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海外人材を増やすなら技能実習は廃止せよ

プレジデントオンライン / 2018年12月30日 11時15分

改正出入国管理法が成立し、来年4月から外国人労働者の受け入れが拡大する。だが制度の全体像はまだ明らかになっていない。本当に大丈夫なのか。先行する韓国では、日本の「技能実習制度」を模倣した制度が行き詰まり、「雇用許可制」に切り替えている。韓国の労働事情に詳しい福島大学・佐野孝治教授は「日本も技能実習制度を廃止すべきだ」と提言する――。

改正出入国管理法が12月8日に参院本会議で可決し、成立した。来年4月から、「特定技能1号」と「特定技能2号」の在留資格を新設するとともに、出入国在留管理庁を設ける内容である。筆者は、技能実習生や留学生に単純労働を依存している現状に比べれば、新たな在留資格を設け、労働者として受け入れるという方向性に、基本的に賛成である。

しかし、審議時間が少なく、受け入れ人数や基準など制度の全体像が明らかになっていない。また、受け入れ態勢、社会保障、技能実習生の実態など解決すべき課題も、省令に委ねられ、先送りされている。そこで本稿では、韓国の「雇用許可制」を研究してきた立場から、出入国管理法の2年後の見直しに向けて、持続可能な外国人労働者受け入れ制度を構築するため、いくつかの提言を行いたい。

提言が目指すのは、日本人と職を奪い合うことがなく、外国人労働者の労働者としての権利が保護され、日本人と共生するための支援制度が整い、多文化共生を基本に置いた持続可能な外国人労働者受け入れ制度である。

■政府が雇用許可書を発給する韓国の「雇用許可制」とは

まず簡単に韓国の「雇用許可制」について説明しておこう。韓国では、当初は外国人労働者を受け入れる際に、日本をモデルとして、「研修就業制度」(研修生・実習生制度)を採用していたが、2004年に雇用許可制へ転換した。そして、2007年には、研修就業制度を廃止した。さらに在韓外国人処遇基本法(2007年)や多文化家族支援法(2008年)などを相次いで制定し、統合政策を進めている(※1)。その後、外国人労働者は増加し、2017年末には83.4万人に達し、就業者数の3.1%を占めている(日本は、128万人で、2%)(図表1)。

韓国の雇用許可制とは、「国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府(雇用労働部)から雇用許可書を受給し、合法的に外国人労働者を雇用できる制度」である。2018年9月末現在、一般雇用許可制(非専門就業ビザ)は27万8690人と特例雇用許可制(訪問就業ビザ)(※2)は24万3905人である。

日本の参考になる一般雇用許可制は、ベトナム、フィリピンなど16カ国政府との間で二国間協定を締結し、毎年、外国人労働者の受け入れ人数枠(クォータ)を決めて実施する制度であり、中小製造業、農畜産業、漁業、建設業、サービス業の5業種が対象である。

(1)労働市場補完性(自国民優先雇用)の原則、(2)短期ローテーション(定住化防止)の原則、(3)均等待遇(差別禁止)の原則、(4)外国人労働者受け入れプロセスの透明化の原則の下で、制度設計がなされ、運営が行われている。施行後14年間で、韓国の経済・社会に対してプラス面だけではなく、マイナス面での影響も表れてきており、この知見を日本に活かすことができると考える。(図表2)。

(※1)佐野孝治[2017]「韓国の『雇用許可制』にみる日本へのインプリケーション」 『日本政策金融公庫論集』第36号。
(※2)特例雇用許可制は中国など11カ国の韓国系外国人(在外同胞)を対象とし、サービス業など38業種が対象である。クォータ管理をせず、総在留規模で管理している。

