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7割の人は無縁"ボーナス過去最高"のウソ

プレジデントオンライン / 2018年12月21日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mykeyruna)

大企業の冬のボーナスが過去最高となった。しかし、ある金融機関の調査では、中小企業のボーナスは平均で前年比より減っており、支給しない企業も4割あった。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「浮かれているのは大企業だけ。働く人の7割が中小企業勤めなのに、その実態はあまり報じられない。さらに非正規であれば、ボーナス支給すら望めない」と指摘する――。

■ボーナス過去最高額はたった「0.3%」の大企業の話

2018年の冬のボーナス額は過去最高らしい。経団連の調査では平均支給額は95万6744円。2年ぶりに前年を上回り過去最高となったが、これは加盟する大企業の平均である。

また、日本経済新聞社がまとめたボーナス額は前年比3.28%増の83万4391円。こちらは主に上場企業の平均だが、やはり過去最高を記録したという。

このように大手企業の社員のボーナスが高いのは好調な企業業績を反映したものだが、アベノミクスによる円安・株高の恩恵を受けているのも確かだ。

ではその恩恵は中小企業にも浸透しているのだろうか。

大阪シティ信用金庫が実施した取引先の中小企業(1043社)の冬のボーナス調査(11月27日)によると、ボーナスを支給すると回答した企業は60.8%。つまり残りの39.2%の企業では「ボーナスを支給しない」と回答している。

支給企業の平均は27万6486円。前年に比べて1万2657円の減少だ。従業員50人以上の企業に絞ると、平均は29万8661円となるが、こちらは前年比4万6839円の減少となっている。

アベノミクスや大企業の好業績が中小企業に浸透していないばかりか、大手企業と中小企業の格差がますます拡大していることがわかる。

中小企業庁によれば国内にある企業約421万社のうち99.7%が中小企業を占める。また、従業員数でも、全体で4013万人のうち、約7割にあたる人が中小企業に勤めている。

「働いている人」の大多数は中小企業の社員であることを考えると、「ボーナス過去最高額」と浮かれるのは、実態とはかけ離れている。

■「ボーナス出る」正社員vs「ボーナス出ない」非正規

さらに指摘しなければならないのは、働いているのは正社員だけではない、ということだ。

雇用者総数5618万人(総務省労働力調査2018年7~9月期)のうち、非正規社員が2118万人(約38%)を占めている。これらの人たちはボーナスをもらっているのだろうか。

非正規には、パートタイマーや契約社員などが含まれるが、ボーナスが実際に支給されているのか、いくらぐらいもらっているのかについてメディアで取り上げられることはあまりない。

東京都が実施した「2017年度パートタイマーに関する実態調査(フルタイムパートも含む)」によると、ボーナスを全員に支給している企業は24.0%、一部の人に支給している企業が16.8%。支給していない企業が56.4%に上る。支給する企業のうち、年間支給額の平均は11万8000円だ。ということは半期で5万9000円ということになる。

この金額は経団連調査の約96万円の6%にすぎない。ボーナス額だけを見ると、大手企業、中小企業、非正規社員という格差の3層構造が浮き彫りになる。

■「労働者の4割」非正規社員にボーナスが支給されないワケ

実際には中小企業の40%、非正規の56%はボーナスを支給されていない。0円だ。つまり大多数の労働者にとってボーナスの恩恵を受けて、毎夜のごとく忘年会で浮かれている光景はまったく関係のない世界なのではないか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/structuresxx)

非正規社員の中には金額がわずかでもパートや契約社員でもボーナスが出るんだと驚いた人もいるかもしれない。本来のボーナスは会社の業績によって増減し、長年勤務する社員の生活費の補てんとして支給される性格を帯びていた。

しかし、非正規だけは埒外とされていた。

なぜなら非正規は業務の繁閑に応じて臨時的・一時的に雇われ、契約期間も6カ月や1年と限定されていたからだ。そのため事前に交わされる雇用契約書に「賞与支給」を記載することはほとんどなかった。

だが、非正規の雇用実態は平成の30年間で大きく変わった。平成元年にあたる1992年の全体の雇用者数に占める非正規比率は21.7%にすぎなかったが、年々増加し続け、今では40%にまで膨れあがっている。

