MBA留学で2000万を浪費した女性の後悔
プレジデントオンライン / 2019年1月28日 9時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山氏のもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■20代のときは貯金が1000万円あった
ブランドものに興味がなく、駅ナカのショップで事足りる庶民派――メガバンクに勤務していた田所桃子さん(仮名)はそんな女性で、貯金もしっかりしている堅実で真面目な方。しかし彼女は35歳という年齢をきっかけに突如会社を辞めたうえ、1000万円もの借金を背負い込むことになってしまいました。真面目で有能なキャリアウーマンがハマった細道ならぬ迷い道。その道行きをお伝えしたいと思います。
小学校から大学までエスカレーターで進学した田所さんは、お父さんも銀行員だったことから自然と行員になることを目指して就活。見事第一希望だったメガバンクに就職します。入行後は大手銀行ならではの手厚い支援制度をフル活用し、FP技能検定や日商簿記など、さまざまな資格を取得していきました。
学生時代から優秀だったようで、勉強することは苦でもなく、「止めるのももったいなくて」と英語の勉強を続けた結果、TOEICでほぼ満点をたたき出すほどの語学力も身につけていました。そして30歳の時には「もっとスキルを磨きたい」と、職場で話せる人が少なかったフランス語を猛勉強。晴れてパリ支店に1年間赴任する大役をこなしたそうです。
未来を見据えて着実にキャリアを構築していった田所さんは、金銭面でも抜群の安定感を持っていました。財形貯蓄を使ってコツコツ貯める一方、投資信託でお金を育てるという理想的な両輪体制により、20代のうちから1000万円の貯金に成功。お金の賢者といえる財テクができていたのです。
そんな公私にわたってまったく問題なさそうな彼女が、なぜ私のもとにやって来たのか。彼女の言葉を借りれば、「35歳になってしまったから」でした。
■「もう35歳だからここで人生をリセットしたい」
オフィスにやって来た時の彼女は熱病にでもうなされたかのように、「アメリカに行ってMBAを取らなきゃいけないんです」と繰り返していました。さらなるキャリアアップにもなるし、会社の公募制度で留学できるといいねと返したところ、なぜか「会社は辞めます」の一点張り。希望して入った一流銀行で活躍をし、その時の年収は700万円。しかも社内に留学制度もあったので、今すぐ退職する理由がまったくないのに、です。
ではなにかMBA取得後にやりたいことがあるのかと聞けば、「一生独身かもしれないから、とにかく手に職をつけたい。もう35歳だからここで人生をリセットしたい」と、鬼気迫る表情で語るのです。
結局、田所さんは2000万円近い留学資金を捻出するため、貯金にプラスして親から1000万円の借金をし、銀行も辞めてカリフォルニアへと旅立ってしまいました。FPとしては、貯金のほぼ全額をつぎ込んだ挙げ句、巨額の借金を作ってライフプランもないまま退職した彼女の選択を到底、後押しはできませんでしたが……。
■本当にしたいのは「結婚」だった
普段は冷静沈着な行員の田所さんを不安に駆り立てもの、それは「35歳」という年齢でした。結婚していく同僚や産休・育休を取る後輩を尻目に、「キャリアばかりを積み重ね、35歳になっても未婚の自分」は職場で一体どう見えるのか――。そう思いつめた結果、「人生リセット留学」という結論になったようでした。
さらに話を聞けば、田所さんは35年間、一度も男性とお付き合いしたことがないということでした。かわいらしいお嬢さんだったので意外でしたが、さらにびっくりしたのが、実はキャリアを積みたいわけではなく、本当に一番したいのは結婚だった、ということです。
驚いた反面、こういった華々しい経歴のキャリア女性が、「実は専業主婦になりたかった」ということは少なくありません。本当は結婚したいだけだったのに、ひとりで生きていくことも考慮して身を守るためにスキルを磨いた結果、おのずとキャリアウーマンになってしまったというわけです。多彩なスキルや華々しいキャリア、高収入という生きるための防衛策が、婚活においては男性をビビらせる足かせとなることも多く、悪循環に陥りがちということでした。
■「ハイスペックだけどやりたいことは曖昧」で就職難
その後、田所さんは見事MBAも取得して帰国しましたが、やはりライフプランも貯金もありません。就職活動を開始するものの、「ハイスペックだけどやりたいことは曖昧」な彼女を企業側も扱いかねたのか、思うように会社も決まらないのです。
そこで彼女はとりあえず実家暮らしをしながら、ほそぼそと翻訳の仕事をフリーランスでやり始めました。この時点でまた私のところに相談に来てくれたので、まずは現金を生活費3カ月分貯めてくださいという話をし、節税対策のための小規模企業共済もすすめました。
もともと堅実な方ですし、実家暮らしも奏功してすぐにそれなりの貯金はできたようで、また投資信託も始めています。仕事面はまだまだ不安定なようですが、MBA留学によってできた人脈で大企業からの依頼もあったそう。年収は500万円程度になりました。時間はかかるでしょうけど、このまま順調にいけば親御さんへの借金も返せると思います。
■“心の闇”に直面した時、人は高額な壷を買う
田所さんの失敗は、ライフプランがないにもかかわらず会社を辞め、貯金のほとんどを留学資金で使い切ってしまったことに尽きるでしょう。彼女のようにお金のリテラシーもある高学歴の人が、ちょっとしたきっかけで全財産を失ってしまうことがあるのです。定職もなく酒浸りでギャンブル狂みたいな人ならまだ想像がつきますが、真面目に生きている人でも“心の闇”を突きつけられた時、判断を誤ってしまうのかもしれません。
田所さんの場合は年齢が鬼門になりましたが、失恋したり仕事で失敗したり、きっかけはいろいろあるでしょう。そんな時パニックになり、有り金すべてを株に投資してしまったり、勧められるまま壺を買ってしまったりする。こういった話を聞くにつけ、“あっち側”だと思っていた金銭的転落は日常と隣り合わせなんだと感じるのです。
■お金で失敗する人は“他人軸”で物事を決める
前回の中山さんしかり、お金で失敗する人は“他人軸”で物事を決めている人が多い気がします。彼の場合は自分の好きなものではなく、周りからかっこいいと思われるブランド、という基準で物を買っていました。田所さんも、35歳で未婚ということが周囲の目からどう見られるか気にした結果、貯金をすべてはたいて留学してしまった。お金をきちんと貯められている人は、自分の軸がきちんとあります。軸がある人は他人に何を言われようとも己を貫き通したお金の使い方、生き方ができているように思います。
田所さんは年収的にはかなりダウンしてしまいましたが、翻訳者として再出発をしようとしています。今は比べる同僚もいないから大丈夫かなと思いつつ、微力ながら、彼女の征く道を応援していきたいと思っています。
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ファイナンシャルプランナー(CFP)
Money&You取締役。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。慶應義塾大学卒業。2005年に(株)エフピーウーマンの創業に携わり10年間取締役を務めた後、現職へ。主に女性向けに、全国で講演、執筆・監修、書籍、マネー相談を行っている。著書に『マンガでわかるiDeCoのはじめ方 ライバルはイデ子!?』(きんざい)、『35歳までにはぜったい知っておきたいお金のきほん』(アスペクト)など多数。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士 高山 一恵 聞き手・構成=小泉なつみ 写真=iStock.com)
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