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Origami創業者が16歳で始めたナイキ販売-

プレジデントオンライン / 2019年1月28日 9時15分

ジャーナリストの田原総一朗氏とOrigami 代表取締役社長 康井義貴氏

世界で拡がるキャッシュレス決済。韓国は約9割、中国やカナダ、イギリスでも5割以上が現金以外の方法で支払いをするという。日本で早くからQRコード決済を開始し、トヨタや大手金融機関とも提携するOrigamiの創業者に話を聞いた。

■カナダ・トロント生まれ、ニューヨーク育ち10歳で東京へ

【田原】康井さんはカナダ生まれのニューヨーク育ちだそうですね。

【康井】父がカナダの銀行で働いていて、カナダのトロントで生まれました。2歳のときにニューヨークに初めて行きました。

【田原】家の中では英語ですか。

【康井】日本語です。現地校に通っていたので学校や友達とは英語。土日は日本人学校に通っていました。

【田原】お父さんは外資系の金融マンだった。

【康井】はい。ニューヨークでいろいろな会社の現地法人にいました。ちょうど日本に本格進出する銀行があって、10歳のときに東京に戻りました。

【田原】初めての東京はどうでした?

【康井】小学校で「前にならえ」を初めてやって、不思議な気持ちになりました。アメリカの小学校ではみんな胡坐をかいて床に座って、自由に授業を受けていました。身長の順に並ぶこともなかったし、おもしろいなと。

【田原】東京に戻ってからはどんなことをしていたのですか?

【康井】最初はインターナショナルスクールに行く予定でしたが、姉が中学受験で私立中学に入ったので、私も編入試験を受けて私立の学校に行くことに。そこからはスポーツ漬け。学校が終わると毎日、クラブに行ってテニスやアイスホッケーをやっていました。

【田原】当時からパソコンは使っていた?

【康井】小さいころから身近にあって触ってはいましたが、基本的にインドアより外に出て走り回るほうが好きだったので、パソコンにどっぷりハマりこむという環境ではなかったです。

■テニスの道をあきらめ、ECサイトで「エアマックス」を販売

【田原】高校でさっそく事業を始めたそうですね。

Origami 代表取締役社長 康井義貴氏

【康井】中学生のころはテニスに打ち込んでいて、全国大会にも出場しました。高校にあがると、まわりにはプロになって海外遠征したり、スポーツ推薦で強豪校に転校する仲間が増えてくる。それを見て私も将来のことを考え始めたのですが、家族に相談すると、父親から「おまえが進む道はビジネスだろう」と反対されまして。それを素直に受け止めて、プロにならないならときっぱりやめて、ビジネスの道に進むことにしました。手始めに、目の前にあるものをネットで売ってみようと考えたのが最初の商売体験です。16歳のときでしたね。

【田原】目の前のものを売るって、どういうことですか?

【康井】自分でWEBサイトをつくって、スニーカーや洋服を売りました。ファッション系のサイトです。

【田原】洋服って、康井さんは売るほどたくさん持ってたの?

【康井】わらしべ長者みたいなもので、最初はたまたま持っていたスニーカーを販売しました。それで少しお金が入って、同じようなスニーカーを仕入れた。そうやって商売の規模を少しずつ大きくしていきました。

【田原】仕入れるって、高校生なのに安く仕入れられるルートを持っていたんですか?

【康井】いえ、安く仕入れたのではなく定価で仕入れて、二次流通で売りました。当時、「エアマックス」というナイキのスニーカーに代表されるように、入手困難な商品は定価の数倍で売れたんです。

【田原】入手困難なら、康井さんだって手に入らないんじゃないですか?

【康井】あの手この手で入手していましたね。店員さんと仲良くなって予約を確保してもらったり、出版社の人と仲良くなって雑誌の掲載の情報をもらったり。

【田原】だってあなた16歳でしょ。大人の店員とどうやったらコネができるんですか?

【康井】仕入れもそうですが、販売するときは店舗の棚を借りて、私が仕入れてきた商品を置かせてもらったりもしていたので。売れたら私と、お店で利益をシェアしていました。お店も儲かるので、邪険にはされませんでした。

【田原】売れたらリベートをあげるわけね。出版社というのは?

