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「マウンティング」のダサさに早く気づけ

プレジデントオンライン / 2018年12月31日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/PeopleImages)

相手を論破して、優位に立とうとする「マウンティング」。その場では気持ちいいかもしれないが、そこには大きなリスクがある。お笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世さんは、営業先で「拙い芸ではございますが……」と一言添えることを意識しているという。その狙いはリスクを小さくすることだ。同い年の社会学者・田中俊之さんとの「中年男再生」対談をお届けしよう――。

※本稿は、田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)の第4章「僕らどうやって生きていこう? 仕事と生き方論」を再編集したものです。

■「相手に合わせる」中年ならではのスキル

【山田】ここ数年、意識してることがあって。企業パーティーのようなアウェーな状況でネタをやるとき、最初に「拙い芸ではございますが……」って礼儀正しく一言添えると、すごくやりやすくなる。ザワザワはしてるんですけど、会場の“聞いてくれてる感”が明らかに増すんです。少なくともヤジは減りますね。

【田中】そうなんですね。

【山田】「一緒にこの場を盛り上げていきましょう」みたいな仲間意識が芽生えるんですよね。でも、そういうのを今から賞レースに挑むような若手芸人がやる必要はまったくない。フォームが崩れてしまうのでダメです。僕らはもう、フォームが崩れた後だから関係ないので(笑)。こういうのも、おっさんならではのスキルですね。

【田中】参考になります。自分のスタイルを押し出すのではなくて、相手に合わせていく。その場にいる方々に対してリスペクトを表明することで、反応が変わってくるわけですよね。

【山田】やっぱり相手の現場ですからね。自分たちのネタがどうこうっていうよりも、その場を立ててあげるのは重要かも。まあ、とてつもない実力を持った面白い芸人だったら、笑いでねじ伏せられるので許されるんでしょうけど。でも、そこまででないのなら、きちんと礼儀を尽くしたほうが得です。

■丁寧に始めれば、後はなんとかなる

【田中】そうですよね。社交辞令だとしても、まず「このような貴重な場に呼んでいただいて、ありがとうございます」と言っておくことで、ハードルは下がりますよね。確かに僕も、地方で講演するときなどは、まずその土地のことを調べておいて、少しそのことに触れてから話を始めるだけで、ずいぶん反応がよくなります。「自分たちを見てくれている」感が出るので、お客さんが仲間意識を持って聞いてくれるんです。そういうツカミって大事だと思います。

【山田】そうなんですよ。あと、丁寧な感じで始めると、もうひとついいことがあって。それは、後半に社長の頭をどつけるようになる(笑)。

【田中】そうなんですか。

【山田】それが許される。丁寧に始めれば、ちゃんとわかってくれるんですよ。僕、結構な数の企業の社長と、市長の頭をどついてますから(笑)。逆に、「相手の場だ」という意識が欠けていると、お客さんもピリピリします。それはやっぱり損だと思うんです。おじさんがそういう場に行って話すときは、できる限り丁寧に始めて、それからだんだん過激にしていけばいい。

■論破より“波風立たせない”ほうが難しい

【田中】まずは相手に合わせて、それから自分を出すというのは、若いうちにはなかなかできない中年ならではのスタイルだと思います。

田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)

【山田】パーティーでは、礼儀正しさとともに、あくまでそこにいる人たちに寄り添ったネタがいいんですよ。さっきも言ったように、自分たちの世界観を見せるのではなくて、あくまで目の前にいるその人たちの日常にそっと手を入れて、みんながなんとなく感じていることをゴニョゴニョッと触ってあげるのが一番いいんです。

【田中】主役はネタをやっている自分たちではなく、その場にいる人たち全員、ということですよね。そういうスキルって、もっと高く評価されてもいい気がします。論破に代表されるように、「言葉でいかに相手をねじ伏せるか」に魅力を感じる男性って多いんです。でも、論破は一方通行だからコミュニケーションですらありませんし、相手のことを考えないでいいから実は簡単なんです。

それより、いかに波風立てずに面白さを加えるか、相手を不快にさせないか、といったことのほうが難しいですよね。普通の人にとっては、むしろそっちのスキルのほうが役に立つし、みんな苦労しているところだと思いますよ。セクハラやパワハラが社会的に注目を浴びていますが、おじさんたちのコミュニケーション能力の低さが問題の根底にはあるかもしれません。

