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イケアが原宿駅前に"狭小店"を出す理由

プレジデントオンライン / 2019年1月25日 9時15分

2014年開業のイケア立川店。東京都内初出店となった(写真=iStock.com/GOTO_TOKYO)

2020年春、イケアの新店舗が原宿駅前にオープンする。広さは通常の店の10分の1程度。なぜこのタイミングで都市部に「狭小店」を出すのか。流通アナリストの渡辺広明さんは「ライバルのニトリをはじめ、郊外型店舗の都市回帰が進んでいる。狙いはネット通販の客の取り込みだ」と説明する――。

■初の東京23区内出店

2020年春、原宿駅から徒歩1分の複合ビルに、家具量販店「イケア」の新店舗がオープンする。

イケアは現在、日本国内で9店舗を展開している。いずれも都市部からは離れた郊外に建てられており、客は車やシャトルバスで店舗を訪れ、広々とした店内を回遊して商品を探す。郊外型大型店の代名詞的存在だったイケアにとって、これが初の東京23区内への出店となる予定だ。

店舗面積は2500平方メートルになるとされており、既存店でもっとも広い新三郷店(埼玉県三郷市/2万5725平方メートル)の10分の1程度。そのほかの既存店と比べても格段に小さい。なぜ今イケアは都心初出店に踏み切ったのか。

■出店予定がそのままになった土地も

イケアが日本に初上陸したのは2006年。以来、北欧の洗練されたデザインと、客が自分で持ち帰って組み立てるセルフサービスの珍しさ、それに由来する価格の安さで人気になった。だが、日本法人イケア・ジャパンの業績は好調とは言えない。

決算公告によると、2015年度以降、売上高は漸減しており、2017年度は741億円。2018年度は840億円で前年比14%の増収となったが、営業損益は依然として9億円の赤字だ。まだ売上高が伸びていた2014年に「2020年までに全国14店体制を目指し、売上高を2倍にする」と方針を発表していたが、このままでは厳しそうな状況だ。

2013年時点で出店が予定されていた広島県広島市や群馬県前橋市ではその後なんの動きもなく、前橋市の建設予定地には長らく「IKEA」の看板が寂しくたたずんでいる。増やすどころか、今年7月には九州2号店の「IKEA Touchpoint熊本」を開業からわずか3年で閉店した。

イケアは店頭販売にこだわりを持ち、インターネット通販は行ってこなかった。2015年にようやく欧米で公式ECサイトが立ち上がり、日本では2017年4月にスタート。これは大きな出遅れだ。

■「家具・インテリア」通販は伸び盛り

経済産業省が2017年に行った調査によれば、物販系の国内EC市場において「雑貨・家具・インテリア」は市場規模が1兆4000億円を突破し、前年比で最も高い伸び率を示すカテゴリーとなっている(「平成29年度電子商取引に関する市場調査」より)。

今回、都心への出店に踏み切ったのは、こうした状況の中でECサイトでの購買を活発にするショールーミングのための店舗をつくることが狙いだろう。

店舗で確認した商品をその場で買わず、価格を比較してネット通販で購入するショールーミングは、ECサイトが勃興し始めて以降、小売業にとって対策の難しい悩みだった。それに対し、2015年にセブン&アイホールディングスが「オムニチャネル」戦略を推進し始め、ショールーミングを逆手に取ったネットとリアル店舗の融合に小売業大手各社が取り組むようになっていった。

■ニトリは店内にタブレット端末を設置

国内家具小売業最大手のニトリも、2015年からこの動きに乗っている。マロニエゲート銀座店(東京都中央区)を皮切りに、池袋・新宿・目黒・渋谷・上野・中目黒などに都市型店舗を続々と出店している。

