34歳でサンリオに狂った男芸人の言い分
プレジデントオンライン / 2019年1月23日 9時15分
■ツッコミどころの多さに気づく
お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」のボケ担当・平井“ファラオ”光さんが今、サンリオにのめりこんでいる。日々ツイッターでサンリオ愛を爆発させまくっているのだ。もともとの趣味は「古代エジプト」「日本画」「ハードロック」と渋めの34歳男性が、なぜ日本が誇る“キング・オブ・ファンシー”に魅了されているのか。
「たまたまサンリオのウェブサイトを見ていたときに、キャラクターを年代順に並べたページを見つけたんです。まず、そのなかで最初のほうに出てくるバニー&マッティというキャラクターのかわいさにドキュンと来た。さらにいろいろ見ていったら、かわいいだけじゃなくて設定がボケているキャラクターがすごく多いことに気づきました」
「例えば、象が自転車に乗っていて、名前が『ゾウ自転車』というキャラクターがいるんですが、プロフィールには『サイクリングも趣味のひとつ』と書いてある。名前に『自転車』って入ってるのに、あくまでサイクリングは趣味のひとつって、おかしいじゃないですか。しかも『自転車』が『ゾウ』のあとに来ているということは、もしかしたら自転車が本体の可能性もある。これ以外にも、ツッコミどころのあるキャラクターがたくさんいるんです。それに気がついてから、ズブズブとハマっていきました」
■「現実を忘れさせてくれる」
取材時には多くのグッズを持参し、「これを見てください」と説明が止まらない。何がそんなに心をつかんでいるのだろうか。
「『はじめてのおつかい』を観て感動する感覚に近いかもしれません。かわいらしいキャラクターたちが一生懸命いろいろなことをやっているという、それだけでこみ上げてくるものがあるんです。見ているうちに感極まって、本当に涙が出てくることもあります。『世の中がこうだったらいいのに』という、理想の世界がそこにあるんですよ。普段自分の生きている現実は汚いものやストレスにあふれているけど、サンリオはそれを忘れさせてくれる。だから本当は、むしろ大人のほうがハマる余地が大きいと僕は思ってます」
■キティちゃんの圧倒的カリスマ性
それを確信させてくれたのが、サンリオピューロランド(東京都多摩市)での“主”ハローキティの存在感だったという。
「衝撃でした。なんといってもカリスマ性がすごいんです、生キティちゃんは……。初めて『ミラクルギフトパレード』(ピューロランドの定番パレード)を見たら、絶対感動すると思います。キティちゃんやマイメロディ、キキララといったキャラクターが出てきて楽しくワイワイやっているところに、『こんな世界、くだらねぇ』と突然ヒールが登場するんです。ピンチに陥ったところでキティちゃんの彼氏・ダニエルが、『みんなで倒そう』と立ち上がる。でもキティちゃんはそこで、『ちょっと待って、倒すなんてやめて! 誰にだって暗い気持ちになるときはあるわよ!』と言うんですね。力で対抗するのではなく、精神の部分で解決するんです」
■泥臭い仕事もこなすエンターテイナー
サンリオの基本理念は「みんななかよく」。それを誰よりも体現してるのがハローキティだと、ファラオさんは語る。例えばディズニーのミッキーマウスは世界観を守ったブランディングで人気を確立しているが、ハローキティは多くのコラボ企画を行い、ネットでは「仕事を選ばない」と揶揄されるほどだ。そうした姿勢が、ファンをひきつけているのだという。
「キティちゃんは1974年生まれなので来年45周年ですが、これだけ長いことやってきているのに泥臭い仕事をやっている。だからこそファンはキティちゃんをすごく尊敬していて、『キティさん』と呼んでいる人もいるくらいです。ミッキーのように徹底的にイメージをコントロールして生まれるカリスマ性もあれば、キティちゃんのようにいつまでも初心を忘れないエンターテイナーという見せ方もあるんだと思います」
■ピューロランドとディズニーランドの違い
ディズニーの話になると、それまでの温和な表情から一瞬キリッと目を光らせたファラオさん。そして「これだけは言いたいんですが」と前置きしつつ、こう語る。