■論破する=自分のハードルを上げてしまう

【山田】なるほど。もしかすると、想像力の欠如というのもあるかも。論破する、相手をねじ伏せる、勝つということは、どうしても遺恨が残る。いつ相手からしっぺ返しを食らうかわからない状態を抱えることになりますし、やり返されないためには、勝ち続けないとダメ。それはほとんどの場合、無理ですから。大体、論破する、マウントを取るっていうことは、その後あらゆる面で自分のハードルを上げてしまうってことですからね。その煩わしさを考えれば、「論破したら負け=失敗」くらいに思ったほうがいいかもしれない。

【田中】その通りだと思います。男社会は競争を通じた上下関係が基本ですから、これまでは一方通行でもやってこられたかもしれません。でも、現代の日本でまさに問われているのは、こういうやり方の暴力性なんです。

■お客さんをイジったあとは必ずフォローする

【田中】お笑いって、自分の立ち位置を客観的に把握しておかないと務まらないところがありますよね。

【山田】「自分がどう見られているか」みたいなところもそうですけど、一番大事なのは、見てくれている大半の人に気持ちよくなっていただく、というのが大目標ですから。できたら「大半」じゃなくて「全員」がいいんですけど。だからたとえば、その場にいるお客さんをイジるにしても、若い芸人の場合だと、ディスってそのまま、くさしっぱなしみたいなことがあるんです。

確かにウケるんですけど、その人に限っては気分を害したままの可能性があるし、僕らが去った後、周りから「めちゃくちゃ言われてたな」みたいな感じで、セカンドレイプ的にさらなるイジりを受ける可能性もあるじゃないですか。そういう意味で気配りが必要なんですが、若いとそれができない。その点、我々おじさんは、それがもうバランスよく、苦もなくできる。

【田中】たとえばどんな感じでフォローするんですか?

【山田】きつめにイジった後に「いや、助かりましたー!」と口に出してもいいですし、手でOKマークを作って、(面白かったよ、ありがとねー!)とみんなに見えるようにアピールしてもいい。要は、「この笑いはこの人の手柄だよ」と、しっかりみんなに提示するんです。あるいは舞台の終盤、帰りがけにその方に何かサイン色紙なりをプレゼントするとか。……こうやってあらためて言うと、とんだ汚れ芸人ですが(笑)。

■やりっぱなしにしないほうが「得」

【田中】いやいや! その場を仕切っている人から気を配ってもらえるのは、嬉しいですよ。僕が『上沼・高田のクギズケ!』(日テレ系)に出演した際に、こんなことがありました。収録中、上沼恵美子さんに僕がやり込められるような場面があったんですが、収録が終わったら、わざわざ上沼さんが僕のところまで来て、「田中さん、ごめんね。ちょっときつかったけど」と言ってくれたんです。

【山田】それはしみますねー!

【田中】確かに、言い負かされた感じにはなっていたんですが、あくまで面白おかしくだったので、僕はそこまで気にしていませんでした。でも、相手が嫌な思いをしたかもしれないと自分が感じたから、フォローをしようということですよね。

【山田】ええ人だなって思いますよね。

【田中】まだ3回ぐらいしかお会いしていないのに、名前を覚えてくれて、フォローまでしてくれて本当にありがたいです。芸能人の方と違って、僕らみたいな素人は、素人だからこそ「今日はきつく言われたな」とか「うまくしゃべれなかったな」とかショックを受けることもありますからね。

【山田】やっぱりそういう方々は、結局そう振る舞うことが最終的には得だって知ってる気がしますね。

【田中】なるほど。できない人もいますもんね、わかっていても。

【山田】しょうもないプライドがある人間だとできない。プロですよね、できるのは。

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田中俊之(たなか・としゆき)
社会学者
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
山田ルイ53世
お笑い芸人
本名・山田順三。1975年生まれ。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。地元名門中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て愛媛大学入学、その後中退し上京、芸人の道へ。雑誌連載「一発屋芸人列伝」で第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞「作品賞」を受賞。同連載をまとめた単行本『一発屋芸人列伝』(新潮社)がベストセラーに。

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(社会学者 田中 俊之、お笑い芸人 山田ルイ53世 写真=iStock.com)

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