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仕事が楽しくない40代が抱く不安の正体

プレジデントオンライン / 2019年1月9日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/diego_cervo)

仕事が楽しくない。仕事に夢中になれない。こうした悩みを抱えるのはなぜだろうか。法政大学の田中研之輔教授は「長年同じ組織で働いてきたミドルエイジには“キャリアの停滞期”が訪れやすい。停滞期を抜け出すには、主体的にキャリアを築く“プロティアン・キャリア”の考え方を取り入れて仕事に取り組むことが効果的だ」と語る――。

■ミドルエイジが陥るキャリアの停滞期

新年を迎えました。心機一転、新しいことに挑戦しようというモチベーションが湧いてきますね。とはいえ、仕事の内容は年を跨いでも大きく変わることはありません。任された業務を計画的に粛々とこなしていく人が大半を占めているのではないかと思います。

楽しく仕事をしていますか? 夢中で仕事に打ち込んでいますか?

長年、働いてきてビジネスキャリアが形成されてくると、仕事で心を踊らすような経験は少なくなってきます。その理由は、目の前の任された仕事は、これまでの経験で対処できるものだからです。

そのような人が陥るのが、「キャリア・プラトー(停滞)」という状態です。プラトー(Plateau)とは、高原または台地の意味です。キャリア・プラトーはこれ以上組織の中での昇進や昇格が望めないステージで感じる、「伸びしろのなさ」や停滞感を表します。

簡単に言ってしまえば、キャリア・プラトーとは、ミドルエイジ(40代から50代前半の人)を迎え仕事には真面目に取り組んでいるが、働くモチベーションが低下している停滞期です。

■転職は「ポジティブな選択」になる

世界屈指の長寿化社会で、働くことも長くなる私たちは、誰しもがこのキャリア・プラトーに陥るといっても過言ではありません。このキャリア・プラトーを抜け出す選択の一つとして、近年、増加傾向にあるのが、転職です。

その現れとして月曜から金曜まで働き、週末に身体を休める働き方をする人、学校を卒業後に就職した会社で終身雇用を全うする人の割合は年々、減少傾向にあります。複数の会社で異なる職務に従事しながら約40年間働き、65歳前後で退職した後も、人生は40年弱続くようになったのです。

さらに、退職後に、数十年ある人生設計を今から考え、準備していく必要があります。私たちは、今、その数十年の過ごし方をどれだけ、具体的に思い浮かべることができているのでしょうか。未曾有に長くなった人生を生き抜くのに、過去の生き方と働き方のロールモデルはヒントにはなりません。

そのほかにも、超少子高齢化、年金の問題など、100年人生のネガティブな要因がメディアでは日々取り上げられています。そのような傾向に対して、リンダ・グラットンは『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の日本語版序文で、「長寿化を厄災にするのではなく、恩恵にするために、何歳であろうと、いますぐに新しい行動に踏み出し、長寿化時代への適応を始める必要がある」と問題提起を行っています。

目の前に迫ったポスト平成の時代では、転職は決してネガティブな意思決定ではなく、自らのキャリア形成に必要なポジティブな選択として認識されるようになります。それでは、働く期間自体が長くなり、組織に属し続けることでキャリア・プラトーに直面する私たちは、いかなる行動に踏み出していくことが必要なのでしょうか。

■停滞期を克服する「プロティアン・キャリア」

この長寿化時代におけるキャリア・プラトーを克服していくのに不可欠なのが、「プロティアン・キャリア」という考え方です。「プロティアン・キャリア」は、まだ聞き慣れない言葉だと思います。理論的な背景を説明すると、1990年以降のニューキャリア論の中で提起されたのが、バウンダリーレス・キャリアとプロティアン・キャリアです。どちらも一つの組織にとらわれず、自ら主体的にキャリア形成をしていく「キャリア自律」の概念として注目されています。

プロティアン・キャリアについて概説しましょう。まずプロティアンの語源は、ギリシア神話に出てくるプロテウスにあります。プロテウスは、自分の意思で自由に自分の姿を変えることができます。

この変幻するプロテウスの姿に、「自ら主体的に働いていくキャリア」という意味を込めて定義したのが、ボストン大学で教鞭をとるダグラス・ホール教授です。ホール教授が提唱するプロティアン・キャリアの定義をみることにしましょう。

「プロティアン・キャリアとは、組織の中よりもむしろ個人によって形成されるものであり、時代と共に個人の必要なものに見合うように変更されるものである」(ダグラス・ホール 1976『プロティアン・キャリア』(2015 p.22)

ただ、詳しく述べるならば、プロティアン・キャリアという概念は、1976年にすでに提唱されていました。しかし、自ら変化に対応しキャリアを選択していくという考え方は、その当時の社会状況とはマッチしていなかったのです。

ホール教授自身も20年後に、「1980年代は、組織内キャリアの全盛期であり、プロティアン・キャリア」(ホール 1996=2015 p.1)と呼べるものはなかったと振り返っています。

