日本語のマスコミしか知らない人はヤバい
プレジデントオンライン / 2019年2月12日 9時15分
■「英語は学ぶのではなく、英語を生きるのだ」
【三宅義和氏(イーオン社長)】茂木さんはよく「英語は学ぶのではなく、英語を生きるのだ」と言われていますね。詳しく教えていただけますか。
【茂木健一郎氏(脳科学者)】ようは経済的にも文化的にもグローバル化がこれだけすすんだわけですから、グローバルの方で生きていくのはもはや当たり前のことで、そうすると英語は必須条件になりますよね、という話です。
例えば、今の時代って、英語ができないと最先端の良質な情報に触れられないんですよね。僕は2011年からずっとTEDという会議に行き続けています。そこは世界の最先端の専門家が情報を持ち寄る場なんですね。もちろん使われるのは英語です。TEDで取り上げられる話題はみんなが知っていて当たり前みたいな情報ばかりなので、僕からすれば空気を吸いに行くみたいな感覚なんですね。
もしくは、アルファベット傘下で自動運転車を開発しているWaymo(ウェイモ)という企業があります。WaymoはときどきYouTube(ユーチューブ)に動画を出して「いまグーグルの自動運転はここまで来ていますよ」と解説してくれます。日本のマスコミに喧嘩を売るつもりはないんですけど、日本のテレビ局がつくる「自動運転のいま」みたいな特番より、はるかに高次のレベルのことをはるかに短い動画で知ることできます。そのYouTube動画は誰も日本語に訳してくれないですけど、それを知らないと話にならない職種の人って少なくないわけですね。
似た話でいうとAI(人工知能)研究についても、書店にいくとAI関連の本がたくさん並んでいます。でもAIの研究者が学会で発表した論文を読むとか、IBMワトソンの研究チームがときどき上げている動画を見るほうが、よほど最先端の内容で、しかも早く情報を仕入れられるんですよ。
だから、英語ができないともう話にならないのです。
■最新情報は英語でしか手に入らない
【三宅】「英語は文化というより、もはや文明である」とも言われていますね。
【茂木】よくご存知ですね(笑)。
昔は英語と言うと英文学を学ぶとかアメリカ文学を学ぶ手段として英語があるみたいな雰囲気があったけど、いまや英文学もアメリカ文学もはっきり言ってローカルな文学ですよね。例えばイギリスのブッカー賞。どんな本が受賞したのかなんて日本人はほとんど知りません。もちろん読みたければ読めばいいけど、別に読まなくても生きていくことができますよね。
でも、いま言ったAIとか、自動運転とか、あるいはイーロン・マスクがスペースXでやっている宇宙開発の最新の動画などもどんどんYouTubeに上がりますけど、これはもう文明の話ですよね。趣味の問題ではなくて明日の世界の話。こういう最新情報は英語でしか手に入りません。
あと、コンテンツもグローバル化していますよね。例えば、この間、学会に参加するためにアメリカのサンディエゴに行ったんですけど、Netflix(ネットフリックス)で『アメリカンバンドル』というコメディ風のドキュメンタリーを日本で途中まで見ていたので、出張中にも見られるかなと思って現地のネットで繋いでみたら、普通に視聴できたんですね。Netflixは年間1兆円の制作費を注いでいるわけですけど、もうグローバルで同じコンテンツを提供しているんです。
アニメとか漫画とか本も、世界的に注目を集めるコンテンツは最初からグローバルを前提にしていますよね。「進撃の巨人」の実写版とか。
■T字型人材=日本の深堀り×グローバルな視野
【三宅】まさに「英語を生きる」という感じですね。日本にいながらもグローバルと繋がる認識をもっと高めるべきだと。
【茂木】例えば坂本竜馬はあんなに情報のない時代に生まれたにも関わらず「海援隊を世界でやる」みたいな志があったわけじゃないですか。今で言うと超グローバルな意識を持っていたわけです。もし竜馬がもっと長生きをしていたら日本はどうなっていたのだろうと考えてしまいますよ。
それと比べて今の時代は英語を学ぶ環境とグローバルとつながる環境がいくらでもあるわけですから、本当にもったいないですよね。僕はつねづね英語はパスポートのようなものだと思っています。それを手に入れたら世界が一気に広がりますよね。
では、これから日本がどうやって生きていくかということを考えたときに、もちろん日本の固有の良さというのはあって、これは手放してはいけないと思います。でも、そこにグローバルな視野を持つことで生まれるかけ算、いわゆる「T字型人材」と言いますか、日本を深掘りしつつもグローバルな視野を持っている人材がもっと増えると、日本は輝くと思うのですよ。
【三宅】これだけインバウンドが増えていますからね。
■日本文化はもっと輸出するべき
【茂木】はい。今、本当に日本が人気なんです。日本のことにすごく関心を持つ外国の方が多くて、例えば「kintsugi」という言葉が今イギリスで大ブームになっています。なんのことかというと、割れた陶磁器の修復技法である「金継ぎ」のことです。53個の別々の茶碗の破片をつなぎ合わせて作られた「五十三次(ごじゅうさんつぎ)」という銘の茶碗もあって、いま名器と言われています。
