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茂木健一郎"日本人が英語を話せないワケ"

プレジデントオンライン / 2019年1月24日 15時15分

脳科学者の茂木健一郎氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)

なぜ英語に苦手意識を持つ日本人が多いのか。脳科学者の茂木健一郎氏は「今のグローバル社会では、英語ができないと話にならない」「日本人は揚げ足取りが多いから場数が踏めない」と言う。イーオンの三宅義和社長が、茂木氏にそのわけを聞いた――。(第1回)

■荒井注「ジス・イズ・ア・ペン」の衝撃

【三宅義和氏(イーオン社長)】英語との最初の出会いは?

【茂木健一郎氏(脳科学者)】幼少期に観た映画ですね。子どもの頃、ご縁があって、家の前に地元の映画館のポスターを貼っていました。すると、その映画館から毎月タダ券が送られてくる。だから映画は毎月観に行っていました。当然、洋画も多くて、それで「英語いいな」と思った記憶があります。

とくに印象に残っているのはイギリスのミュージカル映画『チキ・チキ・バン・バン』(1968年)。あと、『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)も好きでしたね。LPレコードを買ってきて歌詞を知ろうとしたのが「英語の勉強」という意味では最初だったかもしれません。その点、生のネイティブの音源をいくらでも聞ける今は恵まれていますよね。

【三宅】では中学に入られた段階では英語はお得意で?

【茂木】いえ、まったくです。どちらかと言うと得意なのは、ドリフターズ・荒井注の「ジス・イズ・ア・ペン」のほうですから(笑)。中学校に入って普通に三単現の「s」を習って、「えー、そんなものがあるんだ」と思ったくらいです。冠詞にも苦労した記憶があります。

■危機感を持って勉強したのは大学生から

【三宅】そのあと英語を猛勉強されて英検1級、国連英検特A級を取られていますよね。いつごろから本格的に勉強されたのですか?

【茂木】高校の頃から原書を読んだりしていたのですが、危機感を持って勉強したのは大学生になってからですね。もともとFEN(現AFN。米軍直営ラジオ局)を聞くとか、生の英語に接する努力はしていました。それで、たしか22歳のときだったと思うんですけど、「日米学生会議」という会合に参加することになりました。

僕が参加した年は日本の学生が訪米する年で、1カ月間、シカゴやニューヨーク、ボストンなどで共同生活を送りながら英語漬けの毎日を送る機会に恵まれたのですけど、あの経験は間違いなく大きなターニングポイントになっています。僕は15歳のときにカナダでホームステイをしているのでネイティブスピーカーと話すのははじめてではなかったですけど、同世代と密度の濃い会話をするのは日米学生会議がはじめてでした。

【三宅】「使える英語」との関わりはそれが原点だったのですね。

【茂木】イーオンさんもいろいろな学習環境を用意されているでしょうけど、やっぱりネイティブの中に自分だけがいるという状況が一番強烈ですよね。ディベートになるとみんな手加減をしてくれませんし、話題がアメリカの文化など自分が知らないことに及んだら、いくら語彙力があっても理解できません。

あのときの心細さが、英語ともっと真剣に向き合うようになったきっかけのような気がしています。僕のなかでは「日米学生会議ショック」と呼んでいて、いまだに語り草になっています。

■記憶領域を鍛える「プライミング効果」

茂木「日本人の完璧主義が英語の苦手意識を強めています」

【三宅】その会議に参加されていたとき、講演で真っ先に質問をするという無茶ぶりを課せられていたとか?

【茂木】そうですね。これはあくまでも後付けの理由ですが、質問を考えながら相手の話を聞くと、リスニングをしているのにスピーキングの脳の領域も刺激されるんですよ。脳科学的には「プライミング効果」といって、ある刺激が次の刺激の情報処理能力に影響を与えるんです。これを英語で実践すると効率的に脳の英語領域が鍛えられます。

【三宅】なるほど、勉強になります。とはいえ、なかなかの勇気が必要ですよね。

【茂木】「なぜ日本人は英語が苦手なのか」という話につながると思うのですが、原因のひとつは日本人に多い「完璧主義」かもしれないと感じています。

最近、アメリカのテレビ番組などを拝見していますと、いろいろな発音の人が出て来きます。でもネイティブの人は意外とそこは気にしていない。日本人も外国の方が変な日本語をしゃべってもそこは別に気にしないで、「何を言っているのだろう」と一生懸命聞くじゃないですか。相手はどちらかというと「こっちが何を言うか」に興味があるので、「正しい英語をしゃべるかどうか」は二の次というか、期待していないというか。むしろ、日本人同士が「正しい英語をしゃべるかどうか」を気にしすぎている気がするんですよね……。

そういえば、イーオンのCMに出ている女優の石原さとみさんは、映画『シン・ゴジラ』に出演されたときに英語を流暢にしゃべっていらっしゃいました。やはりイーオンで鍛えたのですか?

