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「介護と相続を交換条件」は修羅場を招く

プレジデントオンライン / 2019年1月19日 11時15分

写真=iStock.com/FredFroese

2018年7月、相続関連の民法改正が国会で決まった。「配偶者居住権」が誕生するなど、1980年以来の大幅な見直しとなる。改正のポイントはどこか。どんな準備が必要なのか。今回、3つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第2回は「献身介護と相続」について――。(第2回、全3回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

■介護貢献で簡単に相続分が増えない現実

財産を遺して亡くなった人を生前に介護した相続人は、その貢献度に見合った相続分を要求することができる。これを「寄与分」という。一見嬉しい制度に思えるが、現実は厳しい。

「現行の制度にはいくつかの問題があります。そのひとつは、相続人以外の人は寄与分を主張できないことです」

そう説明するのは、相続・遺産分割や介護トラブルを専門とする弁護士の外岡潤氏だ。

「たとえば妻が夫の親を介護していた場合、この妻には寄与分を主張する権利がありません。妻の貢献を夫のものと見なして、夫が寄与分を主張するのは可能ですが、たとえ主張できても、寄与分を認められるためには相当に高いハードルを越える必要があります」

相続人の誰かが寄与分を主張し、他の相続人がそれに同意、金額も協議で決まれば何の問題もない。だが協議が紛糾した場合は、家庭裁判所に決定を委ねることになる。

家庭裁判所から認められるためには、以下の要件に沿って「特別な寄与」があったかどうかが問われる。それは「療養介護を必要とする病状であったこと。目安としては要介護2以上」「無償、またはそれに近い状態で介護していたこと」「少なくとも1年以上の継続性」「他の仕事をせず、介護に専念していたこと」などだ。さらにこれらによって、高額な施設へ入所せずに済んだなど、「財産の維持または増加に貢献した」という結果がなくてはならない。

しかも寄与分を認められたとしても、その額は決して多くない。13年間の介護に対して、200万円の寄与分だけが認められた裁判例もある。

それでは、2018年7月に相続関連の民法改正法が成立したことで、寄与分に関しては何が変わったのだろうか。

「相続人以外の被相続人の親族も、寄与分を主張できるようになりました。つまり夫の親を介護していた妻は、夫の生死にかかわらず、相続人に対して特別の寄与料を請求できるようになったのです。寄与分が認められるためのハードルの高さなどは変わらないので、根本的な問題解決としてはまだ遠い印象です。それでも『介護をした者にも権利があって、救済されるべき』という話が通りやすくなるという意味では、価値のある法改正だと言えます」(外岡氏)

▼ケーススタディ(1)
認知症の母親を15年間介護した妹vs介護に協力しなかった姉

■介護と相続を交換条件にするのは危険

長女と次女の母親が認知症を発症。長女は遠方に嫁いでいたため、独身の次女が母親と同居し、15年間、仕事を続けながら在宅介護を行った。次女の介護負担は重く、途中何度も長女に協力を要請。しかし長女は応じず、「相続のときに次女が寄与分を主張して、それで調整すればいい」と言っていた。

そして母親が亡くなると、長女は「寄与分の額は専門家の裁定をもとに決めたい」と、弁護士に相談。弁護士は介護記録などをもとに、「次女が行ってきたのは仕事をしながらの介護。寄与分が認められるものではない」という見解を示し、協議は紛糾した。

このケースについて、日本相続学会会長の伊藤久夫氏は、「親の介護負担が1人に偏り、その偏りを遺産分割で精算しようとしたことがよくなかった」と指摘する。

「民法では、親の介護は扶養義務に含まれ、扶養義務者は直径血族と兄弟姉妹にあります。そして扶養義務と相続は法律において関連がありません。ただし扶養義務を超える『特別な寄与』があった場合だけ、+αの相続分を要求でき、介護と相続がつながります。親の介護が扶養義務の範疇なのか、それを超える『特別な寄与』なのか――。それが確定しない時点で、長女が『寄与分で調整すればいい』と、介護と相続を交換条件にしたことが、問題の源でした。そもそも相続財産がマイナスだった場合、介護を精算することはできないのです」(伊藤氏)

また、両者の納得するポイントも異なっていた。論理的に納得したいタイプで、法律に則って寄与分を決めようとした長女。対して次女は感情でも納得したいタイプで、感謝の言葉がまずほしかった。2人が納得するポイントを見つけるのは、至難の業だ。

