なぜ若者は"実家近くのイオン"に集うのか

プレジデントオンライン / 2019年1月25日 9時15分

牛窪恵氏。『イオンを創った女』(プレジデント社)を手に。(撮影=プレジデント社書籍編集部)

日本一の流通業「イオングループ」は、日本の郊外の風景を一変させた。そんなイオンは30代以下の世代にとって「子供の頃から慣れ親しんだ場所」だ。マーケティングライターの牛窪恵氏は「『初デートはイオン』と語る若者も多い。イオンは今や『インフラ』になった。人々の営みがイオンに集中する現象はこれからも続くだろう」と分析する――。

■親とイオンが心地いい若者たち

今の30代やその下の世代に、「結婚しても、実家の近くに住みたい」「そこにイオンがあればなおよい」と考える男女が増えています。

多くの若者が、少しでも早く親元を離れて、都会や海外へ出て活躍したいと願った時代がありました。当時の憧れは、ちょっと背伸びした高級ブランドや、おしゃれなロフト付きのワンルームマンション、そしてカッコイイ車。しかし、もはやそれは今の20~30代にとって、理想とする姿ではないのです。

街に、等身大のイオンがあれば安心。イオンは自分たちの味方で、日常使いで困ることはほとんどない。そして今は「休日レジャー」の場としてすっかり定着し、友人や家族と娯楽を楽しむ場としても利用できます。

なぜ、そしていつから若者は、イオンを求めるようになったのでしょうか。

■「とりあえずビール」って意味分からない

そこには、時代背景があります。私が「草食系男子」の本を書いたのが、2008年の秋でした。その2年前から、酒造メーカーと自動車メーカーからご相談を受けて、当時の20代半ば、現在の30代半ばの男女に対し、インタビュー調査を始めました。のちに私が「草食系世代」と呼ぶようになった世代です。

両社の悩みは、「今の若い男性は車に乗りたがらない」、あるいは「お酒を飲みたがらない」。これがなぜなのか、自分たちには理解できない、というものでした。そこで草食系世代の若者100人に、グループインタビューやデプスインタビュー(1対1の面談式インタビュー)を行ったのです。

彼らからまず出てきたのが、「ビールって飲んで何になるんスか?」「『とりあえずビール』って、意味わかんない」という声。

私やスタッフの多くは、彼らより10歳以上、上の世代です。初めは、面食らいました。「飲んで何になる?……なぜそんなことを考えるんだろう」「おいしいから飲むに決まってるじゃないか」。でもインタビューを繰り返すうちに、分かったことがあります。

それは、彼らが「結果」を考えてから動く世代だということ。車についても、「買った直後はうれしくても、手入れとか維持が大変じゃないスか」といった声が、次々と飛び出しました。確かにその通り。でも私たちが若いころは、そんなこと考えなかったのになぁ……。

そして、彼らが重視する2つのキーワードが浮かび上がったのです。1つが「コスパ(コストパフォーマンス)」、もう1つが「自己責任」でした。

■根拠のない自信があるバブル世代

筆者を含むバブル世代は、飲んでどうなろうが、結果はあまり気にしませんでした。酔っ払ってその辺に寝てしまっても、まぁどうにかなるだろう。終電がなくなったらタクシーで帰ればいいし、タクシー代がなければどこかに泊まればいいや。後で笑い話のネタにもなるし、といったニュアンスです。

この「なんとかなる」という感覚、根拠のない自信は、バブル世代特有の感覚です。おそらく背景には、右肩上がりのバブル経済があります。

いま70代前半の「団塊世代」も、上昇気流の「高度経済成長」を体験していますが、彼らは学生運動で少なからず挫折した世代。でも私を含めた、40代後半~50代のバブル世代は、青春時代にアメリカナイズされたバブル文化を体験しました。もっと頑張ってお金を稼げば、憧れのモノが手に入る。欧米のように自由に恋愛もできる。だからこそ、消費意欲が労働意欲、すなわち「稼ぐ」ことと直結していました。

ところが、今の20~30代は、物心ついた時からずっと日本経済が低迷している時代に育ちました。テレビをつければ、毎日偉い人たちが「申し訳ありません」と、不祥事で頭を下げている。親を見ても、お給料が伸び悩んでいる様子が如実に分かる。年金も、自分たちの時代にはもらえるかどうか分からない。

そんな中で、一時的な快楽で酔って終電を逃したら、タクシー代など余計なお金がかかる。酔って家に帰れば、家族にも迷惑をかけるかもしれない。いろんな「結果」を総合して考えると、飲み過ぎるのは明らかに割に合わない。「コスパ」に合わない、というのです。

もう一つの「自己責任」は、私自身、非常にショックだったキーワードです。

■「最後に頼れるのは、親だけだ」

実はインタビューした100人の20代男子のうち、74人がこの「自己責任」に近いニュアンスを口にしました。

大きなきっかけは2004年、イラクで日本人3人が誘拐された際、小泉内閣が使った「自己責任」という言葉だったようです。おそらく当時、内閣はそういう意味合いで発言したわけではないのですが、彼らはこう捉えていました。

