「次は大丈夫です」を繰り返す人の共通点
プレジデントオンライン / 2019年1月22日 9時15分
※本稿は、鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「達成できるかどうか」は関係ない
私は、常日頃からクライアントに、「目標を立てるなら、実現できるかどうかわからずモヤモヤするものより、ワクワクするものにしたほうがいい」と伝えています。スポーツ心理学では達成する確率が100%の目標より、50%程度のものがいいとも言われていますが、競技によっては数値で測れないものもあります。そのため、「達成できるかどうか」といった曖昧な基準で目標を設定するのではなく、本人が「ワクワクする目標」を設定することがポイントです。
私がコーチングを行っている体操選手Dさんは、以前、現状のままでも達成しそうな目標ばかり立てていました。しかし話を聞けば聞くほど、Dさんが設定すべき目標は、そんな狭い範囲のものではないと感じました。オリンピックの話をするときのDさんの表情が、他の話題のときに比べ、ひときわ輝いていたのです。
「オリンピックに出たい」――それが、Dさんの内なる野望でした。そこに内発的動機を感じ取った私は、Dさんと話し、思い切って目標を、「オリンピックに出場すること」に設定したのです。
Dさんは最初、日本の代表選考会の予選をギリギリで通過するくらいの成績でした。しかし自分の本心からの目標を口にし、努力するようになった結果、なんとコーチングからわずか9カ月程度で、全日本選手権で優勝という成績を収めました。
今、Dさんは「史上最高得点を2回達成する」という新しい目標に向けて頑張っています。この目標を達成できたときには、オリンピックで当たり前のように金メダルを取っていることでしょう。それほどに簡単ではない目標ですが、精神的にもステップアップしたDさんが目標を突破するのも、時間の問題だと思っています。
■ワクワクできなければ頑張れない
Dさんのように、本心を隠して日々過ごしている人は少なくありません。メンバーに目標を聞いてみて、「本気じゃないな」と感じたら、「会社とか評価とか関係なく、心からワクワクすることってある?」と、思い切って聞いてみましょう。すぐに教えてくれなくても、その人の奥底にあるワクワクの片鱗に触れれば、それが目標設定のヒントになることもあります。焦る必要はありません。焦って「外面のいい」目標を設定しても、心からワクワクできなければ、頑張り続けることはできないのですから。
本人の「ワクワク」を見つけられるかどうかで、その後のパフォーマンスは大きく変わります。ここは、リーダーが根気強く探しに行きたいところです。数字にシビアな世界ではつい、「できそうにないこと」を否定したくなるものですが、一流のリーダーは実現可能性よりもメンバーの「ワクワク」を大事にして、結果を出させるのです。
■具体的だと達成イメージを抱ける
代表選考会で優勝を収めた体操選手Dさんの新たな目標に対して、「けっこう細かい目標を立てるのだな」と思った読者もいるかもしれません。実は目標とは、具体的であればあるほど効果的なのです。
事実、常に果敢に挑戦をくり返し、実際に世界で結果を出しているアスリートほど、目標が具体的で明確です。「オリンピックで金メダルを取る」も具体的ですが、「史上最高得点を2回達成する」は、さらに具体的です。これほどまでに目標を具体的にするのには、理由があります。
それは、目標が具体的であればあるほど、達成したときの様子をイメージしやすいからです。また、将来像を明確にイメージすればするほど、ワクワクしやすくなります。ワクワクすると、すすんで「もっと頑張ろう!」という気持ちになります。その効果を狙っているのです。
■目標に「期日」を定める
さらに、期日を定めることも、目標を達成するうえで大切なポイントです。私はこれまで、1万人以上のアスリートと会ってきましたが、そのうち、目標に対して期日を定めていない人が9割以上でした。
「別に期日を定めなくても、目標さえあれば十分では?」と思う人もいると思います。しかし、期日のない目標は、ゴールのないマラソンを走らされているようなもの。「一体いつ終わるのか」「ゴールはどこにあるのか」と、走りながら不安でいっぱいになることと思います。これでワクワクしろというほうが難しいでしょう。