【康井】「次の号で、あの芸能人がこの靴を履いて載るよ」と教えてもらったら、雑誌が出る前にその商品をいくつか買っておきます。雑誌が発売されると話題になって、定価以上で売れました。

【田原】雑誌の編集者にもリベート払うの?

【康井】さすがに、それはしてなかったです。当時は「早く大人になりたい」思いが強く、大人がいるところにいろいろ首を突っ込んでいて、かわいがってもらっていましたね。

■インターン経由で、リーマン・ブラザーズに新卒入社

【田原】大学は早稲田に進学して、すぐにプライベートエクイティファンドでインターンを始める。プライベートエクイティファンドって何ですか?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【康井】簡単にいうと企業再生をするファンドです。伸び悩んでいる会社を買収して経営に入り込み、その会社を成長させて企業価値を高めてから、再上場するなどして利益を得ます。私がインターンをしたファンドは設立したてで、とにかく猫の手も借りたいから手伝えと言われまして。私も興味はあったんです。たとえばペットボトルの水が100円で売られているのは理解できますが、ある会社の企業価値が500億円といわれても、なぜその値段がついているのかよくわからない。コーポレートファイナンスを実務で学べるいい機会だと思って、インターンを始めました。

【田原】企業再生なんて、大学生にできるの?

【康井】雑用でしたから。せいぜいエクセルに数字を打ち込んだりとか、その程度です。

【田原】月給はどのくらい貰っていましたか?

【康井】けっこうよかったです。その後、リーマン・ブラザーズでもお手伝いを始めましたが、普通の社会人並みには貰っていたと思います。

【田原】大学卒業後は、そのままリーマン・ブラザーズに入られる。

【康井】リーマンでは学生のときからM&Aアドバイザリーの仕事をやっていました。たとえば会社の合併や買収のときに企業価値を算定します。ただ、卒業して正式に入社した年の9月に、リーマンショックがあって破綻。だから正社員としては半年ほどしか働いていませんが(笑)。

■リーマンショック後、シリコンバレーのベンチャーキャピタルへ

【田原】その後は?

【康井】シリコンバレーにあるDCMベンチャーズで働き始めました。大手のベンチャーキャピタルです。当時、日本に拠点をつくろうとしているときだったので、シリコンバレー、日本、そして中国の3拠点を行ったり来たりしました。

【田原】そこを2年で辞めて起業する。

【康井】当時アメリカでよく質問されたのが、「日本はどうしたのか。昔はソニーやホンダが輝いていたのに、最近は何も日本から出てこない」ということ。そういう言葉を聞くうちに、日本からグローバルで憧れられる事業をつくりたいという気持ちが湧いてきて起業を決意しました。社名をOrigamiにしたのも、外国人でも知っている日本語にしたかったから。アメリカの幼稚園でも一回は折り紙を経験するので、みんな日本のものだと知っている。一枚の紙からさまざまな形がつくられる無限の可能性にも起業家精神を感じて、ちょうどいいなと。

■クレジット決済とQRコード決済の明確な違い

【田原】起業は2012年。Origamiは何をする会社ですか。

【康井】いわゆる金融です。アメリカや中国では09年ごろからフィンテックが話題になって、新しい金融サービスが現れ始めました。一方、日本では誰もフィンテックなどと言っていない。その状況を見て、未来の新しい銀行をつくろうと考えました。金融はAからBにお金を動かすことを指すので、その新しい仕組みをつくろうと。

【田原】未来の銀行ね。

【康井】ただ、最初から何百億円もあってお金を貸したりできるわけではなかったので、まずはお金が動く仕組みをつくろうということで、Eコマースからスタートさせました。Eコマースは決済のビジネスに比べ、お金をかけずに立ち上げられますから。そして次につくったのが、スマートフォン決済サービスの「Origami Pay」です。始めたのは15年10月でした。

【田原】Eコマースの次が決済。

【康井】Eコマースとスマホ決済はとても似ています。Eコマースはインターネット上で購入ボタンを押して、見えないところから商品が届きます。一方、スマホの決済は店頭で通販と同じような仕組みで決済しますが、商品が目の前にあるから、それを自分で持って帰る。商品が目の前にあるかどうかの違いです。

【田原】同じような仕組みで決済するって、具体的にどう使うんですか?