しかも1年契約といいながら更新を重ねて同じ会社に5年、10年と長期に勤務する人も増加した。その背景にはバブル崩壊後に企業が長期低迷に陥り、正社員を減らし、コストの安い非正規で代用する状態が長く続いたことがある。

■非正規にボーナスを出している外食チェーンの言い分

そうしたなかで非正規にボーナスを支給しようという企業も徐々に登場するようになる。10年前からボーナスを支給している物販・外食チェーンの人事部長はその間の事情についてこう語る。

「1990年代は正社員がほとんどを占め、補助的に主婦のパートさんを使っていましたが、上からコスト削減を強く言われ、正社員が辞めると代わりに契約社員を雇うようになりました。本来なら優秀な人は正社員にするのですが、1年後、2年後に業績がどうなるのかわからないという危機感もあり、正社員を雇うのではなく契約社員への切り替えが進み、徐々に増えていきました。店舗ではフルタイムもいればシフト勤務のパートさんもいるなど非正規が主力になっていったのです」

「しかしボーナスは、正社員は出るのに非正規は出ません。もともとそういう契約になっていたので非正規の人たちも口に出して文句を言う人はいませんでしたが、ボーナス時期になると見ていてどこか元気がない感じになるのを気づいていました。皆さんやはり不満を持っていたのです。そこで人事から社長に意欲を持って働いてもらうには少しでもボーナスを支給すべきだと、進言したのです」

同社の場合、勤務年数に応じて支給するようになり、勤続10年の人は年間20万円だという。正社員よりも低いが、それでも他の非正規社員よりは恵まれているといえる。

■2019年は非正規へのボーナス支給企業が増える可能性がある

非正規社員にボーナスを支給する企業が徐々に増えているとはいえ、多くは「金一封」的な金額しか支給されていない。先の東京都の調査ではボーナスを非正規に支給する企業のうち、年間5万円未満が27.8%を占めている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AH86)

以上のように非正規社員には暗い話が多い年の瀬だが、2019年は非正規へのボーナス支給企業が増える可能性がある。政府は働き方改革の一環として「同一労働同一賃金」を打ち出し、国会で法律が改正され、大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月から導入されることになった。その内容はとても文字通りの「同一労働同一賃金」と呼べる内容ではないが、法律に初めて「賞与」が入った。

具体的には法律に「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて(中略)当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」と規定している。

わかりづらい言い回しであるが、たとえば会社の業績への貢献に応じてボーナスを支給する場合、正社員との貢献度が違う場合でも、その違いに応じて非正規にも支払いなさいと言っているのだ。

■経営者が法律違反(ボーナス支給しない)をしても罰則はない

このことを解説している「同一労働同一賃金ガイドライン」では、法的に問題となる事例として次のケースを挙げている。

賞与について、会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績などへの貢献にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない

正社員には仕事内容や業績への貢献度に関係なくボーナスを支給しているのに、非正規に一切支給していないのはダメだと言っている。

また、法律では会社業績に対して正社員と同じ貢献をしていれば同じ金額のボーナスを支給しなさいとも言っている。

多くの非正規の場合は正社員とまったく同じ役割や仕事を担っている人は少ないだろう。

だが、役割や仕事内容に違いがあっても、非正規なりに会社の業績に貢献しているにもかかわらず、正社員が95万円ももらい、非正規は寸志程度の数万円しか支給しないのはだめだ(法的に不合理)と言っている。こうした法律改正とガイドラインによって、今後非正規にもボーナスを支給しようとする企業が出てくるかもしれない。

ただし、法律の施行によってどれだけの企業が非正規にボーナスを支給するかどうかはわからない。

なぜなら経営者にボーナスを支給しないのは法律違反だと文句を言っても、支給しなければ経営者が罰則を受けるわけではなく、最終的には裁判で判断されるからだ。

だが、裁判に訴えればボーナスを獲得できる可能性がより高まることになる。すでに2020年4月の法律の施行前に賞与などの手当を巡る訴訟が相次いで発生している。

正社員と非正規の格差を是正していくには、個々の非正規社員が正当な権利を勝ち取るための勇気も問われている。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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