橋下徹"これが韓国とのケンカに勝つ方法"
プレジデントオンライン / 2019年1月23日 11時15分
■第三者機関の判定がない以上、状況証拠だけでは勝てない
昨年末に起きた韓国海軍が海上自衛隊機に火器管制レーダーを照射した事件が収束しそうにもない。お互いに言い分が真っ向からぶつかり合ったままだ。
日本側からすれば、十分な証拠を突き付けたと確信しているが、韓国側は認めない。むしろ日本側の主張が虚偽だと言わんばかりだ。
日本側はこれまで、その時の韓国軍艦の海上での様子や、火器管制レーダーを照射された際の海上自衛隊機内の自衛隊員の様子を映した映像を公開した。韓国側も海上自衛隊機の様子を映した映像を公開した。
日本側の自衛隊当事者や専門家は、その映像を専門的に分析しながら、日本側の主張に理があると言うが、韓国側は一切認めない。そこで日本側は、非公開の協議で相互に電波情報を交換して事実確認しようと韓国側に提案したがそれも韓国側が拒否。
さらに日本側は近日中に、火器管制レーダーを海上自衛隊機が受けたときの「音」を公開するという。この音を聞けば、火器管制レーダーを照射された事実が明らかになるというのだ。
それでも、韓国側は海上自衛隊機に火器管制レーダーを照射した事実を認めないだろう。実際、その音は単なる機械音だと主張している。
通常、日本国内で紛争が生じ、当事者双方の言い分が真っ向からぶつかる事件が発生した場合には、最終的には裁判所が判定を下して、当事者のいずれの言い分に理があるのかを裁定する。そのような第三者が最終判断を下す形で決着する場合には、その第三者を納得させる主張と証拠を出せばそれで勝てる。
日本側のこれまでの主張や映像などの証拠、特に証拠は、海上自衛隊機が韓国海軍から火器管制レーダーの照射を受けたことを推認させる状況証拠である。すなわち火器管制レーダーの照射を受けたであろう海上自衛隊機内の自衛隊員の緊迫した状況の映像であり、火器管制レーダーの照射を受けたことを直接示す証拠ではない。また韓国側は当初は北朝鮮船を探索するために火器管制レーダーを放っていた旨主張していたが、日本側の映像によると、韓国海軍は北朝鮮船を既に救助する段階に入っており探索のためにレーダーを用いる必要性は全くなく、その主張は完全に矛盾している。しかしこれも「韓国側の主張が矛盾している」ということから韓国側の主張は虚偽であり、よって日本側の主張のとおり、海上自衛隊機が火器管制レーダーの照射を受けたであろうことを推認するものに過ぎない。最近の報道では、日本側は近日、火器管制レーダーを受けたときの「音」を公開するという。しかしそれも、その「音」から火器管制レーダーを受けたであろうことを推認する証拠に過ぎない。
■電波情報という直接証拠を公開せよ
このように、火器管制レーダーを受けたことを直接示す証拠ではなく、火器管制レーダーを受けたであろうことを推認させる証拠を間接証拠、状況証拠という。他方、火器管制レーダーを受けたことを直接示す証拠を直接証拠というが、それは電波情報そのものだ。
海上自衛隊機がキャッチした電波情報そのものを公開すれば、その電波特性によって、それが火器管制レーダーなのか、その他のレーダーなのかが即座に確定する。韓国側も、日本に対して電波情報を出せと言い出している。
ところが日本側は、電波情報そのものを開示することは軍事機密上問題だとして、開示に消極的だ。電波情報を開示してしまうと、韓国軍が発したその電波を日本の自衛隊がどのように収集したかが明らかになってしまい、今後の自衛隊活動に支障が出てしまうというのである。だから今のところ、間接証拠、状況証拠しか出さない。日本側は、仮に直接証拠である電波情報を出すにしても、非公開の協議の場で出すというのであるが、そのこと自体、韓国側は拒否している。
今回、火器管制レーダー照射事件を解決する裁判所のような機関が存在し、軍事専門家等が裁判官の役割を果たして日韓いずれの主張に理があるのかを判断してくれるのであれば、日本側の提出する間接証拠、状況証拠によって日本側の主張に理があると判断してくれるのかもしれない。日本の裁判所においても、間接証拠、状況証拠から事実を推認していくことが裁判官の腕の見せ所と言われている。直接証拠などは、なかなか存在せず、世の中にある証拠の多くは、間接証拠、状況証拠だといっても過言ではない。