店内にはタブレット端末が設置され、客は手にとって商品を検索できる。「ソファ」「ベッド」といったカテゴリーから検索する方法と、端末に添えられたスキャナーを使ってバーコードから検索する方法がある。商品の詳細情報からQRコードを印刷して自分のスマホから注文するか、注文カードを印刷して店員に依頼する。近隣の店舗の在庫状況も確認でき、「どうしても今日買って帰りたい」という客にとっても便利な仕組みとなっている。

ニトリ店内の端末を使うと、QRコードが印刷できる(撮影=プレジデントオンライン編集部)

これまではニトリもイケア同様に郊外型店舗をベースに、車で来店する客をターゲットとしてきた。だが、大都市圏の有職女性の大半は車を持っていない。また、消費の中心となる高齢者も免許返納者が増えている。そんな社会環境の変化をにらみ、ターミナル駅を中心とした街中への出店攻勢をかけているのだろう。こうした連携強化の結果、ニトリの通販売上高は右肩上がりだ。2018年2月期は305億円に到達し、前期比35%増を記録した。

ただし、実際に筆者がニトリの店舗を訪れて店員にタブレット端末についてたずねてみたところ、店内のどこにあるのか明確に答えられないケースもあった。店内にしばらく滞在してみても、あまり頻繁に利用されている様子は見られない。まだまだ広く浸透しているわけではないのだろう。

■アプリにも注力するニトリ

端末自体にも改良の余地は大きい。そもそも店内には、前述のスキャナー付きのタブレット端末と、アウトレット商品の検索とデジタルカタログ(商品一覧)を閲覧のみできる端末の2種が置かれており、それぞれでまったく使い方が異なっている。後者の端末は画面上にパソコンのブラウザで見たときと同じ画面が表示されるが、そこから検索や購入はできない。画面上部には、以下のような文言が表示されている。

「こちらからは商品購入をすることができません。ご希望の商品がございましたら、お近くの係員までお問い合わせください。操作は画面タッチのみです。検索バーはご使用できません。ご了承ください。」

とはいえ、ニトリのスマホアプリはよくできており、「手ぶらdeショッピング」という機能を使えば、欲しい商品のバーコードをスキャンしてそのままネットショップで購入することができる。店頭の端末の使い方にはまだ改善の余地があるが、リアル店舗とネットの融合という点ではイケアの何歩先もいっている。

■原宿出店で新たな客層の獲得が見込める

イケアは現在、世界的にECサイトへの取り組みを強化している。その結果、イケア・ジャパンの売上高は4年ぶりに増収へ転じた。イケアは国内に9店舗しかなく、ニトリの467店舗(18年2月20日現在)と比べると圧倒的に少ない。そのぶん、イケアの商品に実際に触れたことのある客も当然少ない。2020年の原宿出店により、初めてイケアを訪れる人が増えれば、新たな客層の獲得が望めるだろう。

イケアとニトリは、同じ家具や生活用品を扱うSPA小売ではあるが、商品ラインナップからして顧客の嗜好は明らかに異なっている。今のところはただのカタログにすぎないスマホアプリも、ECへの注力の結果として、その頃には改良されていることが期待できる。

平成の小売業界は、郊外型店舗全盛期だった。だが、それは終焉を迎えつつある。ユニクロはもとより、ホームセンターのカインズホームやおもちゃ量販店のトイザらスといった、郊外型店舗で知られる企業もこぞって都市部に小規模店舗の出店を推し進めている。「買い物=車」という時代は終わり、近場の店とネット通販を活用したスタイルがますます広がっていきそうだ。

ネット通販の広がりで、顧客のニーズは多様化した。顧客のニーズを満たせるだけの商品をすべて店頭に置くことは不可能で、小売店舗では今後ますますショールーミングへの対策が必要になっていく。ニトリのように購買行動をスムーズにする環境の整備や、店頭で購入すると“お得感”を得られるサービスが求められるだろう。

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渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在はTBCグループで商品営業開発に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。

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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明 写真=iStock.com 撮影=プレジデントオンライン編集部)

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