■提言1 業種ごとの受け入れ人数枠を設定せよ

韓国では、労働市場補完性(自国民優先雇用)の原則に基づき、国務調整室長を委員長とする各省庁次官クラスによる外国人力政策委員会が、毎年、労働市場需給調査、景気動向、不法滞在者数などを考慮し、国別、産業別に受け入れ人数枠を策定する。また労働市場テスト(求人努力)を行い、国内で労働者を雇用できない企業に対して許可を与えている。その際、改善点数配分方式により、新規外国人労働者の配分をしている。また、事業場移動が原則3回に制限されている。

その結果、一般雇用許可制により、失業率の上昇は起きておらず、またいわゆる3K業種の製造業中心に就労しているため、韓国人労働者との競合は少なく、補完的役割を果たしているといえる。ただし、韓国系外国人を中心とする特例雇用許可制では、サービス業や建設業での就業が認められ、事業所変更も自由であるため、競合している面がある。「韓国人の外国人に対する世論調査」(女性家族部[2015])を見ると、2011年から2015年にかけて、「仕事を奪う」が30.2%から、34.6%に上昇しており、外国人労働者を見る目が厳しくなりつつある。

他方、日本の新制度では、人手不足の分野とはいえ、介護、建設など14業種で最大34万5150人と規模も大きい上に、業種ごとの受け入れ上限設定も決められていない。さらに、同一分野内で転職が可能になるため、日本人労働者との競合や労働条件の悪化の懸念がある。

この課題を解決するために、まず、来年4月までに、各省庁の幹部クラスから構成される外国人労働者委員会を設置し、業界の労働市場などの基準に基づいて、毎年の業種別、国家別のクォータを決める枠組みを作るべきである。また労働市場テスト(求人努力)を義務づける必要がある。さらに、見直しの際には、韓国型の改善点数配分方式(法令違反がなく成長可能な業種と企業に優先的に労働者の受け入れを認める制度)や、台湾型の就業安定費(外国人雇用税を企業から徴収し、安易な外国人労働者の受け入れを抑制するとともに、自国民の職業訓練の費用に充てる制度)を導入すべきである。

■提言2 名ばかりの技能実習制度は段階的に縮小・廃止せよ

国会での議論の成果としては、技能実習制度の問題点が明らかになったことである。2016年の技能実習法成立により、「外国人技能実習機構」が設立されるなど一定の改善がなされているとはいえ、7割にあたる事業場で労働基準関連法令違反が起きている。米国国務省『人身取引年次報告書』でも、2007年から11年間にわたって、「人身取引」と批判の対象となっている。少なくとも「国際貢献」という建前は世界から信じられていない。

新制度は、この技能実習制度を土台として、それに接ぎ木した制度設計になっている点は問題であり、技能実習制度を段階的に縮小・廃止し、新制度へ一元化するためのロードマップを策定すべきだと考える。韓国でも2004年に雇用許可制を導入して、3年後に「研修就業制度」を廃止・一元化しており、日本でできないことはない。他方、「国際貢献」目的の技能実習は、人数を大幅に縮小し、JICA(国際協力機構)が担当すればよい。

■提言3 受け入れ企業への罰則・監視を強化せよ

外国人労働者は、使い捨ての労働力ではなく、人間である。韓国では、外国人も労働三権、最低賃金、各種保険の適用を受ける。また法令を順守させるため、全国の雇用支援センターに加え、外国人勤労者支援センターなどを設置している。加えて民間支援団体は300団体以上あり、多言語での相談活動、シェルター提供などの支援を行っている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/andresr)

しかし、韓国でも賃金格差、差別、事業場移動の制限などはなくなっていない。特に、農畜産業では勤労基準法の適用が除外されるため、劣悪な労働条件・人権侵害にさらされやすく、国内外から厳しい批判を受けている。

他方、日本では、技能実習生で法令違反が続いている。新制度では、同一分野内で転職の自由があるので一定程度改善が見込めるが、人権侵害が続出することは目に見えている。それを防ぐためには、罰則規定の強化と専門的スタッフの増員による実効ある監視体制が不可欠である。新制度では出入国管理庁による立ち入り検査により、改善命令に従わなければ6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科すことになっており、改善がみられる。しかし、企業数に比べ、多言語を話せるスタッフの数が少なすぎて、実効性に懸念が残る。また日本語教育、生活支援、社会保障などについては、国、地方自治体、NPOなどによる総合的な支援システムの構築と財政措置が必要である。

