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「安倍1強」に終止符を打つ方法はあるか

プレジデントオンライン / 2019年1月8日 9時15分

2019年1月4日、年頭の記者会見をする安倍晋三首相。(撮影=時事通信)

■前代未聞の国会運営に、衆院議長も異例の談話

今年こそ、「安倍1強」に終止符を打とうではないか――。元日の朝、東京・代々木の明治神宮を参拝して祈願した内容である。

昨年の政治はひどかった。年末の臨時国会では安倍晋三首相と与党自民党が短い審議時間で強引に外国人労働者を拡大する改正入管法を成立させた。野党だけではなく、マスコミの大半もこの改正案に強く反対していた。にもかかわらず安倍首相は迷うことなく、数の力で押し切った。反対する声に全く耳を傾けず、議論を尽くそうとはしなかった。前代未聞の国会運営である。

昨年7月には、大島理森(ただもり)衆院議長が「民主主義の根幹を揺るがす問題だ。国民の負託に十分に応える立法・行政監視活動を行ってきただろうか」との談話を発表した。

森友学園問題で財務省が決裁文書の改竄という大きな“罪”を犯した。大島氏は政府に猛省を促すとともに、国会の与野党議員にも自覚させようと試みたのである。確か通常国会の終了後のことだった。この大島談話も異例だった。

■「安倍1強」が国会の空洞化を生んでいる

森友問題が発覚したのは一昨年2月。一年後の昨年3月には、安倍首相と昭恵夫人の名前の記された部分などが削除された文書に対し、財務省が改竄を認めた。

驚くのはその1年もの間、国会が改竄文書をもとに審議を行っていたことである。改竄を認めた後も、財務省トップの麻生太郎氏が責任を取ることなく財務相の地位に甘んじていた。安倍首相に至っては「私と妻は関わっていない」と主張し続けた。

財務省が改竄を調査してその結果を報告した。国会でその報告について野党が追及した。だが、結局のところ改竄の理由や森友学園側に渡った土地の値引きがどうして行われたのかという疑問は残ったままである。

「もり・かけ疑惑」と揶揄され、森友学園問題と並んで追及されてきた加計学園問題。これも疑惑にまみれたままなのに、いくつもの疑問が解明されていない。

政府も国会も、国民を愚弄している。大島氏が怒るのも無理はない。前代未聞の異例な事態、そして驚愕すべき状況。これらはすべて安倍政権の負の落とし子であり、政権の「安倍1強」が国会の空洞化を生んでいる。

■国防の強化しか念頭にないのではないか

本来、立法・行政・司法が相互に抑制し合うことで国家権力のバランスが保たれなければならない。それが三権分立だ。三権分立によって国民の権利と自由が保障される。

だが、首相官邸に権力が集中する「安倍1強」体制が続き、自民・公明の数の論理で国会が軽視されてきた。安倍首相は憲法に「国会が国権の最高機関」と明記されていることをご存じないのだろうか。国防の強化しか念頭にないのではないか。これで憲法改正だというのだから開いた口がふさがらない。

昨年9月の自民党総裁選で安倍首相は3選を果たした。だからといって私たち国民が「安倍1強」を認めたわけではない。政治は安倍首相のためにあるのでない。政治は国民のために存在する。国民が少しでも暮らしやすい世の中を築くのが、政治家の仕事だ。

「安倍1強」に終止符を打つには、野党の力では無理だ。野党にその力がないからだ。安倍首相が国民のことを思うのなら、安倍首相自身が「1強」の驕りを自覚し、謙虚になる必要がある。それには新聞をはじめ、メデイアが安倍首相や安倍政権を正しく批判し、世論を動かすことである。

私たち国民も「安倍1強」のもたらす弊害を認識してきちんと意見を述べるべきだ。いまはだれもがフェイスブックやツイッターで発信ができる。SNSを使わない手はない。お正月の料理を映像にしたり、愚痴を掲載したりするだけがSNS活用ではない。

■「官邸の下請け機関化、翼賛化、空洞化」

さてこんなことを思いながら新聞各紙の2019年元日付社説に目を通した。元日の新聞にはその新聞のカラーがにじみ出る。とくにスタンスを明確にして論じる社説がおもしろくなる。

朝日社説は「政治改革30年の先に」「権力のありかを問い直す」との見出しを掲げ、中盤で「弱い国会を強くせよ」(小見出し)と主張している。

「官邸の下請け機関化、翼賛化、空洞化――。昨今の国会の惨状を形容する言葉の数々だ」
「ここに、政治改革を通じた権力集中の負の側面が如実にあらわれている」

こう指摘したうえで主張する。

「どの機関にどんな権力、権限を配分するのが適正か。改革の手直しを試みる際、最も大切な視点である」
「国会を強くする必要がある」

安倍政権を嫌う朝日社説だけに国会の空洞化を問題にして健全な国会運営を訴えている。沙鴎一歩の主張と似ている。

■「首相の専権」と仰々しく語られる衆院の解散権

沙鴎一歩も国会を強くすることには賛成である。前述したように「安倍1強」のもとでは権力のバランスに欠くからだ。

朝日社説は権力分立の重要性を次のように指摘している。

「議院内閣制の下では、内閣とそれを支える衆院の多数与党が一体となっている。与党は数の力で政府提案を次々通していこうとする」
「一方で国会には、政権中枢や各省庁の活動を監視する役割がある。行政府VS.立法府という権力分立の構図である」

