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ソフトバンク株が期待外れだった根本原因

プレジデントオンライン / 2018年12月26日 15時15分

ソフトバンクが東証1部に上場。だが株価は公募価格を割る期待外れの展開となった。(写真=EPA/時事通信フォト)

■大々的な宣伝を打ったが、期待外れの展開に

ソフトバンクグループ(SBG)の通信子会社である、ソフトバンク株式会社(ソフトバンク)の上場に対して批判の声が高まっている。元々、ソフトバンクのIPOに不安を感じる人は少なくなかった。IPO直前に、通信障害をはじめソフトバンクの今後の業績を左右するリスクが浮上してきた。

同社のIPOに関しては、事前に大々的な宣伝を打ち、配当利回りの相対的な高さを謳って個人投資家の注目を積極的に集めた。引受手数料に関しても、対面販売の手数料を厚くするなどさまざまな取り扱う証券会社の営業に対する配慮もなされた。

ところが、IPO後の株価推移をみると、今のところ期待を裏切る結果と言わざるをえないだろう。株価下落に失望した人も少なくないはずだ。世界的に株価が軟調だったことを割り引いても、期待外れの展開になっている。

逆に投資家とすれば、この教訓は生かさなければならない。投資家にとって重要なことは、当該投資案件に関するリスクを適正に判断することが求められる。その上で、時間とタイミングを分散して、安値での投資を心掛けるべきだ。今回のソフトバンクのIPOは、それを再確認するよい機会だったといえるかもしれない。

■2.6兆円余りを調達した過去最大のIPO

12月19日、東京証券取引所1部にSBGの通信子会社であるソフトバンクが上場した。上場によって、ソフトバンクは2.6兆円余りを市場から調達した。過去最大のIPOであっただけに、市場参加者の関心は高かった。

IPOの理由は、グループ全体での投資事業の強化である。有望なテクノロジー企業などに投資を行い、その成長力をSBGだけでなくソフトバンクでも積極的に取り込むことが目指されている。

「ソフトバンクは、金の卵を産むガチョウの存在を大切にし、自らが金の卵を産むガチョウになりたいと思う」。2015年3月期の第2四半期決算説明会にて、SBG創業者であり同社の会長である孫正義氏はこう述べた。これは、SBGが、AI(人工知能)などのIT先端技術などの分野で成長(業績の拡大)が期待できる世界のスタートアップ企業への出資(投資)を重視していることを表した発言だ。その上で、SBGは新しいテクノロジーの実用化などを通してより大きな付加価値を創造することを目指している。

そのよい例が、中国のアリババ集団への投資だ。2000年、孫氏はアリババの創業者、ジャック・マー氏の将来性を見抜き、20億円を出資した。2014年9月、アリババはニューヨーク証券取引所に上場した。その時点で、SBGの含み益は8兆円程度に達したと考えられている。

■IPOを急ぐSBGの姿勢は相当に強かった

孫氏は、アリババのような新興企業を発掘し、それに出資することでグループ全体の競争力を引き上げたい。SBG以外の関連企業の投資能力の向上には、投資に回せる自己資金の確保がどうしても必要だ。

そのため、ソフトバンクの上場が行われた。米中貿易戦争など、世界経済の先行き不透明感が高まってきただけに、IPOを急ぐSBGの姿勢は相当に強かったといえる。そのため、今回のIPOに関して強引、強硬実施といった印象を抱いた市場参加者は少なくなかったようだ。

19日、ソフトバンクの初値は1463円と公開価格(1500円)を下回った。その後、同社の株価は1170円台にまで下落する場面を挟み、1316円で週末を迎えた。この間、株価が公開価格を上回って取引されることはなかった。

■通信障害のマグニチュードはあまりに大きかった

株価推移から言えることは、ソフトバンクの経営リスクを考えると、公開価格が高すぎると考える投資家が多かったということだ。そのため、買い注文を売り注文が上回り、株価が下落した。ソフトバンクは市場から厳しい評価を受けた。

まず、12月上旬の通信障害のマグニチュードはあまりに大きかった。その原因は、通信ソフトウェアの有効期限切れだ。これは、同社のシステム管理体制の甘さを露呈した。同社は原因の特定に2時間以上を要し、通信の復旧には4時間程度の時間がかかった。その間、国内を中心に人々のビジネス、日常生活に大きな混乱が生じたことは言うまでもない。

この通信障害の発生は、基本的なシステム管理体制の不備にあると指摘する専門家もいる。そうした考えを基に、ソフトバンクの業務監査体制を含め、ガバナンスが十分ではないと考える市場参加者は増えた。IPOが延期されるだろうと真剣に考える機関投資家もいた。

■“ペイペイ”の不正請求被害なども発覚

また、ソフトバンクの収益性悪化への懸念も高まっている。携帯電話大手企業の中で、ソフトバンクは唯一、中国ファーウェイ社製の基地局を採用してきた。米国を中心とするファーウェイ製品の排除を受けて、ソフトバンクは欧米企業の基地局製品への取り換えを進める予定だ。それにはかなりのコストがかかる。

特に、政府の要請で携帯電話料金が引き下げられる中、ソフトバンクが収益性を維持できるかは不透明だ。

このように考えると、経営管理体制と収益の両面でソフトバンクの経営リスクは上昇している。モバイル決済アプリである“ペイペイ”の不正請求被害なども発覚している。当面、同社株は不安定に推移する可能性がある。

■SBGの成長が、ソフトバンクの成長を左右する

今後のソフトバンクのビジネスを考えると、SBGの存在は抜きにできない。SBGの成長が、ソフトバンクの成長を左右すると考えられる。

ソフトバンクが収益を獲得するには、より通信速度の速いサービスの提供や、新しい通信デバイス(携帯電話)の投入などで、契約者を増加させなければならない。そのためには、SBGとの協働が重要になる。

具体的には次のような展開が考えられる。SBGがスタートアップ企業への投資などを進めて新しいテクノロジーなどの実用化を目指す。その上で、ソフトバンクが新しいテクノロジーを用いた通信サービスやコンテンツビジネスを提供して、収益を獲得する。

■最大のリスクは、孫氏の後継者問題

突き詰めて考えると、SBGにとって最大のリスクは、孫氏の後継者問題だ。それがどうなるかによって、SBGおよび関連企業の成長は左右されるだろう。SBGは孫会長の眼力によってスタートアップ企業の創業者の資質を見極め、出資を行い、成長を取り込んできた。

孫会長と同じ、あるいはそれ以上の眼力を持つ人材を確保できるか否かが、SBGとソフトバンクをはじめとする関連企業の成長を左右するだろう。孫氏の発想力や人を引き付ける力、アニマルスピリット(成長を追い求める血気、野心)を考えると、そうした人物を見出すことは口で言うほど容易なことではないだろう。また、ビジョンファンドに出資を行っているサウジアラビア政府のリスクなどもSBGの経営を左右する恐れがある。

ソフトバンクの株価動向は同社の経営管理体制の改善と強化の進捗だけでなく、親会社であるSBGとの関係、SBGの経営の持続性向上などとともに考えていく必要がある。上場後もSBGはソフトバンクの66%超の株を保有している。

SBGに求められることは、同社の取り組みによってソフトバンクの持続的な成長が期待できる環境を目指すことだ。それができれば、ソフトバンクの株主価値の向上も期待できるだろうし、先行き不安もある程度解消されることも考えられる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=EPA/時事通信フォト)

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