セレブが愛用「日本製包帯パンツ」の魅力
プレジデントオンライン / 2019年1月8日 9時15分
■マドンナの衣装にもなった「包帯パンツ」
まいどです! 野木志郎と申します。
職業は「パンツ屋」です。いきなり「パンツ屋です」なんて言われても、「?」ですよね。
まず、はじめに私の紹介を少しさせてください。私は東京・渋谷で「包帯パンツ」を製造・販売している小さな小さな下着メーカーの社長をやっとります。
「そもそも包帯パンツって何?」。そう思っていらっしゃる方も多いでしょうね。包帯パンツとは、我が社が「SIDO(志道)」というブランドで展開する、文字通り包帯素材で縫製したパンツです。
包帯は医療用に作られたものですから網目が広く、蒸れることがありません。通気性は一般的なパンツに比べて約7倍、さらに伸縮性が高く、体にフィットするのでズレ感もありません。ムレない、ベタつかない、しめつけない。その独特の穿き心地で、ありがたいことに私が憧れるロバート・デ・ニーロさんや、ビリー・ジョエルさん、セレブが通う人気和食レストラン「NOBU」のオーナーシェフ、NOBU(松久信幸)さんなど、世界中の著名人やセレブの方々に気に入ってもらっています。もう少し自慢させてもらえるならば、マドンナのワールドツアーの衣装としても使ってもらったこともあります。すんません!
■きっかけは日韓ワールドカップ
そもそもこの包帯パンツが誕生したきっかけは、忘れもしない2002年6月9日、サッカー・ワールドカップの日本vs.ロシア戦です。
通販大手の千趣会をやめた時に餞別(せんべつ)でいただいたチケットで、横浜国際総合競技場(現・日産スタジアム)にこの試合を観に行った私は、稲本潤一選手のゴールを目の当たりにしました。今までに感じたことのない、雷が落ちて全身が震えるような感動。どばーっ! と飛び出る涙。その時、こう決意したのです。
「彼らのように世界で活躍する『侍』を応援したい! 彼らのポテンシャルを十二分に発揮できるパンツを作ろう!」
その想いは当時も今も、まったく変わっていません。
私は苦心の末に包帯パンツを完成させ、それを販売するため2006年にログインという会社を設立しました。私が46歳になった年です。
包帯パンツは翌2007年11月に発売。以来、ありがたいことに世界中の著名人やセレブの方々に気に入ってもらっています。
ただ、包帯パンツは発売当初から今まで、順風満帆に来たかというと全くそうではありません。
■最初の販売店舗は「アローズ」だった
![](https://president.jp/mwimgs/f/d/-/img_fdbc33510b7a62b90ba6387bdb37e8a3151824.jpg)
包帯パンツを初めて売っていただいたのは、天下のユナイテッドアローズです。「いきなりアローズかいな!」「なんや、恵まれとるやないか!」
![](https://president.jp/mwimgs/3/f/-/img_3f21001ce05f80338abdec1ff83e344658559.jpg)
いえいえ、そんなことはありません。ほっそい、ほっそいつながりを手繰りに手繰り寄せ、何とか販売にこぎつけたというのが実情です。その経緯は拙著『日本の小さなパンツ屋が世界の一流に愛される理由(ワケ)』(あさ出版刊)に書いてありますので、ご興味のある方はそちらをご覧いただければ幸いです。
とにもかくにも包帯パンツをユナイテッドアローズの重松理社長(現・名誉会長)に認めてもらったのが、2007年の6月。社長自ら電卓をはじき、オーダーしてくれたのは300枚でした。
それまでの私は父親の仕事(ユニオン野木)を企画営業として手伝い、ワコールやグンゼなどの大手メーカーから数万枚もの下着を受注していました。それに比べると300枚はあまりに少ない。受注はもちろんありがたいのですが、正直それではご飯を食べていけません。
たまらず重松社長に「私は包帯パンツに賭けて会社を立ち上げました。社員も2人雇っています。何とかなりませんか……」と泣きついたところ、それじゃあと再考してもらった数字が900枚。3倍には増えましたが、これでも食べていけません。
■パンツ50枚からの勝負
重松社長が言うには、これ以上は無理。これでも1年分の数字だとのこと。そこで紹介してもらったのが、新宿伊勢丹でした。
重松社長は「俺の名前を出して、アローズで採用されたと言っていいから、伊勢丹を攻めなさい」と言ってくれたのです。
