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風邪を治すためにビタミンCを食べるバカ

プレジデントオンライン / 2019年1月23日 9時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/supitchamcsdam)

できることなら風邪にもインフルエンザにもかかりたくない。かかったら一日でも早く治したい。そんなわがままに最新の医学はどうこたえてくれるのか。大阪大学大学院で病理学を教える仲野徹教授は「風邪を早く治そうと『ビタミンC』などのサプリメントを摂取しても、大きな効果は期待できません」という――。

※本稿は、仲野徹『(あまり)病気をしない暮らし』(晶文社)の一部を再編集したものです。

■インフルエンザは別物と理解しよう

まず、風邪とは何なんだろうかと、またまた広辞苑をひいてみました。そこには「かぜ(風)5」とあります。さよか、と思ってそこを見ると「ア)風の病 イ)(風邪と書く)感冒」とあります。それやったら、風邪のところに「感冒」と書けよ、気のきかん。で、いよいよそこには「身体を寒気にさらしたり濡れたまま放置したりしたときに起こる呼吸器系の炎症性疾患の総称。アデノウイルス・コロナウイルス・ライノウイルスなどが鼻腔・咽頭・喉頭などに感染することによる。感冒」とあって、なるほどの定義です。

一方、インフルエンザをひくと、「インフルエンザ―ウイルスによって起こる人獣共通感染症。人で多くは高熱を発し、頭痛・四肢疼痛・全身倦怠・食欲不振などを呈する。流行性感冒。流感」とあります。風邪ひき、と言ったときに、人によってはインフルエンザも含めてしまうことがあります。が、広辞苑さまもおっしゃっておられるように、インフルエンザ=流行性感冒は一般的な風邪=感冒とは別物なのです。ということで、以下、単に風邪と書いたら、インフルエンザは含まない、というようにご理解いただきとう存じます。

■歳をとればとるほどかかりにくくなる

勝手に「風邪のバイブル」と認定している『かぜの科学:もっとも身近な病の生態』(ジェニファー・アッカーマン、ハヤカワ文庫NF)という本があります。その本によると、米国では、年間延べ10億回風邪にかかり、外来患者数だけで1億人にも達するとのことです。結果として、患者達は何十億ドルも治療に費やしており、欠勤による経済損失は600億ドルにもなるそうです。一人あたり年間3回程度、経済損失は2万円くらい、ということになりますから、おおよそ日本の実感と同じような感じでしょうか。

これだけのダメージがあるにもかかわらず、残念ながら、風邪についての研究はあまり進んでいません。大きな理由は、放っておいても数日たてば治るということ、そして、原因ウイルスがたくさんあるので研究が難しいということ、です。

インフルエンザを引き起こすのはインフルエンザウイルスです。しかし風邪ひきに対応する「風邪ウイルス」などというものは存在しません。広辞苑にあるように、何種類ものウイルス、おそらくは200種類以上ものウイルスが風邪を引き起こすと考えられています。

200種類もあるウイルスのうちどれかに感染して風邪をひくと、そのウイルスに対して免疫ができます。しかし、原因ウイルスは総数200種類もあるので、ひいてもひいても、別の種類のウイルスによる風邪をひくのです。

少し意外かもしれませんが、統計的には、歳をとればとるほど、風邪に罹りにくくなることがわかっています。これは、いろいろな種類のウイルスの風邪に罹って、それらのウイルスに免疫ができていくためと考えられています。歳とっても、悪いことばかりじゃなくて、ええこともあるんですな。

■自分の地位が高いと思っている人はひきにくい

まわりを見回すと、風邪にかかりやすい人とそうでない人がいるような気がしませんか。さて、それは遺伝によるものでしょうか、それとも環境によるのでしょうか。これに対する明瞭な答えは出ていないのですが、おそらく両方です。まぁ、言うたらなんですが、知能だろうが身長だろうが何だろうが、ほとんどは、「氏=遺伝」と「育ち=環境」の両方が関係している、と言ってほぼ間違いはありません。このことは覚えておいて、ときどきえらそうに誰かに教えてあげたら、賢そうに見えますからお勧めです。

睡眠不足や慢性的なストレスがあると風邪をひきやすい、ということが知られています。あたりまえやろ、と思われるかもしれませんが、意外にも疲労は関係ないらしい。風邪でも、他の多くのことと同じように、タバコは悪玉で、適度な運動は善玉です。サプリメントで風邪を予防することはできない、という研究成果もしっかり頭にいれておきましょう。ムダな投資と抵抗はやめたほうがお得です。

仲野徹『(あまり)病気をしない暮らし』(晶文社)

おもしろいのは、地位が高いと思っている人はひきにくいという研究成果があることです。実際に社会的地位が高いかどうか、ではありません。もうひとつ、これも理由はわかりませんが、社会的ネットワークが広い人、対人関係の豊かな人も風邪をひきにくいのです。付き合いが多ければひきやすそうな気がしますけど、逆らしい。不思議なことです。

■予防には手洗いのほうが効果大

こういったことが影響するとはいえ、風邪をひくには、ウイルスに感染せねばならんのです。そう、それが絶対的な必要条件です。ということは、逆に考えたら、ウイルスにさらされなかったら風邪をひかない、ということになります。では、どうすればいいのでしょう。

ウイルスの侵入部位は、上気道、すなわち口や喉です。そこへウイルスがやって来るのは、飛沫か接触です。キスもあるんちゃうか、という意見もありそうですが、風邪をひいてる人とキスをするような輩は少ないやろう、ということで、とりあえず却下。

風邪の主要症状に咳があるので、なんとなく飛沫によると考えがちですが、むしろ接触の方がメインだと考えられています。もちろん飛沫もありえるのですが、よほど濃厚な接触の場合だけなので、マスクは予防にあまり役立ちません。

