東大生が「受験前」に読書量を増やすワケ
プレジデントオンライン / 2019年1月16日 9時15分
※本稿は、西岡壱誠『東大生の本棚』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
■本が読みたくなる東大の入試問題
「いくら東大生だからと言って、さすがに受験生時代には本なんて読まないだろうな」。受験生時代、僕はこう思っていました。「勉強しなければならないことだって多いんだし、さすがに本を読む時間はないだろうなぁ」と。たしかに、僕のまわりの東大受験生を見てみても、受験生になって勉強しなければならない時間が増えると、本を読まなくなる人もいました。しかし、実は受験生時代にこそ本を読む量が増える人もいました。
これにはひとつからくりがあります。東大の入試問題を勉強していると、自然と本が読みたくなるのです。
「東大の入試問題」と聞くと、どのようなものをイメージしますか? おそらく多くの方は「膨大な知識量がないと解けない問題」や「重箱の隅をつつくような細かな知識を問われる問題」を思い浮かべるのではないかと思います。しかし、現実はその逆。東大の入試問題では、難しい知識は問われず、思考力を問う問題が出題されているのです。
たとえば、世界史や日本史では「この出来事の名前を答えなさい」「この出来事があった年号を答えなさい」などといった問題はほとんど出題されず、「時代の流れ」や「出来事の背景」をその場で考えさせて記述させる問題が大部分を占めています。「知識」を問うのではなく、「自分の頭で考えているかどうか」が問われるのです。
これは現代文でも同じことが言えます。「東大の現代文はすごく難解な文章が出題されるんでしょう?」と思われるかもしれませんが、東大の現代文では「有名大学で東大ほど平易な文章を出す大学はない」と言われるほど読みやすい文章が出されます。早稲田やGMARCHなどの私大の入試問題やセンター試験よりも、はるかに読みやすいのです。
しかし、それでもやっぱり日本一の大学。「読みやすいけど解き難い」のが東大の現代文の特徴です。課される問題がすべて記述式で、「これはどういうことか説明しなさい」「これはなぜか説明しなさい」といった、より深い読解が求められるものになっています。
選択式の問題で、「あらかじめ存在する選択肢のうち、どれが正しいかを選ぶ」ものであれば、選択肢の説明が合っているか間違っているかを判断するだけで済みます。しかし、「どういうことか説明しなさい」などのアウトプットを求められると、説明できるレベルまで深く文章を理解しなければならないのです。だからこそ、いくら平易な文章であっても解くのが難しい――これが東大の現代文なのです。
■「自分の頭で考える力」を読書で磨く
こうした問題に備えて深く読解するためには、「どうしてなんだろう?」と疑問を持ちながら読むことが欠かせません。難しい文章を読んで「ここがわからないな」と疑問を持つというレベルでは足りません。たとえ簡単なわかりやすい内容の文章であっても、「そうは書いてあるけれど、よく考えるとこれってどういうことなんだろう?」など、当たり前に思えることにまで自分なりの疑問を持てるようにならないと、自分の頭で考えることにはなりません。そこまでできないと、東大の問題には対応できないのです。
だからこそ、東大の入試問題を解く訓練として過去問に取り組んでいる間に、東大受験生は「自分の頭で考える力」を鍛えることになります。トレーニングを続けることで、目の前にある文章や習った事柄について「これは一体どういうことなのか?」を深く考える習慣が身についてきますし、逆にそれができないと東大には合格できないのです。実は、僕も「自分の頭で考える」「疑問を持ってみる」ということができなかった結果、二回不合格になってしまいました。そして、「自分の頭で考える」ために必要になってくるのが、「本を読む」という行為なのです。
「この文章で言われていることって、本当にそうなのかな?」と思う部分が出てきたら、「違う本だとどう書かれているんだろう?」と、読書で疑問を解消する。「この問題は、どういう背景があって問われているんだろう?」と感じたら、読書で質問の背景を考えてみる。あるいは、「ここで考えられていることって、ほかの人はどう考えているんだろう?」と疑問を感じたら、読書でほかの人の考えを理解して自分で考えることに活かしてみる。
このように、読書は思考力を高めてくれるツールなのです。
だからこそ東大受験生は勉強する間になんとなく本が読みたくなる。本を読んで、自分の頭で考える訓練をしているのです。
■入学後の授業でも大量の本を読まされる
さて、東大の入試は思考力を問うものであり、思考力を鍛えるために読書が有用だということをご紹介しましたが、東大に入学してから受ける授業では、どのように本を読んでいるのでしょうか。次は、この視点から東大生の本の読み方を考えてみます。