サッカー日本代表の本田圭佑選手は、小学生の卒業文集に、将来の夢は「セリエAに入団し、10番で活躍すること」と明記していました。メジャーリーガーのイチロー選手も、「プロ野球に入団し、ドラフトでの契約金は1億円以上が目標」と明記しています。プロゴルファーの石川遼選手も、「20歳、アメリカに行って世界一大きいトーナメント、マスターズ優勝」のように、年齢ごとに具体的な目標を掲げています。
子どもであった彼らがなぜここまで具体的に目標を描けるのか不思議でなりませんが、それほど明確なイメージを頭の中に描いていたからこそ努力を続け、結果を出し続けていられるのだと理解しています。
いきなりここまで具体的な目標を書けないにしても、「自分は何を目指すとワクワクするのか」を考えることで、日々の行動が変わってきます。一流のリーダーは、具体的な目標を立てるだけでなく、期日まで設定するのです。
■目標を立てて終わりにしないために
ほとんどのビジネスパーソンは、何らかの目標をもって仕事をしていると思います。会社員として課せられたノルマもあれば、自分で掲げた目標もあるでしょう。しかし、意外と多いのが「目標を立てたまま終わる人」です。目標を立てたことに満足し、努力しようとしないのです。
実際、私のところへ相談に来るクライアントの中にも、「優勝したい」と言いながらサボりグセがあるアスリートや、「自己ベストを出したい」と言いながらその手前の記録で満足してしまう人、「キャプテンになりたい」と言いながら人と話すのが苦手な人などがいます。
ほんの一例ですが、これらは「目標」と「実際のメンタル」が矛盾している状態です。このような矛盾を抱えたままでは、望む結果を手にすることは難しいでしょう。
■メンタルを変えれば結果は変わる
では、目標を立てた後も継続して取り組み続けるには、何が必要なのでしょうか。それは、「継続できる」メンタルを持つことです。心理学者ウィリアム・ジェームズの言葉に、次のようなものがあります。
「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」
つまり、心(メンタル)を変えれば、結果を変えられるということ。すべての基本はメンタルにあるということです。
継続できるメンタルを鍛えるには、意識を変えることがポイントになります。たとえば、メンバーが「3カ月以内に、超一流大手企業A社から新規契約を獲得する」という目標を立てたとします。A社の契約が取れれば、自社に大きなメリットとなります。想像するだけでワクワクする未来に、メンバーは心を弾ませているようです。
■リーダーは「イメージさせる」のが仕事
ここでリーダーに担ってほしい役割は、メンバーに対し、具体的にどうすればA社の新規契約を獲得できるかをイメージさせることです。
そこで、まずメンバーに「この結果を達成する人にふさわしいメンタルとはどのようなものだと思う?」と問いかけてみてください。するとメンバーは、「A社に提案する内容について、リーダーに相談する」「A社のところにまめに顔を出す」と答えるかもしれません。惜しいところまでいっていますが、掘り下げたいのは、もっと深いメンタルの部分です。
この場合、「『A社のところにまめに顔を出す』のにふさわしいメンタルってどんなもの?」とさらに聞きます。すると、「チームのメンバーと協力し合う心」「A社の業界の業界誌を読んで広く情報を集める意識」「感謝を忘れない気持ち」などが出てくるかもしれません。かなり抽象的ですが、まずはこれで十分です。
■「結果を出すための方法」を考えさせるのは二流
立てた目標を達成する人のメンタルをまとめると、「メンバーと協力し合い、業界誌を読んで情報を集め、感謝を忘れない人」となるでしょう。ここまで掘り下げた共通認識ができれば、その実現に向けて、自然と努力できるようになります。
このように、メンバー自らの頭でしっかり考えさせることが重要なのです。二流のリーダーは「結果を出すための方法」ばかりを考えさせますが、一流のリーダーはまず「結果にふさわしいメンタル」を考えさせるのです。
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スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。
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(スポーツメンタルコーチ 鈴木 颯人 写真=iStock.com)
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