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ビジネスハウツー本では絶対偉くなれない

プレジデントオンライン / 2019年2月1日 9時15分

雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第6位の『ビジョナリー カンパニー』。解説者はSBIホールディングスの北尾吉孝社長――。

■再読することで、血肉となる

私は長年、数多くの書物に親しんできました。そのなかにはピーター・F・ドラッカーの著作をはじめ、さまざまなビジネス関連の書籍も含まれています。とりわけ実務でも役立ったのが、『ビジョナリー カンパニー』です。著者は大企業のトップに対する調査から、先見性があって優れた業績を上げ、かつ社会から評価される企業、すなわち「ビジョナリー カンパニー」となるための条件を導き出しており、経営者としての私の考え方や生き方に大きな影響を与えてくれ、今回の上位へのランクインも当然のことと思います。

同書が海外でベストセラーになっていたのを知っていた私は、1995年に日本語版の初版が出ると、すぐに買い求め、味読しました。原文も読みましたが、目から鱗が落ちるような思いの連続でした。また、ちょうど野村證券からソフトバンクに移った時期で、足元が固まっていなかったソフトバンクの進むべき方向の策定などに、同書の内容は大いに活かせました。

良書と呼ばれる本は、何度も読み返したくなるもので、私も『ビジョナリー カンパニー』を折に触れ読み直してきました。99年にSBIホールディングスを立ち上げた際も、経営理念づくりの参考にしようと再読しました。そうするなかで同書は、経営者としての私の血となり、肉となりました。

同書が画期的なのは、100年、200年と続くビジョナリー カンパニーと、そうでない企業を対比して、それらの違いを浮き彫りにしているところです。そこから導き出された重要な法則の1つが、「企業の経営理念は理論や外部環境に左右されないもので、ビジョンは経営環境に応じて変化させ、発展させるもの」ということです。

わが社も長期に継続して取り組むべき企業の目標として、「SBIグループの5つの経営理念」を掲げています。すなわち、「金融イノベーターたれ」「新産業クリエーターを目指す」「セルフエボリューションの継続」などの5つの考え方です。その一方で、組織の望ましい中期的な将来像を示すビジョンは絶えず見直しを図り、いまは「連結税引前利益は、1~2年後に1000億円超の達成を目指す」「ROEは10%以上の水準を維持」などの5つの具体的な姿を描いています。

■本を読むことで「三無」に陥らず

同書が導き出したもう1つの重要な法則が、「基本理念がしっかりしている」ということです。私は人間に人徳が必要なように、「企業にも“社徳”が必要だ」と考えています。社徳がなければ、優れた人材が自然と集まるような企業にはなりません。そのために企業は「利益の追求」と「社会への貢献」といった一見、矛盾した行為を両立させなければならないのです。

SBIホールディングス 代表取締役社長 北尾吉孝氏

同書でも「ビジョナリー カンパニーになるには『ORの抑圧』ではなく、『ANDの才能』が必要だ」と説きます。つまり、「利益か、はたまた社会的貢献かを選択する」のではなく、「利益を増やしながら、社会にも貢献できる」ビジネスモデルを構築するのが、ビジョナリー カンパニーだというのです。それゆえわが社は、先の経営理念のなかに「正しい倫理的価値観を持つ」「社会的責任を全うする」という考え方も盛り込んでいるわけです。

私は『ビジョナリー カンパニー』を味読しながら、古今東西の名著との共通点を見出し、「企業の成功条件とは万古不易なもの」であると確信しました。たとえばこの「ANDの才能」は、ドイツの哲学者であるヘーゲルの弁証法の「正反合の理論」と相通じます。ヘーゲルは、ある概念とそれに対立する概念とがぶつかり合って「止揚」されることで、物事が進化すると考えました。同様に、利益(私益)とともに、社会的貢献(公益)を追求することで、企業も発展を遂げるわけです。

また、『ビジョナリー カンパニー』のエッセンスは、中国の古典にちりばめられた金言や格言ともオーバーラップしています。『春秋左氏伝』には、「義は利の本なり、利は義の和なり」という言葉があります。「社会正義が根本にあれば、利益は自ずとついてくる」といった意味で、利益の追求と社会的貢献は矛盾しないことを示しており、「ANDの才能」と同じことなのです。

『大学』に、「湯の盤の銘に曰く、苟(まこと)に日に新たに、日日に新たに、また日に新たなり」という言葉があります。白虎隊で有名な会津藩校の校名にもなった「日新」の銘は、殷を建国した湯王が洗面の器に刻み、毎日自戒したフレーズだといわれ、「絶えず自己変革する」ことの重要性を示しています。これは、『ビジョナリー カンパニー』で述べられているように、常にビジョンを変化させ、発展させるべき企業の姿勢にも合致します。

ところで私は、若いビジネスパーソンがあまり本を読まなくなったことに、危惧を抱いています。ベンチャー経営者や起業を目指す若者なら、なるべく多くの名著に触れるべきです。というのも、ビジネスで成功しない人は往々にして、「知識がない」「勇気がない」「徳がない」という「三無」であり、「本を読まない人=三無」だからです。

ビジネスには「先を見通す力」が不可欠です。それを磨くにはまず本をよく読み、知識を身につけなければなりません。ただし、知識があるだけでは足りず、「知行合一」的にそれを実行に移す勇気も必要です。さらに、経営者には他人を引きつける“徳”が求められます。徳がない人には、支援してくれる人材も資金も集まりません。

三無を解消するには、「古今東西の古典を読むこと」が最適といっていいでしょう。目先の有益な情報が欲しくて、ハウツー本にばかり頼るのは感心しません。古典には、歴史の篩(ふるい)にかけられた先人たちの知恵が詰まっています。先見性を養うための知識が得られるだけでなく、実行力や人徳を高めるのにも役立ちます。

さらに「自分がもし経営者だったら、どのように活かすか」と考えながら本を読み進めると、実際のビジネスシーンでの行動も変化してきます。そうしたなかで、本書は世界中の経営者から支持されてきたロングセラーで、「実践経営学の古典」ともいうべき名著です。ぜひ一読してみてください。

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北尾吉孝(きたお・よしたか)
SBIホールディングス 代表取締役社長
1951年、兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村證券事業法人三部長などを経て、95年ソフトバンクに入社、常務取締役に就任。99年より現職。SBI大学院大学の学長なども兼務する。

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(SBIホールディングス 代表取締役社長 北尾 吉孝 構成=野澤正毅 撮影=石橋素幸)

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