もちろん、間接証拠、状況証拠だけで、有罪、特に死刑を伴う重罪を認定することは慎重でなければならない。しかしあらゆる事件について、間接証拠、状況証拠を一切使ってはならないとなると、事件解決が不可能となる。ゆえに裁判官が、間接証拠、状況証拠をどのように用いるかが重要になってくるのである。
ただ、これはあくまでも裁判所のような第三者的な機関が最終判断を下す場合の話であって、今回の火器管制レーダー照射事件のように、第三者が最終判断を下すわけではない場合、すなわち日本と韓国という紛争当事者のみで、自分の主張を相手に認めさせなければならない場合には、力ずくで自分の主張を相手に飲ませるか、相手が絶対に反論できないような証拠、すなわち「完璧な直接証拠」を公開で突き付けるしかない。間接証拠、状況証拠を突き付けても、それをうまく使って事実を認定してくれる第三者が存在しないので、相手が事実を認めない限り紛争は解決しないからである。
日本が力ずくで韓国に日本の主張を飲ませることは不可能だ。そうであれば、完璧な直接証拠を公開し、韓国側が全く反論できない状況を作り出すしかない。そしてその直接証拠とは、まさに電波情報だ。
先に述べたように、電波情報の開示には、自衛隊活動上の支障があるのかもしれない。また国際慣習上の相互主義というものによれば、相手が開示する場合にこちらも開示するというのが作法らしい。ゆえに韓国側が電波情報を開示しない中で、日本だけが開示するのはおかしいという主張もある。
しかし今回の火器管制レーダー照射事件において日本は、韓国との関係に配慮して穏便に済ませようとする選択をせずに、ガチンコでぶつかって日本の主張を韓国に認めさせよう、謝罪させようとする選択をしたのである。今や、日本と韓国は真っ向からぶつかり合って、どちらかが嘘を言っていることは間違いない状況だ。
このような状況では、自衛隊活動上の支障や、相互主義という慣例に反するというデメリットはあったとしても、ここは電波情報という直接証拠を開示して、白黒はっきりとさせるべきである。それができないというなら、初めからガチンコ勝負を挑むべきではなかった。
第三者機関による判定がない以上、日本が出す証拠が間接証拠、状況証拠だけなら、韓国側は火器管制レーダー照射を否定し続けるだろう。日本も徐々に証拠を出しているが、ここは電波情報という直接証拠を出すしかない。電波を受けたときの「音」というのではまだ足りず、電波情報そのものを開示すべきだ。第三者機関による判定のない当事者どうしのガチンコのケンカの場合には、完璧な直接証拠を開示して、相手が絶対に反論できないようにするというケンカの作法に則るべきだ。
■徴用工判決問題も「ガチンコのケンカ」
韓国大法院が日本企業に賠償責任を認めたいわゆる徴用工判決を巡る日韓の紛争も収束をみない。これも、最終的には国際司法裁判所や仲裁委員会を利用することも可能だが、前者は日韓が合意しなければならないし、後者は日韓協議による外交的解決が不可能になってからの話である。
ゆえに基本的には、第三者の判定に頼らず、日本と韓国という当事者間において自分の主張を相手に認めさせることが紛争解決の柱となり、これは火器管制レーダー照射事件と同じく日韓当事者によるガチンコのケンカとなる。ところが、日本の政治家や自称保守論客たちは、どうも当事者同士によるケンカの作法を知らないようだ。
(略)
(ここまでリード文を除き約3200字、メールマガジン全文は約9900字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.136(1月22日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【韓国徴用工問題(4)】レーダー照射事件でも対立激化の日韓関係! 日本が「勝つ」ための方法は?》特集です
(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)
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