芸人ヒロシ"好きなことを仕事にする方法"
プレジデントオンライン / 2018年12月26日 9時15分
■チャンネル登録者数は29万人超
2004年、伏し目がちにつぶやく芸人の自虐ネタが、一世を風靡した。芸人の名はヒロシ。それから14年、今、ヒロシはYouTuberとして活躍している。チャンネル登録者数は29万人を超え、100万回再生を超える動画もある(2018年12月10日時点)。なぜ芸人とは別の道で再び成功することができたのか――。
「今、通常のタレントの仕事とYouTuberとしての仕事がごっちゃになっています。YouTubeのおかげでテレビ番組に出ることもあって、うまく混ざってる感じ。でも、別にYouTuberになろうと思っていたわけではないんです」
「数年前、大江戸線六本木駅で、日本エレキテル連合が出ている『好きなことで、生きていく』というYouTubeキャンペーン広告がバーンッと視界に飛び込んできたんですよ。当時自分は、そこまでテレビには出ていないけど、営業の仕事があって別に困ってはいなかった時期でした。でもそのなかで好きでもないことをやる時も結構あって、『いいなぁ。今の俺は『好きなことで、生きていく』なんてムリだな』と思いました。まさか自分がそうなるとは思ってなかったですね……」
■もとは身内向けの“自己満足”だった
ヒロシさんにとって、「好きなこと」とはキャンプ。もともと、仲間と集まっては足を運ぶ、純粋な趣味だった。なぜそれがYouTuberとしての活動につながったのか。
「最初は、仲間や料理の写真や動画をスマホで撮っていたんですよ。パソコンに入ってるソフトで適当に編集しては、YouTubeにあげるようになりました。それも身内向けというか、キャンプ仲間との飲み会でタブレットで見て面白がるための、完全に自己満足の動画でした」
「でも、少しずつ視聴数が増えているのに気づいたんです。コメントも好意的で、そうなるとだんだん楽しくなってくるじゃないですか。さらに、地方に行ったとき、『YouTube見てます』と言われて、それがすごくうれしかったんですよ。『本当に見られてるんだ!』という実感があって、デジカメを買って画質をよくするとか、工夫を始めました」
■「テレビで観てます」より嬉しい理由
ブレイクした芸人なら、街中で「テレビで観てます」と言われることには慣れているはずだ。だがヒロシさんは、「YouTubeを見てます」と声をかけられるほうが圧倒的にうれしいという。
「テレビは僕一人が作ってるわけじゃないですから。ブームの頃でいうと、自分が作ったものではないネタ……たとえば、『ゲストにちなんだワードを入れたネタをやってくれ』と求められることがありました。でも僕がやっているのは自虐ネタだから、それでウケるネタを作るのは難しい。結局、自分は面白いと思ってない、他人が考えたネタをやることがあった。それって、僕がやりたいことじゃないんです」
「でもYouTubeは、演出も編集も自分で納得するようにできて、責任持って作ったものを世に出せる。そうなると、広告収入で100円入ってもうれしいんですよ。自分が認められる感覚、好きなことでお金が得られる喜びが強い。一回ブレイクして大金を稼いだ僕が、もっと低い金額に『わー、マジか!』と興奮を覚えるくらいですから」
■オシャレじゃない動画でも需要はある
有名人がYouTuberになると、自分自身が出演することが多いが、ヒロシさんはあまり動画に映らず、口数も少ない。いわく、「動画を撮るのが目的ではなく、キャンプに行くついでに映像を記録するスタイルなんです」。これは当初から貫いているという。
「たとえば自分が歩く姿を撮るには、先にカメラをどこかに置いて自分を撮って、取り終わったらまたカメラを取りに戻らないといけない。そういう面倒くさいのはイヤなんですよ。画はステキでも、キャンプを楽しめなくなるので」
「オシャレなキャンプの様子は、テレビや雑誌でも見られますからね。その反動なのか、リアルなキャンプ映像を見たがる人が意外とネットには多かった。ダッチオーブンで鶏肉にプチトマト乗せて焼くようなオシャレな映像でなく、カップラーメンを食べる動画がウケることもある。キャンプ以外でも、『これ、そんなに見られてるの?』というニッチなジャンルの動画ってあるじゃないですか。僕が以前ハマって観ていたのが、キャバ嬢と客のLINEの攻防をさらした動画です。客観的に見ると笑えるんですよ。作りこんでいないぶん、生々しい背景が見えて面白い、というのは僕のキャンプ動画も同じなのかもしれません」