当たり前なのかもしれませんが、東大の授業は本当にたくさんの本を読むことが課せられます。週に1冊本を読んで来なければならない授業もあり、授業で使う分だけで年間50冊以上本を買わなければならないこともあります。
そして、本をふつうに読ませたりはしないのが東大です。ほとんどの東大の教授は、東大生が「ふつうに」本を読むことを求めません。穴を埋めるように本を読むことを求めるのです。
「穴を埋めるように」――そんなことを言われてもピンと来ない方がほとんどだと思います。「本に穴なんて空いてないじゃないか」と。でも、実際は、穴の空いていない本なんてないのです。もちろん物理的に本には穴は空いていません。しかし、論理的には、絶対にどんな本も穴があります。
誰が読んでもなんの疑問も浮かばない、なんの反論の余地もない文章というのは存在しません。法律ですら解釈が分かれていますし、どんなにツッコミどころを排除しようと思っても、何かしら論理の「穴」が空いてしまうものです。
■「穴」が思考のきっかけになる
また、著者があえて穴を用意することもあります。意図的に議論の余地や解釈の分かれるポイントを用意しておき、読者にも一緒になって考えてもらう、という文章も多く存在しているのです。
たとえば、「みなさんは、○○についてどう思いますか?」などと疑問が投げかけられる文章に出合ったことはあると思います。この本でもよく登場していますよね。こういう読者への問いかけは、本来は必要のない文言です。ここを削っても、おそらく多くの人はそのまま読み進められることでしょう。
それでもこういう文言が必要なのは、この文言が「穴」になるからです。読者が「そういえばなんでなんだろう?」と自分の頭で考えるきっかけになるようなツッコミのポイント。受動的に「そうなのか」とうなずくだけではなく、能動的に「うーん、こういうことかな?」と自分の意見や考えを持ってもらうきっかけになる言葉――こうした、読者をより文章に引き込むためのポイントが「穴」なのです。
東京大学出版会の『言語科学の世界へ―ことばの不思議を体験する45題』のように、「興味があれば、これを自分で調べてみましょう」と、わかりやすく読者が補完するべき「穴」を空けている本もあれば、抽象的なことを語って具体例は読者が補完する「穴」として、あえて書かないというパターンの本もあります。
このように、著者は自分の文章の中に疑問を投げかけたり、議論や解釈が分かれる、「穴」になる箇所をつくっているのです。
■疑問に対する自分なりの解答を作る
東大の授業で課題図書を課す場合には、「穴」を自分で見つけさせ、そして「穴」を自分で埋めさせます。
たとえば東大の授業のよくある課題として、「この本を読んで、疑問に思ったことやもっと深めたいと思った箇所を見つけて、授業の内容を踏まえて自分で調べ、3000字のレポートでまとめなさい」というものがあります。ただ本を読むだけではなく、ツッコミどころを探させて、自分でそれを補完するという訓練をさせる。入試問題でも平易な文章を読ませて「自分の頭で考え、疑問を持ってみる」ことを受験生に求めていましたが、大学入学後は、難しい本を読み、疑問に対する自分なりの回答をつくらせるところまでをセットで訓練するわけです。
そして、本自体も「穴の多い本」が選ばれます。自分で考えるべきことや自分なりに解釈しなければならないポイントが多く存在している本を用意して、そこで出てくる疑問点を授業で解説しつつ、学生自身にも埋めさせる。だから、「今日はこの本の○○ページの疑問を解説しましたが、今の解説に対する反論や自分なりの意見をこの紙に書いてください。それを出席代わりとします」などと言ってリアクションペーパーを配る授業も少なくありません。東大では、こうやって、学生自身が能動的に本から知性を育むことができるような訓練を課しているのです。
たかが本の読み方ではありますが、このように東大では「学び方」を学び、訓練するためのツールとして本が使われています。みなさんも、「穴」を意識して本を読んでみてはいかがですか?
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現役東大生ライター
1996年生まれ。歴代東大合格者ゼロの無名校から東大受験を決意。2浪が決まった崖っぷちの状況で「『読む力』と『地頭力』を身につける読み方」を実践。東大模試全国第4位を獲得し、東大にも無事に合格した。現在は家庭教師として教え子に読み方をレクチャーする傍ら、学内書評誌「ひろば」の編集長を務める。著書に『現役東大生が教える「ゲーム式」暗記術』『読むだけで点数が上がる!東大生が教えるずるいテスト術』など。
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(東京大学4年生 西岡 壱誠 写真=iStock.com)
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