「ピューロランドをディズニーランドの“劣化版”だと思っている人がいますが、ピューロに行くとそうではないとわかります。ディズニーランドはアニメ作品の世界観とアトラクションがメインで、ピューロランドはキャラクターとショーがメイン。ディズニーのような激しいアトラクションはありませんが、その代わりキャラクターと写真を撮ったり触れ合ったりするイベントやミュージカルやパレード、ショーが豊富なんです。実際、ダンサーさんのレベルに関しては、日本のテーマパーク随一と言われてるんですよ」
■「ビジネス」疑惑は知識量ではねのけた
これほどサンリオ愛あふれるファラオさんだが、実はハマったのは2018年の6月頃と、最近のことだという。現在のお笑い芸人界は、ネタだけで身を立てていくのがなかなか難しい。多くの若手が特技や趣味を活かしたキャラづけに一生懸命なだけに、急にひとつの趣味を語り始めるのは「ビジネス」の疑いをかけられがちだが、ファラオさんは否定する。
「実際に、周囲からもそう言われたことはあります。もともとの僕のキャラクターとの違和感もあるんでしょうね。でも、自分で言うのもなんですが、芸人の世界で僕よりサンリオに詳しい人はいないんですよ。もしかしたら芸能界でもいないかもしれない。本当に好きじゃなければ、そんなに詳しくなれるものじゃないです。好きじゃないものを追求するのは苦痛ですから。だから今では周りの人たちも、『これだけ詳しければ本物だな』と見てくれるようになりました」
今では、ファラオさんの話から興味を持った芸人仲間をピューロランドに連れて行ったり、同志サンリオファンとの交流も楽しんだりしているという。サンリオという存在は、ファラオさんをどう変えたのだろうか。
「サンリオを好きになってから、周囲の警戒心は緩んだかなと思います。それなりに共演したことがあるような人でも、『ちょっと話しかけづらい』『怖い』と思われていたのが、話しかけてくれたり、こちらからもサンリオの話をしたりできるようになりましたね」
■キャラクターの“無償の愛”に泣きそうに
自他ともに認める人見知りというファラオさんに、こうした変化をもたらしたのも、あるキャラクターだという。
「僕が初めてピューロでグリーティング(キャラクターと触れ合うこと)したのは、エスプレッソくんというキャラクターでした。自分は根が暗いので、キャラクターにも人見知りしてしまってあいさつするのが精いっぱいだったんですが、エスプレッソくんはその壁を突き破ってギュッとハグしてくれて……本当に泣きそうになりました。『なんでこんな無償の愛を注いでくれるんだろう?』と。それからは、いよいよ『サンリオが好き』と言わないと気が済まなくなりました。『わかってほしい』という気持ちが大きいんです」
■「男のプライドを捨てれば天国」
かわいいキャラクターを愛(め)でるのは女性や子供の専売特許であり、大人の男がのめりこむものではない、という偏見も世の中にはあるはずだ。サンリオ愛を公言することに、抵抗はなかったのだろうか。
「僕は最初から特になかったですね。よくピューロでも、カップル客の男性がちょっとスカした態度をとっているのを見るんですが、『かっこつけんなよ』と思います。この愛を素直に受け入れろ、恥ずかしがってんじゃねぇよ、と。男のプライドがどうしても邪魔しちゃうんだと思うんですけど、壁をひとつ破ったらその先は天国ですから。ピューロランドが開園から約30年、サンリオ自体はもっと前から、こんなに長い時間成功してる企業なわけです。人の心をつかむ何かがあるに決まっていて、それを受け入れられるかどうかは自分の器次第なんです」
「サンリオ好きの男たちは、みんな言ってます。『男でもサンリオが好きだと堂々と言える世の中になってほしい』って。だから、多少は知名度がある僕のような人間が頑張って広めていこうと思ってます。もはや、謎の使命感ですね」
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お笑い芸人
1984年、神奈川県生まれ。サンミュージック所属。「馬鹿よ貴方は」のボケ担当。M‐1グランプリ2015年ファイナリスト。ツイッター:@hirapoyopharaoh
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(お笑い芸人 平井“ファラオ”光 構成=西澤千央 写真=尾藤能暢)
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