"あねご肌リーダー"が持つ最強の気配り力
プレジデントオンライン / 2019年2月15日 6時15分
丸山三千代●オルビス SCM推進部 課長。1968年東京都生まれ。専門学校卒業後、ヤマトシステム開発、法律事務所、ベンチャー企業に勤務後、2004年に入社。受注業務部を経て08年より物流チーム(現SCM推進部)。10年より現職。
■「強い言葉」は封印。現場で慕われるあねご肌のリーダー
埼玉県加須(かぞ)市。周囲に田園風景が広がる「騎西(きさい)流通センター」は、延べ床面積1万2623坪の巨大倉庫だ。化粧品メーカーのオルビスがここに「東日本流通センター」を開設したのは6年前。当時、関東3カ所にあった流通拠点を、西宮(兵庫)と加須の2カ所に再編・統合した。丸山三千代さんは、その再編プロジェクトの主要メンバー。統合後も月に2度は訪れる。
「ここに来たら、パートの方々となるべく多くコミュニケーションを取るようにしているんです」
LEDの照明がまぶしいほどに明るいフロアでは、この日もパートタイムの従業員が商品のピッキング作業を行っていた。
「本社のコールセンターでは、お客さまから箱詰めの仕方や緩衝材についてご要望をいただくことも多いんです。その声にすぐ対応するには、『同梱(どうこん)すると商品が傷つきやすくなる組み合わせは?』『この商品のセットには、緩衝材がいくつ必要?』といった課題を共有することが何よりも大事。意見を求めることは、現場で働く人のモチベーションになるし、いつも現場を見ているよ、というメッセージにもなると思うんです」
丸山さんは同社で働き始める前に、3つの職場を経験している。ヤマト運輸グループのシステム開発会社、法律事務所、そして知人の誘いでカードの決済事業を行うベンチャー企業に立ち上げから参加した。
「営業から人事、総務、経理といった管理部署の仕組み作りまで、何でも屋のように働きました。最初の会社では受け身だったので、働くことに対する意識が大きく変わりましたね。苦しかったけれど、ベンチャーのおかげで仕事や人に対する度胸がつきました」
流通センターで「あねご肌」と言われて親しまれる丸山さんの原点は、ここにあるのだろう。
ただ、オルビスに来た当初は、社風の違いに戸惑ったという。
「化粧品会社だからなのか、男性社員は繊細でおとなしい人が多いなぁと。前の職場で日常的に飛び交っていた“強い言葉”は封印して、気をつけているつもりなんですけど……」と言いかけて、彼女はちょっと照れくさそうに笑う。「ちゃんと優しくできているかは、自分ではわかりませんけどね」
■前職での経験を活かし、難事業をやりとげる
オルビスに転職したのは2004年、36歳のときだ。受注業務部に配属され、顧客の注文を処理するフロアを指揮した。
着任日の朝、9時に出社すると、机には注文データの用紙が山積みになり、約40人のパートタイム従業員がデータを入力する音が、間断なく響き渡っていた。
「彼女たちの仕事の速さは、目を見張るものがありました」と丸山さんは振り返る。まず気を配ったのは、リーダー格の女性との関係を丁寧に深めていくことだった。
「大勢の従業員が働いていると、相性のよくない人もでてきます。不穏な気配を感じたら、リーダーに一人一人の個性や状況を聞いて、すぐ対応するようにしました。全員が働きやすい職場づくりを常に考えていた当時の経験は、今でも役立っています」
その後、丸山さんは流通センター統合プロジェクトの一員に選ばれ、3年がかりで倉庫の再編をやりとげた。100人を超えるパート従業員たちへの説明には細心の注意を払い、大きなトラブルもなく乗り切った。
また、近年の「宅配クライシス問題」(通販の増加による宅配会社の人員不足)への対応も任され、大口の取引先であるヤマト運輸や日本郵便との交渉を紅一点で担当している。
「運賃の値上げを求められたときは、交渉のシナリオを作るたびに彼女に意見を求めました」と話すのは、直属の上司(SCM推進部部長)である小川洋之さん。
「彼女はこちら側の意見をすべて押し通そうとするのではなく、『それは言いすぎだと思います』と長期的な関係性も考慮しつつ、落としどころを探ってくれるのですが、その判断が的確で非常に頼りになった。難しい交渉でしたが、結果的に合意に至ったのは彼女の力あってこそです」
以前、ヤマトグループで働いていた経験が大いに役立ったのだ。
■仕事仲間と同じ目標を、共有できるのが楽しい
そうした実績を買われ、今は物流業界のさまざまな会合に社を代表して派遣されている丸山さん。「お酒好き」を公言する彼女にとっては、会合後の懇親の場も楽しみの1つ。他社との情報交換や課題を共有することで、自社の成長に役立てている。
転職してから14年。「自分史上、一番長く働いている」という今の職場について、丸山さんはどう思っているのだろう。
「いくつかの会社を渡り歩いてきたので、やりがいが感じられなくなったら、またほかのことを探せばいいや、という気持ちが私にはあります。でも今は、現場を支えてくれているパートの方や取引先の人、自分のチームメンバーと同じ目標に向かっていくのが本当に楽しいし、自分が必要とされているという実感もあります。流通業界イコール長時間労働などと思われがちですが、最近は新しいテクノロジーの導入によって大幅に改善されています。ブラックなイメージを払拭(ふっしょく)して、活気ある業界にしていきたいですね」
(プレジデント ウーマン編集部 撮影=市来朋久)
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