【康井】加盟店で買い物をしたときに、スマホでお店が出すQRコードをスキャンするか、スマホに表示されたバーコードをお店のレジで読み取ってもらうことで決済が完了します。この決済の仕組みをインターネットで動かしています。

【田原】スマホで決済できると、何がいいんですか。現金やクレジットカードと比べて便利なの?

【康井】まず「Origami Pay」で買ったほうが安くなります。従来のクレジットカードなどの決済スキームは複雑で、何重にも手数料などのコストがかかります。一方、「Origami Pay」はインターネットを使うことでお金の流れを単純化できる。これまでの手数料などの決済コストをお客様に還元できるので、安くできるのです。

【田原】なるほど。メリットは安くなることね。

【康井】決済の速さも利点です。たとえばタクシーでクレジットカードを出すと、決済に数十秒くらいかかる。それがQRコード決済なら約2秒で完了します。

【田原】タクシーでクレジットカードだとサインも必要だしね。

【康井】もう1つ、お客様とお店が繋がりやすいという点も強調しておきたいです。たとえば私がドーナツ屋さんで、田原さんが1つ買ってくれたとします。新しいドーナツのプロモーションで半額キャンペーンをやりたいのですが、田原さんが現金やクレジットカードで支払いをしていたら、キャンペーンを田原さんに知らせる手段がありません。しかし、スマホ決済なら、「来週、田原さんのためだけに50%オフのクーポンを発行したので、ぜひご来店ください」とお送りできる。

■競合から見た、PayPayの100億円キャンペーン

【田原】それはお店と買い物客両方にメリットがあるね。お店側にもメリットがないと加盟店は増えないと思うけど、お客と繋がれること以外にもメリットはありますか?

東京五輪を見据えて政府も支援するQRコード決済。市場は23年には約8兆円になると見込まれている。Origami Payのほか、LINE Pay、楽天ペイ、ソフトバンクとヤフーが株主のPayPayなど各社のユーザー獲得キャンペーンも熾烈に行われている。

【康井】まず先ほど言った手数料ですね。クレジットカード決済の場合、地方の小さなお店では、高い手数料を払っていることもあります。それに対して「Origami Pay」は0~3.25%です。また、導入コストもかかりません。クレジットカード決済はカードを読み取る機械をお店が購入しなければならないことが多々あります。一方、QRコード決済なら、高い機械を導入しなくてもステッカー1枚貼るだけで決済を受け付けられます。

【田原】スマホ決済の利点はわかりました。康井さんの会社の収益源は何ですか。さっきの決済手数料?

【康井】それに加えて広告収入があります。ユーザーに対して販売促進の案内を送りたいといった企業様の広告も収益源となっています。

【田原】いま従業員は何人ですか。

【康井】どんどん増えていて、いま約150人になりました。

【田原】このまえソフトバンクグループが「PayPay」の100億円キャンペーンをやって良くも悪くも話題になりましたね。あれは「Origami Pay」の競合でしょう? 康井さんにとって大手の参入は脅威ですか。

【康井】大手の企業が入ってくるのは非常に素晴らしいことだととらえています。そもそも、われわれの敵は現金だと考えています。スマホ決済は非常に大きな産業で、われわれ一社では立っていられないですから。

【田原】どういうこと?

【康井】決済の市場は小売りだけで140兆円あって、その8割が現金です。私たちはそこにスマホ決済を普及させて、お金の動きを変えようとしている。日本で初期にQRコード決済を始めたのも私たちです。ただ、これまでに「QRコード決済って何ですか」と何度も聞かれていて、普及させるのも一筋縄ではいかなかった。また、うまく普及させたとしても、この市場は、一社が独占するには市場規模が大きすぎて難しいと感じます。それはクレジットカードの歴史を見ても一社で独占されていないことからも明らかです。このような市場なので、大手の参入で裾野が広がったほうがありがたいです。

【田原】いま競合はいますか?

