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40歳から親友を作ろうとする人はイタい

プレジデントオンライン / 2018年12月28日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi)

「親友」は何歳からでも作れるのか。43歳のお笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世さんは、「自分の才能やキャパシティに見合わないことを、いつまでも夢見て目指していたらしんどい。40歳を過ぎたら『親友ができない』などと悩まないほうがいい」と話す。同い年の社会学者・田中俊之さんとの「中年男再生」対談をお届けしよう――。

※本稿は、田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)の第2章「僕らの歳で友達っている? 人間関係とコミュニケーション論」を再編集したものです。

■「このまま誰とも釣りに行かずに死ぬのか」

【田中】40代男性の友達付き合いやコミュニケーションについて考えていきたいと思います。というのも、結婚して子どもができてからというもの、仕事と家庭の往復でいっぱいいっぱいで、友達付き合いや趣味の時間を真っ先に減らしてしまう中年男性は多いんです。僕自身もそうなんですよ。

【山田】僕はもともと社交性がない人間で、普段は何も気にしていないのですが、たまに夜中、「俺、友達おらへんな……」と絶望して落ち込みます(笑)。それでも結婚する前は、後輩とお酒飲んだり、ご飯食べたり、温泉行ったりしていたのに、結婚して子どもが生まれてから、それも一切なくなった。このままさらに歳を取ったときに、「俺、誰と飲むのかな」とふと考えてしまうんです。

【田中】それは、かなり多くの男性が共感できる悩みじゃないでしょうか。

【山田】「この先、俺はどうするんだろう……」という不安が、不意に襲ってくるんですよ。俺の人生、このまま誰とも釣りに行かず、BBQやキャンプもしないで死ぬのかなって(笑)。

【田中】「釣りに行かない」というのは、「釣りに誘ってくれるような友達がいない」という問題と同義ですよね。仕事一筋に生きて、そこでの付き合いしかしてこなかった結果、定年後に友達と呼べる人が誰もいない、という状態に男性は陥りがちなんです。

■おじさんには“新しい友達”ができない

【山田】芸人というより僕の場合はですが、売れるまでは基本ホームレスみたいなもので、精神的にも金銭的にも余裕がない。なんとか芸で飯が食えるようになるまでは、最低限のお金を稼いで、後はもうお笑いに集中しなきゃと思ってたので。実際は、そこまでストイックにはなれませんでしたが(笑)。

売れたら売れたで忙しいし、仕事が減ったら再ブレイクしなきゃと必死になる。だから、積み上げてきた趣味とか何もないんですよ。仕事だけしてきた結果、その後何にもないって、寂しいですよね。

【田中】それはまさに、芸人さんに限らず、男性全般が抱えている問題だと思います。若い頃は、仕事で成功するべきだ、というルートしか男性には示されない。それで失敗したならまだしも、男爵のように努力して成功した人ですら、おじさんになったら寂しくて絶望する日があるって、ハメられた感がありますよね(笑)。じゃあ、どういうルートを選べばよかったの? って。

【山田】ほんまやなあ。

【田中】それに、中年男性には「新しい友達ができない」という問題もあります。友達といっても、せいぜいが高校や大学の同級生とたまに会う程度で、仕事関係で知り合った人と新たに友達になるというハードルは高いですしね。

■意味のなさそうな会話が大事

【山田】ああ、でも僕、典型的な“仕事の話しかできへん”人間かもしれません。僕が引きこもりだったせいもあるかもしれませんが、学生時代に同級生だっただけの人と、2時間酒飲みながら話せる自信がないんです。

【田中】というと?

田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)

【山田】だって、そこでの会話って「あのとき、あいつああだったよな」という昔話くらいしか、芯を食った話ってできませんよね? それが、すごく無意味なことに思えてしまって、しんどいんですよ。有益だと思える話題が、仕事しかない。僕、やばいですかね? まさに、田中先生の言う「定年後にやることない男」になりそうで、怖いです。

【田中】それは非常に男性学的な問題ですね。議論やマウンティングではなく、ただ共感を示してキャッキャ盛り上がるような、いわゆる“女子会”的な会話を、男性は「意味がない」と下に見がちです。でも、同性同士でそういう会話ができるのって、連体感を強めるためにも、精神面のメンテナンスという意味でも、とても大事だと思うんです。

【山田】世間一般では、仕事とかの利害が絡んでいない人のほうが“本当の友達”みたいなことになるんですかね?

【田中】個人的なことを言わせてもらうと、仕事上の利害が絡んでいるから相手は僕に親切にしてくれているのに、それに甘えて全幅の信頼をしたら、相手に重たいと思わせてしまうのではないか、と考えてしまいます。

【山田】それは先生が少し考えすぎじゃないですか?(笑)

■「おやじ会」LINEグループを断ってしまった

【田中】何度か取材を受けた編集者で、個人的に興味のある方がいるんですけど、僕から「ご飯に行きませんか」と誘って、「いや、そういうんじゃないです」って断られたら、立ち直れないんじゃないかって不安なんです(笑)。

【山田】まあ、かく言う僕も最近、娘の幼稚園で、保護者のお父さんたちが「おやじ会」というLINEグループを作るという話を小耳に挟んで、実際奥さん経由で誘われたんですが、とっさに入るのを断ってしまったんですよね。あのとき入っていれば、僕も日曜日にBBQするような人になれていたのかな、と思って、ちょっと“人間になりそこねた”みたいな、ベム的な気持ちを引きずっているんです(笑)。

【田中】異業種の人と話しをすれば、何かしら発見もあるでしょうしね。

【山田】ええ、マイナスにはならないってことはわかってるんですけど、LINEグループ作ろうぜと言い出したそのノリが、もう根本的に合わないような気がして、二の足を踏んでしまいました。

