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IWC脱退"共存する可能性すらない"の異様

プレジデントオンライン / 2019年1月7日 15時15分

北西太平洋での調査捕鯨で、北海道の釧路港に水揚げされたミンククジラ。(写真=時事通信フォト)

■捕鯨支持国はIWCの加盟国の半数近くいた

混乱続きだった2018年の政治は最後にサプライズが待っていた。日本が国際捕鯨委員会(IWC)から離脱したのだ。

商業捕鯨再開を目指してきた日本の考えは、国際社会の中ではなかなか理解が広がらなかったのは確かだが、日本はいつから、意に沿わない相手と交渉するのを打ち切って協議の席を立つような国になったのか。日本外交は、唯我独尊的に振る舞うトランプ米大統領に「米国第一」に似てきたようにもみえる。

■「異なる意見や立場が共存する可能性すらない」

昨年12月26日、政府は菅義偉官房長官談話を発表した。談話は「今年9月のIWC総会でも、鯨類に対する異なる意見や立場が共存する可能性すらないことが残念ながら明らかになった」と極めて激しい内容となっている。

IWCでは商業捕鯨を再開したい日本などの捕鯨支持国と、反捕鯨国の間で膠着状態が続いているのは事実だ。しかし昨年8月段階の水産庁データによると、IWC加盟国のうち捕鯨支持国は日本、ロシア、韓国など41カ国。反捕鯨国はオーストラリア、米国、英国など48カ国。反捕鯨国の方が多いが、それでも支持国も半数近くいて拮抗している。

菅氏の談話にあるように、「異なる意見や立場が共存する可能性すらない」というような勢力分布には思いがたい。それを、あっさり見切って捨てたことになる。

■よみがえる「国際連盟離脱」の苦い記憶

日本が国際機関から脱退するケースは珍しい。日本人なら1933年、日本が国際連盟を脱会したことを思い出さずにいられない。当時の松岡洋右首席全権が「国際連盟と協力する努力の限界に達した」と発言して総会の会場を去った話はあまりにも有名。その後、日本は坂道を転げ落ちるように戦争への道を進んでいった。

松岡の「努力の限界」発言と官房長官談話の「共存する可能性すらない」。どこか重なるように聞こえるのは考え過ぎだろうか。

戦後日本は、良きにつけ、あしきにつけ国際協調主義に徹してきたはずである。時には妥協を重ね米国などに押されっぱなしで「軟弱外交」という批判も受けたが、それによって国際社会の信頼を築いてきた。その伝統が崩れた。

■閣議決定の内容が丸1日間、意図的に伏せられていた

今回の脱退で、もう1つ気になることがある。政府は脱退方針を25日の閣議で決定していたのだ。にもかかわらず同日は公表せずに翌日の26日に発表した。つまり、政府の最高意思決定である閣議での決定内容を意図的に伏せていたのだ。

25日の閣議後、IWC離脱方針を決めたのではないかとの情報を得た記者が「日本はIWCの加盟の是非などを含め、検討を行っていると思いますけれども、現状の検討状況や何か決まったことがあれば」と質問したのに対し、菅氏は「政府の検討状況についてお答えすることは差し控えたいと思います」と答えを濁している。

同じころ吉川貴盛農相は同趣旨の質問に対し「政府としての検討状況は、まだ何も決まっておりません。お答えすることは差し控えたいと存じます」と答えている。「何も決まっておりません」は、ミスリードと言わざるを得ない。

菅氏は、閣議決定を1日間公表しなかったことについて「こういう事例は、これまでにある。脱退にかかる関係国との調整を含め、諸般の事情を総合的に判断した結果」と語った。しかし、閣議決定の内容を意図的に隠すようなことが頻繁に行われているとすれば、政府が意図的に情報操作していると言われても仕方ない。

■安倍政権のナンバー1と2が「偶然にも」捕鯨推進派

日本がIWCを離脱することになった経緯を復習しておこう。何と言っても二階俊博自民党幹事長の存在が大きい。二階氏は、古式捕鯨発祥の地とされる和歌山県太地町が地元。捕鯨推進派議員のドンである。また太地町と並び、山口県下関市も「くじらの街」として知られる。こちらは安倍晋三首相の選挙区だ。

今の安倍政権で最高権力者とナンバー2が、「偶然にも」捕鯨推進派なのだ。二階氏がIWCからの脱退と商業捕鯨の再開を求め、首相官邸に働き掛けて実現したというのが簡単な構図だ。

一方、外務省は慎重論が根強かった。これまで国際社会で協調的な立場を演じることが多かった「伝統」を守ろうという面もあるが、何よりも脱退により日本外交に影響が及ぶのを恐れた。

今年は大阪で20カ国・地域(G20)首脳会合が、来年は東京五輪が、そして2025年には大阪で万博が開かれる。反捕鯨国が日本のIWC離脱に反発してボイコットする国が出るようなことがあれば日本外交にとっては大変な痛手となる。早くもG20にあわせてシー・シェパードなど反捕鯨団体が大規模な抗議行動を実施するのではないか、との観測も出ている。

■捕鯨推進議員の悲願の代償はかなり大きい

そうでなくても、外交上のダメージは予想される。反捕鯨国の中には米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国などが、日本とのつながりの深い国が多い。これらの国とぎくしゃくすることになりかねない。特に今年、貿易協定の交渉が控える日米関係に影を落とすことになれば一大事だ。

また捕鯨支持国側からも、根回しなく日本が単独離脱したことへ不満を抱く国が出てくるかもしれない。

一部の捕鯨推進議員の悲願を実現することによって失うものは、とてつもなく大きくなるかもしれない。

実際、新聞も、普段は政権寄りの論調が目立つ読売、産経の両紙までが批判的な社説を掲載している。

■これは「日本第一」外交の始まりか

ここまで読んで、今回の安倍政権の決定が、トランプ米大統領の手法に似ていると気づいた人も少なくないのではないか。

トランプ氏は2016年の大統領選で当選以来、環太平洋連携協定(TPP)から離脱、さらには国際的な気候変動対策の枠組みである「パリ協定」からの離脱も発表するなど、自分の意見と合わない枠組みから次々と去っている。一連の「米国第一」の外交は、国際社会を混乱に陥れているのはご承知の通り。

安倍氏は、どの世界のリーダーよりもトランプ氏と親しいと自負している。それ故、外交手法もトランプ氏のようになってきたのだろうか。

国内では「安倍一強」を謳歌し、自分と意見の違う政党や勢力を退けることが多い安倍氏。外交でも「トランプ化」を進めていくことになれば、安倍政権は新しい道に足を踏み入れることになる。協調外交を捨てて「日本第一」外交を進むことになれば、「出発点はIWC離脱だった」と、後日語り継がれることになるかもしれない。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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