■石原さとみの英語力を「素晴らしい」と言えるか

【三宅】はい。彼女は英語が大好きで、非常に熱心に通っています。

【茂木】やはりそうだったんですね。僕は石原さとみさんの英語は素晴らしいと思ったのですけど、中にはいろいろ言う人がいるじゃないですか。たとえば2014年にノーベル平和賞を取ったパキスタンの活動家であるマララ・ユスフザイちゃん。あの子のスピーチに対して「LとRの発音が間違っている」という書き込みをネットでみたときには、呆れを通り越して笑っちゃいましたよ。「スピーチの素晴らしさに比べたら、それ、どうでもいいでしょ」と。

日本人はそういう揚げ足取りみたいなことをお互いにしているから場数も踏めず、なかなかスピーキングが上達しない理由になっていると思いますね。

その点、日米学生会議のときの僕は完全に開き直っていました。今から考えたら無茶苦茶な英語だったと思いますよ。

【三宅】その姿勢が素晴らしいですよね。イーオンに通ってくださる生徒様に対しても、レッスンを受講するだけではなく積極的に講師に話しかけていただきたいと思っています。

■生身の人間が相手だと「脳が本気になる」

三宅「日本人は英語を“教科”として見すぎです」

【茂木】三宅社長はご存知でしょうけど、幼少期の言語習得や脳の発達の研究をされているパトリシア・クールさんが行った興味深い調査があります。アメリカ人の子どもに、習得が難しいことで有名な中国語の母音を教えるものです。調査ではビデオを見せるケースと、オンライン中継で教えるケースと、生身のインストラクターが対面で教えるケースで習熟度を比較しました。

結果、子どもが中国語の母音を覚えたのは、生身の人間から教わったケースだけだったそうです。

その理由はおそらく生身のインストラクターが目の前にいると「脳が本気になる」からだと思います。脳には、相手の行動を自分のなかで鏡のように映し出すミラーニューロンという神経細胞が前頭葉にあります。だから英語をしゃべる方が目の前にいるときだけそのミラーニューロンが働いて、脳が本気になって会話を習得しやすくなるということはあると思います。

【三宅】やはりネイティブの方と相対して実際に会話をすることが重要であるわけですね。

【茂木】はい。だから僕が同世代としゃべったのは日米学生会議ですけど、はじめて脳が本気になった経験をしたのは15歳のときのホームステイでしょうね。

■英語の本質は文法や発音ではない

忘れもしませんけど、家に着いていきなりさせられたのが「人生ゲーム」。あのゲームは、大学に行ったとか、結婚したとか、そこそこ複雑なゲームじゃないですか。それを当時、小学校4年生と2年生だったトレバーとランディという兄弟と一緒にやることになった。しかも、向こうは年上のお兄さんが遊んでくれると思っているから僕も何か面白いことを言わないといけなくて……。あれは本当に苦しかった。

でも、トレバーもランディも僕の滅茶苦茶な英語については全然気にする様子ではなかったので、それは良かったですね。あの時、コミュニケーションとしての英語の本質は文法や発音ではないと気づいたのかもしれません。

【三宅】そういう経験は大事ですよね。日本人はどうしても英語を「教科」としてみてしまう傾向が強いと思います。その意味では今後、小学校の3年生から英語を「教科」ではなく「英語活動」という位置付けでスタートさせるのは良いことではないかと思っています。

【茂木】「教科として英語をやっているから」という社長のご指摘は、先ほどの完璧主義にもつながる話なので、たしかにそうかもしれないですね。町で外国人に話しかけられたら「抜き打ちテスト」を受けている感覚の人も多いでしょうから。

■世界に出遅れた日本人

【三宅】ただ、小学校の英語導入に関してはすごく反対がありました。今でも反対される方がいらっしゃいます。

【茂木】反対している場合じゃないですよね。今、世の中ではグローバルということが言われていますけど、英語をしゃべれないのは日本だけですよ。シンガポールやフィリピンは当然ですけど、インド人も中国人もタイ人でもベトナム人も当たり前のように英語をしゃべります。

世界には数千の言語があるのでそれすべてを習得するのは無理です。だから、とにかくみんなが共通言語として英語をしゃべって、グローバルに交流する。そのなかに日本人も入りたいですよね。そしてそのためには、やはり英語をあたり前のものとしてアプローチできるようにならないとダメだなと思います。

【三宅】「英語をやると日本語ができなくなる」といった理論を聞いたこともあります。

【茂木】その心配はないでしょうね。世界を見渡してもバイリンガル環境で育つ子どもはごくごく普通にいるでしょう。ご両親の言葉が違う子どももいれば、数百の言語をもつインドのように、ひとつの地域で複数の言語が使われる環境で育つ子もいます。

■複数言語を学ぶと認知症になりにくい

ちなみにそうした状況にいるバイリンガルの子は、前頭葉の文脈を認識する領域、例えば眼窩(がんか)前頭皮質あたりで必要な言語の文脈を認識して、尾状核(びじょうかく)というところで「スイッチ」を切り替えていることが知られています。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

例えばアメリカに行くと右側通行なので最初は戸惑いますが、徐々に慣れますよね。そして日本に帰ってくると今度は左側だから「あれー」と言ってまた戸惑う。ところがそれを繰り返しているうちに、「アメリカに行ったら右。日本だったら左」と瞬時に切り替えられるようになるじゃないですか。それができるのも脳内にスイッチング回路があるからです。

バイリンガルの子も「日本語は日本語」「英語は英語」と文脈で判断して瞬時に切り替えられるので最終的には混ざりません。だから「子どもをバイリンガルにしても何の問題もない」というのが脳科学的な見解ですね。

【三宅】そのお話を聞いて安心した子育て中の読者は少なくないでしょう。

【茂木】しかも、最近の研究だとバイリンガルの方のように脳を複数の言語で使っている方は認知症の発症が少し遅いというデータが出ています。バイリンガルまでいかなくても、やればやるほど効果がある。しかも、英語をはじめた年齢には関係なく、第二言語をどれぐらい習熟しているかで効果が出ると。

おそらく第二言語を扱うことで脳のシナプス結合の繋ぎ方が密になるため、加齢に伴い回路が少々やられても認知症になりにくいようなのです。そのエビデンスもちゃんとあります。

【三宅】それは素晴らしいニュースですね!

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茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『結果を出せる人の脳の習慣』(廣済堂出版)など著書多数。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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(脳科学者 茂木 健一郎、イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)

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