早速、大きな期待を抱いて新宿伊勢丹に行きました。しかし、そんな私を待っていたのは、もっときつい「オーダー50枚」。しかも、ぜんぜんと言っていいほど売れませんでした。強烈にやばい状態です。もちろん私の給料なんて出ません。
私は焦り、イトーヨーカドーやイオンなど大型スーパーから、ナイキ、キャロウェイなどのメーカーまで、電話しまくり、訪問しまくりました。「こんにちは~」と行っては断られ、また行っては、断られ……。今思えば、それはまるでピンポンダッシュのような毎日でした。
ただ、そんな中でもひとつだけ決めていたことがあります。ユナイテッドアローズと百貨店の伊勢丹にだけは仁義を通し、浮気はしないと心に決めたのです。
要は、アローズの競合となる別のセレクトショップや伊勢丹の競合店となる別の百貨店には、この2社で結果が出るまでは提案に行かない。それが私の中の掟でした。
■絶大な自信と一途な想い
![](https://president.jp/mwimgs/4/d/-/img_4d743ab5ebc8135ee44938a741a276af143081.jpg)
なぜそんな掟を作ったのか。「最初にとっかかった場所で絶対に結果を出したる!」そんな想いがあったのかもしれません。包帯パンツという他にはない商品に絶大な自信を持っていたということもあるでしょう。
しかし最大の理由は別にあります。浮気をしないで「それだけ真剣にやってる。あんたに一途や」という気持ちを見せたら、あっちも動いてくれるものだと信じていたからです。
一途な想いは人を動かします。新宿伊勢丹に卸した包帯パンツは、最初の50枚すら売り切らないうちからバイヤーの上野挙さんが媒体への売り込みを頑張ってくれ、雑誌や新聞、ネットニュースなど次々に取り上げられるようになりました。
これで一気に火がつき、新宿伊勢丹の包帯パンツは週販450枚、月で1500枚と、今までとは打って変わって飛ぶように売れ始め、伊勢丹メンズ館の週間ベストセラー、月間ベストセラーを次々に獲得したのです。
その時に、伊勢丹研究所(現・三越伊勢丹研究所)で紳士衣料の責任者をやっていた高田喜代彦さんから「よかったなお前~」と電話をもらったのを、今でも覚えています。
■「ここだけは」と思うものは裏切るな
当時、伊勢丹研究所は世のファッショントレンドをチェックして、バイヤーに商品を卸していました。つまり伊勢丹研究所は、私たちメーカーからすれば、いわば検閲官のようなもの。その高田さんが応援側に回って、いの一番に電話をくれたのは本当に嬉しい出来事でした。
高田さんは今でもメンズ館のアドバイザーをやっていて、ヨーロッパのピッティ(ミラノで開催されるメンズファッションの展示会)では、“日本の高田”と言えば通じる、ドンのような存在。昔と変わらず今も仲良くしてもらっているのは、ありがたい限りです。
仁義を通す。ちょっと古風な話になってしまいますが、どんなにきつくても、ここだけは浮気をしない、という気持ちは相手に必ず伝わるもの。
仕事を進めていくうえで、目の前に魅力的な数字を突き付けられたら、つい目移りしてしまうのは仕方がないことかもしれません。
しかし、「ここだけは」というポイントは外してはなりませんし、それはどんな仕事にもあるものです。ヒトであれ、モノやコトであれ、一番大事なポイントに対しては、浮気せず、真摯に向き合うべし。
「そっちに心を向けていれば、あっちも心を向けてくれる」。それがビジネスを前進させ、広げる鉄則だと私は思っています。
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1960年、大阪府高槻市生まれ。立命館大学法学部法学科卒業。87年株式会社千趣会入社。新商品、新規事業を中心に担当する。2002年に父親の会社「ユニオン野木」へ。その後「包帯パンツ」を開発し、06年にログイン株式会社を設立して独立する。包帯パンツは19年1月現在、世界で130万枚を売上げ、世界的なシェフ・松久信幸(NOBU)氏やロバート・デ・ニーロ氏など、国内外の著名人にも多くのファンを持つ。
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(ログイン 代表取締役社長 野木 志郎)
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