恵方巻きロス"家庭で巻く"が解決策になる
プレジデントオンライン / 2019年1月22日 9時15分
■折り込みチラシで「もうやめにしよう」と警鐘
節分に恵方を向いて無言で丸かじりすると縁起が良いとされる「恵方巻き」。コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでは、激しい販売競争を繰り広げられている。
その一方、兵庫県内で8店を展開するスーパー「ヤマダストアー」の取り組みが注目を集めている。昨年、需要以上に生産し、食品ロスを生み出す無益な競争に対し、折り込みチラシで「もうやめにしよう」と警鐘を鳴らしたからだ。
農水省は1月11日、コンビニやスーパーの各種団体に対して、需要に見合った恵方巻きの販売を要望。その際、チラシで資源を大切にする気持ちを消費者に呼びかけ、廃棄の削減につなげたヤマダストアーの成功事例を紹介した。
その成功例の詳細はこうだ。ヤマダストアーは2018年2月、のりや海産物など海の資源を大切にする気持ちから、恵方巻きなどを広告した折り込みチラシに「もうやめにしよう」というメッセージを発信。「全店、昨年実績で作ります」「欠品の場合はご容赦ください」などの文章を添えた。
昨年の実績より多く作るという商慣習と一線を画した独自の販売戦略で、消費者の反応が心配されたが、8店中5店で恵方巻きは完売し、前年に比べて廃棄量を減少させることに成功したという。
今や、節分の風習として定着した恵方巻きだが、その歴史はそう古いものではない。ルーツは、江戸時代に大阪の船場商人が商売繁盛を願って巻きずしを食べたことにさかのぼるという説もある。
ただ、最近のブームの出発地点は、高度成長期に食卓文化の洋食化が進み、のりの消費量が落ち込んだことを危惧した大阪ののり問屋の組合が、のり巻きを恵方に向いて丸かじりするイベントを仕掛けたことがきっかけだ。
■食品ロスの優等生として評価され、取材申し込みが殺到
このイベントが関西ローカルのニュースで報じられた効果もあり、関西では、縁起物として節分に巻きずしを丸かじりする習慣が定着した。さらに、1998年ごろから、セブン‐イレブンなどのコンビニが節分の恵方巻きの販売を全国展開したことで、風習が全国に広まった。
最近では、多くの消費者が2月の節分に「恵方巻き」を買い求めるため、クリスマスケーキとともに、需要を上回る製造が当たり前となって、食品ロスが社会問題化した。
そんな関西発祥の「恵方巻き」の風習が引き起こす食品ロスの問題に対し、地元・兵庫を拠点とするヤマダストアーから「もうやめにしよう」との苦言が発せられたのだ。ヤマダストアーは農水省から、食品ロスの優等生として評価されたことで、メディアからの取材申し込みが殺到。「業務に支障をきたす」として取材を断る代わりに、ホームページにお礼のコメントを掲載した。
それによると、「当社の恵方巻の取り組みについて全国各地の多くの方よりご関心を持っていただき、またお褒めを頂き誠にありがとうございます」としたうえで、今年度の恵方巻きの予約受付についても、「近隣のお客様に販売する店頭販売分で生産量が限界となったため、昨年度より中止させて頂いている」とした。
また、製造量については今年度もおおむね昨年比実績で検討しているといい、店頭販売分がなくなり次第、終了となるという。そして、ヤマダストアーの考えとして、「それぞれの家庭で巻寿司を巻いて家族で楽しむこと」を勧め、「地元の店で具材を買って、家で巻いて家族で楽しむ方が絶対美味しい」と訴えた。
■ヤマダストアーは顧客もエコ志向
ヤマダストアーが恵方巻きの食品ロスの問題を鎮静化できた背景には、同社の経営理念がある。ウェブサイトには「できる限り最高品質の自然食品やオーガニック食品を販売していきます」と書かれている。
店頭には、生産者の顔が見えるオーガニック野菜や地元産の生鮮品が並ぶ。「食品添加物はもちろん、環境や動物に対して思いやりのある畜産農家や持続可能な漁法に取り組む漁師、農薬を出来るだけ減らそうと努力している農家、自然原料でつくられたスキンケアなどの開発に一層の力を入れ、厳格な品質基準に基づいた商品展開を目指している」という。
食品ロスの問題を解決するには、小売店側の取り組みだけでは難しく、消費者の理解が欠かせない。ヤマダストアーの店頭に足を運ぶ客は、「より自然な食品」「環境を考えた持続可能な食品」を求める意識が高い。このため、食品ロスの解決に道を開くヤマダストアーの恵方巻きの販売方針についても、理解を示す消費者が多いようだ。
コンビニやスーパーなどの小売店も、「予約販売」を徹底することで食品ロスの軽減に向けて力を入れている。しかし、小売業界や海産物業者が稼ぎ時の「恵方巻き」の販売競争からそう簡単に降りるわけにはいかない。ある業界関係者は「予約販売は事前に一定の販売量を確保しておくことや、節分イベントによる集客効果を見込む本音がある」と話す。
この行き過ぎた販売競争に終止符を打つには、どうすればいいのか。ヤマダストアーが呼びかけているように「家庭で巻く」というのはひとつの選択肢だろう。小売店と消費者の双方が、意識と行動を変えていく必要がありそうだ。
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ジャーナリスト、合同会社コンクリエ 代表
1991年神戸大学経営学部卒業。産経新聞社記者として、日銀、自動車、エレクトロニクス、流通、商社などの産業界を幅広く取材。経済本部デスク、フジサンケイビジネスアイ副編集長、産経デジタル経営企画室次長などを歴任。18年合同会社コンクリエを設立、代表社員に。2006年南カリフォルニア大学国際公共政策大学院修了。
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(ジャーナリスト、合同会社コンクリエ 代表 小島 清利)
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