"目黒在住"なのに"埼玉"に通う医師の事情
プレジデントオンライン / 2019年2月17日 11時15分
※本稿は、「プレジデント」(2018年10月1日号)の特集「高校・大学 実力激変マップ」の掲載記事を再編集したものです。
■“親の開業医率”なら、帝京大、東京医科大
医師の所得の差はどこでつくのか。一般論でいうと、開業医と勤務医では開業医が高く、勤務医でも地方と都市とでは地方のほうが高い。学歴との相関を直接示すデータを探すのは難しいが、これらを組み合わせて考えると、所得の高い医師を輩出する大学はある程度推定できる。
開業医になる人の学歴と、勤務医になる人の学歴には違いがあって、偏差値が高い医学部の卒業生ほど勤務医が多い。この図式はある程度決まっている。東大OBはいい意味での権威主義というか、あまりカネ、カネとは言わない。進路は研究畑が比較的多い。一方、偏差値が低い――といっても医学部相応だが――大学の多くは私立であり、研究畑に進む層が少ない。
私大医学部は授業料が高く、親の経済力は必須の条件だ。その親が、後継ぎの欲しい開業医……という設定なら、私の経験上では帝京大学と東京医科大学が思い浮かぶ。同じ私大でも、慶應義塾大学医学部生の親の“開業医率”は比較的低く、授業料もほかより安い。東大とは対照的に、臨床に進む人が多いのも特徴だ。
■競争激化で「開業」が難しくなっている
ここ数年の大学医学部は、国公立は別として入学金・授業料を下げる傾向にある。無論、私立文系に比べればはるかに高いが、横並び意識が強い。2008年に順天堂大学が大幅に下げて偏差値を上げてから、他が追随した。帝京も例外ではない。やはりどの大学も、根底には優秀な学生を集めたいという思惑がある。
もっとも肌感覚でいうと、近年は高収入が見込めるはずの開業医の2世があまり出ていない。以前と違って、医学部卒でも医師ではない仕事に就く道もあるし、昔のように親と同じ診療科を選んで家を継ぐのはトレンドではなくなりつつある。開業するにしても親とはまったく異なる診療科、まったく異なる土地であることも少なくない。
今は、競争の激化で開業そのものが難しくなっている。都市郊外には医院の看板がひしめいているが、これは儲かる開業場所が駅周辺やショッピングモール内に限られるため。東京都内は医学部のある大学が13あるから、卒業しても都内での開業はライバルが多すぎて厳しい。千葉や茨城、埼玉の3県のさらに田舎のほうなら、今も医師不足なのでまだ可能性がある。
■東京都内の勤務医給与は1500万を超えない
では、勤務医の給与はどうだろうか。東京都内では、医師の年収は後期研修5年目くらいから1000万円を超える。ただ、1500万円を超えることは難しい。都市部や都市近郊で週1回、外勤など時給1万円程度のアルバイトで年300万、最大で400万円稼げる場合もある。さすがの時給だが、それも今は当直や土日の勤務、常勤の医師の代理など、きつい仕事が目立つ。
都内の世田谷や目黒のような高級住宅地に住みながら、平均給与が都内と比べて遜色ない埼玉県内に通勤する医師もいる。埼玉は人口増で、特に中小の病院が相当増えた。が、最近は生き残り競争が厳しく、いつの間にか病院が別の名に変わったり、診療所や介護施設に転じるなど安泰とはいえない。
地方の勤務医の好待遇は、医師が足りないからだ。以前なら、大学を卒業した医師はその県の医局に7割方入ったが、2004年から導入された新医師臨床研修制度によってそうした縛りが解け、医局入りは4割程度に激減。医師に人気の低い地域では、給与を上げて他県から招かざるをえなくなった。
■医師の充足率は「西高東低」
関東なら群馬、さらに岩手まで北上すると、勤務医の年収は1500万円から2000万円に届く。それを上回るには院長以上のクラスでなければ無理だろう。前出以外の東北各県は公立病院が多く、突出した金額は出せないのかもしれない。
医師の充足率は「西高東低」ともいわれ、関西ではそこそこ足りている。京都は舞鶴などでは不足しているが、全体としては充足傾向だ。今も出身大学の縛りが比較的強く、医師が勤務先の病院を自ら選ぶのは難しいようだ。
ただ、医師を目指す人の多くは、稼ぎたいというよりも安定志向。医師になった時点でプライドは満たされるし、ガツガツする必要もないだろう。高収入というだけではなく、やはりその土地で育った人、その土地で研修を受けた人が愛着を感じて残る場合が多い。高年収でも、まるで縁のない土地にはなかなか行きづらいようだ。
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医師専任キャリアコンサルタント
1971年生まれ。関西学院大学卒業。医師のキャリア支援に従事する。現在、ブレインファーム所属。
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■▼【図表】「偏差値」と「学費」は反比例する
(医師専任キャリアコンサルタント 中村 正志 構成=西川修一 撮影=浮田輝雄 写真=Getty Images)
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