なので、重要なのは手洗いです。外から帰ったら、あるいは、屋内でも、風邪の人が触ったような場所を触れた後には、しっかり手洗い。普通の石けんで十分なのですが、指や手のひらといった部位それぞれを15~20秒は洗わないとウイルスは落ちませんから、いささかやっかいです。まぁ、そこまで完全にやらなくとも、できるだけ手洗いするのが望ましいのです。

■手で顔に触れない練習をしてみよう

手で顔をできるだけ触らなくするだけでも効果があるとのことです。ただ、ほとんどの人は無意識のうちに触っているそうで、まったく触らなくするのはなかなか難しいらしい。ためしに、どれくらい顔をなぜまわしているか、チェックしてみてください。

アルコール消毒剤はインフルエンザウイルスと一部の風邪ウイルスとには効果がありますが、一般論としては風邪のウイルスにはあまり効きません。それから、家族に風邪ひきが出たときには、家の中で手を触れがちな場所を清潔にするだけでリスクを下げることができます。こういったことは、知っておいたほうがお得ですね。

誤解のないように書いておきますが、インフルエンザは風邪と違って飛沫感染しやすいのです。なので、インフルエンザの予防にマスク着用はある程度効果があります。が、それも絶対的ではありませんし、インフルエンザも付着で感染します。ということで、インフルエンザも風邪に劣らず、手洗いによる付着感染の防御がとっても大事なのであります。

■ビタミンCのサプリメントでは治せない

いくら気をつけても、風邪をひくときはひきます。感染してしまったらどうしたらいいか。一日も早く治りたいのが人情です。では、風邪を治す方法があるのか、というと、ありません。身も蓋もない言い方ですが、ないものはない。仕方がありません。

これまで調べられたサプリメントは、有名なビタミンCを含めてどれも大きな効果がありません。日本では生姜湯や卵酒、アメリカではチキンスープを摂ったりします。多少気持ちよくなる、とか、水分の補給になる、というような効果はあるかもしれませんが、風邪が早く治るわけではありません。残念っ。

鼻水、咳、頭痛、などといった症状を和らげるお薬は必要に応じて服用すればもちろん有効です。くり返しになりますが、タミフルのようにインフルエンザウイルスに対する薬剤はありますが、いわゆる風邪のウイルスに効くような抗ウイルス薬はありません。それから、抗生物質は不要です。というよりも、飲んではいけません。前章にも書いたように一般的な抗生物質は細菌に対するものですから、ウイルスには効果がゼロです。その上、副作用が出る可能性がありますし、耐性菌=抗生物質が効かない細菌、を産み出す危険性もあります。

ただし、自分ではウイルス性の風邪と思っていても、それ以外の病気で、抗生物質の投与が必要な場合もあるので、そこはお忘れなく。

■医者選びが実はいちばん肝心だった

なんかないんか、責任者出てこい! と言う人がいるかもしれません。ちょっと落ち着いてください。それがひとつだけ、有効な方法があるんです。副作用もなく、風邪が一日早く治るという夢のような方法が。

それは、お医者さんに誠意をもって共感してもらう、ということであります。驚くべきことに、心からの同情をもってお医者さんにやさしくしてもらえれば一日早く治るというのです。それも、何度もしてもらう必要はなくて、一度だけで効果があるらしい。ホンマですか、と言いたくなるような話なのですが、2009年に『治療者の共感と感冒の期間』というタイトルで、ちゃんとした学術雑誌に紹介されています。「心からの」というのがちょっと微妙ではあるんですけどね。

■病気のときくらい、ゆっくりしてもいい

さて、まとめに入ります。風邪をひかないためには、ウイルスに接触しなければいい。とはいうものの、季節になれば、人の集まるところ、多かれ少なかれウイルスがあるはずです。まったく出歩かなければいいのでしょうけれど、そういうわけにもいきませんし、家族が持ち込んでくるかもしれません。だから、できるだけウイルスを体の中に入れないようにする必要があります。それには手洗いがいちばん大事。

普段から、対人関係をたくさん持つようにしておく。しっかり睡眠をとって、適度な運動をして、慢性的なストレスをため込まないようにしておく。すなわち、日常的に健康的にいい人を目指していればいいのであります。というても、なかなか難しそうですね。

それでも風邪をひいたら、どうせ何日かたったら治るのだし、治療法はないのだからとあきらめて、ゆったりとした気持ちで休むこと。できたら、とってもいいお医者さんを受診して共感してもらいましょう。

なんかもう、当たり前すぎてスミマセン。まず、風邪はひかないようにする。それでもひいたら、無理をして仕事に出ず、ゆっくりするのがいちばんということですわ。そうしたら、職場や学校で同僚にうつすこともないのだから集団にとってもありがたいはずです。いつも思いますけど、日本人は働き過ぎとちゃいますか。風邪をひいた、あるいは、風邪をひいたと思った時くらい、ラッキー、ゆっくり休めるわ、と思って一日中寝ていてもバチはあたりませんで。

風邪について詳しいことをもっと知りたい人は、ぜひ『かぜの科学』を読んでみてください。備えあれば憂いなし、です。といっても、確実な予防法も治療法もありませんけど。

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仲野 徹(なかの・とおる)
大阪大学大学院 教授
1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ街(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツ留学、京都大学・医学部講師、大阪大学・微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院・医学系研究科・病理学の教授に。 専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に、『幹細胞とクローン』(羊士社)、『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』(学研メディカル秀潤社)、『エピジェネティクス』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)など。趣味は、ノンフィクション読書、僻地旅行、義太夫語り。

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(大阪大学大学院 教授 仲野 徹 写真=iStock.com)

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