■ひぐち君は“相方”というより“友達”

【田中】「コミュニケーション能力を高めて、いろいろな場に出て行きましょう」と言われても、「いやいや、そんなことできないよ」という人もいますよね。男爵に共感する男性は、多いと思います。

【山田】考えてみたら僕、そういう女子会的な他愛ない会話を、相方のひぐち君とならできるんですよ。彼と真剣に仕事の戦略とかを話せる気はしないけど、道端で座って二時間世間話するなら全然できます。だから僕にとって、ひぐち君は“相方”というよりも“友達”なんです。芸人としては破綻してますけどね(笑)。

【田中】でも、男爵とひぐち君の関係性は、「利害関係を超えて付き合える仲間」という意味で、とても理想的だと僕は思います。中年男性に、一番足りない関係なんじゃないでしょうか。

【山田】たとえば、関東近郊の営業の仕事に行くとき、ひぐち君は僕の家まで車で迎えに来てくれるんですよ。頼んでもないのに。まあ、それは15分の出番で55秒しかしゃべらないという罪悪感がそうさせてるんだと思いますけど(笑)。彼が運転する車で、僕が助手席に座って、片道二時間、往復四時間みたいな道中でも、お互い別に苦痛じゃない。「石原さとみって、いいよなー」みたいなしょうもない雑談をずっとしていられるんです(笑)。

【田中】それは、小学生や中学生のときのような友達関係に近いですね。

■お互い諦めてから関係が良くなった

【山田】ただ、コンビを組んだ当初は、彼のほうはもっとサバサバした関係を望んでいた気がします。普段はお互いの電話番号も知らないくらい疎遠なんだけど、現場ではプロの仕事で爆笑をかっさらって帰っていく……みたいな。そういうダウンタウンさんみたいな感じに憧れて、形から入ろうと斜に構えていた時期があって。すごくやりづらかった(笑)。

【田中】ひぐち君が斜に構えなくなって、今の関係を受け入れるようになったきっかけは何かあったんですか?

【山田】ネタを書けないとか、己の力のなさを知ってからでしょう。僕が言うとどうしても感じ悪くなってしまうのは百も承知ですが、事実です(笑)。彼は、ネタの稽古を「そんなせなあかん?」というくらいするんです。もうネタの味がしなくなって、ゲシュタルト崩壊を起こすくらい練習するのに、それでも本番の第一声で噛んだり、セリフを忘れたりする。そのたびに「どういうことやねん!」と喧嘩になってたんですけど、だんだん言ってもしょうがないな、向いてないんやなと思うようになって、最近は何も言わなくなりました(笑)。

■一緒にみじめな思いをした共有体験

【田中】喧嘩しても、「コンビ解散だ!」ということにはならなかったんですか?

【山田】それはなかったですね。

【田中】それって結構、貴重なことですよ。一般的に、うわべだけの友達関係は多いですし、一度喧嘩してしまうと取り返しがつかない、ということになりがちですから。

【山田】そこは、売れない時期、つまり昔と今ですが、一緒にみじめな思いをした共有体験があるからでしょうね。

【田中】そういう意味では、ひぐち君と出会えたのはラッキーでしたか?

【山田】引きこもりで上京してきて、ほぼホームレスみたいな生活をしているさなかにひぐち君と出会い、「お笑いをやめたらもう死ぬくらいしか人生の選択肢がない」という後がない状況で始めた芸人稼業だったので、状況的に解散できなかった。それもラッキーだったかもしれないですね。普通は、離れよう、会わんとこうと思ったらすぐ離れられる関係がほとんどですから。

■友達関係にも“分相応”がある

【田中】男爵の話を聞いていると、いい関係だなと思いますが、だからといって、僕が40歳を過ぎた今からひぐち君のような友達を作ろうとするのは、難しいかもしれませんね。

【山田】もちろん人にもよりますけど、40歳からソウルメイトと呼べるような親友を作るのは、40歳から飛行機のパイロットを目指すのと同じくらいの難易度だと思いますよ。

【田中】何歳からでも遅くない……と思いたいですけどね。

【山田】ただ、僕思うんですけど、「本気の喧嘩ができる相手こそ真の友達だ」みたいな風潮ってあるじゃないですか。でも、それって『少年ジャンプ』とかが推奨してきた、めちゃくちゃハードルの高い友達像だと思うんですよ。殴り合っても最後は夕陽をバックに握手する……というのは、確かにぶっとい絆かもしれないですが、そんな友達関係をキープするにはよっぽどの技術が必要ですよ。そんな技術もないのに、みんながそこを目指すからしんどくなるんじゃないですかね。

【田中】それは、中年男性に対して、とてもいいアドバイスになると思います。

【山田】将来の目標だって、自分の才能やキャパシティに見合わないことを、いつまでも夢見て目指していたらしんどくなるでしょう。それと同じで、友達関係にも“分相応”のものがあると思うんです。

【田中】無理して青春時代のような親友を作ろうとする必要はないんですよね。今の自分に必要な温度感の友達を、今の自分にできるやり方で作ればいいと思います。

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田中俊之(たなか・としゆき)
社会学者
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
山田ルイ53世
お笑い芸人
本名・山田順三。1975年生まれ。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。地元名門中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て愛媛大学入学、その後中退し上京、芸人の道へ。雑誌連載「一発屋芸人列伝」で第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞「作品賞」を受賞。同連載をまとめた単行本『一発屋芸人列伝』(新潮社)がベストセラーに。

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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之、お笑い芸人 山田ルイ53世 写真=iStock.com)

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