「この先、国も会社も、自分を守ってくれない」「だからちゃんと貯金して、自分で自分の身を守らないと」「いざという時のために、地元の友達と仲良くしておかないと」

そして彼らは、こうも言っていました。「知らない大人は信用できない。最後に頼れるのは、親だけだ」と……。

つまり、根拠のない自信を持ったバブル世代は、競争主義で肉食系、極端に言えば、周りを蹴落としても自分が上に行くことで、男性として「勝利」の感覚を得たかった。口うるさい親元も、早く離れたかった。でも彼ら草食系世代は、「無理に親元から都会に出て、競争した果てに、いったい何が残ったんだ?」という、バブル崩壊後のシビアな現実を見て育っています。

■結婚後も「親の近くに住みたい」

そんな無意味な競争をするぐらいなら、むしろ親や地元の友達と仲良く緩くつながって、楽しく働きたい。カッコつけて分不相応な車に乗ったり、飲めないお酒を無理に飲んだりするより、よく見知った地元の友達や親の近くに住んで、等身大の生活を送りたい。

特に、今の20代(主に「ゆとり世代」)は、一人っ子の割合が増え、親だけでなく祖父母にもかわいがられて育った世代です。だからこそ、結婚後も「親の近くに住みたい」とか、「じいじ・ばあばの近くで暮らしたい」など、地元志向が強いのでしょう。

地元好きで親や古くからの友人と仲がいい、いわゆる「マイルドヤンキー」も、イオンが多い郊外型のエリアに多い人たち。彼らもまた、イオンが生活に根付いています。

■「イオンに集う若者」と「恋愛しない若者」の共通項

コスパや自己責任を重視する若者たちは、「海外旅行好き」と「そうでない人たち」に、二極化しています。実は今の20代にも、海外旅行のリピーターは数多くいます。LCCやホテルの比較予約サイトなど、格安で弾丸旅行に行ける手段が整い、思い立ったときいつでも気軽に、安く旅行できるからです。

でも、「海外旅行はコスパに合わない」「自己責任が伴う」と考える若者は、無理に行こうとはしません。それなりにお金がかかるし、テロの危険性もある。大事な親に、「怖いから行かないで」と言われれば、無理に行く必要はないと考えます。

そして何より、地元のイオンなら安くて何でもそろう。「いつかは海外に行ってもいいな」と思っていても、日々の生活や休日のレジャーは、イオンで事足りる。そこにないモノは、ネットで買えばいい。

逆に、コストやリスクを費やしてまで、見知らぬ世界に足を踏み出そうとは思わない。この感覚は、「恋愛に憧れはあるけど、別に今じゃなくていいや」と話す、「恋愛しない若者たち」に似ています。

■「初デートがイオン」はよくある話

旧ジャスコグループが「イオングループ」に変わったのは、平成元年、1989年のことでした。この時代に生まれ育った30代以下の世代は、物心ついたときからイオンがありました。イオンはいわば地元、親元の近くにある、等身大で安らげる場所です。

東海友和『イオンを創った女 評伝小嶋千鶴子』(プレジデント社)

経済評論家の大前研一さんはイオン大好きな「イオニスト」の存在を指摘しますが、分かる気がします。私たちがインタビューしても、「初デートがイオン」や「クリスマスは家族でイオンで過ごす」といった話がよく出てきます。子供のころから慣れ親しんだ場所だけに、大人になった今、地元で集まる際も、「イオンに集合ね!」と言い合う。そこに安心感や、昔からの思い出が詰まっているからです。

イオン人気は、もちろん若者だけのものではありません。40~50代のファミリー層や、60代以上のシニア層にも人気なのは、特にこの10年で「二世代」「三世代」が楽しめる空間を創り上げてきたからです。

シニア世代にインタビュー調査をした際、こんな声があがりました。「普段あまり若い人と接する機会がないけれど、イオンのベンチで本を読みながら座っていると、若い人たちが元気に行き交う様子を肌で感じられる。だからイオンが好き」。人ごみのざわざわした空気を胸に吸い込むことで、安らぎを覚えるそうです。

■イオンは「インフラ」になった

かつては「団塊世代が70代、80代になると、運転しなくなり、郊外型のイオンは廃れる」とも言われました。しかし岡山や旭川など、駅前型のイオンが増えています。何より「自動運転」が予想以上に早く、生活に浸透しそうな勢いです。事故を防ぐ「自動ブレーキ」はいち早く義務化の動きが進んでいます。安全に車を使えるなら、シニアが車を手放す必要はなくなります。

つまり郊外型のイオンも、以前予想された以上に長く存続するでしょう。イオンはもはや、あらゆる人たちの生活に欠かせない「インフラ」となっているのです。

イオンのそばで暮らしたい、そんな20代、30代の若者が親になっていくにつれ、ますます人々の営みがイオンに集中するという現象は進んでいくのかもしれません。全世代が「イオン」に集まり、日本全体が等身大の「イオン化」していく。

でもそれって、悪いことではない気がします。人口減少で国内の経済成長が難しい日本にあって、イオンはこれまで以上に「われわれの味方」でいてくれると思うからです。

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牛窪恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター
1968年東京生まれ。マーケティング会社インフィニティ代表取締役。現在、立教大学大学院(MBA)博士課程前期。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)などがある。

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(マーケティングライター 牛窪 恵)

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