「金継ぎ」は、器が壊れても捨てないで大切に修復して使うという日本的な習慣から来ているわけですけど、特徴的なことは、漆で修復した箇所を金や銀の金属粉で装飾するんです。隠すのではなく、それをアートにしてしまう。その哲学的な側面が英語圏の人に注目されているんです。
「人生は壊れたと思っても、ちゃんと修復して直せばこんなに美しい人生が待っているのだ」ということで。
【三宅】なるほど。たしかに日本は伝えるべきものがたくさんあるのに、それを伝えられていない気がしますね。必要なことはやはり情報発信ですか。
■世界が驚嘆「勝てなくても辞めない相撲取り」
【茂木】間違いありません。実は僕、初めて英語で書いた本を2017年、ロンドンの出版社から出せたのですけど、テーマは「生きがい」です(“The Little Book of Ikigai:The secret Japanese way to live a happy and long life”)。論文は書いていましたけど、本としては初めてで。
先日もCNNのニュースが「ikigai」を取り上げていて、日本人の「生きがい」「人生の目的」みたいなものに世界から注目が集まっているんです。
本に書いたことですけど、例えば大相撲の世界では、相撲取りはどんなに弱くても辞めなくてもいいと。服部桜という人がいて、今まで2勝しかしていなくてずっと序の口です。朝8時半に相撲を取って、負ける。入門して何年も経つのですけど、身体は細い。でも引退勧告がない。それでも日本人はそれを生きがいにして、みたいなことを書くと向こうの人はびっくりするんです。「おお、そうなのかぁ」みたいな。
そういうことですら日本人はちゃんと外国に説明できていないから、なおさらもったいないなと思うんですよ。英語力も課題ですけど、それ以前にもっと自信を持ってほしい。今まで日本は輸入大国で、大学の先生も、輸入業者と言ったら失礼だけど、向こうのものを日本語に翻訳することで商売をしてきたのだけど、これからは輸出もしないといけないと思うんですよ。
日本文化の輸出というのはアニメや漫画から始まったのだけど、今、ほかのところにも注目が集まって来ているので、日本人はもっとグローバルな視点をもって、世界の共通言語である英語を通して文化を輸出するという意識を強めていくことはすごく大事なことだと思います。
僕自身も今後は英語の本をもっと書いていきたいと思っています。
■英語を学ばなければ、地球人にはなれない
【三宅】なるほど。いずれにせよグローバルな視点を持つことが、英語学習という文脈においても大きな課題ということになりそうですね。
【茂木】まあ、日本も自然にそうなっていくとは思うんですけどね。先ほど竜馬の話をしましたけど、竜馬の頃はそれこそ薩摩、長州、土佐という藩という意識はあったけど、日本人という意識はありませんでした。それって今の国家と地球の関係に似ていますよね。今後はおそらく世界中のいたるところ徐々に地球人という意識をもった人が増えてくる時代だと思うんですよ。
国際宇宙ステーションに乗っている宇宙飛行士の方は、最初のうちは例えばフランス人の宇宙飛行士はフランスが見えてくるとすごく喜んで「あ、フランスだ」と言っているらしいです。日本人は「日本が見えた」と喜んでいる。でも国際宇宙ステーションは90分で地球を1周する速さでぐるぐる回っているので、そのうち国がどうこうという話ではなく、地球全体がバーっと見えてくるのだそうです。すると、その瞬間に意識がガラッと変わるというのですよ。フランス人が地球人になる。
今のところ宇宙に行った人は700人ぐらいしかいません。これが今後、それこそZOZO(ゾゾ)の前澤社長も行かれるわけですけど、宇宙から地球を見た人が1000人、1万人、10万人と増えてくると、だんだん人類社会は変わっていくと思うのです。
それはきれい事で言っているのではなく、経済とか文化の実態はもうすでにグローバルになっていますからね。なので、英語はその地球人の共通言語だと思うので、地球人になるためにはやはり英語が必要なのだろうと強く思います。
【三宅】今回はありがとうございました。
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脳科学者
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『結果を出せる人の脳の習慣』(廣済堂出版)など著書多数。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
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(脳科学者 茂木 健一郎、イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)
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