「争いを避けるために必要だったのは、『相続が均分相続なら、介護も均分介護』という考え方。介護は家族の誰か1人がすべて背負いがちになりますが、この場合の扶養義務は2人の姉妹にあります。まずはそれを自覚し、介護がスタートした時点で、今後の介護の方針と互いの役割分担を話し合うべきでした。そこを省略し、相続で精算しようとしたために、ボタンの掛け違いが起きたのでしょう」(同)

親の介護負担は、特定の子に偏ってしまうことが多いので、バランスを整えるよう努力する必要がある。そして介護はいつまで続くかわからず、状況は日々変わっていく。

「最初の話し合いだけでなく、途中のメンテナンスも大事。できれば3カ月に1度くらいのペースで兄弟姉妹がコミュニケーションをとり、問題点を調整するべきです」(同)

▼争いを避けるポイント
・介護と相続を交換条件にしない。
・親の介護は子ども全員で均分。互いに労る。
・親の介護が始まったら、子ども全員で相談。
▼ケーススタディ(2)
母親を介護した次男夫婦が情報開示を拒み、協議が泥沼化

■記録をとり、情報共有して争いを回避

母は生前、亡き父が創業した会社を長男、次男とともに継承。経営に携わった。そして亡くなる5年前から要介護状態となり、次男の自宅で介護を受けて死亡。母を主に介護していたのは次男の妻だ。

死後に行われた遺産分割協議で、次男は介護に対する寄与分を主張。長男と長女は、次男に介護費用の開示を求めたが、次男は応じなかった。一方、母名義の預金がわずかしか残っていなかったため、長男と長女は「介護費用を口実に次男が使い込んだのでは?」と疑った。

また、母が次男の妻に1000万円の生前贈与をしていたことが判明。贈与時に母は要介護状態であったため、「贈与は本人の意思で行われたのか?」と長男長女は疑いを深めた。さらに、長女が「長男と次男は母の生前に多額の支援を受けているはずだ」と主張し、協議は泥沼化した。

どうすれば問題を最小限にできたのだろうか。まず介護の面では、母の在宅介護が始まった時点で、兄弟姉妹全員で役割分担や介護費用の負担などについて、十分な話し合いをするべきだった。さらにこのケースでは、次男が介護費用を開示しなかったことが、問題を深刻化させている。

「出納記録は無用な相続争いを回避するためにも重要です。次男夫婦はオムツ代や病院への交通費、薬代など日々の細々とした出費など、介護費用を記録しておくべきでした。ただし、介護をしながら毎日記録をつけるのは簡単ではない、と他の兄弟は理解しなければなりません」(伊藤氏)

伊藤氏が勧めるのは、情報を共有するメモだ。親が施設などに入所している場合は、小さなノートを置いて、親の食欲の状態や顔色、看護師から聞いたことなど、訪問した人は簡単なメモを残しておく。紙ではなくて、SNSを使って情報共有してもいい。どんな形でもとにかくメモを残しておくと、話し合いの際、重要な記録になる。

要介護者である被相続人の生前贈与はどうだったのか。介護される側にしてみれば、相続権の有無に関係なく、特定の者にお金を残したいと考える場合もあるだろう。

「そのようなときは意思表示ができれば、遺産分割協議より優先される遺言書を書くといいでしょう。また生命保険金は遺産分割の対象にならないため、お金を渡したい相手を保険金の受取人にしておく、という方法もあります。また要介護状態の人が生前贈与すると、後々、本人の意思の有無を疑われることもある。贈与契約書を作り、意思表示能力があることを証明する医師の診断書をつけることをお勧めします」(同)

▼争いを避けるポイント
・特定の人に財産を渡したければ遺言書を書く。
・介護費用の出納記録をつける。
・介護記録をとり、情報を共有する。

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外岡 潤
弁護士
ホームヘルパー2級。介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。著書に『認知症になった親の財産と生活を守る12のメソッド』(日本法令)など多数。
 

伊藤久夫
名古屋市社会福祉協議会に勤務後、生命保険会社にて24年勤務、その後「ライフテーブル」を創業し、現在代表取締役。相続学校なごや校長。一般社団法人日本相続学会会長。
 

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■▼【図表】相続分が増える「寄与分」とは?

(山田 由佳 写真=iStock.com)

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