■自己啓発本を読んでも行動に移せなかった
「先月の広告収入は、新規のキャンプ動画を2本あげただけでトータル80万円」というヒロシさん。芸人とYouTubeの2分野で成功をおさめたわけだが、自分自身を「考え方が本当に普通の人間」と評価する。
「リスクをとって勝負することがなかなかできないんですよ。石橋を叩いて割れないか、さらに流されないかまで確認して渡るタイプなので。僕は自己啓発本や成功者のビジネス書が好きで、今までたくさん読んできたんです。でも、読んだそのときは熱くなっても、結局行動に移せませんでした。起業家の堀江(貴文)さんがいうように『イヤな会社なんて辞めちゃえ』という考えには共感するんですけど、『いきなり辞められないよ』とも思う。そういう意気地のない人は多いと思うんです。当面の生活資金も要るし、もし子どもがいたら養わないといけないし。ラーメンが好きなサラリーマンが、いきなり退職して『ラーメン屋やるぞ!』と設備投資するのは、かなり勇気がいる」
■「いちかばちか」で始めなくていい
「でも現状に不満があって自分の好きなことをやりたい人は、ちょっとでも行動しないかぎり何も変わらないのも確かです。だからラーメンが好きなら、本格的なものを作って友達や行きつけの飲み屋のマスターとかに食べてもらって、意見や感想を聞くところから始めればいい。一歩じゃなくていいから、4分の1歩を踏み出す。びびりながらもちょこちょこ挑戦して、できるだけダメージを負わない方法を選ぶ――。YouTubeにアップするのも同じことです。流行する動画ってどんどん狭いジャンルに行っているから、『こんなの俺しか興味ないだろ』というものを次々にアップすれば、何かしらヒットする可能性はあると思いますよ。いちかばちかで起業して大金を狙うんじゃなくて、辞めないまま始めればいいんです」
「そこでもしひとつ楽しみができると、仕事がつらくても気持ちは変わってきますよ。僕は営業で忘年会に呼ばれることがあるんですが、誰もネタを聞いてなかったり、ネタ中に酔っ払いがぶつかってきたりして、そういう場は正直つらい。でも『年が明けたらキャンプに行く』と思うと、それを楽しみに乗り切れるんです。会社がつまらなくても、自分を保てる場所があれば救われるし、あわよくば儲かるかもしれませんから」
■最終的には山を買いたい
好きなことをできる範囲で始めてみる――実際、動画が人気を得たのは、ヒロシさんのキャンプ愛が並々ならぬことが伝わったからでもあるのだろう。自分はマニアであり、「みんなと同じギア(道具)をなるべく使いたくない」という嗜好性があると語る。
「だから国内じゃなくて海外のキャンプ好きの人のインスタをフォローして、カッコいいものがあったらメーカーを調べますね。それでアメリカの知り合いに、入手できないか聞いて回る。最近行き過ぎて、使い勝手がいいオリジナルがほしくなって、自分のブランドを立ち上げたいんです」
「最終的には山を買いたいです。僕にとって山はギア。ナイフと塩だけ持って裸足で山に入って、棒で穴を掘ってカマドを作ったり、木を切って葉っぱ乗せてそこで眠ったりする“野営”をやりたいんです。海外のキャンプ動画ではよくあるんですが、日本だと普通の場所ではなかなかできないので、山がほしい。実は、今も探しています。簡単には買えないんですが、いずれ買いたいと思います」
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芸人兼ソロキャンプYouTuber
1972年、熊本県生まれ。本名は齊藤健一。九州産業大学商学部商学科卒。ピン芸人として「ヒロシです。」のフレーズではじまる自虐ネタで大ブレーク。現在はカフェ「FOREST COFFEE」を経営しながら、お笑いライブなどの活動を続けている。2015年3月よりYouTuberとして「ヒロシちゃんねる」を配信。自ら撮影・編集したソロキャンプ動画をアップして人気を集める。
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(芸人兼ソロキャンプYouTuber ヒロシ 構成=鈴木 工 撮影=中野一気)
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