朝日社説は「衆院の解散権」の問題点についても言及している。

「『首相の専権』などと仰々しく語られる衆院の解散権にも、縛りをかけなければならない」と訴え、「安倍政権の不意打ち解散戦略は、改革の眼目の一つだったマニフェスト選挙を台無しにした。大義も争点も不明なまま、有権者は投票を強いられた」と指摘する。

なるほど、“衆院解散→総選挙”は安倍首相に限らず、国会運営に切羽詰まったときの政権がよく使う手法である。郵政民営化を訴えた小泉純一郎元首相の郵政解散は記憶に新しい。古くは吉田茂元首相の「ばかやろう解散」なんていうのもあった。

■参院そのものが十分機能していない

朝日社説は「解散権の乱用問題は古くから論争の的だ。権力の振り分け方を正すという観点から、そろそろ再考すべきである」と主張し、参院の在り方にまで触れる。

「政治改革後の歴代内閣は、長期安定政権と、『ねじれ国会』に由来する短命政権とに二分される。その意味で、参院への権力の割り当てと、その役割の見直しも避けて通れない。『地方の府』にする案をはじめ、議論の積み重ねはある」

ここで朝日社説が指摘する「参院への権力の割り当て」の意味がよく分からない。解散権の乱用は確かに問題だが、何らかの形で参院に権力を与えたとしても解散権の乱用が是正されるとは限らない。参院そのものが十分機能していないところに問題があるからだ。参院廃止論も出ているぐらいだ。

たとえば法案の審議を衆院から始めるのではなく、参院先議といって最初に参院で審議してから衆院での審議に移るやり方をもっと増やして参院自体を活発化させる方法もあるだろう。

■「最も警戒すべきなのは、米国と中国の覇権争いによる混乱」

次に読売新聞の1月1日付の社説を読んでみよう。30年前の1989年、平成元年までさかのぼって政治の変遷から書き出し、内閣や国会の権力の在り方を論じた朝日社説とは違い、読売社説は米中の対立に対し、日本がどう臨んでいくべきかを主張している。

書き出しはこうだ。

「米国が内向きの政治に転じ、欧州は、ポピュリズムの横行と英独仏の混迷で求心力が低下した。世界の安定を支えてきた軸が消えつつあるようだ。こうした中で、最も警戒すべきなのは、米国と中国の覇権争いによる混乱である」

なるほど、中国は世界屈指の消費者数と巨大な産業構造を駆使し、そのGDPは30年間で30倍という飛躍を遂げた。アジア諸国を巻き込む一帯一路という巨大経済圏構想も掲げている。南シナ海での人工島建設や日本固有の領土である沖縄・尖閣諸島への進出など軍事力も想像以上に増強している。ここ数年、宇宙にまで軍事触手を伸ばしている。IT(情報技術)やAI(人工知能)の開発も目覚ましい。

米国が警戒するのは当然だ。米国と中国の覇権争いによる深刻な混乱も起きるだろう。

■「米国の同盟国であり、中国と深い関係にある日本」

そんな状況下で日本はどう動けばいいのか。

「世界1位と2位の経済大国の対立は、安全保障や通商、ハイテクなど多岐にわたり、相当長い間続くと覚悟すべきである」
「米国とソ連による冷戦の終結宣言から30年、『新たな冷戦』に怯え、身をすくめていても意味はない。米国の同盟国であり、中国と深い関係にある日本こそが、地域の安定と繁栄を維持する責務を、粘り強く果たさねばならない」

読売社説はもっともらしいことを主張するが、果たしていまの安倍政権に地域の安定と繁栄を維持することなどできるだろうか。数の力に頼り切っている安倍首相に中国の習近平(シーチンピン)国家主席を制するだけの大きな器があるとは思えない。

ただ、読売社説の「米国の同盟国であり、中国と深い関係にある」という指摘はうなずける。いまこそが日本のチャンスなのかもしれない。安倍首相がそのチャンスに早く気付いて日本の外交に生かすことを期待したい。

■米国と中国の手綱を取る芸当は無理だ

読売社説はさらに日本の役割を指摘していく。

「日本は、各国首脳との会談や、先進7か国(G7)、6月に大阪で開かれる主要20か国・地域(G20)などの会議で、米中対立を緩和させるための議論を主導すべきだ。孤立しがちな米国と各国の仲介も日本の役割となろう」
「中国の強権的な拡張路線は、曲がり角に来ている。このままでは行き詰まることを、日本は習氏ら指導部に指摘すべきだ」
「中国が対米関係の悪化で、対日外交に意欲を示す今は、日中が率直に話し合える機会である」

読売社説の指摘は的を射ているだろうが、やはり問題は安倍首相の力量だ。北方領土の返還交渉でロシアのプーチン大統領に手玉に取られ、交渉自体を河野太郎外相に丸投げするようなやり方では国際社会から相手にされなくなる。

基本的に安倍政権を支持するスタンスを取る読売社説としては、安倍首相を持ち上げたいのだろうが、米国と中国の間に入って両国の手綱を取るような芸当は、安倍首相にはできまい。そのあたりを社説を担当する論説委員たちは、どう考えているのだろうか。一度、彼らの論説会議を聞いてみたい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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