【康井】日本でスマホ決済の会社で大きな加盟店ネットワークを持っている会社は複数ありますが、独立系は私たちだけです。

【田原】独立系は不利ですか?

【康井】大手とは戦略が異なります。日本の大手は、ポイントでお客様を囲い込んで経済圏をつくる戦略で動いている。囲い込みは、もちろん効果的な戦略ですが、Eコマース市場でなく決済という非常に大きな市場では、状況は異なってくると考えています。

■中国でQRコード決済が、急拡大した本当の理由

【田原】ならどうする?

【康井】決済の歴史を見ると、過去に大きくなっているのは囲い込んだ会社ではなく、オープンな戦略の会社です。たとえば世の中に「VISAカード」は1枚もなく、すべて「○○VISAカード」というように提携をしている。つまり「ネットワークを開放するので、みんなで使いましょう」と考えた会社が大きくなっています。私たちもオープン戦略を掲げています。たとえばトヨタファイナンスと提携して、「TOYOTA TS CUBIC Origami Pay」「LEXUS Origami Pay」といったものを展開をしています。今後スマホ決済にはもっと多くのプレーヤーが入ってくる。そうした企業様が入ってくるときに一緒に展開していければと思っています。

【田原】根本的なことを聞きたい。日本は現金8割で、キャッシュレスが進んでない。原因は何ですか。

【康井】スマホ決済において、日本が遅れている理由は、じつは1つしかありません。それは、現金に比べて経済合理性、すなわち、おトクになることに、これまでどの企業も本格的に投資を行ってこなかったから。いま中国では「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」が普及していますが、彼らはいままで何兆円という単位でマーケティングしてきています。それに比べ、日本はまだ二桁小さい金額です。だからまだこれからです。

【田原】それはスマホ決済の話ですよね。クレジットカード会社はこれまでたくさんマーケティングしてきたけど、やはり現金が強い。この問題はどうですか。

【康井】そこはコストの問題にいきつくと思います。クレジットカードは構造的に高コストだからお店側が及び腰になり、使えるお店が限られているんです。それでみなさん現金を頼りにする。この状況もスマホ決済や一連のキャッシュレス化の動きで変わっていくのではないでしょうか。

【田原】さて、康井さんは未来の銀行をつくりたいとおっしゃった。決済の次は何をしますか?

【康井】銀行の三大業務は預金、融資、為替。決済・送金は為替業務の一部にすぎません。ゆくゆくは預金や融資の領域、さらには保険販売や証券などのサービスも手掛けて、金融グループをつくりたいです。

【田原】でも、既存の銀行のコピーじゃおもしろくない。未来の銀行はどんな形ですか。

【康井】未来の金融機関はインターネットの上で動くので、手数料を中心としたビジネスモデルではなくなると考えています。情報通信の世界と同じです。昔はA地点からB地点に情報を運ぶときに切手代や電話代を取っていましたが、いまはメッセージのやりとりや検索までタダになり、フェイスブックやグーグルは広告で収益をあげている。これと同じゲームチェンジが金融でも起こります。未来の金融機関も、新たなビジネスモデルに転換していくと思います。

【田原】わかりました。頑張ってください。

■康井さんから田原さんへの質問

Q. 日本の未来を明るくするには?

僕は日本の未来は非常に明るいと思ってますよ。理由は、康井さんのような人が出てきたから。

朝日新聞や毎日新聞が特集を組んでいましたが、いまの大学生に「就活でどんな会社に入りたいか」とアンケートを取ると、1位は倒産しない会社、2位は給料が高い会社、3位は残業のない会社でした。つまり自分がやりたいことがないか、あるいは、あっても我慢している。これは最悪です。

一方、非常に高給取りだった康井さんがその座を捨てて起業したように、高い志を持って自分のやりたいことをやる若い人も増えてきた。大企業に勤めている人たちの間にこの動きがもっと広がっていけば、日本の未来は明るくなるはずです。

田原総一朗の遺言:若者よ、やりたいことをやれ!

(ジャーナリスト 田原 総一朗、Origami 代表取締役社長 康井 義貴 構成=村上 敬 撮影=枦木 功)

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