相手が些細なことで怒る姿を見たら、混乱します。堅実を絵に描いたような人というラベルを貼った人が、ギャンブルで身を持ち崩すことだってあり得ます。

これからは、初めて出会った人にラベルを貼るのはやめましょう。できるなら、旧知の人に貼ったラベルも剥がしてみましょう。

今まで見えなかったものが、きっと見えるようになるはずです。

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松原正樹
1973年、東京都生まれ。ニューヨーク在住。千葉・富津市のマザー牧場に隣接する臨済宗妙心寺派佛母寺住職。アメリカのコーネル大学東アジア研究所研究員。ブラウン大学瞑想学研究員。コーネル大学でアジア研究学の修士号、宗教学博士号を取得後、カリフォルニア大学バークレー校仏教学研究所、スタンフォード大学HO仏教学研究所を経て、現在に至る。グーグル本社で禅や茶道の講義も行う。

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(松原 正樹)

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