■提言4 短期ローテーション制を機能させるのは難しいと認識せよ

韓国では、滞在期間の長期化、不法労働者化、結婚や家族の呼び寄せなどに伴う社会的コストの増加を抑制するため、雇用期間を限定し、自発的帰還プログラムを実施するとともに、退職金を出国時に受け取れる出国満期保険や帰国費用保険によって、帰国のインセンティブを持たしている。 

しかし、滞在期間については、企業の要望、不法労働者化の抑制といった観点から、次第に長期化している。また不法滞在者は、2018年9月現在34.5万人と、外国人の14.8%を占め、増加傾向にある。特に非専門就業でも、2017年には9455人失踪している。このように短期ローテーション制を機能させるのは非常に難しい。

今回の日本の新制度は、技能実習制からの移行組が約5割と見込まれている。これは技能実習3年(+2年)をさらに「特定技能1号」で5年間延長する制度とみることができる。韓国や台湾と同様、5年後の期間満了の時期になれば、企業の要望や失踪者の抑制のために、特定技能1号を延長すべきという議論が出てくるはずである。

他方、「特定技能2号」については、建設、造船の2業種を対象とし高難度の技能試験に合格する必要があり、家族帯同や在留期限更新が可能だということぐらいしかわかっていないが、ハードルが高く、移行者は多くないだろう。韓国でも、熟練技能人材点数が高い順に、特定活動、居住に変更できる制度を導入しているが、年間400人程度で、まさに「蜘蛛の糸」である。

■提言5 民間ブローカーを排除、政府主導の受け入れ態勢をつくれ

韓国では、研修就業制度の時代、民間事業者・ブローカーにより、不正が横行したことの反省から、送出国との間で二国間協定(MOU)を締結し、雇用労働部が主管して、韓国語教育から帰国までの全プロセスを運営している。これにより、プロセスが透明化し不正の減少につながっている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/maroke)

また労働者の求職コストは、日本の1割から2割程度であり、ブローカーに借金をする必要がないだけでなく、事業主の求人・管理コストの削減にもつながっている。このことが評価され、2011年に「国連公共行政大賞」の受賞につながった。また2017年には、世界銀行から、「優れた情報アクセス」と高く評価されている。

他方、日本の新制度では、悪質なブローカーや高額な保証金を排除するとしているが、実効性には疑問が残る。短期的には、民業圧迫や公的機関の非効率性などに対する懸念から公的システムの導入は難しいと思われるが、長期的には、出入国在留管理庁から厚生労働省の主管に移し、透明性が高く、低コストの政府主導型の受け入れシステムとして「グローバル・ハローワーク」を構築すべきである。

現在、アジアにおいて経済成長と少子高齢化が進むなかで、外国人労働者争奪戦時代が起きている。上から目線の「外国人労働者を受け入れてやる」という姿勢では、韓国や台湾の後塵を拝すことは目に見えている。今後、日本が少子高齢化の中で、経済成長を持続させるとともに、日本人と外国人が共生できる社会を作っていくためには、多文化共生を基本に置いた持続可能な外国人労働者受け入れ政策への転換を進め、そのためのロードマップを策定していくことが求められる。

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佐野孝治(さの・こうじ)
福島大学経済経営学教授
1963年生まれ、慶應義塾大学大学院博士課程・単位取得退学、専門は開発経済学,アジア経済論。著作に、「韓国の外国人労働者受け入れ政策」(高橋信弘編『グローバル化の光と影』、晃洋書房, 2018年)、「アジアにおける国際移民」 (朱永浩編『アジア共同体構想と地域協力の展開』文眞堂, 2018年)などがある。

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(福島大学経済経営学教授 佐野 孝治 写真=iStock.com)

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