■プロティアン・キャリアを築ける社会状況

それでは、わが国の働き方の現場で考えてみることにしましょう。私が今、プロティアン・キャリアを促進するものとして注目しているのが、政府が推進する「働き方改革」と、働く人々のキャリア観の変化です。

「働き方改革」の中では、特に、(1)長時間労働の是正、(2)副業・複業などの柔軟な働き方、(3)高齢者の就業促進が、組織内キャリアではなく主体的なキャリアの外発的な動機づけになります。言い方を変えるならば、「働き方改革」は、それぞれが主体的な働き方を模索するプロティアン・キャリアを希求するものであると言っても過言ではありません。

組織内での昇進に固執するだけではなく、自らがやりたいことを仕事にしていく働き方や、報酬よりも働くことの意味を大事にする近年のキャリア観の変化も、プロティアン・キャリアとシンクロしてきます。

■プロティアン・キャリアは関係性を重視する

プロティアン・キャリアを築いていく上でのポイントとしてホール教授が述べていることは、(1)自分自身を客観的に評価し、自問し、内省し、そしてそれらを他者に支援してもらう方法を把握すること。その上で、(2)常に学び続け、自らの人生やキャリアの方向性を再構築できる能力を磨き続けることです。

プロティアン・キャリアで大切なことは「関係性」です。伝統的なキャリアでは一つの組織の中での自己を捉えてきました。一方の、プロティアン・キャリアでは、職場、職場外、趣味のコミュニティ、地域のコミュニティなどの「関係性」の集合として、「変幻する自己」を捉えていきます。

新しい環境に移ることは、それまでいた環境との決別を意味する訳ではありません。それまで培ってきた経験と共に、新しい環境に合わせて自らを変化させていくことなのです。そこでは、2つのコンピテンシーが要求されます。一つは、より複雑で、より自己内省的で、より自己学習的な「アイデンティティの成長」、もう一つは「適応力の強化」です。

■個人がキャリア形成をする「場」としての組織

プロティアン・キャリアは、組織に属することを前提とした伝統的キャリアとは、次の3つの点に特徴がみられます。

まず、第一に、プロティアン・キャリアでは、個々人がさまざまなキャリアパス(=キャリアの経路)を取ることになります。大学を卒業し、就職した会社で働き続けるのではなく、転職する人。副業解禁制度を利用して、パラレルキャリアを歩む人。育児や介護で時短勤務や一時休職をする人。それぞれのライフステージにあわせてキャリアを柔軟に選択できるようになります。一つの組織の中に帰属し、組織内でキャリア形成するよりも、よりセルフカスタマイズしたキャリア選択が可能になるのです。

第二に、プロティアン・キャリアでは、個々人がさまざまな空間で働き、生活するようになります。仕事とそれ以外、仕事と家庭といった明確な境界線を設定するのではなく、子育てや介護にも時間を使い、時間のマネジメントをしながらキャリアを築いていくのです。テクノロジーの発展と深化により、在宅ワークや職場以外の場所からのリモートワークが可能になりました。通勤の頻度や時間も、働く個人のライフステージに適応させる形で、その都度、アップデートされるようになります。

そして、第三に、プロティアン・キャリアでは、個人を主たる対象として捉え、組織は個人が求める機会や場を提供するプラットフォームのように捉えます。組織に従属する個人ではなく、個人がキャリア形成する場として組織が存立するようになります。組織の中での経験を、次の組織にも活かしていく、また、今所属する組織での経験を組織間の壁を超えてオープンにしていくことを通じて、より自らがやりがいを感じて働くことができるのです。

■中・長期的にキャリアを位置づける

ここまでみてくるとわかるように、プロティアン・キャリアでは、人生全体の中でキャリアを位置付けています。

ただし、希望の職種ではなくても働き続けなければならない人々、組織に従属しながら働き続けている人々、退職後に仕事とは全く異なる静かな暮らしを求める人々、これらの人々にプロティアン・キャリアを強要することは許されません。

さらに言えば、プロティアン・キャリアとは、突然変異的に築けるものでもありません。まずは今、自らが身を置く組織の中で、主体的に何ができるのか。組織や組織を越えたさまざまな関係性を捉え直し、中・長期でのライフプランを描きます。意識的・計画的・戦略的に行動を重ねて経験資産を蓄えながら、その資産を社会や組織の変化にすり合わせていく日々の営みのことなのです。

プロティアン・キャリアとは、何かを成し遂げた「結果」をキャリアとして捉えるのではなく、経験資産を積み重ねていく「過程」を、主体的に受け止めていくことでもあります。自ら主体的にキャリアを選択しようとする人々にとっての、100年人生を豊かに生き抜く術になるのです。

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田中 研之輔(たなか・けんのすけ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1976年生まれ。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民――アメリカ国境を越えた男たち』(岩波新書)など他十数冊。Original Point 株式会社 社外顧問。

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(法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中 研之輔 写真=iStock.com)

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